キツい蒸留酒と甘い果実酒で乾杯

丸井まー(旧:まー)

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8:再会

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ウーゴはご機嫌に軽やかな足取りで家路を急いでいた。
季節はもう冬の真っ只中である。それなりに寒いが、ウーゴはまるで気にならなかった。
なんと、期限に間に合う気がしなかった魔導シュレッダーが期日をおよそ1月の猶予を残して完成したのだ。第5研究部の面々は狂喜乱舞して、ナザール部長が全員に1週間も休みをくれた。次の魔導製品の開発がそのうち始まるだろうが、あと1月で年が変わる。年内には多分始まらないだろう。1週間の休みの間は勿論、新しい開発が始まるであろう年明け8日目の新年初出勤までは、仕事の日も気分的にゆっくりできる。実に素晴らしい。ここ1ヶ月半で急激に開発が進み、ほぼ休みなしでガッと完成まで漕ぎ着けたのだ。殆んど家にも帰らず、研究室に泊まり込みをして、頑張った。本当に頑張った。勿論ウーゴだけが頑張って完成した訳じゃない。研究部の全員が一丸となって頑張ったのだ。その甲斐あって、マーサにも研究所所長にも合格を貰え、春からめでたく魔導製品工場で製造、販売されることになった。本当に嬉しい。
ウーゴは久しぶりに家でゆっくりできると、小さく鼻歌を歌いながら歩いた。


「ただいまー」


ウーゴが自宅の玄関を開け、明るい声で言うと、奥の台所の方からエドガーの『おかえりー』という声が聞こえた。居間のソファーに鞄をポンと放り投げ、台所に行くと、エドガーがエプロンを着けて料理をしていた。


「おかえり、ウーゴ」

「ただいま。父様」

「久しぶりだなぁ。こんな時間に帰ってくるの」

「うん。やっと完成したんだよね。明日から1週間休み!」

「お!よかったなぁ」

「うん」

「ちょうどよかったよ。明日から俺、毎年恒例の修羅場に突入するから」

「あー……もうそんな時期かぁ」


サンガレアは土の神子を戴く聖地神殿がある。その為、年越し前後は新年をサンガレアの中央の街で過ごして聖地神殿を詣でようと、領地の外や聖地神殿がある丘の麓にある中央の街以外の街から大量の人が訪れる。だから、年越し前後約3ヶ月程は、領軍の軍人達にとっては修羅場になる。人が増えるとそれだけ治安が悪くなる。軍人達は総出で警備にあたる。エドガーの所属は神殿警備隊だから、普通の軍人達よりも忙しいらしい。修羅場に突入すると、まずある程度落ち着くまでは帰ってこれない。
毎年のことなので、子供の頃から年越しの日を含めた年末年始の休みは伯父達もいる祖父の家で過ごしている。祖父クラウディオは軍人だし、他にも身内に軍人がいるのだが、彼らにこの時期に会うことはほぼない。家事が駄目なウーゴ達だけで何ヵ月も過ごすと、ウーゴ達なりに頑張っても、家の中がかなり荒れる。毎年、帰宅した修羅場明けの疲れまくったエドガーが溜め息を吐きつつ、家中を掃除するのが慣例になってしまっている。なんだか申し訳ないが、どうしようもない。


「明日から家のこと頼むよ」

「うん。頑張る」

「うん。頑張ってよ。とりあえず3日分くらいはおかずの作り置きしといたから」

「ありがとー」

「……できるだけ派手に汚したり、どっか壊したりしないでね?」

「……がんばる」


エドガーが若干遠い目をしながら、乾いた笑みを浮かべた。ウーゴ達3人には色々と前科がある。エドガーの負担を減らしたいと頑張った結果、ものの見事に失敗したということが何度もあった。ウーゴはそっとエドガーから目を反らした。







ーーーーーー
連休4日目の昼過ぎ。
ウーゴは1人で中央の街に来ていた。昼食を安くて美味しい定食屋でとり、フリオ達の分も含めた夕食を仕入れる為に、総菜などの持ち帰り専門店が集中している界隈を物色しながら歩いている。今日は結構冷え込んでいて、ウーゴは鼻先までマフラーをぐるぐる巻きにして歩いてた。一通り専門店を覗いてみて、結局お気に入りのいつもの総菜屋で総菜を何種類か買うことにした。注文して会計をして、店の店員が総菜を容器に詰めて袋に入れてくれるのを待っている時、微かに聞き覚えがある声が聞こえた。
この数ヶ月、忘れたことがない、少しハスキーな低く通る、耳に心地いい声だ。ウーゴはバッと声が聞こえた気がする方向を向いた。思い描いた小さな泣き黒子以外特徴のない容姿を目で探すと、道向かいの6軒程離れた持ち帰り専門店の前に探し人がいた。少し遠目だし後ろ姿だが、多分間違いない。セオだ。
ウーゴはタイミングよく総菜の詰まった袋を渡してくれた店員に短くお礼を言うと、早足で人混みを縫うようにしてセオに近づいた。今は平日の昼間だ。まさかセオが街中にいるなんて思いもしなかった。

ウーゴは大急ぎで近づいたセオの肩をポンと軽く叩いた。振り返ったセオが驚いたように大きくて目を見開いた。ウーゴはその顔を見て、なんだか無性に嬉しくて笑みを浮かべた。


