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第三章 都での生活
1.隠れ家?
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昨日、州境を超えて街に入ったときにもずいぶん道が良くなって、山道より格段に楽だなあと思っていたのだけど、首都に近づくにつれ道は更に綺麗に舗装され、馬車は滑らかに進んでいくようになった。
首都に入ると、馬車の隊列は崩れていくつかに別れ、いつの間にか私たちの乗る馬車は一台だけになって街路を進んでいた。
それに伴って護衛の数もどんどん減って、やがて馬車は一軒の大きな家の前で停まった。
中から壮年の男の人が出てきて、馬車の扉を開け、恭しくお辞儀をした。
「お待ちしておりました。
ようこそサン=バルロッテ館へ、クラリッサ様」
え…?
私は驚いて、向かいに座っているフランシスカを見た。
フランシスカは少し笑って手を伸ばし、私の手に触れた。
「わたくしとリーチェは普段、他の場所で生活しているの。
ここはアレク様の別宅と言うか、明らかにしていない家で、あなたはしばらくここに滞在するようにアレク様に言われているから」
じゃあ、ここが『隠れ家』?
すごい立派な邸宅なんだけど…
シエーラの領主館より大きくて広そう…
フランシスカやリーチェと一緒に居られると思っていたのに、別れてしまうんだ。
右も左も判らない、この都で。
私の不安を察したのか、リーチェも私の手を握ってにっこり笑った。
「大丈夫だよ!
あたし、仕事の合間になるべくここに来るようにするから」
「ちゃんとわたくしに言ってからにしてね。
お使いに出すと、いつも帰りが遅くて心配するのよ」
「はぁい判ってますってフランシスカ様」
二人のやり取りに少し心が和んで、私は「じゃあ、お待ちしていますね」と言って馬車から降りた。
執事のような男性の後ろに控えていた、小姓らしい少年がぱっと出て馬車の上から私のトランクを降ろした。
「これだけで良いですか?」
「ええ、そうです、ありがとうございます」
私がお礼を言うと、その少年は顔を赤らめてにこっと笑ってお辞儀した。
可愛いな、シエーラにもああいう愛くるしい金髪の少年がいたわ。
御者が御者台から降りてきて、馬車の扉を閉める。
御者と執事は慇懃に礼をして、御者はまた御者台にのぼり、馬に鞭をあてた。
馬車はガラガラと動き出し、私は窓から手を振っている二人に手を振り返した。
「クラリッサ様、どうぞお入りください」
馬車が見えなくなると、執事っぽい男の人が建物の重厚な観音扉を開けた。
あ、ここが玄関なんだ。
裏口かと思ってしまった。
都市型の建物なのね、長々しいアプローチなんかは無くて街路からすぐに家の中に入れるようになっている。
玄関ホールもあまり華美でも広くもなく、綺麗に掃除はしてあるけれど気の置けない普段着の家という感じがして、私はとても好もしく思った。
「わたくしはこの家の執事の、ジョルジーニと申します。
クラリッサ様が快適にお過ごしいただけますよう、何でもお申し付けくださいませ」
丁寧に言って、ジョルジーニは腰を折る。
私は慌てて押しとどめ「あの、わたくしはそのような身分の者ではございません、どうぞお顔をあげてください」とジョルジーニに話しかけた。
ジョルジーニは顔を上げたが、困惑したように少し笑った。
「…しかし、ご主人様からクラリッサ様は大事な方だから、丁重に接するようにと…」
ご主人様って、アレク様よね。
何故そんなことを言うのだろう。
私はそもそも、エルヴィーノ様からの預かりものというか、最初は戦利品くらいの感じだったはず…
「どうぞ、クラリッサと呼び捨てにしてくださいませ。
よろしくお願いいたします」
私が改めて頭を下げると、ジョルジーニは戸惑ったように「…畏まりました、クラリッサ殿」と言って、少し笑った。
「では、お部屋にご案内いたします」
こうして、私の奇妙な都での生活が始まった。
首都に入ると、馬車の隊列は崩れていくつかに別れ、いつの間にか私たちの乗る馬車は一台だけになって街路を進んでいた。
それに伴って護衛の数もどんどん減って、やがて馬車は一軒の大きな家の前で停まった。
中から壮年の男の人が出てきて、馬車の扉を開け、恭しくお辞儀をした。
「お待ちしておりました。
ようこそサン=バルロッテ館へ、クラリッサ様」
え…?
私は驚いて、向かいに座っているフランシスカを見た。
フランシスカは少し笑って手を伸ばし、私の手に触れた。
「わたくしとリーチェは普段、他の場所で生活しているの。
ここはアレク様の別宅と言うか、明らかにしていない家で、あなたはしばらくここに滞在するようにアレク様に言われているから」
じゃあ、ここが『隠れ家』?
すごい立派な邸宅なんだけど…
シエーラの領主館より大きくて広そう…
フランシスカやリーチェと一緒に居られると思っていたのに、別れてしまうんだ。
右も左も判らない、この都で。
私の不安を察したのか、リーチェも私の手を握ってにっこり笑った。
「大丈夫だよ!
あたし、仕事の合間になるべくここに来るようにするから」
「ちゃんとわたくしに言ってからにしてね。
お使いに出すと、いつも帰りが遅くて心配するのよ」
「はぁい判ってますってフランシスカ様」
二人のやり取りに少し心が和んで、私は「じゃあ、お待ちしていますね」と言って馬車から降りた。
執事のような男性の後ろに控えていた、小姓らしい少年がぱっと出て馬車の上から私のトランクを降ろした。
「これだけで良いですか?」
「ええ、そうです、ありがとうございます」
私がお礼を言うと、その少年は顔を赤らめてにこっと笑ってお辞儀した。
可愛いな、シエーラにもああいう愛くるしい金髪の少年がいたわ。
御者が御者台から降りてきて、馬車の扉を閉める。
御者と執事は慇懃に礼をして、御者はまた御者台にのぼり、馬に鞭をあてた。
馬車はガラガラと動き出し、私は窓から手を振っている二人に手を振り返した。
「クラリッサ様、どうぞお入りください」
馬車が見えなくなると、執事っぽい男の人が建物の重厚な観音扉を開けた。
あ、ここが玄関なんだ。
裏口かと思ってしまった。
都市型の建物なのね、長々しいアプローチなんかは無くて街路からすぐに家の中に入れるようになっている。
玄関ホールもあまり華美でも広くもなく、綺麗に掃除はしてあるけれど気の置けない普段着の家という感じがして、私はとても好もしく思った。
「わたくしはこの家の執事の、ジョルジーニと申します。
クラリッサ様が快適にお過ごしいただけますよう、何でもお申し付けくださいませ」
丁寧に言って、ジョルジーニは腰を折る。
私は慌てて押しとどめ「あの、わたくしはそのような身分の者ではございません、どうぞお顔をあげてください」とジョルジーニに話しかけた。
ジョルジーニは顔を上げたが、困惑したように少し笑った。
「…しかし、ご主人様からクラリッサ様は大事な方だから、丁重に接するようにと…」
ご主人様って、アレク様よね。
何故そんなことを言うのだろう。
私はそもそも、エルヴィーノ様からの預かりものというか、最初は戦利品くらいの感じだったはず…
「どうぞ、クラリッサと呼び捨てにしてくださいませ。
よろしくお願いいたします」
私が改めて頭を下げると、ジョルジーニは戸惑ったように「…畏まりました、クラリッサ殿」と言って、少し笑った。
「では、お部屋にご案内いたします」
こうして、私の奇妙な都での生活が始まった。
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