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中編
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深い眠りに落ちていた意識がゆっくりと浮上する感じがして、トゥガナンは静かに目蓋を開いた。ベッド横の窓の外を見れば、まだ暗い。朝日が昇る前のようだ。ぼんやりと胸元に視線を落とせば、赤毛が見える。ジャーナルである。トゥガナンにぴったりとくっついたまま寝息を立てているジャーナルが、トゥガナンが小さく身動ぎすると、すりすりとトゥガナンの胸元に懐くように額を擦りつけた。ぐっすり眠っているようなので、起こすのは忍びない。少し暑いが、せめて朝日が昇るまでは寝かせておこう。トゥガナンはジャーナルの赤毛に鼻先を埋めて、なんとなく、すんすんと匂いを嗅いだ。少し汗の匂いがする。不思議と不快ではない。胸元にかかるジャーナルの寝息が少し擽ったい。
トゥガナンがジャーナルの家で暮らし始めて暫く経った。トゥガナンは29になり、そろそろ次の季節がやってきそうな気配がしている。過ごしやすい気候だったが、毎日、少しずつ暑くなっていく。
ジャーナルの家は小さな平屋で、台所と厠以外は、食堂兼居間の1部屋と寝室にしている1部屋しかない。トゥガナンはいつもジャーナルと同じ狭い寝台でくっついて寝ている。最初は床で寝ると言ったのだが、身体が痛くなるからと、一緒の寝台で寝ることになった。ジャーナルは細身だが、トゥガナンはそれなりに身体を鍛えていたので、それ相応に筋肉がついていて厚みがある。ジャーナルが寝苦しいのではないだろうかとハラハラしたが、ジャーナルは毎晩トゥガナンに半ばしがみつくようにして、ぐっすり寝ている。数日もすれば、トゥガナンもジャーナルと一緒に寝ることに慣れた。誰かと一緒に寝るなんて、子供の頃以来だ。慣れてみれば、ジャーナルの体温や匂いに気持ちが落ち着くようになり、今では1人で寝れる気がしない程である。
トゥガナンがうとうとしていると、胸元をふにふにと揉まれる感覚がした。目を開けて胸元を見れば、ジャーナルの手がトゥガナンの胸をやわやわと揉んでいた。いつものことである。ジャーナルは何故か寝起きによくトゥガナンの胸を揉む。別に嫌ではないのだが、少し困る。唯でさえ朝の生理現象で勃起しているペニスが、ジャーナルに胸を揉まれるとむずむずと疼いて、中々おさまらなくなる。
トゥガナンは不明瞭な声を発しながら胸を揉んでいるジャーナルの背中をトントンと優しく叩いた。ジャーナルが低く唸りながら、まるでむずかるようにグリグリとトゥガナンの胸元に額を擦りつけた。
「ジャーナル」
「……うん」
「朝だ」
「……うん」
ジャーナルは寝起きがあまりよくない。それでも大体決まった頃合いに目を覚ます。窓の外を見れば、少しずつ明るくなってきている。お互いに今日も仕事だ。トゥガナンはジャーナルから身体を離して寝台から降り、街の人が着ている服に着替えた。厠に行き、家の裏の井戸で顔を洗って、手拭いを水で濡らしてきつめに絞る。寝室に戻れば、ジャーナルが寝台の上で座ったまま、うとうとしていた。無言でジャーナルの顔を濡れた手拭いで拭くと、ジャーナルが細い目を開けてトゥガナンを見上げた。
「……おはよ」
「おはよう」
「悪いね、今朝も」
「構わない。朝飯を食べに行こう」
「うん」
ジャーナルが大きな欠伸をして、伸びをした。ジャーナルが寝間着を脱いで着替えると、家を出て近くの市場に行く。朝食はいつも市場で食べている。家で作ってもいいのだが、市場で買って食べた方が手間がなく金もかからない。昼食用のパンも買い、各々の職場へ行く。
仕事が終わる時間になると、いつもジャーナルがトゥガナンを迎えに来る。そのまま市場で夕食を買い、家に帰って2人で食べる。2人での生活は、驚く程穏やかに続いている。
ーーーーーー
