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第三章 都での生活
9.衝撃
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アレク様はすうっと緊張を解き、私はほっとして顔を上げた。
このすさまじいほどの雰囲気は、お館様の比じゃない。
きっと、アレク様も実践の経験がおありなのだろう。
この恐ろしい風貌のエセルバート様について剣術を教わる…なんて。
私にできるのだろうか…
両手を胸の前で握りしめる私を見て、アレク様はふっと笑って手を伸ばし、私の頭を撫でる。
「そんなに怖がらなくて良い。
エセルバートは見た目ほど恐ろしい人ではないから」
「さようですよ、クラリッサ様。
私ほど気の優しい男はいない」
アレク様の言葉におどけて胸を張るエセルバート様を見て、私は少し心が和み、微笑んだ。
「エセルバート様。
ずぶの素人で申し訳ありませんが、よろしくご教授を賜りますよう、お願い申し上げます。
わたくしのことはクラリッサとお呼び捨てになさってくださいまし」
私が頭を下げると、アレク様はまた私の頭を撫で、頬に優しく触れた。
私はその手の暖かさになんだかとても安心する。
先ほどの緊張感から解放されたからだろうか。
男性に気安く触れられて、喜んではいけないはずなのに…
アレク様の優しい感情が伝わってくるような触れ方が非常に嬉しかった。
「本当はもう少し早く来られる予定だった。
この館の隣にある厩舎を案内して、少し街中を散歩しようと思っていたのだが…
少し茶を飲んで、戻らなきゃならない」
クラリッサこっちへ来い、と手招きして、お茶の準備の整った低いテーブル前のソファに私を座らせ、隣にアレク様は座って私にお菓子を取ってくれる。
ジョルジーニが皆のカップに熱いお茶を注いで回り、私は火傷しそうなほどに熱いお茶を口に含んでお菓子を食べた。
「わ…これ、美味しい」
「そうだろ?
これはクラリッサをイメージして作らせた『カントゥッチ』という菓子だ」
「『小さな歌』?」
私が言葉の意味を測りかねて、私はかじりかけの焼き菓子を持ったままアレク様を見る。
アレク様は微笑んで私の手を取って、かじりかけのカントゥッチを自分の口に入れた。
このカントゥッチという焼き菓子は、見た目はしっとりしていそうなビスケットのようだけどザクザクとした食感で、少し硬めだった。
最後にほんのり甘みが残る、上品なお菓子だ。
「これはなかなかよくできたと思っている。
嫋やかそうな外見で、一筋縄でいかない硬質な性格で…
気が強くて手折れないと思わせるが、意外と頼りなくて、笑うと」
そこまで言って急に言葉を切り、アレク様は私から顔を背けてお茶を飲んだ。
「?
どうなさったんですか?
喉に詰まったのですか」
アレク様の言葉には褒められてる感じは全然なくて些かムッとしていた私は、いきなりの態度に呆気に取られて尋ねた。
アレク様は沈黙し、向かいに座って私たちを見ていたエセルバート様が突然ガハハと空気を震わせて笑い出して、私は驚いて飛び上がった。
「いやはや。
あの暴れん坊でやんちゃなアレク様はどうなさったのかね。
若い女性にこれほど入れ込んでおられるのを見るのも初めてだし、このクラリッサと言う女性は」
「おもしろいからだ」
エセルバート様の言葉に思いきり被せて不機嫌そうに言うアレク様の耳は真っ赤だった。
エセルバート様はまたワハハと笑う。
「今までに見たことのない、珍しいタイプの娘だから面白い。
それ以外に理由はない」
アレク様は殊更に大きな声で言い、がぶっとお茶を飲んで立ち上がった。
「これからしばらく、俺はここには来られない。
エセルバートにしごかれて音を上げるなよ」
そう言って「ジョルジーニ!」と気短に声を上げる。
「はい」
すぐに扉が開いてジョルジーニが入ってくる。
「帰るぞ、準備は」
「整っております」
慇懃に頭を下げるジョルジーニの横を風のようにすり抜けて部屋を出て行ってしまった。
「やれやれ、いつまでも子供のような方だ。
しかしこれで、少し展開が変わってくるのではないかな?」
ため息をつき、大きな身体をよっこらせと持ち上げながらエセルバート様は思案げに言った。
「ではクラリッサ、明日からよろしくお願いいたしますぞ」
そう言って私の顔を見て、少し慌てたように手を広げた。
「ああ、クラリッサ、泣かなくて大丈夫ですよ。
あれはアレク様一流の照れ隠しですから」
私はエセルバート様に言われて初めて、自分の頬を涙が濡らしているのに気づいた。
「あ…大丈夫です、どうしたんでしょうわたくしったら」
私は焦って手で涙を拭く。
さっきのアレク様の言葉。
『今までに見たことのない、珍しいタイプの娘だから面白い。
それ以外に理由はない』
別に、どうという意味もない、額面通りの言葉なのだと思う。
