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第三章 都での生活
8.客人=剣客
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アレク様は私が従わないのを見て取ると、苦笑して書庫の扉の横にいた人物に声をかけた。
「エセルバート、この強情なじゃじゃ馬娘を見てくれよ。
貴方なら御せるか?」
その人物が答えて動いたとき、小山のような身体の大きさもさることながら、今までまったくそこにいることも感じさせなかったのに、突如ものすごい威圧感を感じて、私は思わずアレク様にしがみつく。
アレク様に抱き寄せられて身を縮める私を見て、エセルバートと呼ばれた大男は「良いでしょう、アレク様に盾突く度胸は見上げたものだ。読書傾向もまあまあだ」と雷のような声で言った。
アレク様はくっくと喉を震わせて笑い、腕の中の私のこめかみのあたりに素早く唇を触れた。
私はビックリしてのけぞる。
アレク様は一度ぎゅっと私を抱きしめて離した。
「ゆっくりしていたいが時間がない。
この姿をもう少し眺めていたかったが…
ジョルジーニ、クラリッサを例の衣装に着替えさせてくれ。
エセルバートが引き受けてくれた」
「畏まりました」
ジョルジーニはすっと入ってきて答え、私の方へきて「クラリッサ様お召し替えを」と言って書庫の外へ誘った。
私は訳が判らないまま、アレク様の顔を振り仰いだ。
アレク様はふっと笑って「そんな顔するなよ、選択を誤っちまう」と呟くように言って私の背を押す。
ジョルジーニは私を部屋まで連れて行って、女中のサーラに命じて衣装を揃えさせた。
「あ…これって…」
私は驚愕してソファの上に並べられたその衣装を眺めた。
「サーラが身に着け方を存じておりますから、お手伝いいたします。
アレク様のお時間が本当にタイトなので、申し訳ありませんがお急ぎください。
わたくしはお部屋の外へ控えておりますので、終わりましたらお声がけください」
いつになく忙しない口調で言って、ジョルジーニはさっさと部屋を出て行った。
「クラリッサ様、まずドレスをお脱ぎ遊ばしてください」
私と同い年のサーラがてきぱきと促し、私はもう全然意味が解らないまま、とにかく着替えた。
それは、アレク様がドレスと一緒に仕立てさせた、アンダーウェアのような服と乗馬着のようなズボン、それからアンダーウェアの上に羽織る、非常に目の細かくてところどころに小さな宝石が縫い込んである上衣だった。
ご丁寧に皮の長靴まで準備してある。
どれも私の身体にぴったりフィットしていて、私は鏡に映る自分の女騎士のような姿が信じられなかった。
これから、何をさせられるのだろう。不安しかない。
そんな私の気持ちをよそにサーラは手早く髪も結い直して、私は待っていたジョルジーニと一緒にサン=バルロッテ館の最上階へ向かう。
「クラリッサ様がお越しになりました」
「お、早かったな入れ」
ドアをノックしてジョルジーニが言うと、中からアレク様の声がして、ジョルジーニが開けるより早くアレク様が自ら扉を開けて私の手を取って中に導いた。
「ふうん…思ったより良いな」
明るく蝋燭の灯された部屋の中ほどまで行って、アレク様は私の手を離して姿を眺める。
エセルバート様は巨体をソファに押し込むように、どっかりと座って腕を組んで私を見ていた。
その視線だけで、私は射すくめられたように萎縮してしまう。
「クラリッサは、馬には乗れるんだったな?」
「あ…はい」
何故アレク様がそれをご存知なのだろう…と訝しく思ってアレク様を見上げると、アレク様はにやっと笑う。
「フランシスカから聞いた」
ああ…そう言えば、都へ向かう馬車の中でいろんなお喋りをしたときに、そんなことも話したかもしれない。
シエーラではお母様も私も、荷物を引く馬を借りてくる時などに乗る時があった。
こんなにちゃんとした格好ではなく、長靴もなかったけれど。
「エセルバート」
とアレク様は振り向いてエセルバート様を呼ぶ。
エセルバート様はのっそり立ち上がり、アレク様の横に並んだ。
「この人は、ストラクライド王国から招聘した元剣士で、俺やエルヴィーノの師匠だ。
アルカント騎士団の流れを汲む凄腕の剣士だったんだが…」
「怪我をして実践ではもう戦えなくなりました。
なので本当はこのようなところにいるべき人間ではないのですが、アレク様のご厚意で食客としてダリスカーナに滞在しております」
アレク様の言葉を継いで、エセルバート様は轟くような声で話す。
言葉遣いは丁寧だけど、なにしろ声が大きくておっかない。
首をすくめている私に、アレク様はくすくす笑いながら、すごいことを言った。
「クラリッサお前、このエセルバートに剣術の基礎を教えてもらえ。
お前の気の強さなら、音をあげずにできるだろう」
「ええっ!!」
私は思わず大声を上げる。
「いえ、あの、それは無理です!
だってアレク様は、護身術を習えとおっしゃったのではないのですか?」
「攻撃は最大の防御さ。
…まあ、それは冗談だが、剣の遣い方に伴う身のこなしを覚えていれば、咄嗟の時にも役に立つはずだ」
「でも…」
驚きと不安で尚も言い募ろうとする私を、アレク様は鋭い視線で黙らせる。
今まで見たこともない、威厳と貫禄を漂わせて、アレク様は私に向かって言葉を放った。
「これは命令だ。
従えクラリッサ!」
「・・・・畏まりました」
私は視線を下げ、片足を引いてお辞儀する。
この風格…
とても逆らえない、常に最上位にいて人を従わせるのが当たり前のような雰囲気。
アレク様って、何者?
