身代わり愛妾候補の逃亡顛末記

Dry_Socket

文字の大きさ
41 / 172
第三章 都での生活

1.隠れ家?

しおりを挟む
 昨日、州境を超えて街に入ったときにもずいぶん道が良くなって、山道より格段に楽だなあと思っていたのだけど、首都に近づくにつれ道は更に綺麗に舗装され、馬車は滑らかに進んでいくようになった。
 
 首都に入ると、馬車の隊列は崩れていくつかに別れ、いつの間にか私たちの乗る馬車は一台だけになって街路を進んでいた。
 それに伴って護衛の数もどんどん減って、やがて馬車は一軒の大きな家の前で停まった。

 中から壮年の男の人が出てきて、馬車の扉を開け、恭しくお辞儀をした。
 「お待ちしておりました。
 ようこそサン=バルロッテ館へ、クラリッサ様」

 え…?
 私は驚いて、向かいに座っているフランシスカを見た。
 フランシスカは少し笑って手を伸ばし、私の手に触れた。
 「わたくしとリーチェは普段、他の場所で生活しているの。
 ここはアレク様の別宅と言うか、明らかにしていない家で、あなたはしばらくここに滞在するようにアレク様に言われているから」

 じゃあ、ここが『隠れ家』?
 すごい立派な邸宅なんだけど…
 シエーラの領主館より大きくて広そう…
 フランシスカやリーチェと一緒に居られると思っていたのに、別れてしまうんだ。
 右も左も判らない、この都で。

 私の不安を察したのか、リーチェも私の手を握ってにっこり笑った。
 「大丈夫だよ!
 あたし、仕事の合間になるべくここに来るようにするから」
 「ちゃんとわたくしに言ってからにしてね。
 お使いに出すと、いつも帰りが遅くて心配するのよ」
 「はぁい判ってますってフランシスカ様」

 二人のやり取りに少し心が和んで、私は「じゃあ、お待ちしていますね」と言って馬車から降りた。
 執事のような男性の後ろに控えていた、小姓らしい少年がぱっと出て馬車の上から私のトランクを降ろした。
 「これだけで良いですか?」
 「ええ、そうです、ありがとうございます」
 私がお礼を言うと、その少年は顔を赤らめてにこっと笑ってお辞儀した。
 可愛いな、シエーラにもああいう愛くるしい金髪の少年がいたわ。

 御者が御者台から降りてきて、馬車の扉を閉める。
 御者と執事は慇懃に礼をして、御者はまた御者台にのぼり、馬に鞭をあてた。
 馬車はガラガラと動き出し、私は窓から手を振っている二人に手を振り返した。

 「クラリッサ様、どうぞお入りください」
 馬車が見えなくなると、執事っぽい男の人が建物の重厚な観音扉を開けた。
 あ、ここが玄関なんだ。
 裏口かと思ってしまった。
 都市型の建物なのね、長々しいアプローチなんかは無くて街路からすぐに家の中に入れるようになっている。

 玄関ホールもあまり華美でも広くもなく、綺麗に掃除はしてあるけれど気の置けない普段着の家という感じがして、私はとても好もしく思った。
 「わたくしはこの家の執事の、ジョルジーニと申します。
 クラリッサ様が快適にお過ごしいただけますよう、何でもお申し付けくださいませ」
 丁寧に言って、ジョルジーニは腰を折る。

 私は慌てて押しとどめ「あの、わたくしはそのような身分の者ではございません、どうぞお顔をあげてください」とジョルジーニに話しかけた。
 ジョルジーニは顔を上げたが、困惑したように少し笑った。
 「…しかし、ご主人様からクラリッサ様は大事な方だから、丁重に接するようにと…」
 
 ご主人様って、アレク様よね。
 何故そんなことを言うのだろう。
 私はそもそも、エルヴィーノ様からの預かりものというか、最初は戦利品くらいの感じだったはず…

 「どうぞ、クラリッサと呼び捨てにしてくださいませ。
 よろしくお願いいたします」
 私が改めて頭を下げると、ジョルジーニは戸惑ったように「…畏まりました、クラリッサ殿」と言って、少し笑った。
 「では、お部屋にご案内いたします」

 こうして、私の奇妙な都での生活が始まった。
 
 
 

 
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ

蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。 とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。 どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。 など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。 そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか? 毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。

処理中です...