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自称・愛とエロスの伝道師に相談
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ジャファーはあちこち痛む身体を引き摺るようにして、母屋にあるマーサの自室を目指して歩いていた。カミロの年明け休暇が終わり、泊まりがけで実家に帰ったら本当にリチャードにまる3日間ぶっ続けでしごかれまくった。地獄の3日間をなんとか生き抜いたジャファーは、マーサに相談というか、話を聞いてもらう為に、身体中の痛みを堪えて、泊まっている領館から少し離れた母屋へと移動している。
リチャードが帰った後、なにやら気まずくてしょうがないジャファーにカミロからキスをしてきて、有耶無耶にセックスを始めてしまい、結局いつものようにセックス三昧の爛れた数日を送った。お互い、リチャードが言っていたことには触れなかった。
ジャファーはあれからぐるぐる悩んでいた。これといった答えは中々出てこない。ジャファーは普段から愛とエロスの伝道師を自称しているマーサを頼ることにした。
マーサの自室のドアをノックすると、すぐに返事があり、ドアが開いてマーサが顔を出した。
「あら。ジャー君」
「助けてー。愛とエロスの伝道師ー」
「いいよー」
マーサはにっと笑って、ジャファーを自室に入れてくれた。マーサの自室はものすごく散らかっていて汚い。台所や風呂場などの水回りの掃除にはいっそウザいくらい神経質なのに、自分の部屋は散らかり放題である。あちこちに大量の本が積まれているし、作りかけの魔導製品らしきものやよく分からない物体、原稿用紙の束や何かの設計図らしき紙などが散乱している。
マーサが埃被った小さめの椅子を部屋の奥から出してきたので、ジャファーはそれに座った。ジャファーの向かい側に書き物机の椅子を引っ張ってきて、マーサも座る。
「で?この豊穣を司る土の神子、即ち愛とエロスの伝道師にどんな相談かしら?」
「カミロのことなんだけど」
「まぁ、でしょうね」
「何か自分でもよく分かんなくなってきちゃって」
「ぶっちゃけ、ジャー君はカミロちゃんのこと好きよね」
「…………俺、そんなに分かりやすい?」
「うん。ちっちゃい頃から好きなものにはとことんハマってたじゃない。その筆頭が農作業ね。馬で片道1時間もかかるような場所に泊まる訳じゃないのに何年も数日おきに通ってる時点で相当ハマってるわよね。飽きる気配全然ないし」
「……まぁ、そうだけど」
「何が気になってるの?」
「…………カミロがさ、子供産みたくないって。結婚したら子供産まなきゃいけないから、結婚も嫌っぽい。……子供を産むだけの存在になりたくないって」
「んー……まずさぁ。その前提条件がおかしいわよね」
「どういうこと?」
「結婚=子供をつくるってことじゃないってこと。結婚ってさ、結局、一緒に暮らして、残りの人生を一緒に生きていきたいからするものじゃない?そこに子供の有無は全然関係ないわ。まぁ、為政者側としては出生率を一定以上の水準に保ちたいから、産めや増やせやな政策してるんだけど。でも子供をつくるかどうかなんて、ぶっちゃけ個人の自由よね」
「うん」
「カミロちゃんは育ちが特殊だからさ。まぁ、結婚=子供を産むだけ存在になるって思い込んでるのかしらね。私としては子供を産もうが、カミロちゃんには魔術師としてバリバリ働いて欲しいんだけど」
「うん」
「ジャー君はどうしたいの?あの子と一緒に生きていきたい?」
「…………うん」
「じゃあ、答えは出てるじゃない。子供のことなんてね、お互い欲しくなった時に考えればいいのよ。貴方の寿命、あとどれだけあると思ってるのよ。焦る必要なんて全然ないわよ」
「……そう、なのかな」
「そうよ。カミロちゃんと一緒に過ごして、一緒にご飯を食べて、一緒に笑いあって、セックスして熱を分けあって。そういうことがしたいんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、それでいいじゃない。ごちゃごちゃ変に考え込む必要なんてないのよ」
「……うん。母様」
「なぁに?」
「……ありがと」
「いいってことよー」
のほほんと笑うマーサに、なんだか肩の力が抜けてしまった。マーサが言う程、多分世の中は単純にはできていないと思う。しかし、ジャファーはカミロとずっと一緒にいたい。ジャファーは間違いなくカミロのことが好きだ。セックスは勿論したいけど、例えセックスができなくなる程年老いても、きっとカミロと手を繋いでキスをするだけで満足できるような気がする。ジャファーは自分でも気づかないうちに、それだけカミロという存在にどっぷりハマってしまっていた。
