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第二章 都へ
20.首都ピストリア
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アレク様の言った通り、その日馬車は一日山道を駆けどおしだった。
途中で荷馬車や側近たちの馬車は車軸が折れて止まることを余儀なくされた。
アレク様や私たちの乗った馬車は、作りが段違いに良いのだろうか、一度もそんなことはなく、揺れはひどいけど意外と快適な旅路だった。
だけど、護衛の人の数がすごく増えていて、騎馬の人に取り囲まれるように進むのはなかなか気づまりだった。
シプリアノも護衛に回されたらしく、仏頂面で馬に乗っているのが窓から見えて、私たちは可哀想と思いながらも笑ってしまった。
「弟は武術はまったくダメなのよ…
アレク様やエルヴィーノ様にずいぶん稽古をつけていただいたのだけど、本人にまったくやる気がないので仕方ないわね」
フランシスカはため息交じりに言う。
「でも、シプリアノ様はめっちゃ頭がいいから。
作戦とか立てるときには、必ずアレク様の傍にいるし」
リーチェがとりなすように言って窓の外のシプリアノに手を振る。
シプリアノも武装はしていないので、馬車の中の私たちのことは見えるらしく、小さく手を挙げた。
「あの、アレク様が仰っていた、南部の小競り合いというのは…」
私は頭から離れない心配事を、思い切ってフランシスカに尋ねてみた。
フランシスカは本当に困ったように、頬に手をあてて首を傾げる。
「ごめんなさいね…わたくし、そういうことはまったく知らなくて…
アレク様はご自分で何でも決めたい方だし、わたくしに国政や国情に関わることは一切お話にならないのよ。
だから今、アレク様がクラリッサにお話になったと聞いて驚いているの」
「アレク様って、本当に秘密主義ですよね~
クラリッサもこれから驚くこといっぱいあると思うよ☆」
リーチェが隣にいる私の方を向いて、茶目っ気たっぷりにウィンクして見せる。
私は、都へ行くとしか聞かされておらず、これからどこに連れて行かれるのかもわからないし、不安になってうつむいた。
そういえば、エルヴィーノ様に『大丈夫だ、俺の隠れ家に匿うから』と仰っていた。
隠れ家ってなに?
ひどいあばら家に連れて行かれるのかな。
にぃ兄様の消息が知れるならそれでもいい、はやく家に帰りたい。
急にうつむいてしまった私に、フランシスカとリーチェは慌てたように慰めてくれる。
「大丈夫よ、アレク様は親切な方だから。
クラリッサの悪いようにはしないわ。
お兄様の行方だって手を尽くして探してくださるわよ」
「そうそう、誰かに探せって命令すれば済むことなんだから。
それに、あのお家は普段誰も来ないからゆっくり過ごせるよ。
街中だから、お店なんかもいっぱいあるし、きっと楽しいよ」
私は、昨日初めて会ったばかりなのにとても優しく気を遣ってくれる二人の気持ちが嬉しくて、泣きそうになりながらうなずいた。
「都のお店と言えば、最近流行りだしたスフォッリャテッラを売る菓子店ができたそうよ。
時間があったら買い求めて、皆で食べてみない?」
「えっ、それはマストで買いですね!
