厳ついおっさんが女体化しても厳ついおばさんにしかならねぇんだよ!

丸井まー(旧:まー)

文字の大きさ
48 / 77

48:『ゴンちゃん全身つるつる大作戦』

しおりを挟む
 ゴンドロフが約二か月の討伐依頼の仕事に行って早20日。
 毎日が賑やかに、でもそれなりに穏やかに過ぎている。が、やはりゴンドロフがいないと物足りない。

 アキムが仕事終わりに市場に寄って帰ると、元気いっぱいなリリンの泣き声で出迎えられた。
 居間を覗けば、リリンを抱っこしたアイナがぐるぐる歩いているので、寝ぐずりっぽい。


「ただいまー。寝ぐずり祭り?」

「おかえりー。そうなのよー。今日はあんまり昼寝してないから、今になって眠くなったみたい。はいはいでひたすら爆走してたわ」

「ありゃー。手ぇ洗ったら代わるわ」

「んーー。ご飯があるしなぁ。このまま寝かせるか、ご飯食べさせて寝かせるか悩み中なのよー」

「眠くて不機嫌で食べないんじゃね?」

「あーー。それはそうかも。寝かせちゃうかー」

「リリンのご飯は一応用意しといて、起きたら食べさせたらいいだろ」

「そうね。そうするわ」


 アキムはバタバタと台所へ行って買ってきたものを魔導冷蔵庫に入れると、自室に行って着替えてから手を洗いに行った。
 アイナと交代してリリンを抱っこして居間をぐるぐる歩きながらあやすが、中々泣きやまない。身体がぽかぽかしているので眠たいのだろうが、めちゃくちゃ泣いている。


「眠いなら寝たらいいのになー」

「ほんとー。なんか寝つけないんでしょうねー」


 暫くアイナと二人がかりで寝かせようとしていると、なんとか泣きやみ、リリンが寝た。
 アキムはほっとして、慎重に赤ちゃん用のベッドにリリンを寝かせると、アイナと一緒に台所へ移動した。

 夕食を作りながら、何気なく腕捲りをしているアイナの腕を見た。アイナの腕はつるつるで毛が生えていない。アキムは手早く肉と野菜を炒めながら、アイナに問いかけた。


「アイナさー、無駄毛の処理どうしてんの?」

「えー? 何よ。急に。乙女の諸事情聞かないでよね」

「いやさー、ゴンちゃんを全身つるっつるにしたいなぁと思ってー。『ゴンちゃん全身つるつる大作戦』をやろうかと。で、剃ってんの?」

「なにその計画……今は剃ってないわよ。脱毛したもの」

「脱毛!」

「街に一軒だけ魔法で脱毛してくれる店があるのよ。結婚前に、コツコツ貯めてたお金で脱毛してもらったわ。私の貯金が半分に減ったお値段だったけど、一度やっちゃえば生えてこなくなるし、痛くもなかったわ」

「アイナの貯金が半分って、かなりの額じゃね? えー、小間物屋で16から働き始めてー、結婚したのが22だろ? 6年分の貯金の半分のお値段かぁ……」

「まぁ、小間物屋のお給料安かったのもあるけどね。それでも結構なお金がかかるから、やらない女の子も多いみたいよ。私の場合は、仲がよかった先輩に勧められたの。『結婚して子供生んだら毛の処理なんてしてる余裕なくなるわよ』って。確かにその通りだったから、やっておいてよかったわー」