それを認めてしまえば、なんだかスッキリした。ジャファーは小難しいことを考えるのは嫌いだ。カミロに対して、好きだから一緒にいて、と言えばいいだけの話である。
ジャファーはもう1度マーサに礼を言ってから、痛む身体で椅子から立ち上がって、マーサの自室を出た。
ーーーーーー
ジャファーがマーサに相談した2日前に遡る。
カミロは眠れずにいた。リチャードとジャファーの家で会ってから、なんだかずっと思考がぐるぐる彷徨っている。
はぁ、と小さく溜め息を吐くと、カミロは起き上がってカーディガンを羽織ってから、ベッドに腰かけた。そのまま、ぼーっとしていると、隣からベランダに誰か出てくるような音がした。カミロは立ち上がって、ベランダに出た。真冬の深夜である。白息が出て、じわじわ身体が小さく震えだす程寒い。イアソンの家のベランダを見れば、いつぞや目撃した時と同じようにマーサとイアソンが『キス』をしていた。
カミロはマーサに声をかけた。
「マーサ様」
「あら。カミロちゃん」
「どうした?カミロ」
マーサとイアソンがカミロの方を見て、不思議そうな顔をした。
「お聞きしたいことがあります」
「……?いいわよー」
マーサは不思議そうに首を傾げた後、にこっと笑って頷いた。
カミロの家でマーサとイアソンが並んで座っている。その対面にカミロは座っていた。何をどう話せばいいのかも分からない。中々口を開かないカミロを待っていた風のマーサが先に口を開いた。
「カミロちゃん。聞きたいことって、もしかしてジャー君のこと?」
「…………はい」
「リチャードがこないだジャー君の家に突撃したでしょ。その時のことかしら?」
「…………はい。私は『好き』という感情をジャファーに抱いているのでしょうか。『愛する』とはどういうことですか」
「んー……これまた難しい問いね。ジャー君を好きかなんて、貴女の心にしか分からないことよ。『愛とは何ぞや』って問いは……そうねぇ。概念的かつ哲学的な話になるけど聞く?あくまで私個人の考えで、明確かつ普遍的で絶対な答えではないけど。5時間くらいあれば多分それなりに語れると思うわ」
「えー……流石にそんだけ付き合うのは、普通にいやっすよー。俺」
「ていうか、何でイアソンついてきたの?」
「完全にその場のノリっす」
「まぁ、いいけどねー。カミロちゃんがよければ。どうする?聞く?」
「……話を聞いて、私は理解できますか?」
「さぁ?ぶっちゃけ微妙ね」
「んー……カミロよぉ。具体的に何を悩んでるかは知らねぇけどさぁ。時にはとことん単純に考えることも重要なんだぞ?」
「そうねぇ。考えすぎると逆に空回るだけの時ってあるわよねぇ」
「…………」
「カミロはさ、ジャファー様と一緒にいて楽しいか?」
「はい」
「ジャファー様とセックスすんの好きか?好きってことがよくわかんねぇなら言い方を変える。ジャファー様とセックスしたいか?」
「はい」
「カミロちゃん。それはただ気持ちいいからしたいの?」
「……いえ……ジャファーに触られると、なんというか、温かい?ような、感じがして……『可愛い』と言われると、胸の辺りがふわふわして……もっと言ってほしくなる……」
「ジャファー様はマーサ様の血を引いてるから寿命がくそ長い。ジャファー様とずっと一緒にいたいか?」
「ジャー君と一緒にいて、ご飯を一緒に食べて、一緒に出かけて、セックスして、一緒に寝て。そういうのしたい?」
「……はい」
「それならね、貴女にとってジャー君は大事な人なの。一般的に分かりやすい表現をするなら『好きな人』もしくは『愛してる人』」
「ま、そんな感じ?別によ、難しく考える必要なんざねぇのよ。ジャファー様が欲しいって思うなら、その時点でジャファー様のことが好きだってことだし、愛してるってことだ。ジャファー様が欲しいか?」
「……はい」
「じゃあ、答えは出たわね」
「……あの、ですが……」
「なぁに?」
「……子供を産むだけの存在にはなりたくありません。私は魔術師だ。それ以外のものにはなりたくない」
「何だそりゃ」
「カミロちゃんは何でそんな風に考えるの?」
「……父が、昔『結婚して子供を産め』と言いました。結婚したら子供を産まなければならない。魔術師ではいられない。……子供を産むだけの存在になる」