「やっぱりセオだ」

「……ウーゴ?」

「うん。久しぶり」

「あー、うん。久しぶり」

「今日休み?」

「そ。風邪ひいたから半休とって病院行ってた」

「風邪?大丈夫?」

「うん。ちょっと頭痛と微熱があるだけだし。喉にも鼻にも胃腸にもきてないよ。今忙しい時期だから、悪化して長引かせる前に休んで病院行けって先輩に言われてさ」

「そうなんだ」

「ウーゴは?」

「あ、俺も休み。やっと魔導シュレッダーが完成したから」

「そ。よかったね」

「うん。ありがと。……セオは今から帰るんだろ?」

「うん。帰って寝る」

「送っていくよ。ちょっと心配だし」

「え?いや、別にいいよ?本当に平気だし」


ウーゴは困ったように少し眉を下げるセオの顔をじっと見た。本人は平気だと言っているが、前に会った時よりも顔色が明らかに悪い。確かに声は以前通りだが、なんだか少しぼんやりしているような印象を受ける。頭痛と熱があるからだろう。


「気になるから送るよ。あ、セオは果物は食べられる?」

「え?あ、うん」

「じゃあ、途中で林檎買って帰ろう。風邪の時は林檎がいいよ。セオは官舎?」

「あー。うん」


少し困った顔をしているセオに、持ち帰り専門店の店員が声をかけた。セオより先に手を伸ばして店員から袋を受け取った。


「セオ。早く帰ろう。寒いし。って、セオ。マフラーしてないじゃない」

「あぁ。忘れちゃって」


ウーゴは荷物を両手に抱えたまま、器用に首に巻いていた自分のマフラーを取り、そのままセオの首をマフラーでぐるぐる巻きにした。長めのマフラーで、しかももっこもこの毛糸でできたものなので、確実に温かいはずだ。因みに祖父の1人であるジャンの手製である。よくよく見ると、飛竜乗りで飛竜馬鹿なジャンが丁寧に描いた飛竜の姿がマフラーの至る所にある。ウーゴの祖母フェリはクラウディオとジャンの2人の伴侶がいる。ウーゴは目をパチパチするセオの背を軽く押した。


「帰ろう。官舎ってどっち?」

「え、あ、こっちだけど……」

「あぁ。そっちの方に確か八百屋あったよね」

「あぁ。うん。途中にあるよ」

「ちょうどよかった」


ウーゴはニコッとセオに笑いかけて、セオが指差した方向に向けて、セオの背を軽く押して歩き出した。手を繋ぎたいが、両手が荷物で塞がっている。少し、いや、かなり残念だが仕方がない。なんだか困惑しているような、少しぼんやりとしたセオと並んで歩く。
途中で見つけた八百屋で林檎を買い、セオの住む官舎までポツポツ近況を話ながら歩いた。セオはぼんやりと相づちをうちながら、ずっと少し困ったように眉を下げていた。
セオが住む官舎の部屋は2階の角部屋で、部屋の前に着くとセオが鍵を開けた。


「セオ」

「ん?」

「看病いる?」

「ははっ。いいよ。本当に微熱あるだけだから。薬飲んで寝てれば治るし」

「んー。分かった」


無理矢理部屋に押し入って看病するのもどうかと思う。ウーゴはちょっと落胆しつつ、それでもここは引くことにした。ウーゴはセオが買った総菜と林檎を玄関先で渡した。セオがゆるく微笑んだ。


「ありがと」

「あ、いや……あー、あのさ」

「ん?」

「……携帯通信具の連絡先交換しない?」


セオがパチパチと何度か瞬きした。ドキドキしながら返事を待つ。
きっと今連絡先を交換しなければ、セオと今後も関われるチャンスがない気がする。ウーゴはセオのことが何ヵ月も忘れられなかった。オナニーのズリネタはいつもセオで、以前よりもオナニーの頻度が上がる程であった。セオを探したくても、仕事が切羽詰まっていたから中々思うように動けなかった。まさか偶然会えるなんて予想もしていなかった。どうしてもセオにもう一度会いたかったのだ。この奇跡的な偶然を無駄にしたくない。

セオがぼんやりとした瞳でウーゴの顔を見上げながら、コテンと小さく首を傾げた。暫くそのまま無言で固まっていたが、傾げていた首を元に戻して、コートのポケットに手を突っ込んだ。
ポケットから出てきたセオの手には携帯通信具が握られていた。すっと携帯通信具を差し出される。


「はい」

「あっ!ありがとう!!」


ウーゴはパァァッと顔を輝かせた。どうしよう。かなり嬉しい。セオの気が変わらないうちにと、ササッとセオからセオの携帯通信具を受け取った。慌てて自分のコートのポケットに入れていた携帯通信具を取り出す。


「……ちょっと弄るね」

「うん」


ウーゴはセオの携帯通信具と自分の携帯通信具を操作して、セオの携帯通信具には自分の連絡先を、自分の携帯通信具にはセオの連絡先を素早く入力した。
連絡先の入力を終えると、ウーゴはセオにセオの携帯通信具を手渡した。


「ありがと。今日はもう帰るね。温かくして、ゆっくり寝てね」

「うん。ありがと」

「またね」


ウーゴは思いきって、セオの右頬に軽く唇で触れた。家の中に入るセオを見送り、玄関のドアを閉めると、無言で荷物を持っていない方の手を拳に握って勢いよく突き上げた。
やった!本当にやった!ありがとう神様!

ウーゴは嬉しさが振り切れてしまい、セオの住む官舎から結構離れている魔術師街の自宅まで、ずっと軽やかなスキップで帰った。因みに通りかかった周囲の人には2度見されたりしていたが、ご機嫌過ぎるウーゴはまるで気づいていなかった。


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