「エセルバート、この強情なじゃじゃ馬娘を見てくれよ。
貴方なら御せるか?」
その人物が答えて動いたとき、小山のような身体の大きさもさることながら、今までまったくそこにいることも感じさせなかったのに、突如ものすごい威圧感を感じて、私は思わずアレク様にしがみつく。
アレク様に抱き寄せられて身を縮める私を見て、エセルバートと呼ばれた大男は「良いでしょう、アレク様に盾突く度胸は見上げたものだ。読書傾向もまあまあだ」と雷のような声で言った。
アレク様はくっくと喉を震わせて笑い、腕の中の私のこめかみのあたりに素早く唇を触れた。
私はビックリしてのけぞる。
アレク様は一度ぎゅっと私を抱きしめて離した。
「ゆっくりしていたいが時間がない。
この姿をもう少し眺めていたかったが…
ジョルジーニ、クラリッサを例の衣装に着替えさせてくれ。
エセルバートが引き受けてくれた」
「畏まりました」
ジョルジーニはすっと入ってきて答え、私の方へきて「クラリッサ様お召し替えを」と言って書庫の外へ誘った。
私は訳が判らないまま、アレク様の顔を振り仰いだ。
アレク様はふっと笑って「そんな顔するなよ、選択を誤っちまう」と呟くように言って私の背を押す。
ジョルジーニは私を部屋まで連れて行って、女中のサーラに命じて衣装を揃えさせた。
「あ…これって…」
私は驚愕してソファの上に並べられたその衣装を眺めた。
「サーラが身に着け方を存じておりますから、お手伝いいたします。
アレク様のお時間が本当にタイトなので、申し訳ありませんがお急ぎください。
わたくしはお部屋の外へ控えておりますので、終わりましたらお声がけください」
いつになく忙しない口調で言って、ジョルジーニはさっさと部屋を出て行った。
「クラリッサ様、まずドレスをお脱ぎ遊ばしてください」
私と同い年のサーラがてきぱきと促し、私はもう全然意味が解らないまま、とにかく着替えた。
それは、アレク様がドレスと一緒に仕立てさせた、アンダーウェアのような服と乗馬着のようなズボン、それからアンダーウェアの上に羽織る、非常に目の細かくてところどころに小さな宝石が縫い込んである上衣だった。
ご丁寧に皮の長靴まで準備してある。
どれも私の身体にぴったりフィットしていて、私は鏡に映る自分の女騎士のような姿が信じられなかった。
これから、何をさせられるのだろう。不安しかない。
そんな私の気持ちをよそにサーラは手早く髪も結い直して、私は待っていたジョルジーニと一緒にサン=バルロッテ館の最上階へ向かう。
「クラリッサ様がお越しになりました」
「お、早かったな入れ」
ドアをノックしてジョルジーニが言うと、中からアレク様の声がして、ジョルジーニが開けるより早くアレク様が自ら扉を開けて私の手を取って中に導いた。
「ふうん…思ったより良いな」
明るく蝋燭の灯された部屋の中ほどまで行って、アレク様は私の手を離して姿を眺める。
エセルバート様は巨体をソファに押し込むように、どっかりと座って腕を組んで私を見ていた。
その視線だけで、私は射すくめられたように萎縮してしまう。
「クラリッサは、馬には乗れるんだったな?」
「あ…はい」
何故アレク様がそれをご存知なのだろう…と訝しく思ってアレク様を見上げると、アレク様はにやっと笑う。
「フランシスカから聞いた」
ああ…そう言えば、都へ向かう馬車の中でいろんなお喋りをしたときに、そんなことも話したかもしれない。
シエーラではお母様も私も、荷物を引く馬を借りてくる時などに乗る時があった。
こんなにちゃんとした格好ではなく、長靴もなかったけれど。
「エセルバート」
とアレク様は振り向いてエセルバート様を呼ぶ。
エセルバート様はのっそり立ち上がり、アレク様の横に並んだ。
「この人は、ストラクライド王国から招聘した元剣士で、俺やエルヴィーノの師匠だ。
アルカント騎士団の流れを汲む凄腕の剣士だったんだが…」
「怪我をして実践ではもう戦えなくなりました。
なので本当はこのようなところにいるべき人間ではないのですが、アレク様のご厚意で食客としてダリスカーナに滞在しております」
アレク様の言葉を継いで、エセルバート様は轟くような声で話す。
言葉遣いは丁寧だけど、なにしろ声が大きくておっかない。
首をすくめている私に、アレク様はくすくす笑いながら、すごいことを言った。
「クラリッサお前、このエセルバートに剣術の基礎を教えてもらえ。
お前の気の強さなら、音をあげずにできるだろう」
「ええっ!!」
私は思わず大声を上げる。
「いえ、あの、それは無理です!
だってアレク様は、護身術を習えとおっしゃったのではないのですか?」
「攻撃は最大の防御さ。
…まあ、それは冗談だが、剣の遣い方に伴う身のこなしを覚えていれば、咄嗟の時にも役に立つはずだ」
「でも…」
驚きと不安で尚も言い募ろうとする私を、アレク様は鋭い視線で黙らせる。
今まで見たこともない、威厳と貫禄を漂わせて、アレク様は私に向かって言葉を放った。
「これは命令だ。
従えクラリッサ!」
「・・・・畏まりました」
私は視線を下げ、片足を引いてお辞儀する。
この風格…
とても逆らえない、常に最上位にいて人を従わせるのが当たり前のような雰囲気。
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