「ならないわよ」
「ならないな」
「…………え?」
「あのねー、カミロちゃん。うちの領地は育休制度や産休制度ってもんがあんの。結婚しようが、子供を産もうが、復職してバリバリ働けるの。実際、うちの娘達は皆好きな職に就いてバリッバリ働いてるわよ」
「え?」
「つーか、そもそも結婚したからって仕事辞める必要ねぇし。子供だって必ずつくらなきゃいけねぇってわけでもねぇし」
「そうよね。ぶっちゃけ、そこらへんは個人の自由よね」
「子供のことは、子供がほしくなった時に考えればいいんじゃね?そもそも、お前、先走って考えすぎてんじゃねぇの?」
「……そう……なんですか?」
「「うん」」
「カミロちゃんが具体的に何をぐるぐる悩んでるのか、いまいち分かんないけどね。ジャー君と一緒にいたい。ジャー君とセックスがしたい。ジャー君がほしい。それでいいじゃない。さっきも言ったけど、もう答えは出てるのよ」
「……私は、ジャファーのことが、『好き』……」
「「正解」」
「……いいんでしょうか。私が、私みたいなものが、ジャファーを『好き』で」
「むしろ何の問題があるの?」
「自分の気持ちは自分だけのもんだろ?誰にもどうこうできるもんじゃない」
「……はい」
「カミロちゃん。ジャー君に素直に貴女が思っていることを伝えてごらんなさいよ。きっとね、いい方向に転がっていくから」
「そうそう。それが1番手っ取り早い」
「はい」
「ふふっ。うまくいくおまじないしてあげる。私は豊穣を司る土の神子!即ち、愛とエロスの伝道師!ご利益ありまくりよーん」
「はははっ。ちげぇねぇ」
にっこり笑ったマーサが立ち上がって、カミロのすぐ近くに歩いてきた。椅子に座ったままのカミロの額に、マーサが優しいキスをした。
「大丈夫よ。私の可愛い土の民。貴女はちゃんと我らが土の神に愛されてる。ジャー君と出会えたのが、その証拠みたいなもんよ!土の神は豊穣を司る。豊穣を司るってことは、子孫繁栄やら愛やら縁やら、まぁそんな感じのことも司ってるわけだしね」
「はははっ。言い方、雑ー」
「いいんですー。分かりやすければ、それでいいのよぉー」
マーサとイアソンが2人でケラケラと笑った。
カミロはストンと何か、胸の中がしっくりしたような感覚を覚えて、自分の胸を指先でそっと撫でた。
ジャファーと一緒にいたい。ジャファーと『セックス』がしたい。ジャファーに『可愛い』と言われたい。
……ジャファーの『好き』という感情がほしい。
カミロはジャファーのことが『好き』だ。
リチャードが帰った後、なにやら気まずくてしょうがないジャファーにカミロからキスをしてきて、有耶無耶にセックスを始めてしまい、結局いつものようにセックス三昧の爛れた数日を送った。お互い、リチャードが言っていたことには触れなかった。
ジャファーはあれからぐるぐる悩んでいた。これといった答えは中々出てこない。ジャファーは普段から愛とエロスの伝道師を自称しているマーサを頼ることにした。
マーサの自室のドアをノックすると、すぐに返事があり、ドアが開いてマーサが顔を出した。
「あら。ジャー君」
「助けてー。愛とエロスの伝道師ー」
「いいよー」
マーサはにっと笑って、ジャファーを自室に入れてくれた。マーサの自室はものすごく散らかっていて汚い。台所や風呂場などの水回りの掃除にはいっそウザいくらい神経質なのに、自分の部屋は散らかり放題である。あちこちに大量の本が積まれているし、作りかけの魔導製品らしきものやよく分からない物体、原稿用紙の束や何かの設計図らしき紙などが散乱している。
マーサが埃被った小さめの椅子を部屋の奥から出してきたので、ジャファーはそれに座った。ジャファーの向かい側に書き物机の椅子を引っ張ってきて、マーサも座る。
「で?この豊穣を司る土の神子、即ち愛とエロスの伝道師にどんな相談かしら?」
「カミロのことなんだけど」
「まぁ、でしょうね」
「何か自分でもよく分かんなくなってきちゃって」
「ぶっちゃけ、ジャー君はカミロちゃんのこと好きよね」
「…………俺、そんなに分かりやすい?」
「うん。ちっちゃい頃から好きなものにはとことんハマってたじゃない。その筆頭が農作業ね。馬で片道1時間もかかるような場所に泊まる訳じゃないのに何年も数日おきに通ってる時点で相当ハマってるわよね。飽きる気配全然ないし」
「……まぁ、そうだけど」
「何が気になってるの?」
「…………カミロがさ、子供産みたくないって。結婚したら子供産まなきゃいけないから、結婚も嫌っぽい。……子供を産むだけの存在になりたくないって」
