厳ついおっさんが女体化しても厳ついおばさんにしかならねぇんだよ!

丸井まー(旧:まー)

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62:帰ってきた感

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 魔力切れを起こしていたデーリが完全復活したので、比較的近場の討伐依頼の仕事を受けて約一か月。お互いに絶好調だったので討伐依頼はサクッと終わり、街へと帰り着いた。
 ギルドに入ると、アキムのところには人がいたので、別の者のところへ行き、依頼完了の報告をして報酬を受け取ると、報酬を半分こしてからデーリと別れて家へと向かい歩き始めた。

 季節はもう初夏になっている。今日の夕食は庭で肉祭りでもいいかもしれない。リリンも大きくなって、きっとよちよち歩きしまくっていることだろう。忘れられていないといい。

 ゴンドロフが家の玄関の鍵を開けて中に入ると、居間の入り口からひょこっとリリンが顔を出し、ぱぁっと笑顔になって、よちよちとおむつで大きくなっている尻を振りつつ歩いてきた。


「ごーちゃ!」

「おー! 大きくなったなぁ。リリン。ただいま」

「だっちょ!」

「ん? 抱っこは風呂に入ってからな。俺、今汚れてっから」

「やーん! だっちょ! だっちょ!」

「リリーン? どうしたのー? って、ゴンちゃんだぁ! おかえりなさい!」

「おー。ただいま。アイナ」

「怪我はない?」

「俺もデーリも無傷だ」

「よかったぁ。リリン。ゴンちゃんはお風呂に行くから、お母さんと一緒にいましょ」

「やーん! ごーちゃー!」

「はいはーい。居間に強制連行ー。ゴンちゃん。ゆっくりお風呂に入ってきてよ」

「おー。ありがとな。あ、土産があるから、風呂から出たら渡すわ」

「わぁ! ありがとう! 楽しみにしとくわ!」


 アイナの弾けるような笑顔と思っていたよりも大きくなっていたリリンの笑顔に、なんだかほっこりする。
 ゴンドロフは二階の部屋に行くと、装備の点検や手入れをしてから、汚れものと着替えを持って風呂場に向かった。
 しっかり頭と身体を洗い、風呂から出て洗濯を仕掛けると、二階の部屋に戻り、土産を持って階下の居間に移動した。

 居間に入るとすぐにリリンがよちよち歩いてきたので、抱き上げて頬にキスをして、風呂場で整えたばかりの髭をやんわりと擦りつける。リリンが擽ったそうに笑い、さわさわとゴンドロフの髭を小さな手で楽しそうに撫で始めた。
 お盆を持ったアイナがやって来て、氷入りのグラスに紅茶を注いでくれた。まだ初夏なのに今日は暑いから、冷たい紅茶が嬉しい。

 リリンを抱っこしたまま紅茶を一口飲み、ゴンドロフは土産の珍しいジャムをアイナに差し出した。


「ありがとう! ゴンちゃん! これはジャム? なんのジャム?」

「薔薇だとよ」

「薔薇!? 薔薇をジャムにするの!?」

「らしいぞー。珍しいから買ってみた。もう一つのは落花生のペースト。蜂蜜と一緒にパンに塗って食うと美味い」

「へぇー。こっちもすごく珍しいわ。明日の朝にどっちも試してみましょうよ! ふふっ! ワクワクしてきたわ!」

「ははっ! 今夜は庭で肉祭りでもするか?」

「するーー!! お肉いっぱい買ってこなきゃ!」

「にーん! にーん!」

「リリンは人参もね」

「ん? 人参が好きなのか? リリン」

「にーん!」

「ここ最近、ものすごーくハマっててー。人参を柔らかく煮たのが一番好きみたい」

「好き嫌いは今のところあるのか?」

「まだないわ。なんでも食べてくれるから助かってるわー。食べない子って、ほんとに全然食べてくれないらしいし」

「へぇー。よし。昼飯食ったら肉祭りの買い出しに行くか」

「はぁい。お昼は鶏肉があるからー、揚げるのとステーキどっちがいい?」

「揚げるの! 野菜があれば、野菜もりもりのあんかけたやつ!」

「いいわよー。あれ、美味しいものねー。一緒に作りましょ」

「おー」

「あ、そうだ。ゴンちゃん用のエプロンを作ってみたの。リリンの涎掛け作る息抜きにね。よかったら使ってよ」

「おっ。ありがとな。つーか、エプロンも作れるのかよ。すげぇな」

「ふふーっ。お裁縫は好きだし得意なの。10代の頃は自分でワンピースとか作ってたのよ。布を買ってきて自分で作った方が安上がりだし、自分好みのが着れるしね」

「なるほど。裁縫なぁ。やったことねぇな」

「あら。ゴンちゃんって、今楽しいこと探ししてるんでしょ? なんなら、お裁縫やってみる? お試しで。リリンの涎掛けなら簡単だし、作ってもらったものを使えるし。私が教えるわよー。どうかしら?」

「んじゃ、よろしく頼むわ。先生」

「やだー! 先生って呼ばれるとなんか落ち着かなーい!」

「ははっ! 買い出しついでに、裁縫に必要なものも買いに行くか」

「えぇ。いいわよ。じゃあ、まずは気合い入れてお昼ご飯作らなきゃね! ゴンちゃん帰ってきたんだし、ご馳走作らなきゃ! あ、芋のサラダも食べる?」

「食べる! 卵とベーコン多めで!」

「はぁい。おいで。リリン。おんぶよー」


 リリンをおんぶしたアイナから渡されたエプロンは、濃い緑色のもので、胸元に可愛らしいひよこの刺繍が施してあった。人相悪いおっさんが着けるには可愛過ぎる気がするが、アイナがわざわざ作ってくれたものなので細かいことは気にしないことにする。
 ゴンドロフは不在の間のことを聞きながら、アイナと一緒に昼食を作り上げた。