ある日。雇い主の老爺から酒を貰った。トゥガナンが酒を飲んだことがないことをポツリと呟いたら、試しに飲んでみな、と、自分が好んでいるという酒を手渡してきた。それは果実酒で、甘くて飲みやすいと言っていた。トゥガナンは老爺に礼を言って酒を受け取った。ジャーナルは酒が好きだ。といっても、たまにしか飲まないが。ジャーナルが酒を飲んでいるところは何度も見たことがあるが、なんとなく自分が飲んではいけない気がして、トゥガナンは勧められても酒を飲まなかった。
しかし、トゥガナンはもうパイパイ族ではない。街の服を着て、街で仕事をし、街で暮らしている。トゥガナンはもう街の人間だ。いつまでもパイパイ族の決まり事を守る必要なんてない。
そう思ったトゥガナンは、迎えに来たジャーナルに酒瓶を見せて、今夜は酒を飲もうと言った。
初めて飲む酒は甘く、不思議と喉や胃の辺りを熱くさせた。チビチビと舐めるように慎重に酒を飲むトゥガナンを見て、ジャーナルがクスクスと楽しそうに笑った。
「猫みたいだ。美味しい?」
「甘い」
「トゥガナン。髪伸びたよね」
「あー……そういえば、ずっと切っていない」
トゥガナンは酒が半分になったグラスを片手に、自分の髪に触れた。パイパイ族特有の淡い金髪が、もう肩につく程長くなっている。ジャーナルが自分の懐から、渋い色合いの赤い紐を取り出した。
「あげるよ。髪紐」
「……いいのか?」
「うん。自分で結える?」
「やったことがない」
「じゃあ、やってあげるよ。子供の頃は妹の髪を毎日結ってたからさ。俺上手いよ」
「……頼む」
ジャーナルがニッと笑って、椅子から立ち上がった。トゥガナンの背後に立ったジャーナルが、トゥガナンの髪をするすると指ですいた。頭を指先で撫でるようなジャーナルの手の動きが不思議と心地よい。
「トゥガナンは綺麗だなぁ」
「……そんなわけない」
「綺麗だよ。金細工よりキラキラ光る髪も、翠玉みたいな緑色の瞳も。顔立ちは、まぁ普通だけどさ。でも綺麗だ」
「そうか」
ジャーナルはきっと酔っているのだろう。トゥガナンは目を伏せてジャーナルの指先の動きを意識した。優しい手つきが眠気を誘う。できた、と言われて自分の頭に触れれば、頭の横の部分が編み込まれて、後ろで1つに結われていた。
「ありがとう」
「いーえ。明日から毎朝俺が結うよ」
「面倒じゃないのか?」
「全然」
トゥガナンが首を捻って背後のジャーナルを見上げると、ジャーナルが細い目をゆるい弧を描くように更に細めて、楽しそうに笑っていた。ジャーナルが笑うと、トゥガナンは嬉しい。トゥガナンも自分では気づかぬうちに笑みを浮かべていた。
ジャーナルが少し屈んで、トゥガナンの肩に顎を乗せ、トゥガナンの胸元を両手でむにっと掴んだ。
「オタクのおっぱい、ふかふかで癖になるよな」
「だから毎朝触っているのか」
「あり?俺触ってた?」
「あぁ」
「ははっ。なんか落ち着くんだよねー」
ジャーナルの手が服の上からむにむにとトゥガナンの胸を揉んでいる。少しむずむずする。ちょうど乳首の辺りに指が触れており、ジャーナルの手が動く度に擦れて、じわじわと下腹部に熱が溜まるような感覚がする。
トゥガナンは小さな声でジャーナルの名前を呼んだ。
「ジャーナル」
「トゥガナン。乳が出ないか、試してみる?」
「……俺はもうパイパイ族じゃない」
「そうだね。でも未だに気にしてるじゃない」
「……そ、そんなに気にしてない」
「そう?」
嘘だ。自分は街の人間になったと思うようにしているが、それでも乳が出ないことは気にしている。自分はもうパイパイ族ではないのに。
むにむにと動き回るジャーナルの手に、トゥガナンは小さく熱い息を吐いた。自分は酔っているのだろうか。ふと、前に1度だけジャーナルに乳首を吸われたことを思い出した。あの、何かが背を走り、高まっていくような不思議な感覚が欲しい。
トゥガナンはそっとジャーナルの手に自分の手を添えた。
「……試す」
「うん」
