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第一章 辺境の地
16.援軍の到着
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二人が出て行ってふと気づくと、もう窓の外は薄暮になっていた。
私は立ち上がり、窓辺へ寄って鎧戸を閉めようと腕を伸ばした。
ざわざわと人の声や馬のいななきが聞こえ、何だろうと窓の外へ顔を出し、その景色に目を奪われる。
明々と松明が焚かれて明るい庭に大勢の人たち、それにたくさんの馬が集合していた。
といっても、これからどこかへ行くという感じではなく、どちらかと言えば帰館したというような弛緩した空気が漂っていた。
腰縄を打たれた薄汚く汚れた一団が、邸の後ろの方へと牽かれていく。
あれは…どのような人達かしら。
罪人?
その時扉がせわしなくノックされた。
私が「はい、どうぞ」と言うと、ぱっと開いてアドルナートが「クラリッサ、厨房を手伝いなさい」と言いながら入ってきた。
「あ、はい」
「窓の外を見ればわかるが、都から援軍が到着した。
晩餐会があるんだが、人手が足りないのだ。
近隣の者たちが手伝いに来ているが…とても都の方々の前に出せる人間ではない。
料理の給仕くらいできるだろう?」
領主館でのパーティの時などにも、よく給仕として駆り出されていた。
お母様は激怒していらっしゃったけど、どうせドレスも持っていないしダンスも踊れないし、私としてはそちらの方がホストとしての役割よりもずっと気が楽だった。
私は「はい、できると思います」と頷く。
「軍人よりも少し気の荒い連中で、酔っ払うと更に手が付けられなくなるから。
危ないと思ったらすぐに逃げなさい。
ご主人様には許可をいただいているから」
ちょっと心配そうに話すアドルナートに、私は意外に思った。
意外と優しい面もあるのかな?
「かしこまりました」
私がお辞儀をすると「早く鎧戸を閉めて厨房へ来なさい。とりあえず最初だけでも頼む」とせっかちに言って出て行ってしまった。
私は慌てて重い鎧戸を閉めようと奮闘したが、体力が落ちているのか、重すぎるのかなかなか閉まらない。
ひとりでうんうん言っていると、コンコンっとノックが聞こえるや否や扉が開き「おい、クラリッサ!アドルナートが怒ってるぞ」と言いながらバルトロが入ってきた。
「…なにやってんだ」
「鎧、戸が、閉ま、なくって…」
息を切らしながら答えると、バルトロは「あーこれ重いよな」と言って、大して力を込めた風もなくばんっと音を立ててあっという間に閉めてくれた。
「まだ体力も回復してないんだし怪我もしてるんだから、こういうのは俺に言えよ」
そう言って「大丈夫か」と私を見下ろす。
私は「あ、ありがとう…助かったわ…」と言ってふうーっと息を吐きだした。
「女の子って体力無くて大変なんだなぁ」
バルトロは私を面白そうに眺め、それからはっとしたように「あ、ほら、早く!厨房でアドルナートがカンカンだぞ」と言って私の背を押して、部屋を出た。
急いで廊下を歩き、バルトロと厨房へ飛び込むようにして入る。
だいたい、厨房は邸の端にあるものだけど、ここは離れだった。
これは…判らないわ。
私一人だったら見つけられずに迷っていたかも。
バルトロが来てくれて良かった。
「遅い!何をしているのだ!」
アドルナートの怒声が飛んでくる。
「申し訳ありません!」
私は大きな声で答え、厨房のスタッフに渡されたエプロンを手早く着けた。
「こっちの列から運んで行って!
配膳車に積んで持って行っていいけど、部屋の中まで入ってっちゃだめだよ!」
誰かに言われ、私は「承知しております!」とまた答えて、配膳者に次々に前菜の皿を積んだ。
「俺が押していく」
何人分あるのか、結構な重さになってしまった台車を見て、バルトロが配膳者の取っ手に手をかけた。
「え、でも、バルトロも晩餐会に出るんでしょ?」
列席者っぽく着替えているバルトロに訊く。
「そうだけど、これをクラリッサひとりで運んでいけるのか?
