キツい蒸留酒と甘い果実酒で乾杯

丸井まー(旧:まー)

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26:ウーゴのお悩み相談

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季節はすっかり初夏を迎えた。
窓の外から室内に少し生ぬるい風が入ってきている。
ウーゴは初デートの日から、殆んど毎週の休日をセオと過ごしていた。芝居を観に行ったり、街中をぶらついたり、買い物をしたり、セオの家でゆっくりイチャイチャしたり。セックスも会う度にしている。回数を重ねれば重ねる程、セオは益々エロく可愛く魅力的になっていく。

セオは今日はウーゴの家に来ていた。エドガーとロムルスの3人で台所にいる。フリオが起動させた魔導集音機のスピーカーから、台所で楽しそうに料理をしている3人の会話が聞こえてくる。
ウーゴはフリオとアイーダと3人で居間のソファーに座って、ぼーっとしていた。
ウーゴはポツリと思ったことを口にした。


「……なんで家に来てくれたのに父様に俺のセオがとられてるの?」

「私のロムルスさんもよ」

「仕方がないだろ。エドガーと料理の話で盛り上がっちゃったんだから」


フリオがスピーカーから聞こえてくる3人の笑い声に耳を傾けながら、平然と言った。
アイーダとロムルスの交際は順調で、近々正式に婚約することになり、秋の豊穣祭が終わって落ち着いたら結婚式をする予定である。お見合いからの期間を考えれば、かなり早い気がするが、お見合い結婚だと割とこんなもんらしい。アイーダとロムルスも毎週のように会っている。アイーダが中央の街に行ったり、ロムルスがウーゴ達の家に来たりしている。ロムルスは中々に好青年で、フリオ達もウーゴもかなり気に入っている。優しいし、気持ちがいい性格をしているし、家事もすっごい上手だし、アイーダを大切にしてくれているからだ。正式に家族になる日が今から楽しみである。

それよりもセオのことだ。
ウーゴは最近真剣に考えていた。


「……俺そろそろセオに告白しようと思うのよ」

「「え?」」

「兄上。もしかしてまだしてなかったの?」

「お前、告白もしてないのに『俺のセオ』とか言ってたのか」


何故かフリオとアイーダに呆れた顔をされた。むぅ、とウーゴは唇を尖らせた。


「だって、どんなタイミングで告白すればいいのか分かんないんだもん」

「何情けないことを堂々と言ってるんだ」

「『だもん』とか可愛い子ぶっても可愛くないわよ。兄上」

「どんなタイミングで告白すればいいと思う?」

「むしろ散々毎週のようにデートしたり家に行ってて何で告白の1つもできてないんだ。いくらでも言うタイミングはあっただろう」

「そうよー。ほぼ毎週お泊まりしてるじゃない」

「やー……えへっ」

「キモいわ。兄上」

「ひどい」

「別に普通に言えばいいんじゃないか?なんかこう……ノリ的な」

「えぇー。でもこう……思い出に残るような素敵な告白がしたいじゃない」

「乙女か」

「父上の時はどうしたの?父上から告白したんでしょ?随分前に父様が言ってたわ」

「……なんかこう……ノリ的な……」

「「よく分かんない」」

「いや、まぁ、その、なんだ。その場の勢いというか、なんというか……まぁ、そんな感じだ」

「「えー」」

「あんま参考にならないよ、父上」

「ロマンチックな感じじゃなかったの、父上」

「うっ……なんだ。あれだ。ロマンチックな告白なんて所詮恋愛小説の中だけなもんだ。現実を見ろ」

「「うわぁ……」」

「身も蓋もないよ、父上……」

「夢くらい見させてよ、父上……」


アイーダと2人で思わずフリオを微妙な目で見てしまう。少なくともフリオの告白の経験談がまるでなんの役にも立たないことだけは分かった。アイーダはそもそも結婚前提のお見合いから始まっているから、こちらも何の参考にもならない。ウーゴが微妙な顔をしていると、フリオがわざとらしく咳払いをした。


「あー……なんだ。そういうことは父上に相談しろ」

「だからしてるじゃない」

「俺じゃない。お祖父様の方だ」

「クラウディオお祖父様?」

「そう。父上は人生経験も恋愛経験も豊富だしな。俺も昔は相談にのってもらっていた」

「なるほど」


言われてみれば一理ある。祖父の1人であるクラウディオはサンガレア領軍分隊長をしていて、中央の街の領軍詰所を任されている。中々に伊達男でかなりモテるが、ずぅーっと祖母フェリ一筋な、我が祖父ながら大変いい男である。