何だか少し居たたまれなくて俯いたトゥガナンのうなじに、むにっと柔らかいものが触れた。一瞬遅れて、それがジャーナルの唇だったことに気づく。不快ではない。かぁっと頬や耳が一気に熱くなる。トゥガナンはジャーナルに促されて立ち上がり、そのままジャーナルに手を引かれて寝室へと向かった。
トゥガナンが寝台の上で夏物の薄い上着を脱ぎ捨てると、ジャーナルがじっとトゥガナンの乳首を見つめた。トゥガナンの乳首は先程の事でピンと勃ってしまっている。乳首をそんなに見つめられると少し落ち着かない。
トゥガナンが視線を泳がせていると、ジャーナルが近づき、両手でトゥガナンの胸を掴み、やわやわと揉み始めた。むにっと胸を中央に寄せるようにされ、乳首を唇で食まれる。ちゅうっと乳首を吸われると、ぞわっとしたものが背を走り、トゥガナンは小さく肩を震わせた。ジャーナルが細い目でトゥガナンの顔を見上げながら、まるで見せつけるかのように赤い舌を伸ばして、チロチロと乳首の先端を舌先で舐める。ふっ、ふっ、と少し荒い息を吐きながら、トゥガナンは下腹部にどんどん熱が溜まっていくのを感じていた。ジャーナルがトゥガナンの両方の乳首を交互に咥え、舐めて、舌先で転がして、吸ってくる。トゥガナンは後ろ手をついて、ジャーナルに胸を差し出すような体勢で、変な声が漏れでそうなのを必死で堪えた。
乳首を弄っているジャーナルの片手が、熱くなってしまったトゥガナンの股間を唐突に掴んだ。思わずビクッと震えてしまう。
「ジャ、ジャーナルッ!」
「気持ちいい?こっちも勃ってる」
「そ、そこは違うだろう!?」
「はははっ」
ジャーナルが笑いながら、下着とズボンを押し上げているトゥガナンのペニスをむにむにと揉んだ。自慰はしたことがあるが、ジャーナルの家で暮らし始めてからはしていない。溜まっているのに、根元から先っぽに向けて手ですりすりと撫でられると、抗いがたい射精感が込み上げてしまう。トゥガナンは我慢しようと歯を食いしばったが、再びジャーナルに乳首を咥えられ、乳首を優しく吸われながら服越しにペニスを手で刺激されて、すぐに我慢ができなくなった。
「う、あ、あ、あ、あ……」
トゥガナンはビクビクと腰を小刻みに震わせ、ジャーナルの手に自分の股間を擦りつけるようにして、下着の中に精液をぶちまけた。ジャーナルの前で粗相をしてしまった。涙目になって、はぁー、はぁーと荒い息を吐くトゥガナンの股間をジャーナルがするりと撫でた。
「出ちゃた?」
「う……」
「気持ち悪いだろ?脱ごうな」
「う、うん……」
トゥガナンは何も考えずにジャーナルの言葉に頷いた。ジャーナルの手がズボンに触れ、汚れた下着ごと下にずり下ろしていく。トゥガナンは腰を上げて、ジャーナルに脱がされるままにズボンと下着を脱いだ。射精して萎えたペニスは自分の精液で濡れてしまっている。濃い金色の陰毛も精液で濡れている。ジャーナルがすりすりとトゥガナンの陰毛を指先で撫でた。
「ここも綺麗な色してる」
「そ、そうか」
「うん。トゥガナン」
「……なんだ」
「もっと気持ちいいこと、しようか」
そう言ったジャーナルの細い目の中の瞳は、なんだか熱を帯びているような感じがした。
ジャーナルが服を脱ぎ始めた。ジャーナルの細身の身体が、窓から入る月明かりで白く浮かび上がる。服を脱いだジャーナルが、すりっとトゥガナンに正面から身体を寄せ、トゥガナンの唇に自分の唇をくっつけた。ちゅっ、ちゅっと優しく唇を吸われる。促すように舌先で唇をつつかれて、トゥガナンは素直に唇を開けた。ぬるりとジャーナルの舌がトゥガナンの口内に入ってきて、上顎や舌を舐め回される。接吻なんて生まれて初めてだ。接吻は男女の恋人や夫婦がするもので、男同士でするものじゃないと頭では分かっているのだが、ジャーナルの熱くて甘い酒の味が微かにする舌が不思議と心地よい。射精したばかりなのに、ジャーナルの舌が口内で動き回る度に、また下腹部に熱が溜まっていく感じがする。トゥガナンの舌に自分の舌を絡めながら、ジャーナルがトゥガナンの乳首を指先で摘まんで、優しくくりくりと刺激し始めた。思わず、んっ、と小さな声をもらしてしまう。くちゅくちゅと小さな水音が聞こえてくる。いけないことをしているような背徳感と不思議な高揚感に頭がクラクラしてしまう。