「んー……まずさぁ。その前提条件がおかしいわよね」
「どういうこと?」
「結婚=子供をつくるってことじゃないってこと。結婚ってさ、結局、一緒に暮らして、残りの人生を一緒に生きていきたいからするものじゃない?そこに子供の有無は全然関係ないわ。まぁ、為政者側としては出生率を一定以上の水準に保ちたいから、産めや増やせやな政策してるんだけど。でも子供をつくるかどうかなんて、ぶっちゃけ個人の自由よね」
「うん」
「カミロちゃんは育ちが特殊だからさ。まぁ、結婚=子供を産むだけ存在になるって思い込んでるのかしらね。私としては子供を産もうが、カミロちゃんには魔術師としてバリバリ働いて欲しいんだけど」
「うん」
「ジャー君はどうしたいの?あの子と一緒に生きていきたい?」
「…………うん」
「じゃあ、答えは出てるじゃない。子供のことなんてね、お互い欲しくなった時に考えればいいのよ。貴方の寿命、あとどれだけあると思ってるのよ。焦る必要なんて全然ないわよ」
「……そう、なのかな」
「そうよ。カミロちゃんと一緒に過ごして、一緒にご飯を食べて、一緒に笑いあって、セックスして熱を分けあって。そういうことがしたいんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、それでいいじゃない。ごちゃごちゃ変に考え込む必要なんてないのよ」
「……うん。母様」
「なぁに?」
「……ありがと」
「いいってことよー」
のほほんと笑うマーサに、なんだか肩の力が抜けてしまった。マーサが言う程、多分世の中は単純にはできていないと思う。しかし、ジャファーはカミロとずっと一緒にいたい。ジャファーは間違いなくカミロのことが好きだ。セックスは勿論したいけど、例えセックスができなくなる程年老いても、きっとカミロと手を繋いでキスをするだけで満足できるような気がする。ジャファーは自分でも気づかないうちに、それだけカミロという存在にどっぷりハマってしまっていた。
それを認めてしまえば、なんだかスッキリした。ジャファーは小難しいことを考えるのは嫌いだ。カミロに対して、好きだから一緒にいて、と言えばいいだけの話である。
ジャファーはもう1度マーサに礼を言ってから、痛む身体で椅子から立ち上がって、マーサの自室を出た。
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ジャファーがマーサに相談した2日前に遡る。
カミロは眠れずにいた。リチャードとジャファーの家で会ってから、なんだかずっと思考がぐるぐる彷徨っている。
はぁ、と小さく溜め息を吐くと、カミロは起き上がってカーディガンを羽織ってから、ベッドに腰かけた。そのまま、ぼーっとしていると、隣からベランダに誰か出てくるような音がした。カミロは立ち上がって、ベランダに出た。真冬の深夜である。白息が出て、じわじわ身体が小さく震えだす程寒い。イアソンの家のベランダを見れば、いつぞや目撃した時と同じようにマーサとイアソンが『キス』をしていた。
カミロはマーサに声をかけた。
「マーサ様」
「あら。カミロちゃん」
「どうした?カミロ」
マーサとイアソンがカミロの方を見て、不思議そうな顔をした。
「お聞きしたいことがあります」
「……?いいわよー」
マーサは不思議そうに首を傾げた後、にこっと笑って頷いた。
カミロの家でマーサとイアソンが並んで座っている。その対面にカミロは座っていた。何をどう話せばいいのかも分からない。中々口を開かないカミロを待っていた風のマーサが先に口を開いた。
「カミロちゃん。聞きたいことって、もしかしてジャー君のこと?」
「…………はい」
「リチャードがこないだジャー君の家に突撃したでしょ。その時のことかしら?」
「…………はい。私は『好き』という感情をジャファーに抱いているのでしょうか。『愛する』とはどういうことですか」
「んー……これまた難しい問いね。ジャー君を好きかなんて、貴女の心にしか分からないことよ。『愛とは何ぞや』って問いは……そうねぇ。概念的かつ哲学的な話になるけど聞く?あくまで私個人の考えで、明確かつ普遍的で絶対な答えではないけど。5時間くらいあれば多分それなりに語れると思うわ」
「えー……流石にそんだけ付き合うのは、普通にいやっすよー。俺」
「ていうか、何でイアソンついてきたの?」
「完全にその場のノリっす」
「まぁ、いいけどねー。カミロちゃんがよければ。どうする?聞く?」