何故私は、こんなに傷ついているのだろう。
なぜこんなに、胸が苦しいのだろう。
このすさまじいほどの雰囲気は、お館様の比じゃない。
きっと、アレク様も実践の経験がおありなのだろう。
この恐ろしい風貌のエセルバート様について剣術を教わる…なんて。
私にできるのだろうか…
両手を胸の前で握りしめる私を見て、アレク様はふっと笑って手を伸ばし、私の頭を撫でる。
「そんなに怖がらなくて良い。
エセルバートは見た目ほど恐ろしい人ではないから」
「さようですよ、クラリッサ様。
私ほど気の優しい男はいない」
アレク様の言葉におどけて胸を張るエセルバート様を見て、私は少し心が和み、微笑んだ。
「エセルバート様。
ずぶの素人で申し訳ありませんが、よろしくご教授を賜りますよう、お願い申し上げます。
わたくしのことはクラリッサとお呼び捨てになさってくださいまし」
私が頭を下げると、アレク様はまた私の頭を撫で、頬に優しく触れた。
私はその手の暖かさになんだかとても安心する。
先ほどの緊張感から解放されたからだろうか。
男性に気安く触れられて、喜んではいけないはずなのに…
アレク様の優しい感情が伝わってくるような触れ方が非常に嬉しかった。
「本当はもう少し早く来られる予定だった。
この館の隣にある厩舎を案内して、少し街中を散歩しようと思っていたのだが…
少し茶を飲んで、戻らなきゃならない」
クラリッサこっちへ来い、と手招きして、お茶の準備の整った低いテーブル前のソファに私を座らせ、隣にアレク様は座って私にお菓子を取ってくれる。
ジョルジーニが皆のカップに熱いお茶を注いで回り、私は火傷しそうなほどに熱いお茶を口に含んでお菓子を食べた。
「わ…これ、美味しい」
「そうだろ?
これはクラリッサをイメージして作らせた『カントゥッチ』という菓子だ」
「『小さな歌』?」
私が言葉の意味を測りかねて、私はかじりかけの焼き菓子を持ったままアレク様を見る。
アレク様は微笑んで私の手を取って、かじりかけのカントゥッチを自分の口に入れた。
このカントゥッチという焼き菓子は、見た目はしっとりしていそうなビスケットのようだけどザクザクとした食感で、少し硬めだった。
最後にほんのり甘みが残る、上品なお菓子だ。
「これはなかなかよくできたと思っている。
嫋やかそうな外見で、一筋縄でいかない硬質な性格で…
気が強くて手折れないと思わせるが、意外と頼りなくて、笑うと」
そこまで言って急に言葉を切り、アレク様は私から顔を背けてお茶を飲んだ。
「?
どうなさったんですか?
喉に詰まったのですか」
アレク様の言葉には褒められてる感じは全然なくて些かムッとしていた私は、いきなりの態度に呆気に取られて尋ねた。
アレク様は沈黙し、向かいに座って私たちを見ていたエセルバート様が突然ガハハと空気を震わせて笑い出して、私は驚いて飛び上がった。
「いやはや。
あの暴れん坊でやんちゃなアレク様はどうなさったのかね。
若い女性にこれほど入れ込んでおられるのを見るのも初めてだし、このクラリッサと言う女性は」
「おもしろいからだ」
エセルバート様の言葉に思いきり被せて不機嫌そうに言うアレク様の耳は真っ赤だった。
エセルバート様はまたワハハと笑う。
「今までに見たことのない、珍しいタイプの娘だから面白い。
それ以外に理由はない」
アレク様は殊更に大きな声で言い、がぶっとお茶を飲んで立ち上がった。
「これからしばらく、俺はここには来られない。
エセルバートにしごかれて音を上げるなよ」
そう言って「ジョルジーニ!」と気短に声を上げる。
「はい」
すぐに扉が開いてジョルジーニが入ってくる。
「帰るぞ、準備は」
「整っております」
慇懃に頭を下げるジョルジーニの横を風のようにすり抜けて部屋を出て行ってしまった。
「やれやれ、いつまでも子供のような方だ。
しかしこれで、少し展開が変わってくるのではないかな?」
ため息をつき、大きな身体をよっこらせと持ち上げながらエセルバート様は思案げに言った。
「ではクラリッサ、明日からよろしくお願いいたしますぞ」
そう言って私の顔を見て、少し慌てたように手を広げた。
「ああ、クラリッサ、泣かなくて大丈夫ですよ。
あれはアレク様一流の照れ隠しですから」
私はエセルバート様に言われて初めて、自分の頬を涙が濡らしているのに気づいた。
「あ…大丈夫です、どうしたんでしょうわたくしったら」
私は焦って手で涙を拭く。
さっきのアレク様の言葉。
『今までに見たことのない、珍しいタイプの娘だから面白い。
それ以外に理由はない』
別に、どうという意味もない、額面通りの言葉なのだと思う。
何故私は、こんなに傷ついているのだろう。
なぜこんなに、胸が苦しいのだろう。
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