お互い荒い息を吐く頃になって、ジャーナルがトゥガナンの唇から離れた。ジャーナルがトゥガナンの頬に口づけ、汗が滲む太い首筋へ唇を落とす。乳首を弄られながら、ぬるぅと首筋に熱い舌を這わされれば、堪らずまた小さな声がもれた。
ジャーナルが指先で器用に乳首を弄りながら、トゥガナンの肌を唇でなぞり、舌を這わせ、時折優しく吸いついていく。臍の穴も舐められ、下腹部にまで舌を這わされた。トゥガナンが見つめる前で、ジャーナルがまた勃起してしまったトゥガナンのペニスに舌を這わせた。ゾクゾクゾクッと強い快感が背を走る。トゥガナンは仰け反るようにして身体を震わせた。
「あぁ……駄目だ、汚い……」
「汚くないよ。気持ちいい?」
「……きもちいい」
「ちょっと待ってて」
ジャーナルが伏せていた身体を起こし、乳首から指を離して寝台を降りた。寝室に置いてある戸棚を開け、何かを持って戻ってくる。ジャーナルの手の中にあるのは、小さな瓶だった。ジャーナルが小瓶の蓋を開けると、ふわっと甘い匂いがした。
トゥガナンが、それは何だろうかと、じっとジャーナルの手元を見ていると、ジャーナルがニッと笑って小瓶を小さく揺らした。
「香油だよ。いい香りだろう?」
「あぁ」
香油を一体どうするのだろうか。不思議に思って首を傾げると、ジャーナルが自分の掌に香油を垂らした。ジャーナルに促されて、トゥガナンは膝を立てて両足を大きく広げた。トゥガナンの両足の間を陣取ったジャーナルの指先がアナルに触れた。思わずビクッとして、トゥガナンはジャーナルの身体を両足で挟んだ。
「ジャーナルッ!?」
「ここ、気持ちよくなれるんだ」
ジャーナルの指先がつんつんとアナルをつついた。ジャーナルがぬるぬるとトゥガナンのアナルを指先で撫でながら、再び乳首に顔を寄せ、舌を這わせ始めた。もうなるようになれ。トゥガナンは何も考えずに、ただジャーナルが与えてくる刺激に身体を震わせた。
トゥガナンがジャーナルの家で暮らし始めて暫く経った。トゥガナンは29になり、そろそろ次の季節がやってきそうな気配がしている。過ごしやすい気候だったが、毎日、少しずつ暑くなっていく。
ジャーナルの家は小さな平屋で、台所と厠以外は、食堂兼居間の1部屋と寝室にしている1部屋しかない。トゥガナンはいつもジャーナルと同じ狭い寝台でくっついて寝ている。最初は床で寝ると言ったのだが、身体が痛くなるからと、一緒の寝台で寝ることになった。ジャーナルは細身だが、トゥガナンはそれなりに身体を鍛えていたので、それ相応に筋肉がついていて厚みがある。ジャーナルが寝苦しいのではないだろうかとハラハラしたが、ジャーナルは毎晩トゥガナンに半ばしがみつくようにして、ぐっすり寝ている。数日もすれば、トゥガナンもジャーナルと一緒に寝ることに慣れた。誰かと一緒に寝るなんて、子供の頃以来だ。慣れてみれば、ジャーナルの体温や匂いに気持ちが落ち着くようになり、今では1人で寝れる気がしない程である。
トゥガナンがうとうとしていると、胸元をふにふにと揉まれる感覚がした。目を開けて胸元を見れば、ジャーナルの手がトゥガナンの胸をやわやわと揉んでいた。いつものことである。ジャーナルは何故か寝起きによくトゥガナンの胸を揉む。別に嫌ではないのだが、少し困る。唯でさえ朝の生理現象で勃起しているペニスが、ジャーナルに胸を揉まれるとむずむずと疼いて、中々おさまらなくなる。
トゥガナンは不明瞭な声を発しながら胸を揉んでいるジャーナルの背中をトントンと優しく叩いた。ジャーナルが低く唸りながら、まるでむずかるようにグリグリとトゥガナンの胸元に額を擦りつけた。