「ふむん。金はまぁ貯金で足りるなぁ。そこって、ふらっと行ってやってくれる感じ?」

「完全予約制。個室で女の人がやってくれたわ」

「男もしてもらえるかな?」

「さぁ? どうなのかしら。お店の人に聞いてみないとなんとも?」

「よっし! アイナ! 次の休みにその店に連れて行ってくれ! ダメ元で聞いてみる!」

「マジかー。なんでゴンちゃんを全身つるつるにしたいのよ」

「だって、胸毛もケツ毛ももっさりなんだもん。微妙。本人は毛を伸ばす気満々だし。なんか微妙」

「別にいいんじゃないの? 慣れるわよ。そのうち。もさもさの毛にも」

「お兄ちゃんは! おっさんのケツ毛を愛でる趣味はないのよ! おっさんのケツ毛を愛でるとかやべぇだろぉ!」

「私的には割とどうでもいいわ。好きにおっさんのケツ毛を愛でなさいよ」

「やだー! おっさんのケツ毛はやだーー! 絶対に『ゴンちゃん全身つるつる大作戦』を決行する!」

「はいはい。まぁ、いいけどね」

「あ、ついでに、久しぶりに喫茶店にでも行かない? 職場の先輩から、小さい赤ちゃん連れでも入れる喫茶店があるって聞いたんだけど」

「あら! いいわね! そんな喫茶店があるんだー」

「赤ちゃん用の蒸しパンとかもメニューにあるんだってさ。ケーキが美味しいらしいよー」

「行くー! ケーキ食べたいわ!」

「んじゃ、次の休みはお出かけってことでー。よし。炒めもの終わりー」

「こっちもスープできたわ」

「パンもよーし。晩飯にしよー」

「はぁい」


 アキムは夕食を食べながら、にひっと笑った。ゴンドロフのもさもさの体毛をどうにかしたかったので、いいことが聞けた。
 ふさふさ胸毛がない方がおっぱい枕の寝心地もいいだろうし、何よりもっさりケツ毛がない方がいい。萎えるとまではいかないが、なんか微妙なので。
 アキムはうきうきと夕食を食べながら、早くゴンドロフが帰ってこないかなぁと思った。

 次の休みの日。アキムはリリンを抱っこして、街中にある脱毛してくれる店へと来ていた。店内の受付にいた人に男も施術してもらえるのか聞いてみれば、大丈夫とのことだった。アキムは嬉しくてニコニコしながら、ゴンドロフが帰った頃に予約しにくると伝えて、店を出た。

 今度は赤ちゃん連れでも入れる喫茶店を目指して歩く。ここ暫く、赤ちゃん用品専門店か市場にしか行っていないので、アイナがどことなく楽しそうにしている。
 お目当ての喫茶店に入ると、リリンがおむつで泣き出した。喫茶店の店員からおむつを替えるスペースがあると聞いたので、アイナにリリンを受け渡した。職場の先輩から聞いていたが、おむつを替えられるスペースがあるのは本当にありがたい。

 スッキリしてご機嫌になったリリンを抱っこしてアイナが戻ってくると、それぞれ好きなケーキと紅茶を頼み、リリンには卵の蒸しパンと林檎のジュースを注文した。
 店内を見れば、小さい子供連れの家族ばかりである。中々に賑やかだが、悪くない。
 運ばれてきたケーキや紅茶も美味しいし、いい店を教えてもらった。リリンもご機嫌である。


「ケーキの種類が多くて、軽食もあるし、いいお店ねー。赤ちゃん用のものも何種類もあるしー」

「なー。いい店教えてもらったわ。ゴンちゃんが帰ってきたら、また一緒に来ようぜ」

「うん。ゴンちゃんが帰ってくるまであと一か月ちょいかー。長いわー」

「なー。怪我してねぇといいけど」

「ほんとにね。ゴンちゃんが帰ってくる頃にはリリンの1歳の誕生日が近いし、ゴンちゃんのお仕事の予定次第では、早めに誕生日パーティーしましょうよ」

「いいねー。気合入れてご馳走作らねぇと」

「お庭で牛肉焼き祭りには、まだちょっと寒いかしら?」

「まだ寒いかもなー。初夏くらいがいいんじゃない? その頃にはリリンが歩いてるだろうから、目が離せねぇけど」

「まぁねー。でもきっとすごく楽しいわ」

「そろそろ庭の草むしりやらねぇとなぁ。次の休みにやるか」

「一緒にやるわよ」

「寒いからだめー。リリンと昼寝してな」

「えー。2人でやった方が早く終わるわよ」

「アイナが風邪引いたら大変じゃん。ちゃちゃっと1人で終わらせるよ」

「むぅ。しょうがないわね。じゃあ、お昼ご飯はお兄ちゃんが好きなのを作るわ」

「肉がいい! ひたすら肉食いてぇ」

「肉好きめ。豚と鶏どっち?」

「んー。豚かなぁ。がっつりステーキで!」

「いいわよー。今日の晩ご飯は何にする?」

「鶏肉があるから、檸檬で煮る?」

「いいわね! それで!」

「はぁー。なんかすごい満足。ケーキも紅茶も美味かったし。いい気分転換になったな」

「ほんとにね。職場の先輩に感謝だわー」

「明日、お礼言っとこー」

「そうしてー」


 アキムは会計をして店を出ると、アイナからリリンを受け取り、ご機嫌なリリンを抱っこして家に向かって歩き始めた。
 ゴンドロフが帰ってきたら、『ゴンちゃん全身つるつる大作戦』を決行する。
 アキムはご機嫌に鼻歌を歌いながら、家へと帰った。

しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

いい加減観念して結婚してください

彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話 元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。 2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。 作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

処理中です...