場所も遠いのに」
バルトロは有無を言わさず押して運び出した。
「じゃあ、あんたはこれをお願い」
とグラスの入った籠を渡される。
これも、結構重いわ。
というか、今頃こんなの運んでていいのかしら。
前菜とグラスが一緒だなんて、聞いたことないわ。
私はちょっと不安になりながら、バルトロの後について広間に向かって歩いて行った。
私は立ち上がり、窓辺へ寄って鎧戸を閉めようと腕を伸ばした。
ざわざわと人の声や馬のいななきが聞こえ、何だろうと窓の外へ顔を出し、その景色に目を奪われる。
明々と松明が焚かれて明るい庭に大勢の人たち、それにたくさんの馬が集合していた。
といっても、これからどこかへ行くという感じではなく、どちらかと言えば帰館したというような弛緩した空気が漂っていた。
腰縄を打たれた薄汚く汚れた一団が、邸の後ろの方へと牽かれていく。
あれは…どのような人達かしら。
罪人?
その時扉がせわしなくノックされた。
私が「はい、どうぞ」と言うと、ぱっと開いてアドルナートが「クラリッサ、厨房を手伝いなさい」と言いながら入ってきた。
「あ、はい」
「窓の外を見ればわかるが、都から援軍が到着した。
晩餐会があるんだが、人手が足りないのだ。
近隣の者たちが手伝いに来ているが…とても都の方々の前に出せる人間ではない。
料理の給仕くらいできるだろう?」
領主館でのパーティの時などにも、よく給仕として駆り出されていた。
お母様は激怒していらっしゃったけど、どうせドレスも持っていないしダンスも踊れないし、私としてはそちらの方がホストとしての役割よりもずっと気が楽だった。
私は「はい、できると思います」と頷く。
「軍人よりも少し気の荒い連中で、酔っ払うと更に手が付けられなくなるから。
危ないと思ったらすぐに逃げなさい。
ご主人様には許可をいただいているから」
ちょっと心配そうに話すアドルナートに、私は意外に思った。
意外と優しい面もあるのかな?
「かしこまりました」
私がお辞儀をすると「早く鎧戸を閉めて厨房へ来なさい。とりあえず最初だけでも頼む」とせっかちに言って出て行ってしまった。
私は慌てて重い鎧戸を閉めようと奮闘したが、体力が落ちているのか、重すぎるのかなかなか閉まらない。
ひとりでうんうん言っていると、コンコンっとノックが聞こえるや否や扉が開き「おい、クラリッサ!アドルナートが怒ってるぞ」と言いながらバルトロが入ってきた。
「…なにやってんだ」
「鎧、戸が、閉ま、なくって…」
息を切らしながら答えると、バルトロは「あーこれ重いよな」と言って、大して力を込めた風もなくばんっと音を立ててあっという間に閉めてくれた。
「まだ体力も回復してないんだし怪我もしてるんだから、こういうのは俺に言えよ」
そう言って「大丈夫か」と私を見下ろす。
私は「あ、ありがとう…助かったわ…」と言ってふうーっと息を吐きだした。
「女の子って体力無くて大変なんだなぁ」
バルトロは私を面白そうに眺め、それからはっとしたように「あ、ほら、早く!厨房でアドルナートがカンカンだぞ」と言って私の背を押して、部屋を出た。
急いで廊下を歩き、バルトロと厨房へ飛び込むようにして入る。
だいたい、厨房は邸の端にあるものだけど、ここは離れだった。
これは…判らないわ。
私一人だったら見つけられずに迷っていたかも。
バルトロが来てくれて良かった。
「遅い!何をしているのだ!」
アドルナートの怒声が飛んでくる。
「申し訳ありません!」
私は大きな声で答え、厨房のスタッフに渡されたエプロンを手早く着けた。
「こっちの列から運んで行って!
配膳車に積んで持って行っていいけど、部屋の中まで入ってっちゃだめだよ!」
誰かに言われ、私は「承知しております!」とまた答えて、配膳者に次々に前菜の皿を積んだ。
「俺が押していく」
何人分あるのか、結構な重さになってしまった台車を見て、バルトロが配膳者の取っ手に手をかけた。
「え、でも、バルトロも晩餐会に出るんでしょ?」
列席者っぽく着替えているバルトロに訊く。
「そうだけど、これをクラリッサひとりで運んでいけるのか?
場所も遠いのに」
バルトロは有無を言わさず押して運び出した。
「じゃあ、あんたはこれをお願い」
とグラスの入った籠を渡される。
これも、結構重いわ。
というか、今頃こんなの運んでていいのかしら。
前菜とグラスが一緒だなんて、聞いたことないわ。
私はちょっと不安になりながら、バルトロの後について広間に向かって歩いて行った。
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