「ジャーナル」
「……うん」
「朝だ」
「……うん」
ジャーナルは寝起きがあまりよくない。それでも大体決まった頃合いに目を覚ます。窓の外を見れば、少しずつ明るくなってきている。お互いに今日も仕事だ。トゥガナンはジャーナルから身体を離して寝台から降り、街の人が着ている服に着替えた。厠に行き、家の裏の井戸で顔を洗って、手拭いを水で濡らしてきつめに絞る。寝室に戻れば、ジャーナルが寝台の上で座ったまま、うとうとしていた。無言でジャーナルの顔を濡れた手拭いで拭くと、ジャーナルが細い目を開けてトゥガナンを見上げた。
「……おはよ」
「おはよう」
「悪いね、今朝も」
「構わない。朝飯を食べに行こう」
「うん」
ジャーナルが大きな欠伸をして、伸びをした。ジャーナルが寝間着を脱いで着替えると、家を出て近くの市場に行く。朝食はいつも市場で食べている。家で作ってもいいのだが、市場で買って食べた方が手間がなく金もかからない。昼食用のパンも買い、各々の職場へ行く。
仕事が終わる時間になると、いつもジャーナルがトゥガナンを迎えに来る。そのまま市場で夕食を買い、家に帰って2人で食べる。2人での生活は、驚く程穏やかに続いている。
ーーーーーー
ある日。雇い主の老爺から酒を貰った。トゥガナンが酒を飲んだことがないことをポツリと呟いたら、試しに飲んでみな、と、自分が好んでいるという酒を手渡してきた。それは果実酒で、甘くて飲みやすいと言っていた。トゥガナンは老爺に礼を言って酒を受け取った。ジャーナルは酒が好きだ。といっても、たまにしか飲まないが。ジャーナルが酒を飲んでいるところは何度も見たことがあるが、なんとなく自分が飲んではいけない気がして、トゥガナンは勧められても酒を飲まなかった。
しかし、トゥガナンはもうパイパイ族ではない。街の服を着て、街で仕事をし、街で暮らしている。トゥガナンはもう街の人間だ。いつまでもパイパイ族の決まり事を守る必要なんてない。
そう思ったトゥガナンは、迎えに来たジャーナルに酒瓶を見せて、今夜は酒を飲もうと言った。
初めて飲む酒は甘く、不思議と喉や胃の辺りを熱くさせた。チビチビと舐めるように慎重に酒を飲むトゥガナンを見て、ジャーナルがクスクスと楽しそうに笑った。
「猫みたいだ。美味しい?」
「甘い」
「トゥガナン。髪伸びたよね」
「あー……そういえば、ずっと切っていない」
トゥガナンは酒が半分になったグラスを片手に、自分の髪に触れた。パイパイ族特有の淡い金髪が、もう肩につく程長くなっている。ジャーナルが自分の懐から、渋い色合いの赤い紐を取り出した。
「あげるよ。髪紐」
「……いいのか?」
「うん。自分で結える?」
「やったことがない」
「じゃあ、やってあげるよ。子供の頃は妹の髪を毎日結ってたからさ。俺上手いよ」
「……頼む」
ジャーナルがニッと笑って、椅子から立ち上がった。トゥガナンの背後に立ったジャーナルが、トゥガナンの髪をするすると指ですいた。頭を指先で撫でるようなジャーナルの手の動きが不思議と心地よい。
「トゥガナンは綺麗だなぁ」
「……そんなわけない」
「綺麗だよ。金細工よりキラキラ光る髪も、翠玉みたいな緑色の瞳も。顔立ちは、まぁ普通だけどさ。でも綺麗だ」
「そうか」
ジャーナルはきっと酔っているのだろう。トゥガナンは目を伏せてジャーナルの指先の動きを意識した。優しい手つきが眠気を誘う。できた、と言われて自分の頭に触れれば、頭の横の部分が編み込まれて、後ろで1つに結われていた。
「ありがとう」
「いーえ。明日から毎朝俺が結うよ」
「面倒じゃないのか?」
「全然」
トゥガナンが首を捻って背後のジャーナルを見上げると、ジャーナルが細い目をゆるい弧を描くように更に細めて、楽しそうに笑っていた。ジャーナルが笑うと、トゥガナンは嬉しい。トゥガナンも自分では気づかぬうちに笑みを浮かべていた。
