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第四章 謎解き
4.馬車の中で
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場違いに立派な馬車が私たちの前に現れて、降りてきた御者が恭しく礼をして馬車の扉を開けた。
私はエルヴィーノ様に抱きかかえられるようにしてその馬車に乗せられた。
エルヴィーノ様は私の隣に座り、御者に扉を閉めるように促す。
私は慌てて「あの、ヴァネッサは…」とエルヴィーノ様に声をかける。
私を横抱きにしてこめかみにキスしようとしていたエルヴィーノ様は顔を上げて「え?…ああ、あの女は他の者たちと歩いてついて来れば良い」とそっけなく言った。
うなずいて扉を閉めようとした御者を私は慌てて押しとどめた。
「ちょ、待ってください。
彼女はわたくしの故郷の大切な友人で、雇用主のお嬢さんです。
あんなに痩せて怪我もしているのに…歩かせるなんて。
この馬車に乗車定員があるのでしたら、わたくしが降りて歩いてサン=バルロッテ館まで参りますわ」
御者とエルヴィーノ様は驚いたように目を瞠っていたが、やがてエルヴィーノ様はくすくすと笑いだし私を引き寄せた。
「…判った判った。
あの娘を連れて来い。
今日はサン=バルロッテ館には帰らせないから、俺の家で手当てをさせよう」
御者は慌てたようにお辞儀して、後方で護衛兵に囲まれているヴァネッサに声をかける。
ヴァネッサは何故か自信ありげに笑ってうなずき、気取った歩き方で馬車まで来た。
御者に手を取られて乗り込む前に、後ろを振り返って自慢げに手を振る。
いつの間にか観衆は去り、娼館からたくさんの人が出てきて、唖然とした様子でヴァネッサを見送っていた。
『あたしはシエーラの領主の娘なんだから』と言っていてそれを皆に法螺話とからかわれていた、とディーノから聞いた。
なるほど、この姿を見せつけて皆を見返そうってわけなのね。
私の頭の上に手を置いて、その上に顎を乗せて見ていたエルヴィーノ様はくっくと可笑しそうに笑う。
「クレメンティナにもあれくらいの強かさとか図々しさがあればいいのにな。
まあ、そんな女だったら、こんなに好きにはなれないだろうけど」
「失礼いたします…」
一礼して乗り込んできたヴァネッサは、エルヴィーノ様と私の密着ぶりに驚いたように腫れていないほうの目を見開き、向かい側の端の方まで進んで行ってちょこんと座った。
馬車がゴトゴトと音を立てて動き出す。
私はエルヴィーノ様の腕を振りほどこうと懸命に身をよじるけど、エルヴィーノ様は笑って余計に私を腕の中へ閉じ込めてしまう。
「こんな力でよくあんな大男に向かっていったなあ。
まったくお前の無謀さには参るよ…アレクにだって散々、釘刺されていたんだろう?
クレメンティナみたいな部下は持ちたくないねぇ、上官の命令丸無視してひとりで突撃してっちゃうような奴」
そこまで言わなくても…
私はしゅんとして力を抜く。
エルヴィーノ様はまた破顔し、「だけど奥方としては非常に魅力的だよ。大好きだ」と抱きしめる腕に力を籠め、耳に口元を寄せて囁く。
そん…な、言葉を…言われたら私…
私は身体を前屈みにして逃れようとする。
心臓がバクバク音を立てて、顔が赤くなるのをヴァネッサから隠したい。
「何故…エルヴィーノ様はあんなところにいらっしゃったのですか」
私は動揺を隠したくて口を開く。
エルヴィーノ様は抵抗する私の身体を軽々と抱き起し、髪を撫でながら話し始めた。
「朝、お前と話した後にエセルバート殿と会って、クレメンティナのことを話した。
エセルバート殿もひどく驚いていらっしゃったが、それについてご自分の意見は何も仰らなかった。
それで一度、私邸に帰って…クレメンティナの兄上と連絡がついたのでそれを報せようと遣いを遣ったら、慌てて帰ってきて、下男を一人連れてマルケッティ通りに娼婦を探しに行ったと」
ふっとため息をついて続ける。
「慌てたよ、ダウンタウンの娼婦館がどんなところかなんて絶対に知らないだろうし。
万が一、クレメンティナに何かあったらと思ったら、もう何も考えられずに飛び出してた。
そしたら案の定、剣で決闘みたいなことしてるし」
確かに、あれは向こう見ずでした、申し訳ありません…
恐縮する私の髪を梳いて頬を撫で、顔を上げさせる。
「しかし、こんな重いドレスで、あの動きは凄かった。
軽やかでありながら、確実に相手の急所を狙っていた。
重い剣と膂力の差で危うかったのは間違いないが…」
そう言って、エルヴィーノ様はいたずらっぽく私の顔を覗き込む。
「このことは、エセルバート殿とそれからアレクの耳にも入っているだろうな。
往来での私闘なんてやらかして…エセルバート殿からこってり叱られるぞ」