「……話を聞いて、私は理解できますか?」
「さぁ?ぶっちゃけ微妙ね」
「んー……カミロよぉ。具体的に何を悩んでるかは知らねぇけどさぁ。時にはとことん単純に考えることも重要なんだぞ?」
「そうねぇ。考えすぎると逆に空回るだけの時ってあるわよねぇ」
「…………」
「カミロはさ、ジャファー様と一緒にいて楽しいか?」
「はい」
「ジャファー様とセックスすんの好きか?好きってことがよくわかんねぇなら言い方を変える。ジャファー様とセックスしたいか?」
「はい」
「カミロちゃん。それはただ気持ちいいからしたいの?」
「……いえ……ジャファーに触られると、なんというか、温かい?ような、感じがして……『可愛い』と言われると、胸の辺りがふわふわして……もっと言ってほしくなる……」
「ジャファー様はマーサ様の血を引いてるから寿命がくそ長い。ジャファー様とずっと一緒にいたいか?」
「ジャー君と一緒にいて、ご飯を一緒に食べて、一緒に出かけて、セックスして、一緒に寝て。そういうのしたい?」
「……はい」
「それならね、貴女にとってジャー君は大事な人なの。一般的に分かりやすい表現をするなら『好きな人』もしくは『愛してる人』」
「ま、そんな感じ?別によ、難しく考える必要なんざねぇのよ。ジャファー様が欲しいって思うなら、その時点でジャファー様のことが好きだってことだし、愛してるってことだ。ジャファー様が欲しいか?」
「……はい」
「じゃあ、答えは出たわね」
「……あの、ですが……」
「なぁに?」
「……子供を産むだけの存在にはなりたくありません。私は魔術師だ。それ以外のものにはなりたくない」
「何だそりゃ」
「カミロちゃんは何でそんな風に考えるの?」
「……父が、昔『結婚して子供を産め』と言いました。結婚したら子供を産まなければならない。魔術師ではいられない。……子供を産むだけの存在になる」
「ならないわよ」
「ならないな」
「…………え?」
「あのねー、カミロちゃん。うちの領地は育休制度や産休制度ってもんがあんの。結婚しようが、子供を産もうが、復職してバリバリ働けるの。実際、うちの娘達は皆好きな職に就いてバリッバリ働いてるわよ」
「え?」
「つーか、そもそも結婚したからって仕事辞める必要ねぇし。子供だって必ずつくらなきゃいけねぇってわけでもねぇし」
「そうよね。ぶっちゃけ、そこらへんは個人の自由よね」
「子供のことは、子供がほしくなった時に考えればいいんじゃね?そもそも、お前、先走って考えすぎてんじゃねぇの?」
「……そう……なんですか?」
「「うん」」
「カミロちゃんが具体的に何をぐるぐる悩んでるのか、いまいち分かんないけどね。ジャー君と一緒にいたい。ジャー君とセックスがしたい。ジャー君がほしい。それでいいじゃない。さっきも言ったけど、もう答えは出てるのよ」
「……私は、ジャファーのことが、『好き』……」
「「正解」」
「……いいんでしょうか。私が、私みたいなものが、ジャファーを『好き』で」
「むしろ何の問題があるの?」
「自分の気持ちは自分だけのもんだろ?誰にもどうこうできるもんじゃない」
「……はい」
「カミロちゃん。ジャー君に素直に貴女が思っていることを伝えてごらんなさいよ。きっとね、いい方向に転がっていくから」
「そうそう。それが1番手っ取り早い」
「はい」
「ふふっ。うまくいくおまじないしてあげる。私は豊穣を司る土の神子!即ち、愛とエロスの伝道師!ご利益ありまくりよーん」
「はははっ。ちげぇねぇ」
にっこり笑ったマーサが立ち上がって、カミロのすぐ近くに歩いてきた。椅子に座ったままのカミロの額に、マーサが優しいキスをした。
「大丈夫よ。私の可愛い土の民。貴女はちゃんと我らが土の神に愛されてる。ジャー君と出会えたのが、その証拠みたいなもんよ!土の神は豊穣を司る。豊穣を司るってことは、子孫繁栄やら愛やら縁やら、まぁそんな感じのことも司ってるわけだしね」
「はははっ。言い方、雑ー」
「いいんですー。分かりやすければ、それでいいのよぉー」
マーサとイアソンが2人でケラケラと笑った。
カミロはストンと何か、胸の中がしっくりしたような感覚を覚えて、自分の胸を指先でそっと撫でた。
ジャファーと一緒にいたい。ジャファーと『セックス』がしたい。ジャファーに『可愛い』と言われたい。
……ジャファーの『好き』という感情がほしい。
カミロはジャファーのことが『好き』だ。
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