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第三章 都での生活
4.帽子屋
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ラピーノさんの帽子屋は、とても広くて賑やかな通りに立つ、4階建ての大きな建物だった。
「フランシスカ様も、このお店が大好きなの。
大公家御用達を狙っているんだけどね~
帽子屋だけで御用達って難しいらしくて。
なかなか、ザナントーニさんもあれでやり手だから」
入り口の前に並んで、立派な看板を見上げながらリーチェは呟く。
ザナントーニって、大公家御用達だったんだ…
全然偉ぶったところもないし、普通に自分で針を持ってひとりで何でもこなしていたしお喋り好きそうだし、まさかそんなにすごい人だとは思いもよらなかった。
「いらっしゃいませ、アランサバル様」
私たちに気づいたドアの横に立っている人が、慇懃に礼をする。
「今日は、フランシスカ様のご用じゃないの。
でもお帽子いっぱい買いに来たのよ」
にこにこして私を掌で指す。
ドアの横の人は「いらっしゃいませ」とまた深く腰を折り、私は恐縮して深々と頭を下げて、帽子が落ちてしまった。
その人はスマートな動作で私の帽子を拾い上げ、汚れを払って私に差し出した。
そして大きくて重厚な樫の扉を開けて笑いかけた。
「ごゆっくりどうぞ、お嬢様」
私は帽子を受け取って慌ててかぶり、「いこっ!女主人がいるわ」と元気なリーチェに引っ張られて店の中に入った。
お店の中は外の光を取り込む設計で明るく、良い香りがしてそちらこちらに帽子を飾った台が置いてある、ゆったりと広い空間だった。
お客さんが何人かいて、それぞれにスタッフがつき、帽子を手に取って楽しそうにおしゃべりしている。
すごい…こんなお店、初めて見た。
私は恥ずかしいと思いながらも、キョロキョロと見回してしまう。
「まあ、いらっしゃませ、リーチェ様」
お客さんと話していたパドローナがスタッフに耳打ちされて私たちに気づいて、そのスタッフに接客を代わって私たちの所へ来た。
「こんにちは、パドローナ。
今日はこちらのクラリッサの帽子を選んでもらおうと思って」
リーチェはにっこり笑って言う。
「初めまして、クラリッサ様。
この帽子屋の主のラピーノと申します」
お母様くらいの年齢だろうか、お母様とは段違いに美しくお化粧したパドローナはにこやかに一礼する。
顔をあげながら、私の姿形を下から上までさっと調査したのが判った。
リーチェの紹介とはいえ、自分の店に相応しい客かどうか、値踏みしたのだろう。
「まあ、お若くてお美しいお嬢様でいらっしゃいますわね。
そのようなお帽子ではお可哀想、もっと素敵にして差し上げますわ」
「アレク様が、クラリッサを綺麗にするなら何でも買えって~
ラピーノさんの帽子は超チルだし、天最高だから♡」
ふふっと笑って、リーチャは意味不明の言葉を話す。
パドローナは『アレク様』という言葉にぴくっと反応し、笑みを深くする。
「さようでございますか、ありがとうございます。
それでは、向こうのお部屋でいろいろお話させていただきましょうね」
パドローナが近くにいたスタッフに指示を出して、私たちを促して移動しようとしたとき、背後から金切り声が響いた。
「ちょっと!パドローナ、私の方はどうなってるの?!
なして代わりんしゃーと!
私は、ご愛妾候補ばい?!
もっと大切にしなさいよ!」
振り向くと、やたら着飾った若い女性が、侍女に宥められながら顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいた。
ついていたスタッフは真っ青になって、女性に謝罪している。
私は、その女性の南部訛りが懐かしくて、思わず足を止める。
怒りのあまりにお国言葉が混ざってしまったようだ。
どこだろう、シエーラよりアクセントがきつい。
隣州のマチェッタあたりかな。
「あらあら…厄介ね。
クラリッサ様、リーチェ様、申し訳ありません。
先にお部屋にいらっしゃっていてくださいな」
他のスタッフに私たちの案内を任せて、「まあ~、申し訳ございません!」と大きな声で言いながらご愛妾候補の女性の方へ近づいていく。
「ああいう人、最近多いよね~
田舎者丸出しって感じで、がちで恥ず!」
リーチェは酷評して、「いこっ、クラリッサ!」と言って案内されたほうへ私の手を引いていく。
私も、エルヴィーノ様とシプリアノに言われなかったら、自分が南部訛りで話していることにも気づかなかったと思う。
自分では標準語で話しているつもりでも、アクセントが違っているのだ。
聞いた人は誰でもすぐに気づくだろう。
お父様が首都の出身で、折に触れて発音を教えてくださらなかったら、私は、あの女性と同じだ。
そう考えて、私はふと思いついた。
そう言えば…お父様のご実家ってどこだっけ?
せっかく都に来たのだから、他所からでも眺めてみたい。
中央の方か、郊外なのかも判らないのが歯がゆい。
姓…聞いたことあったような気がするんだけど…
えーっと何だったかな。
何か結構長い名前。
あれ?最近、似たような感じで悩まなかったっけ?