「……近いうちにお祖父様に会いに行こうかな……携帯通信具でチマチマ連絡とるより、直接話した方が早いよね」

「そうしろ。俺としてもセオドール君が嫁に来るのは全然構わん。むしろ大歓迎だ」

「私もー」

「あ、飛竜馬鹿な方のお祖父ちゃんには相談するなよ。お祖父ちゃんは特に恋愛絡みについてはポンコツだからな。時間の無駄だ」

「マジかぁ」

「あと自称・愛とエロスの伝道師もやめとけ。夜絡みなら必要以上に知識と経験が豊富だから役に立つが、こういう繊細なことには向いてない。それこそド直球過ぎてロマンチックの欠片もなくなるぞ」

「……マジかぁ。自称・愛とエロスの伝道師なのに……」

「あの方はエロス特化だ。あとは割と単なるド直球のアホだ」

「「えぇー」」


身も蓋もないフリオの言葉になんとも言えなくなる。
微妙な空気になったところで、どうやら料理が完成したらしい会話がスピーカーから聞こえてきた。フリオがそそくさとスピーカーのスイッチを切って、居間の隅っこに置きに行った。この魔導集音機のことはエドガーには内緒らしい。魔導集音機は元々エドガーの声が大好きなフリオがいつでもエドガーの声を盗聴できるようにと研究していた代物らしい。それを突貫でアイーダの見合いに間に合うように仕上げた。今はスピーカーも集音装置自体もかなり大きいが、いずれは超小型化して、エドガーの服にこっそり集音機をつけ、仕事中でも家の中でも常にエドガーの声を聞けるようにしたいらしい。色んな意味で重い。というか、ヤバい。そんなフリオに愛されているエドガーが少し気の毒になる。まぁ、別にいいか。なんだかもう今更な気がするし。
ウーゴはセオのお手伝いをするべくソファーから立ち上がり、セオがいる台所へと向かった。







ーーーーーー
祖父クラウディオに相談すると決めた翌週の休日。
ウーゴはシルヴィに乗って中央の街の郊外にある祖父達の家へと向かった。祖父達の家には広い敷地内に竜舎があり、飛竜乗りである祖父ジャンや伯父ロヴィーノ達の飛竜がいる。フリオの飛竜もここに住んでいる。小さい頃に祖母フェリから『ウーゴも飛竜いるか?』と聞かれたが、その頃には既に魔導製品の魅力にとりつかれていたので断った。そもそもウーゴ達の家は離れているし、世話をちゃんとできる気もしなかった。
シルヴィに揺られながら竜舎から外に出ている飛竜を眺めていると、飛竜の側にいる金髪の男が手を振ってきた。ウーゴも手を振り返して、シルヴィを竜舎の近くへと進めた。竜舎の近くでシルヴィから降りると、同い年の叔父ジェラルドが近づいてきた。


「よぉ、ウーゴ」

「や。久しぶり」

「久しぶり。どうした?今日は。暫く来なかっただろ?」

「お祖父様に相談があってさ」

「へぇ」

「アデルとニックは?」

「家の中」

「そう。皆元気?」

「うん。そっちは?」

「元気だよ」

「アイーダが今度婚約するんだろ?」

「そう。相手は総合庁勤務なんだ。すごい料理上手でいい人だよ。多分近いうちに挨拶に連れてくるんじゃないかな」

「へぇー。アンジェラにもそろそろ浮いた話があればいいのに」

「全然ないの?」

「全くない。仕事に夢中過ぎてな」

「ありゃ」

「父上も多分家の中じゃないか?」

「ありがと。あ、お土産にマドレーヌ持ってきたからさ。後で一緒に食べよう」

「おー。ありがと。飛竜達の世話が終わったら俺も家に入るよ」

「りょーかい」


ジェラルドと別れて、家の横にある馬小屋にシルヴィを入れてから、家の玄関の呼び鈴を押す。少し待っていると、ドアが開いて、ジェラルドの妻アデルが顔を覗かせた。垂れ目が可愛い美人さんである。アデルも同い年で、ウーゴとも小学校の頃はずっと同じ教室だった。アデルはジェラルドと中学生の頃に婚約し、高等学校卒業と同時に結婚した。今や2歳児の母である。


