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第二章 都へ
2.帰館
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出陣してから1週間と1日経って、漸く討伐隊は帰館した。
その2~3日前から、邸の周辺にやたら隊員が現れては消え、を繰り返していたので私は不思議に思って、バルトロがいたときに訊いてみた。
離れの厨房に通じている扉を開けて「バルトロ!」と声をかけると、振り向いたバルトロは「クラリッサ!」と妙に慌てたように、でもなんだかすごく嬉しそうに走ってきた。
「ダメだろ、こんなとこに出てきちゃ」
私を抱えるようにして邸内に押し込む。
「もう終わったの?
帰ってきたの?」
そう尋ねる私の身体を離し、兜を外したバルトロは頭を振って長い髪を解いた。
「いや、あらかたは片付けたが、残党がもう少し残っていて、そいつらが我々の拠点であるこの邸を狙っているという情報があって。
邸の者たちの安全を心配した隊長が、隊員を派遣してこの邸の周辺を見回らせているんだ。
たまたま今は俺の番だったってわけ」
その言葉を聞いた私の表情がこわばったのを見て、バルトロは焦ったように皮の手袋を外して私を引き寄せた。
「大丈夫、大丈夫だよ。
俺たちが昼夜問わずに見回りしてるし、もう奴らにそこまでの組織力はない。
そろそろ全滅させられるから、あと2,3日で帰ってこられるよ」
私は硬くて冷たい鎖帷子に手をあてて身体を離す。
「兄は?
見つかった?」
見上げて訊くと、バルトロは口を閉じて視線を逸らした。
私の身体から力が抜け、バルトロはぱっと手を伸ばして私の身体を支えた。
「いや、でも、それらしい遺体も見つかってない。
生きてる公算の方が高い。
隊長も都に帰るまでの間は、捜索を続けるって言ってるし、あまり心配するな。
山賊の仲間になってるとかじゃなければ、会える可能性はあるよ」
「兄は、どんなに窮しても、山賊の仲間になるような人じゃないわ!」
私は思わず声を荒らげる。
私のようにここを山賊の隠れ家と思ったのかもしれない。
だからそんな重篤な怪我を負った状態で逃げ出したのだと思う。
「じゃ、大丈夫だよ」
そう言って笑い、バルトロは私を抱きしめた。
私は驚いて身をよじり、バルトロの大きな胸から逃げ出す。
なんなの…この人、さっきから。
「おい、何をやってる!」
そこへアドルナートの大きな声が聞こえて、バルトロは「やばっ」と呟き兜をかぶって外へ逃げ出そうとする。
「バルトロか!
ちょっと来い、話がある」
アドルナートは怒っているというよりは真剣な表情でバルトロの背を押してドアを開けて外へ出た。
私の方をちらっと見て扉をバタン!と閉めた。
バルトロってよく判らない。
粗野だけど意外と優しくて、笑うと可愛い感じさえある。
馴れ馴れしいのは、そういう性格なのだろうか。
年はいくつなんだろう。
年下なのかな?
姉に対するような気安さ??
私はため息をついて、また仕事に戻った。
アドルナートのあの真剣な感じは何だったのかな。
見回りさぼったからって、バルトロにお仕置きとかじゃないといいな。
そうしたことから2日後、討伐隊の皆が邸に帰ってきた。
邸の中は上を下への大騒ぎとなり、近隣の山村からまた人が集められて宴会が催された。
凱旋といって良いほどの成果をあげられたそうで、怪我を負っている人たちもいたが総じて上機嫌だった。
邸の横にある、牢屋のような頑丈な建物にはものすごくたくさんの山賊と思しき輩が入れられて、怨嗟の声が立ち上っていた。
私はにぃ兄様の消息を知る人がいないか、訊きたいと思ったのだけど、エルダさんやアドルナートから絶対に近寄るなと言われて諦めた。
討伐隊の皆が不在の間に、近隣の山村の娘たちに行儀作法を教えてやってくれと頼まれ、今日はその娘たちが給仕をしてくれるそうで、私は宴会にも参加しなくて良いと言われひとりぽつんと部屋にいた。
私はいつまでここにいるのかなあ…
バルトロは『隊長も都に帰るまでの間は、捜索を続けるって言ってるし』と言っていた。
エルヴィーノ様が都に凱旋するときに、私も放免になるのかしら。
どうやって帰ろう…
誰か、途中まででも送ってくれないか、頼んでみようか。
まあでも、歩いて帰れない距離じゃない、と思う。
宿賃だけ貸してもらえるとありがたいな。
そんなことを考えながら、部屋で一人夕食を摂り、もう寝ようかなあと思っていた深更に、アドルナートが呼びに来た。
「ご主人様がお呼びだ。
どれでもいいから、誂えていただいたドレスを着てきなさい」
その2~3日前から、邸の周辺にやたら隊員が現れては消え、を繰り返していたので私は不思議に思って、バルトロがいたときに訊いてみた。
離れの厨房に通じている扉を開けて「バルトロ!」と声をかけると、振り向いたバルトロは「クラリッサ!」と妙に慌てたように、でもなんだかすごく嬉しそうに走ってきた。
「ダメだろ、こんなとこに出てきちゃ」
私を抱えるようにして邸内に押し込む。
「もう終わったの?