 夕方になる前にアイナと一緒に洗濯物を取り込んで畳むと、肉祭りの準備をする。前に使った鉄の棒を四隅に括り付けた大きな網を物置から取り出してきて、地面に棒を刺して固定する。
 焚き火用の薪も買ってきている。火を起こす前に折りたたみ式の椅子を運んでいると、アキムが帰ってきた。


「ただいまっすー。ゴンちゃん、おかえりなさーい」

「おー。ただいま。今夜は庭で肉祭りだ! かなりいい肉をしこたま買ってきた!」

「やっほい! 最っ高! すぐに着替えて手ぇ洗ってくるっす! 火をつけるのやってみてぇっす!」

「いいぞー」


 アキムが嬉しそうに笑い、バタバタと家の中に入っていった。椅子とは別に、肉などを盛った大皿を置くちょっとした木箱などを用意していると、ワクワクしているのが丸分かりなアキムがやって来た。
 アキムに火の起こし方を教えてやり、ちょっと手伝いながら、火を起こした。薪を追加して火力を上げると、いい感じに網が熱くなってきた。肉祭りの始まりである。

 ゴンドロフはうきうきと肉を網の上にのせて焼き始めた。リリンには鶏のささみと軽く湯がいて柔らかくした人参などの野菜を焼いてやる。
 シンプルに塩と胡椒だけで味付けした肉は、脂の甘みが引き立っていてめちゃくちゃ美味い。買い出しのついでに買った火酒ともよく合う。


「うめー」

「うんまー」

「おーいしーい! ふふっ。焚き火って不思議ね。見てるとワクワクして、でもなんだか落ち着くの」

「わかるー。ゴンちゃんって、旅の間はいつもこうやって食ってるんすか?」

「あー? 基本保存食が多いから、鍋で煮たりが多いな。獣を狩れたら適当な木の枝で串を作って炙り焼きにしたりもすっけど」

「「へぇーー!」」

「こうして美味い肉をゆっくり味わうってのは中々ねぇな。さっと作って、さっと食って、寝る。あんまり長々と食ってると、匂いで獣とか魔物が寄ってきたりすることがあるしよ。火は絶やさねぇけどな。デーリと交代で火の番やってるわ」

「すげー。冒険者だー」

「冒険者だからな」

「あ、お兄ちゃん。ゴンちゃんからお土産貰ったの。薔薇のジャムと落花生のペースト! 明日の朝ご飯の時に食べましょうよ」

「おー! 珍しい! ゴンちゃん、あざーっす!! あ、今回はどれくらい街にいるんすか?」

「急ぎの仕事が入らなけりゃ、10日くらいだな」

「ゴンちゃんにお裁縫教えることになったの。お兄ちゃんも一緒にやる?」

「やるー。リリンのスカート作りてぇわ」

「いきなりスカートは厳しいわよ。まずは涎掛けからね」

「ゴンちゃん! ちょー可愛い涎掛け作りましょーね!」

「おー。あ、刺繍の絵はお前が描いてくれよ。俺が描くと残念極まりない代物になる」

「いいっすよー。リリン。にゃーにゃーとわんわん、どっちがいい?」

「にゃーにゃー!」

「んじゃ、猫の刺繍付きの涎掛けっすね! アイナ! よろしく! 俺、明日明後日休みだから!」

「おっ。連休か? なら、明日早速裁縫の体験だな」

「まっかせといてー。2人とも器用だから、多分それなりのものができると思うわよー」

「あ、ゴンちゃん。肉追加して欲しいっす」

「あ、私もー。あと玉ねぎも追加で。リリンはお腹いっぱいになったかな? ぽかぽかしてきたけど、多分今夜は寝ぐずり祭りね! 興奮してるから!」

「ははっ! まぁ、そんときゃそんときだ」

「ゴンちゃんのおっぱい枕ならすぐ寝るよ。多分」

「ゴンちゃん、おっぱい枕よろしくー」

「おー。風呂入って酒の匂い落としてからの方がいいかー?」

「その方がいいと思うっす」


 ゴンドロフは肉や野菜を焼きつつ、しれっとがっつり食べながら、アキムとアイナの楽しそうな笑顔を見て、『あー、帰ってきたなぁ』としみじみ思った。

 後片付けが終わった頃に、リリンの寝ぐずり祭りが始まった。ゴンドロフは急いでアキムと一緒に風呂に入り、歯磨きもちゃんとして酒の匂いを落とすと、居間のソファーに寝転がり、胸にリリンをのせた。
 ギャン泣きしていたリリンがそのうち泣き止み、すやぁっと寝落ちた。


「ゴンちゃんのおっぱい枕の威力すげー」

「ねー。私もリリンと交代して寝たいわー」

「熟睡してる感じか?」

「そうね。多分大丈夫。じゃあ、私達は部屋に行くわね。おやすみ。お兄ちゃん。ゴンちゃん」

「おやすみー。アイナ」

「おやすみ」


 ゴンドロフは腹筋だけで起き上がり、ソファーから立ち上がると、じんわり頬が赤くなったアキムと一緒に二階の部屋へと歩き始めた。

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