私はエルヴィーノ様の言葉にはっとして、背中を冷たい汗が伝う気がした。
そうだわ…禁止行為…
ヤバい怖いエセルバート様の雷…
私はエルヴィーノ様に抱きかかえられるようにしてその馬車に乗せられた。
エルヴィーノ様は私の隣に座り、御者に扉を閉めるように促す。
私は慌てて「あの、ヴァネッサは…」とエルヴィーノ様に声をかける。
私を横抱きにしてこめかみにキスしようとしていたエルヴィーノ様は顔を上げて「え?…ああ、あの女は他の者たちと歩いてついて来れば良い」とそっけなく言った。
うなずいて扉を閉めようとした御者を私は慌てて押しとどめた。
「ちょ、待ってください。
彼女はわたくしの故郷の大切な友人で、雇用主のお嬢さんです。
あんなに痩せて怪我もしているのに…歩かせるなんて。
この馬車に乗車定員があるのでしたら、わたくしが降りて歩いてサン=バルロッテ館まで参りますわ」
御者とエルヴィーノ様は驚いたように目を瞠っていたが、やがてエルヴィーノ様はくすくすと笑いだし私を引き寄せた。
「…判った判った。
あの娘を連れて来い。
今日はサン=バルロッテ館には帰らせないから、俺の家で手当てをさせよう」
御者は慌てたようにお辞儀して、後方で護衛兵に囲まれているヴァネッサに声をかける。
ヴァネッサは何故か自信ありげに笑ってうなずき、気取った歩き方で馬車まで来た。
御者に手を取られて乗り込む前に、後ろを振り返って自慢げに手を振る。
いつの間にか観衆は去り、娼館からたくさんの人が出てきて、唖然とした様子でヴァネッサを見送っていた。
『あたしはシエーラの領主の娘なんだから』と言っていてそれを皆に法螺話とからかわれていた、とディーノから聞いた。
なるほど、この姿を見せつけて皆を見返そうってわけなのね。
私の頭の上に手を置いて、その上に顎を乗せて見ていたエルヴィーノ様はくっくと可笑しそうに笑う。
「クレメンティナにもあれくらいの強かさとか図々しさがあればいいのにな。
まあ、そんな女だったら、こんなに好きにはなれないだろうけど」
「失礼いたします…」
一礼して乗り込んできたヴァネッサは、エルヴィーノ様と私の密着ぶりに驚いたように腫れていないほうの目を見開き、向かい側の端の方まで進んで行ってちょこんと座った。
馬車がゴトゴトと音を立てて動き出す。
私はエルヴィーノ様の腕を振りほどこうと懸命に身をよじるけど、エルヴィーノ様は笑って余計に私を腕の中へ閉じ込めてしまう。
「こんな力でよくあんな大男に向かっていったなあ。
まったくお前の無謀さには参るよ…アレクにだって散々、釘刺されていたんだろう?
クレメンティナみたいな部下は持ちたくないねぇ、上官の命令丸無視してひとりで突撃してっちゃうような奴」
そこまで言わなくても…
私はしゅんとして力を抜く。
エルヴィーノ様はまた破顔し、「だけど奥方としては非常に魅力的だよ。大好きだ」と抱きしめる腕に力を籠め、耳に口元を寄せて囁く。
そん…な、言葉を…言われたら私…
私は身体を前屈みにして逃れようとする。
心臓がバクバク音を立てて、顔が赤くなるのをヴァネッサから隠したい。
「何故…エルヴィーノ様はあんなところにいらっしゃったのですか」
私は動揺を隠したくて口を開く。
エルヴィーノ様は抵抗する私の身体を軽々と抱き起し、髪を撫でながら話し始めた。
「朝、お前と話した後にエセルバート殿と会って、クレメンティナのことを話した。
エセルバート殿もひどく驚いていらっしゃったが、それについてご自分の意見は何も仰らなかった。
それで一度、私邸に帰って…クレメンティナの兄上と連絡がついたのでそれを報せようと遣いを遣ったら、慌てて帰ってきて、下男を一人連れてマルケッティ通りに娼婦を探しに行ったと」
ふっとため息をついて続ける。
「慌てたよ、ダウンタウンの娼婦館がどんなところかなんて絶対に知らないだろうし。
万が一、クレメンティナに何かあったらと思ったら、もう何も考えられずに飛び出してた。
そしたら案の定、剣で決闘みたいなことしてるし」
確かに、あれは向こう見ずでした、申し訳ありません…
恐縮する私の髪を梳いて頬を撫で、顔を上げさせる。
「しかし、こんな重いドレスで、あの動きは凄かった。
軽やかでありながら、確実に相手の急所を狙っていた。
重い剣と膂力の差で危うかったのは間違いないが…」
そう言って、エルヴィーノ様はいたずらっぽく私の顔を覗き込む。
「このことは、エセルバート殿とそれからアレクの耳にも入っているだろうな。
往来での私闘なんてやらかして…エセルバート殿からこってり叱られるぞ」
私はエルヴィーノ様の言葉にはっとして、背中を冷たい汗が伝う気がした。
そうだわ…禁止行為…
ヤバい怖いエセルバート様の雷…
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