身代わり愛妾候補の逃亡顛末記

Dry_Socket

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第二章 都へ

19.翌朝

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 まだ暗いうちに隣で動く気配がし、私も寝ぼけたまま起きようとする。
 「もう少し寝ていろよ」
 首の下から引き抜かれた腕が私の額を優しく撫でる。
 私は目が開けられないまま、こくんと頷いた。
 くすっと小さく笑う息遣いと共に、私の頬に柔らかいものが一瞬触れて温もりが離れて行き、私な朦朧としたまま安心感に包まれてまた眠った。

 ガタンバタバタと騒がしい音がして飛び起きると、陽が昇って辺りは明るくなっており、私が寝ている以外の簡易寝台は片付けられていて天幕の中はがらんとしていた。
 「あら、起こしてしまったわね、ごめんなさい」
 トランクを倒してしまったらしいフランシスカが慌ててトランクに手をかけて起こす。

 「あ、クラリッサおはよう~
 朝ごはん冷めちゃったよ」
 と言いながら、天幕を開けてリーチェが入ってきた。
 
 私は焦って「すみません!すごい寝坊しちゃった」と、用意してあったドレスに着替えて、リーチェが運んできた水で顔を洗った。
 「昨夜、あんなことがあったのだもの、仕方ないわ」
 フランシスカが、椅子に腰かけてパンを頬張る私の髪を梳きながら言う。

 「アレク様が起こすなって仰って。
 会議も寒い外で焚火を囲んで行うっていう気の使いようで、わたくしたちも驚いているの」
 「いつもだったら蹴とばされて起こされますよねぇ
 アレク様ってばどうしちゃったんでしょう」

 リーチェの言葉に、フランシスカはふっと小さく笑って私の髪を巻き上げて結い、後れ毛をピンで止める。
 「寝間着姿のクラリッサを皆の目に晒したくなかったのじゃないかしら。
 わたくしの知る限り、ベッドに女性を入れるのも初めてよ。
 奥方様でも…どうなのかしら。
 いつ、寝首を掻かれるか判らない立場の方だから」

 女性だと思われていないのでは…
 私はそう思うけど、パンが口の中にいっぱいになっていて喋れない。
 
 その間に兵士たちが入ってきて、アレク様の寝台をバラシて片付け、天幕もあっという間に片付けられて、気づけば私は朝の爽やかな空気の中に立っていた。
 
 最後に口の中に押し込んだパンをもぐもぐと咀嚼しながら、馬車の方へ歩こうとする私の背後から声がかかった。
 「おう寝坊助ねぼすけ起きたか。
 よく眠れたろう?」
 
 振り向くとアレク様が襟付きのシャツに上着を羽織っただけという相変わらずラフな格好のまま近づいてくるところだった。
 私が黙ってお辞儀すると、アレク様は私の前まで走ってきて顔を見て大笑いする。
 「なんか静かだと思ったら…頬がパンパンだ。
 おっまえ、本当に面白いなあ」

 だって食べてる途中なのにお構いなしに食器は下げられるし(移動のために片付けなきゃいけないんだろうけど)、椅子どころか床敷きラグまで剥がされてぽいと放り投げられるようにされたんだもの。

 「今夜にはランティオ州の州境まで行ける予定だ。
 何事もなければ明日の夜にはピストリアに入れるだろう」
 そう言ってアレク様は手を伸ばし、漸く口の中のものを飲み込んだ私の頬に触れて頤をあげさせた。
 
 「護衛の者を増やして対応はするつもりだが…
 とにかく先を急いで首都に入ったほうが良いという結論になった。
 エルヴィーノを始め、戦慣れしている者は南部に送ってしまったから、ここには大した兵がいないんだ。
 まあ、俺がいるから大丈夫だけどな」
 
 ランティオ州…はダリスカーナの中央、首都ピストリアのあるところだ。
 私はアレク様の話の意図がよく判らないながらうなずき、今の言葉で不安に思ったことを訊いた。
 
 「南部で…戦があるのですか?」
 エルヴィーノ様は南部の戦に駆り出されたの?
 シエーラは無事なのかしら、お母様やレオ兄様は?

 アレク様はにっと笑って「戦なんて大袈裟なもんじゃない。ちょっとした小競り合いさ」と言って手を離した。
 「今日は飛ばすぞ、覚悟しろ。
 お前の寝坊のせいで出発が遅れたからな」
 「あっ、すみません…」
 私が恐縮して頭を下げると、アレク様はまた大笑いして私の頭をポンポンと叩き、自分の馬車の方へ歩いて行った。

 「クラリッサ、乗ってちょうだい」
 フランシスカが呼んでいる。
 私は急いで、もう荷物の積み込みの終わった馬車の方へ向かった。
 

 
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