身代わり愛妾候補の逃亡顛末記

Dry_Socket

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第三章 都での生活

2.ドレスと…??

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 隠れ家での生活は、思ったよりもずっと自由で快適だった。
 貴族という身分にありながらも領民と一緒になって働いていた働き者の両親や兄様たちと暮らしていた私は、退屈とか手持無沙汰がとても苦手である。
 私は一般的なお嬢様ではないので(嘘はついていない)家政に関わるお手伝いがしたいと言うと、ジョルジーニは最初すごく戸惑っていたが、アレク様に訊いてみますと言って問い合わせてくれた。
 
 そしてクラリッサの好きなようにさせてやれという返事が来たと言い、サン=バルロッテ館と呼ばれるこのお屋敷の片付けや装飾などを、山賊討伐隊の邸にいた時のように任されるようになった。
 手が荒れるようなことはさせるなと厳命されたそうで、私は不思議だった。
 何故、エルヴィーノ様もアレク様も、同じようなことを言うのだろう。

 館内は自由に歩き回ることができ、私は書庫を見つけて入り浸るようになった。
 たくさんの詩や小説、実用書とか政治の本、画集や楽譜まであり、私は時間を忘れてさまざまな書物を読みふけった。
 あらたな知識を得て、私は自分の為すべきことを考えるようになった。

 アレク様が山賊討伐隊の邸に連れてきた楽士たちの推薦もあり、都の有名な声楽家がアレク様の命令でサン=バルロッテ館に何度かやってきて、私に声楽を基礎からきちんと教えなおしてくれた。
 声も良いし筋が良い、もう少し訓練を重ねれば宮廷の催しの歌い手にも推せますよ、と言ってくれて私はなんだか誇らしかった。

 シエーラにいた時は、いつも労働歌のように家で歌っていて、家族や小作人が働きながら聞いてくれた。
 早く帰って、また皆の前で歌いたい。
 お母様もレオ兄様もにぃ兄様も、上手になったと褒めてくださるだろう。

 アレク様は都の仕立て屋を寄こして、たくさんのドレスを作ってくれた。
 さすが首都だけあって、最先端のモードを取り入れたお洒落なドレスを、私の痩せぎすの体形でも美しく見えるように仕立ててくれて、私は気後れしてしまった。
 着ていく場所もないし、ド田舎のシエーラでこんなとんがったドレスを着ていたら悪目立ちしてしまう…
 働きにくいし、勿体ないだけだわ。

 でも要らないと伝えようにも伝える手段がない。
 ジョルジーニはこんな大きなお屋敷に仕える、仕事完璧しごでき執事に似ず、気さくで温かい人柄の人で、サン=バルロッテ館の使用人皆から慕われている。
 私の希望はたいてい叶えてくれるが『クラリッサ様』と呼ぶのと、アレク様に私が直接連絡を取るのは、どれだけ懇願しても首を縦に振ってくれなかった。

 ぐぬぬ…温厚な見かけと中身は違うのかな…
 こんな大きなお屋敷のたくさんの使用人を束ねる執事だけはある。

 ある日のお昼前に、私はまた仕立て屋のザナントーニの訪問を受けていた。
 「お似合いでございますよ」
 とザナントーニに褒めそやされ、いたたまれなくてうつむく私を、居合わせていた髪結いの女性は不思議そうに見た。

 「クラリッサ様は、大公様のご愛妾候補でいらっしゃるの?
 このお屋敷は巷の噂では、上流貴族のお持ちものだそうでございますね。
 最近は都に各地からおあつまりになった大公様のご愛妾候補のご令嬢たちが、街中をそれは美しく着飾って闊歩されておられますけど、クラリッサ様のそのおひとりでいらっしゃるのですか?」
 「え…」

 私は何と答えたものか一瞬、返答に詰まり「いいえ、違いますわ」と答えた。
 「わたくしは…その、」
 「クラリッサ様、仮縫いをいたしました、こちらのお召し物に袖を通していただけますか」

 私の言葉を遮るように、ザナントーニが声を張って荷物の中から取って差し出したものを見て、私は目を剥いた。
 「えっ?!これは…?」
 「あれ?聞いていらっしゃいませんでしたか?
 えーっと、たい…いえ、ご主人様からご依頼がありまして、お仕立てするようにと」

 それは乗馬着というよりはもう少しアンダーウェアに近いものだった。
 何のアンダーウェアかといえば、甲冑とか鎧とかの下に着るもの。
 女性の体形に合わせてあるとはいえ、それは華やかなドレスと比べてあまりにも武骨に見えた。
 
 「なぜ、こんなものを…」
 訳が判らず首を傾げる私に、「さあ…私は命じられたとおりにするのが仕事でございますので」と言いながらてきぱきと手直ししている。
 「この上に羽織るラッシュガードには女性らしい刺繍などを施すように言われておりますから、そんなにご心配なさらなくて大丈夫でございますよ」

 いや、そういう意味ではなく…
 これを着て、ラッシュガードとやらを羽織って、私はいったい何をさせられるのかってことよ。

 アレク様の考えることはいつも突飛で型にはまらないと言えば聞こえはいいけれど、ぶっちゃけ度を越した非常識なことばかり、ということを私が疑問に思った最初の出来事だった。

 
 
 
 
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