どこのお店ですか?」
「ノヴァ―ル通りの、アルバーニさんのお店の隣だったと思うわ。
焼き菓子の良い匂いが漂っていそうね」
二人が楽しそうに話すのを、私はビックリして聞いていた。
お菓子だけを売るお店…シエーラでは考えられない。
生活必需品や穀物などを売るよろず屋があるだけだ。
そもそもお店が決まった通りに常に存在するというのがすごい。
いつでも欲しいときに、欲しいものが手に入るのか…
私たちは、市が立つ日に合わせて買い物の計画をする。
しかも最低限の、本当に今、必要なものだけだ。
お菓子なんて、領主館でしか食べられなかった。
そんなカルチャーショックを受けながら、私たちの行軍に近い旅は続き、翌日の夜に首都ピストリアに入った。
私は首都で人生を変えるさまざまな事どもに出会うことになる。
途中で荷馬車や側近たちの馬車は車軸が折れて止まることを余儀なくされた。
アレク様や私たちの乗った馬車は、作りが段違いに良いのだろうか、一度もそんなことはなく、揺れはひどいけど意外と快適な旅路だった。
だけど、護衛の人の数がすごく増えていて、騎馬の人に取り囲まれるように進むのはなかなか気づまりだった。
シプリアノも護衛に回されたらしく、仏頂面で馬に乗っているのが窓から見えて、私たちは可哀想と思いながらも笑ってしまった。
「弟は武術はまったくダメなのよ…
アレク様やエルヴィーノ様にずいぶん稽古をつけていただいたのだけど、本人にまったくやる気がないので仕方ないわね」
フランシスカはため息交じりに言う。
「でも、シプリアノ様はめっちゃ頭がいいから。
作戦とか立てるときには、必ずアレク様の傍にいるし」
リーチェがとりなすように言って窓の外のシプリアノに手を振る。
シプリアノも武装はしていないので、馬車の中の私たちのことは見えるらしく、小さく手を挙げた。
「あの、アレク様が仰っていた、南部の小競り合いというのは…」
私は頭から離れない心配事を、思い切ってフランシスカに尋ねてみた。
フランシスカは本当に困ったように、頬に手をあてて首を傾げる。
「ごめんなさいね…わたくし、そういうことはまったく知らなくて…
アレク様はご自分で何でも決めたい方だし、わたくしに国政や国情に関わることは一切お話にならないのよ。
だから今、アレク様がクラリッサにお話になったと聞いて驚いているの」
「アレク様って、本当に秘密主義ですよね~
クラリッサもこれから驚くこといっぱいあると思うよ☆」
リーチェが隣にいる私の方を向いて、茶目っ気たっぷりにウィンクして見せる。
私は、都へ行くとしか聞かされておらず、これからどこに連れて行かれるのかもわからないし、不安になってうつむいた。
そういえば、エルヴィーノ様に『大丈夫だ、俺の隠れ家に匿うから』と仰っていた。
隠れ家ってなに?
ひどいあばら家に連れて行かれるのかな。
にぃ兄様の消息が知れるならそれでもいい、はやく家に帰りたい。
急にうつむいてしまった私に、フランシスカとリーチェは慌てたように慰めてくれる。
「大丈夫よ、アレク様は親切な方だから。
クラリッサの悪いようにはしないわ。
お兄様の行方だって手を尽くして探してくださるわよ」
「そうそう、誰かに探せって命令すれば済むことなんだから。
それに、あのお家は普段誰も来ないからゆっくり過ごせるよ。
街中だから、お店なんかもいっぱいあるし、きっと楽しいよ」
私は、昨日初めて会ったばかりなのにとても優しく気を遣ってくれる二人の気持ちが嬉しくて、泣きそうになりながらうなずいた。
「都のお店と言えば、最近流行りだしたスフォッリャテッラを売る菓子店ができたそうよ。
時間があったら買い求めて、皆で食べてみない?」
「えっ、それはマストで買いですね!
どこのお店ですか?」
「ノヴァ―ル通りの、アルバーニさんのお店の隣だったと思うわ。
焼き菓子の良い匂いが漂っていそうね」
二人が楽しそうに話すのを、私はビックリして聞いていた。
お菓子だけを売るお店…シエーラでは考えられない。
生活必需品や穀物などを売るよろず屋があるだけだ。
そもそもお店が決まった通りに常に存在するというのがすごい。
いつでも欲しいときに、欲しいものが手に入るのか…
私たちは、市が立つ日に合わせて買い物の計画をする。
しかも最低限の、本当に今、必要なものだけだ。
お菓子なんて、領主館でしか食べられなかった。
そんなカルチャーショックを受けながら、私たちの行軍に近い旅は続き、翌日の夜に首都ピストリアに入った。
私は首都で人生を変えるさまざまな事どもに出会うことになる。
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