厳ついおっさんが女体化しても厳ついおばさんにしかならねぇんだよ!

丸井まー(旧:まー)

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63:穏やかな一日

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 ゴンドロフはちょっと唇を尖らせて、慎重に糸を針の穴に通した。今回は上手くいった。一番簡単な縫い方は何度か練習したらそれなりに真っ直ぐに縫えるようになったが、針に糸を通すのが今のところ一番難しい。糸の先がぶわっとなったりして、中々すっと穴に入らない。

 リリンが昼寝をしている間に、アイナから裁縫を習っている。ある程度真っ直ぐに縫えるようになったので、いよいよリリンの涎掛けを作っていく。
 型を針でとめている布地を慎重に裁ち鋏で切り、アイナに見本を見せてもらいながら縫い始める。ちまちました作業だが、地味に楽しい。裁縫は意外と性に合っているのかもしれない。陶器作りや硝子細工作りなども楽しかったが、職人街で体験したものは大掛かりな設備がいる。その点、裁縫は針や糸などの基本の道具さえあれば何処ででも気軽にできるのがいい。

 隣に座っているアキムをチラッと見れば、黙々と手を動かしている。縫い目が割ときれいだ。ゴンドロフは負けじと丁寧に針を布に刺していった。
 リリンが起きる前に涎掛けが完成した。いきなりアイナがやるような刺繍は難しいので、簡単な形にデザインした猫をアキムが描き、糸で線をなぞるようにして刺繍してみた。結構可愛いものができたと思う。縫い目が多少ガタガタなところもあるが、それなりにきれいにできている。

 アイナに手渡し、マチ針が残っていないかの確認をしてもらうと、アイナがニコッと笑った。


「2人とも上手ー。初めてとは思えないわ。洗濯して、明日から使いましょうね」

「おー。楽しかったわ。割と性に合ってるかもしれん」

「俺も結構楽しかったなー。アイナ。縫い方もだけど、刺繍を集中的に習いたいわ。リリンにスカートを作りたーい」

「いいわよー。いきなり長時間やると疲れるから、今日はこれでお終いね。明日は刺繍メインでやろっかー」

「よろしくー。ゴンちゃんはどうします?」

「んー。俺は縫い方の練習がいい。玉止めがぐちゃぐちゃだし、基本中の基本を完璧に習得してぇ」

「ゴンちゃんって割と凝り性な方でしょ」

「あー? 言われてみればそうかもな」

「じゃあ、ゴンちゃんは基本の縫い方とかでー、お兄ちゃんは刺繍ってことでー。ちょっと疲れたでしょ。紅茶を淹れるわ。薔薇のジャムを入れましょうよ。あれ、すっごく贅沢な気分になれるし。昨日焼いたクッキーもあるわよー」

「紅茶は俺が淹れるわ。クッキーってジャムクッキー?」

「ううん。普通のクッキー」

「なら、落花生のペーストつけて食おうぜー。絶対に美味い!」

「いいわね! じゃあ、サクッと準備しちゃいましょうよ。あ、ゴンちゃんは座っててよ。すぐに用意するから」

「おー。ありがとな」


 アキムとアイナが台所へ向かったので、ゴンドロフは静かに立ち上がり、そろーっと赤ん坊用のベッドに近づいた。穏やかな寝息を立てているリリンの寝顔が大変可愛らしい。見ているだけで癒やされる。
 ゴンドロフがほっこりしながらリリンの寝顔を眺めていると、2人が戻ってきたので、そろーっとテーブルに戻った。

 紅茶に薔薇のジャムを入れ、クッキーには落花生のペーストを少しつけて食べてみる。落花生の香ばしい匂いが鼻に抜け、程よい甘さのクッキーと相性抜群である。薔薇の香りがする紅茶は、ゴンドロフ的にはちょっと落ち着かないが、アイナが大喜びで飲んでいるので、買ってきて正解だったと思う。
 ゴンドロフはボリボリクッキーを食べながら、穏やかな時間にまったりとした気分になった。

 リリンが起きたので、おやつに李の皮を剥いてやり、食べやすいように切ってやる。ご機嫌に食べているリリンを眺めていると、なんとも可愛らしくて癒やされる。
 ゴンドロフがじーっとリリンを見ていると、アキムに声をかけられた。


