お爺ちゃん達の秘密の恋

丸井まー(旧:まー)

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お爺ちゃん達の秘密の恋

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 イグナは、今年で六十五歳になる。数年前に、頭が原因で倒れて、下半身に痺れが残った。日常生活を送るのも困難な状態だったので、街が運営している老人介護施設に入居した。ここでの暮らしは、代わり映えが無くて、毎日が退屈だ。息子や孫達もめったに顔を出さないし、このまま、痴呆にでもなりそうな気がする。それはそれでいいのかもしれない。全てを忘れることがでいるのなら、今も胸に深く残る遠い思い出も忘れられるだろう。

 イグナは、どうしても忘れられない男がいる。イグナは、若い頃は軍人として働いていた。同期だったその男に惚れたのに気づいた時は、一人きりで酒を浴びるように飲んで、泣きじゃくったものだ。この国では、国教で同性愛が禁じられている。誰にも、イグナが男が、それも同期の男が好きなのだとバレる訳にはいかなかった。男が結婚した時には、笑顔で祝福した。イグナ自身も、幸いにも、女にも反応できたので、二年前に先に逝った女房と結婚して、息子が二人できた。誰にも、イグナが男が好きなのだとバレずに、ずっと生きてきた。

 イグナは、窓の外をぼんやりと眺めて、ふと、恋がしたいと思った。燃えるような恋じゃなくていい。熾火のように温かくて優しい恋がしたい。どうせ老い先短いのだ。最後くらい、自分に素直に生きてみたい。イグナは、自分の思いつきに、一人苦笑した。そんな事、できる訳もない。下半身は自分の意志じゃ殆ど動かせないし、イグナの年代は特に信心深い者が多い。こんな爺と、秘密の恋をしてくれるような奇特な男なんて、いる筈がない。
 イグナは、ぼんやりと外を眺めながら、本格的にうとうとと居眠りをし始めた。


 ◇◆◇


  イグナに同室者ができた。この施設は、基本的に二人部屋なのだが、前のイグナの同室者は、二ヶ月前に亡くなった。新しい同室者は、エルゴと名乗った。元は大工をしていたそうだが、事故にあい、腰から下が麻痺しているのだそうだ。エルゴは厳つい顔立ちをした禿げた男で、歳は六十二歳らしい。イグナは、昔は甘い顔立ちの男前だと言われていた。今は、皺くちゃの爺だが。

 エルゴと一緒の生活が始まった。イグナは、車椅子にまだ慣れていないエルゴに、車椅子を動かすコツを教えたり、施設での様々な決まり事等を教えた。エルゴは、基本的には無口な男で、必要最低限のことしか喋らない。それでも、イグナが何か手伝ってやると、必ずお礼は言ってくれる。少し偏屈だが、律儀な男のようだ。エルゴとの生活は、普通に穏やかなものだ。エルゴは、大人しくて、暇さえあれば、小さな木材を彫刻刀で彫って、色んなものを作って過ごしている。

 ある日。朝食を食べた後で、車椅子に乗って、日向ぼっこをしに行こうとしていると、エルゴに声をかけられた。何か困り事かと思えば、イグナに木でできた鷲をくれた。驚くイグナに、エルゴが、『アンタは鷲のようだから』と、ぼそっと呟いた。木彫りの鷲は見事な出来で、とても丁寧に彫られているのが、素人目でもよく分かる。イグナは嬉しくて、笑ってエルゴにお礼を言った。

 エルゴと一緒の生活が半年を過ぎると、一緒に日向ぼっこをしたり、エルゴが小さな木材を彫るところを見物させてもらったりと、かなり気安い関係になった。

 ある日。日向ぼっこをしながら、イグナは、ぽつりと呟いた。


「お前さんと酒が飲めたら楽しいだろうになぁ」

「俺は下戸だ」

「おや。じゃあ、甘いものは?」

「……好きだが」

「じゃあ、お茶会がしたいな」

「俺の倅に頼もう。倅の嫁が、クッキー作りの名人なんだ」

「おぉ。いいなぁ。あ、紅茶は大丈夫か? かなり前に、孫が差し入れてくれたものが、まだ残ってる。多分、まだ飲める筈だ」

「明日、倅が来るから、頼んでみる」

「よろしく。ははっ! 随分と久しぶりに楽しみができた」

「……アンタは」

「ん?」

「アンタは、そうやって笑ってる方がいいな。いつも、クソつまんねぇって面してる」

「代わり映えが無いからな。そりゃあ、クソつまらん毎日だよ。あぁ。でも、お前さんが来てからは、少しは楽しくなってきたかな。俺達、波長が合うのかね。お前さんと過ごすのは、割と楽しい」

「そうか。俺もだ」


 イグナは周囲を見回して、誰も人がいないことを確認すると、エルゴに、誰にも告げたことがない秘密を囁いた。


「俺な、本当は男が好きなんだ」


 エルゴは驚いたように目を見開いた後で、今にも泣きそうに、顔をくしゃくしゃにした。


「奇遇だな。俺もだよ。……なぁ、アンタさえよければ、最初で最後の恋人になってくれねぇか。俺はこんなつまらない男だが、アンタの笑顔の為に、できることをやるからよ」

「は、ははっ! 相手がこんな爺でいいのか?」

「俺も爺だ」

「それは確かに」


 イグナは、エルゴに手を伸ばした。エルゴの手はゴツゴツしていて、温かく、きっとイグナに笑顔をもたらしてくれる手だ。


「エルゴ。死ぬまでの間、秘密の恋をしよう」

「おぅ。イグナ。アンタの笑顔がもっと見てぇ」

「ふはっ! いくらでも見せてやるよ」


 イグナの灰色の世界が色づいた。


(おしまい)
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みんなの感想(2件)

sakura
2023.11.03 sakura

あー好き…
人生の終盤、寄り添う相手ができてよかった。もう少し読みたかったです🍵

2023.11.04 丸井まー(旧:まー)

感想をありがとうございますっ!!
本当に嬉しいです!!

嬉し過ぎるお言葉をくださり、本当にありがとうございます〜!!(泣)
人生の最後に恋をする……めっちゃ萌えます!爺ラブ大好きなんですー!
お楽しみいただけたのでしたら、何よりも嬉しいです!

お読み下さり、本当にありがとうございました!!

解除
夜曲
2023.11.03 夜曲

誰にも秘密の最後の恋、素敵ですね💓
面白かったです☺️

2023.11.03 丸井まー(旧:まー)

感想をありがとうございますっ!!
本当に嬉しいです!!

爺ラブ、大好きなんですー!
誰にも言えない秘密の恋を、人生の最後にしちゃうって、すごく萌えます!!
お楽しみいただけて、本当に嬉しいですー!!

お読み下さり、本当にありがとうございました!!

解除

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