「あら、ウーゴ。久しぶり」

「久しぶり、アデル。ニックは?」

「今お昼寝してるわ。さっきまで起きてたんだけど、遊び疲れちゃったみたい。入って。お茶を淹れるわ」

「あ、これマドレーヌ。皆で一緒に食べようと思ってさ」

「まぁ。ありがとう。いただくわ」

「お祖父様どこかな?ちょっと相談したいことがあってさ。今日は家にいるって聞いてたんだけど」

「父上なら裏の燻製小屋にいるわ。今朝ね、マーサ様がいい豚肉の大きな塊を持ってきてくれたの。生ハムにするんですって。父様とロヴィ兄上も一緒にいるわ」

「アンジェラは?」

「今日はお仕事よ。最近アンジェラご指名のお客さんが増えてるんですって。忙しいみたい」

「へぇ。すごいじゃないか。アイーダから聞いたけど、花街にも髪結いに行ってるんだろ?」

「そうなの。毎日じゃないんだけどね。父様は渋い顔してたけど、父上は『いい経験になる』って応援してるの。アンジェラも普通のお客さんにはできない複雑で華やかな結い方ができるから、すごく楽しいみたい」

「へぇー。1人で通ってるの?」

「ううん。必ず父上か父様が送り迎えしてるわ」

「まぁ、そりゃそうだよね。じゃあ燻製小屋に行ってくるよ。戻ってきたら一緒にお茶を飲もう」

「えぇ。いってらっしゃい」


穏やかな笑顔のアデルと別れて、大きな家の裏にある小さな燻製小屋に歩いていく。燻製小屋のドアをノックすると、中からクラウディオの声がしたのでドアを開けて中に入った。


「おー。ウーゴ。久しぶり」

「久しぶり、お祖父様。お祖父ちゃんとロヴィ伯父上も」

「久しぶり」

「久しぶり。元気にしてたか?」

「うん」

「悪いな。相談があるって言ってたけど、今朝マーサ様からすげぇいい豚肉貰っちゃってな。生ハムにしようと思って作業中なんだよ」

「作業しながらでいいから、ちょっと相談にのってよ」

「いいぞ」


ウーゴはクラウディオにセオの事を出会いから洗いざらい話した。


「……で、告白しようと思うんだけど、どう告白したらいいと思う?」

「んー……まぁ、特別感を演出したいなら、普段なら絶対行かない高級店に連れてくとかしたり、もしくは相手の家で高いけど旨い酒を用意して、花とかアロマ蝋燭とかでロマンチックな雰囲気を演出するって手もあるな」

「なるほど」

「でもそれだと相手の好みに合わなかったり、空回ったりすると、相手が白ける可能性がある」

「マジっすか」

「マジだ。無難で確実なのは、相手を好きだなって思った時に素直にそれを口に出すのが1番なんじゃないか?ロマンチックな演出とかごちゃごちゃ考えずにさ」

「えー……それでいいの?」

「下手に考え込んで空回るよりマシだろ?」

「まぁ……確かに?」

「別に恋に恋してるわけじゃないんだろ?ロマンチックで夢みたいな告白は恋愛小説に任せておいて、現実的に地味でも確実な方向でいけよ」

「なるほど……」

「結婚も考えてるのか?」

「そりゃ勿論」

「なら尚更高望みなんかしないで、堅実に素直にいっとけ」

「分かった。ありがと。お祖父様」

「いいってことさ」

「クラウディオ。そろそろいいんじゃない?」

「お、そうだな。ジャン」

「あ、俺マドレーヌ買ってきてるよ。終わったなら一緒に食べようよ」

「おー。ありがとな」

「父上に相談はもう大丈夫か?ウーゴ」

「うん」

「じゃあお茶を飲みながらアイーダの話を聞かせてくれ。近いうちに婚約するんだろ?」

「そうだよ」

「あ、その話俺も聞きたい」

「俺も。相手はどんな男?仕事は?趣味は?性格は?」

「ははっ。お茶飲みながら話すね」


ウーゴは祖父達と一緒に燻製小屋を出た。
好きだな、と思った時に素直に口にする。何だかそれならウーゴにもできそうだ。クラウディオに相談してよかった。ウーゴは晴れ晴れとした気持ちで笑った。


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