「ゴンちゃん。今日の晩飯、何が食いてぇっすか?」

「あー? そろそろトマトが出始める頃だろ? 鶏肉のトマト煮込みが食いてぇ。あと豆たっぷりのスープ」

「いいっすよー。トマトだけ買ってくるかな」

「俺も一緒に行くわ。散歩」

「うぃーっす。アイナ。トマト以外で買うものある?」

「えー? 特に思いつかないわ。あ、リリン用に果物があったら買ってきてよ。李はまだあるけど、李だけじゃ飽きちゃうし」

「りょーかい。んじゃ、買い物行ってくるわー」

「帰ったら洗濯物取り込むな」

「うん。2人とも気をつけてねー。いってらっしゃーい」

「いってきまーす」

「リリン。後でなー」


 ゴンドロフは二階の部屋に財布と肩掛け鞄、買い物袋を取りに行き、アキムと一緒に家を出た。
 市場を目指して歩いていると、アキムの視線を感じた。アキムを見下ろせば、アキムが悪戯っぽくにまーっと笑った。


「なんだよ」

「ふっふっふ。ゴンちゃんが不在の間に面白いもの買ったっす」

「面白いもの?」

「所謂大人の玩具? 起動させるとぶるぶる振動するやつでー、乳首とかー、ちんこの先っぽとかー、前立腺に使うとめちゃくちゃ気持ちいいらしいっす!」

「へぇー。よし! 今夜試すぞ! 明日も休みだしな!」

「うぃっす! ゴンちゃんならノリノリで使ってくれるって俺信じてたー!」

「気持ちいいことなら何でも好きだからな!」

「ですよねー。知ってた」

「あ、明日はあれ作りてぇな。豚肉でチーズ巻いて揚げたやつ。材料あるか?」

「んー。チーズが足りねぇかも? あと豚肉も心許ないかな? 買っときますかねー」

「おー。ついでに玉ねぎも揚げようぜ。甘くなってうめぇし」

「いいっすねー。芋も欲しいっす」

「揚げながら飲むのは流石に無理だな」

「アイナとリリンがいますからねー。リリンが初等学校通い始めたらやってもいい気がしますけどー」

「あー。初等学校ってあれだろ? なんだっけ。……あ、7歳から行く学校とやら」

「そうっすよー。初等学校はうちから割と近いんすよ。あっちに白い三階建てのデカい建物見えるっしょ? あれっす」

「ほんとに近いな。つーか、でけぇな」

「デカい街なんで子供も多いんすよ。学校は一校ずつしかねぇし、街中の子供が通ってるんで、一応同級生だけど知らない奴ってめちゃくちゃいるんすよねー」

「へぇー。ちょっと気になる」

「こっそり覗いてみます?」

「子供に見つかったらギャン泣き騒ぎどころじゃなくなるからいい」

「まぁ、大騒動にはなるかな?」

「おっ。美味そうなトマトみっけ。多めに買っとくか?」

「そっすねー。サラダにもスープにもしてぇし。あ、豆が安い。買っちゃお。まだあるけど、すぐに食べきるだろうし」

「肉も買い足しとくか。俺がめちゃくちゃ食うし。ベーコン食いてぇ。でけぇ塊のやつ」

「いいっすよー。塊のやつ焼いて黒胡椒かけて食いましょーよー」

「贅沢ー。最高じゃねぇか。絶対に酒に合うやーつ」

「たまの贅沢ってことで!」


 必要なものや欲しくなったものを買うと、結構な量になった。アキムと分けて持ち、家へと帰る。
 手分けして洗濯物を取り込んで畳んだら、アイナに貰ったエプロンを着けて台所へ向かう。
 アキムが鶏肉のトマト煮込みを作っている間に、アイナから教わりながら豆たっぷりのスープを作る。茹で卵をのせたサラダも作ったら、夕食の完成である。
 リリン用のものも別に薄味で作ってある。

 居間のテーブルに料理を運び、早速食べ始める。ガツガツと美味い料理を食べていると隣から視線を感じたので、もぐもぐ咀嚼しながら隣のアキムの方を見れば、アキムがどことなく嬉しそうな顔をしていた。


「美味いっすか?」

「めちゃくちゃうめぇ」

「ふへっ。それならよかったっす。ゴンちゃんが作ったスープも美味いっす」

「おぅ」


 ストレートに褒められてちょっと照れくさいが、かなり嬉しい。
 ゴンドロフは穏やかで、でも賑やかな食事を楽しんだ。

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