「フランシスカ様も、このお店が大好きなの。
大公家御用達を狙っているんだけどね~
帽子屋だけで御用達って難しいらしくて。
なかなか、ザナントーニさんもあれでやり手だから」
入り口の前に並んで、立派な看板を見上げながらリーチェは呟く。
ザナントーニって、大公家御用達だったんだ…
全然偉ぶったところもないし、普通に自分で針を持ってひとりで何でもこなしていたしお喋り好きそうだし、まさかそんなにすごい人だとは思いもよらなかった。
「いらっしゃいませ、アランサバル様」
私たちに気づいたドアの横に立っている人が、慇懃に礼をする。
「今日は、フランシスカ様のご用じゃないの。
でもお帽子いっぱい買いに来たのよ」
にこにこして私を掌で指す。
ドアの横の人は「いらっしゃいませ」とまた深く腰を折り、私は恐縮して深々と頭を下げて、帽子が落ちてしまった。
その人はスマートな動作で私の帽子を拾い上げ、汚れを払って私に差し出した。
そして大きくて重厚な樫の扉を開けて笑いかけた。
「ごゆっくりどうぞ、お嬢様」
私は帽子を受け取って慌ててかぶり、「いこっ!女主人がいるわ」と元気なリーチェに引っ張られて店の中に入った。
お店の中は外の光を取り込む設計で明るく、良い香りがしてそちらこちらに帽子を飾った台が置いてある、ゆったりと広い空間だった。
お客さんが何人かいて、それぞれにスタッフがつき、帽子を手に取って楽しそうにおしゃべりしている。
すごい…こんなお店、初めて見た。
私は恥ずかしいと思いながらも、キョロキョロと見回してしまう。
「まあ、いらっしゃませ、リーチェ様」
お客さんと話していたパドローナがスタッフに耳打ちされて私たちに気づいて、そのスタッフに接客を代わって私たちの所へ来た。
「こんにちは、パドローナ。
今日はこちらのクラリッサの帽子を選んでもらおうと思って」
リーチェはにっこり笑って言う。
「初めまして、クラリッサ様。
この帽子屋の主のラピーノと申します」
お母様くらいの年齢だろうか、お母様とは段違いに美しくお化粧したパドローナはにこやかに一礼する。
顔をあげながら、私の姿形を下から上までさっと調査したのが判った。
リーチェの紹介とはいえ、自分の店に相応しい客かどうか、値踏みしたのだろう。
「まあ、お若くてお美しいお嬢様でいらっしゃいますわね。
そのようなお帽子ではお可哀想、もっと素敵にして差し上げますわ」
「アレク様が、クラリッサを綺麗にするなら何でも買えって~
ラピーノさんの帽子は超チルだし、天最高だから♡」
ふふっと笑って、リーチャは意味不明の言葉を話す。
パドローナは『アレク様』という言葉にぴくっと反応し、笑みを深くする。
「さようでございますか、ありがとうございます。
それでは、向こうのお部屋でいろいろお話させていただきましょうね」
パドローナが近くにいたスタッフに指示を出して、私たちを促して移動しようとしたとき、背後から金切り声が響いた。
「ちょっと!パドローナ、私の方はどうなってるの?!
なして代わりんしゃーと!
私は、ご愛妾候補ばい?!
もっと大切にしなさいよ!」
振り向くと、やたら着飾った若い女性が、侍女に宥められながら顔を真っ赤にしてこちらを睨んでいた。
ついていたスタッフは真っ青になって、女性に謝罪している。
私は、その女性の南部訛りが懐かしくて、思わず足を止める。
怒りのあまりにお国言葉が混ざってしまったようだ。
どこだろう、シエーラよりアクセントがきつい。
隣州のマチェッタあたりかな。
「あらあら…厄介ね。
クラリッサ様、リーチェ様、申し訳ありません。
先にお部屋にいらっしゃっていてくださいな」
他のスタッフに私たちの案内を任せて、「まあ~、申し訳ございません!」と大きな声で言いながらご愛妾候補の女性の方へ近づいていく。
「ああいう人、最近多いよね~
田舎者丸出しって感じで、がちで恥ず!」
リーチェは酷評して、「いこっ、クラリッサ!」と言って案内されたほうへ私の手を引いていく。
私も、エルヴィーノ様とシプリアノに言われなかったら、自分が南部訛りで話していることにも気づかなかったと思う。
自分では標準語で話しているつもりでも、アクセントが違っているのだ。
聞いた人は誰でもすぐに気づくだろう。
お父様が首都の出身で、折に触れて発音を教えてくださらなかったら、私は、あの女性と同じだ。
そう考えて、私はふと思いついた。
そう言えば…お父様のご実家ってどこだっけ?
せっかく都に来たのだから、他所からでも眺めてみたい。
中央の方か、郊外なのかも判らないのが歯がゆい。
姓…聞いたことあったような気がするんだけど…
えーっと何だったかな。
何か結構長い名前。
あれ?最近、似たような感じで悩まなかったっけ?
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