ジャーナルが少し屈んで、トゥガナンの肩に顎を乗せ、トゥガナンの胸元を両手でむにっと掴んだ。
「オタクのおっぱい、ふかふかで癖になるよな」
「だから毎朝触っているのか」
「あり?俺触ってた?」
「あぁ」
「ははっ。なんか落ち着くんだよねー」
ジャーナルの手が服の上からむにむにとトゥガナンの胸を揉んでいる。少しむずむずする。ちょうど乳首の辺りに指が触れており、ジャーナルの手が動く度に擦れて、じわじわと下腹部に熱が溜まるような感覚がする。
トゥガナンは小さな声でジャーナルの名前を呼んだ。
「ジャーナル」
「トゥガナン。乳が出ないか、試してみる?」
「……俺はもうパイパイ族じゃない」
「そうだね。でも未だに気にしてるじゃない」
「……そ、そんなに気にしてない」
「そう?」
嘘だ。自分は街の人間になったと思うようにしているが、それでも乳が出ないことは気にしている。自分はもうパイパイ族ではないのに。
むにむにと動き回るジャーナルの手に、トゥガナンは小さく熱い息を吐いた。自分は酔っているのだろうか。ふと、前に1度だけジャーナルに乳首を吸われたことを思い出した。あの、何かが背を走り、高まっていくような不思議な感覚が欲しい。
トゥガナンはそっとジャーナルの手に自分の手を添えた。
「……試す」
「うん」
何だか少し居たたまれなくて俯いたトゥガナンのうなじに、むにっと柔らかいものが触れた。一瞬遅れて、それがジャーナルの唇だったことに気づく。不快ではない。かぁっと頬や耳が一気に熱くなる。トゥガナンはジャーナルに促されて立ち上がり、そのままジャーナルに手を引かれて寝室へと向かった。
トゥガナンが寝台の上で夏物の薄い上着を脱ぎ捨てると、ジャーナルがじっとトゥガナンの乳首を見つめた。トゥガナンの乳首は先程の事でピンと勃ってしまっている。乳首をそんなに見つめられると少し落ち着かない。
トゥガナンが視線を泳がせていると、ジャーナルが近づき、両手でトゥガナンの胸を掴み、やわやわと揉み始めた。むにっと胸を中央に寄せるようにされ、乳首を唇で食まれる。ちゅうっと乳首を吸われると、ぞわっとしたものが背を走り、トゥガナンは小さく肩を震わせた。ジャーナルが細い目でトゥガナンの顔を見上げながら、まるで見せつけるかのように赤い舌を伸ばして、チロチロと乳首の先端を舌先で舐める。ふっ、ふっ、と少し荒い息を吐きながら、トゥガナンは下腹部にどんどん熱が溜まっていくのを感じていた。ジャーナルがトゥガナンの両方の乳首を交互に咥え、舐めて、舌先で転がして、吸ってくる。トゥガナンは後ろ手をついて、ジャーナルに胸を差し出すような体勢で、変な声が漏れでそうなのを必死で堪えた。
乳首を弄っているジャーナルの片手が、熱くなってしまったトゥガナンの股間を唐突に掴んだ。思わずビクッと震えてしまう。
「ジャ、ジャーナルッ!」
「気持ちいい?こっちも勃ってる」
「そ、そこは違うだろう!?」
「はははっ」
ジャーナルが笑いながら、下着とズボンを押し上げているトゥガナンのペニスをむにむにと揉んだ。自慰はしたことがあるが、ジャーナルの家で暮らし始めてからはしていない。溜まっているのに、根元から先っぽに向けて手ですりすりと撫でられると、抗いがたい射精感が込み上げてしまう。トゥガナンは我慢しようと歯を食いしばったが、再びジャーナルに乳首を咥えられ、乳首を優しく吸われながら服越しにペニスを手で刺激されて、すぐに我慢ができなくなった。
「う、あ、あ、あ、あ……」
トゥガナンはビクビクと腰を小刻みに震わせ、ジャーナルの手に自分の股間を擦りつけるようにして、下着の中に精液をぶちまけた。ジャーナルの前で粗相をしてしまった。涙目になって、はぁー、はぁーと荒い息を吐くトゥガナンの股間をジャーナルがするりと撫でた。
「出ちゃた?」
「う……」
「気持ち悪いだろ?脱ごうな」
「う、うん……」