帰ってきたの?」
そう尋ねる私の身体を離し、兜を外したバルトロは頭を振って長い髪を解いた。
「いや、あらかたは片付けたが、残党がもう少し残っていて、そいつらが我々の拠点であるこの邸を狙っているという情報があって。
邸の者たちの安全を心配した隊長が、隊員を派遣してこの邸の周辺を見回らせているんだ。
たまたま今は俺の番だったってわけ」
その言葉を聞いた私の表情がこわばったのを見て、バルトロは焦ったように皮の手袋を外して私を引き寄せた。
「大丈夫、大丈夫だよ。
俺たちが昼夜問わずに見回りしてるし、もう奴らにそこまでの組織力はない。
そろそろ全滅させられるから、あと2,3日で帰ってこられるよ」
私は硬くて冷たい鎖帷子に手をあてて身体を離す。
「兄は?
見つかった?」
見上げて訊くと、バルトロは口を閉じて視線を逸らした。
私の身体から力が抜け、バルトロはぱっと手を伸ばして私の身体を支えた。
「いや、でも、それらしい遺体も見つかってない。
生きてる公算の方が高い。
隊長も都に帰るまでの間は、捜索を続けるって言ってるし、あまり心配するな。
山賊の仲間になってるとかじゃなければ、会える可能性はあるよ」
「兄は、どんなに窮しても、山賊の仲間になるような人じゃないわ!」
私は思わず声を荒らげる。
私のようにここを山賊の隠れ家と思ったのかもしれない。
だからそんな重篤な怪我を負った状態で逃げ出したのだと思う。
「じゃ、大丈夫だよ」
そう言って笑い、バルトロは私を抱きしめた。
私は驚いて身をよじり、バルトロの大きな胸から逃げ出す。
なんなの…この人、さっきから。
「おい、何をやってる!」
そこへアドルナートの大きな声が聞こえて、バルトロは「やばっ」と呟き兜をかぶって外へ逃げ出そうとする。
「バルトロか!
ちょっと来い、話がある」
アドルナートは怒っているというよりは真剣な表情でバルトロの背を押してドアを開けて外へ出た。
私の方をちらっと見て扉をバタン!と閉めた。
バルトロってよく判らない。
粗野だけど意外と優しくて、笑うと可愛い感じさえある。
馴れ馴れしいのは、そういう性格なのだろうか。
年はいくつなんだろう。
年下なのかな?
姉に対するような気安さ??
私はため息をついて、また仕事に戻った。
アドルナートのあの真剣な感じは何だったのかな。
見回りさぼったからって、バルトロにお仕置きとかじゃないといいな。
そうしたことから2日後、討伐隊の皆が邸に帰ってきた。
邸の中は上を下への大騒ぎとなり、近隣の山村からまた人が集められて宴会が催された。
凱旋といって良いほどの成果をあげられたそうで、怪我を負っている人たちもいたが総じて上機嫌だった。
邸の横にある、牢屋のような頑丈な建物にはものすごくたくさんの山賊と思しき輩が入れられて、怨嗟の声が立ち上っていた。
私はにぃ兄様の消息を知る人がいないか、訊きたいと思ったのだけど、エルダさんやアドルナートから絶対に近寄るなと言われて諦めた。
討伐隊の皆が不在の間に、近隣の山村の娘たちに行儀作法を教えてやってくれと頼まれ、今日はその娘たちが給仕をしてくれるそうで、私は宴会にも参加しなくて良いと言われひとりぽつんと部屋にいた。
私はいつまでここにいるのかなあ…
バルトロは『隊長も都に帰るまでの間は、捜索を続けるって言ってるし』と言っていた。
エルヴィーノ様が都に凱旋するときに、私も放免になるのかしら。
どうやって帰ろう…
誰か、途中まででも送ってくれないか、頼んでみようか。
まあでも、歩いて帰れない距離じゃない、と思う。
宿賃だけ貸してもらえるとありがたいな。
そんなことを考えながら、部屋で一人夕食を摂り、もう寝ようかなあと思っていた深更に、アドルナートが呼びに来た。
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