トゥガナンは何も考えずにジャーナルの言葉に頷いた。ジャーナルの手がズボンに触れ、汚れた下着ごと下にずり下ろしていく。トゥガナンは腰を上げて、ジャーナルに脱がされるままにズボンと下着を脱いだ。射精して萎えたペニスは自分の精液で濡れてしまっている。濃い金色の陰毛も精液で濡れている。ジャーナルがすりすりとトゥガナンの陰毛を指先で撫でた。
「ここも綺麗な色してる」
「そ、そうか」
「うん。トゥガナン」
「……なんだ」
「もっと気持ちいいこと、しようか」
そう言ったジャーナルの細い目の中の瞳は、なんだか熱を帯びているような感じがした。
ジャーナルが服を脱ぎ始めた。ジャーナルの細身の身体が、窓から入る月明かりで白く浮かび上がる。服を脱いだジャーナルが、すりっとトゥガナンに正面から身体を寄せ、トゥガナンの唇に自分の唇をくっつけた。ちゅっ、ちゅっと優しく唇を吸われる。促すように舌先で唇をつつかれて、トゥガナンは素直に唇を開けた。ぬるりとジャーナルの舌がトゥガナンの口内に入ってきて、上顎や舌を舐め回される。接吻なんて生まれて初めてだ。接吻は男女の恋人や夫婦がするもので、男同士でするものじゃないと頭では分かっているのだが、ジャーナルの熱くて甘い酒の味が微かにする舌が不思議と心地よい。射精したばかりなのに、ジャーナルの舌が口内で動き回る度に、また下腹部に熱が溜まっていく感じがする。トゥガナンの舌に自分の舌を絡めながら、ジャーナルがトゥガナンの乳首を指先で摘まんで、優しくくりくりと刺激し始めた。思わず、んっ、と小さな声をもらしてしまう。くちゅくちゅと小さな水音が聞こえてくる。いけないことをしているような背徳感と不思議な高揚感に頭がクラクラしてしまう。
お互い荒い息を吐く頃になって、ジャーナルがトゥガナンの唇から離れた。ジャーナルがトゥガナンの頬に口づけ、汗が滲む太い首筋へ唇を落とす。乳首を弄られながら、ぬるぅと首筋に熱い舌を這わされれば、堪らずまた小さな声がもれた。
ジャーナルが指先で器用に乳首を弄りながら、トゥガナンの肌を唇でなぞり、舌を這わせ、時折優しく吸いついていく。臍の穴も舐められ、下腹部にまで舌を這わされた。トゥガナンが見つめる前で、ジャーナルがまた勃起してしまったトゥガナンのペニスに舌を這わせた。ゾクゾクゾクッと強い快感が背を走る。トゥガナンは仰け反るようにして身体を震わせた。
「あぁ……駄目だ、汚い……」
「汚くないよ。気持ちいい?」
「……きもちいい」
「ちょっと待ってて」
ジャーナルが伏せていた身体を起こし、乳首から指を離して寝台を降りた。寝室に置いてある戸棚を開け、何かを持って戻ってくる。ジャーナルの手の中にあるのは、小さな瓶だった。ジャーナルが小瓶の蓋を開けると、ふわっと甘い匂いがした。
トゥガナンが、それは何だろうかと、じっとジャーナルの手元を見ていると、ジャーナルがニッと笑って小瓶を小さく揺らした。
「香油だよ。いい香りだろう?」
「あぁ」
香油を一体どうするのだろうか。不思議に思って首を傾げると、ジャーナルが自分の掌に香油を垂らした。ジャーナルに促されて、トゥガナンは膝を立てて両足を大きく広げた。トゥガナンの両足の間を陣取ったジャーナルの指先がアナルに触れた。思わずビクッとして、トゥガナンはジャーナルの身体を両足で挟んだ。
「ジャーナルッ!?」
「ここ、気持ちよくなれるんだ」
ジャーナルの指先がつんつんとアナルをつついた。ジャーナルがぬるぬるとトゥガナンのアナルを指先で撫でながら、再び乳首に顔を寄せ、舌を這わせ始めた。もうなるようになれ。トゥガナンは何も考えずに、ただジャーナルが与えてくる刺激に身体を震わせた。
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「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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