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第四章 謎解き
5.エルヴィーノ様の思惑
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馬車は賑やかな街路をゆっくり進んで行く。
「あの…クレメンティナは、何故、都へ来ているの?
お父様とお母様は元気?」
おずおずと切り出したヴァネッサの細い声に、私は顔を上げる。
「それについては、ちょっと話が長くなるのよ…
かいつまんで言うと、私は駆け落ちしてしまったあなたの代わりにお館様にご愛妾候補として首都ピストリアに行くように言われて、その途中で山賊に襲われてこのエルヴィーノ様に助けられたの。
私を助けに来てくれたにぃ兄様も行方不明になっていて…この首都にいるらしいの」
私がなるべく淡々と聞こえるように話すと、ヴァネッサは表情を曇らせ、青ざめて呟くように言った。
「そうだったの…ごめんなさい。
あたし、ダニエーレに恋してて、周りが何も見えていなかった。
クレメンティナをあたしの身代わりにするなんて…
そこまでしてご愛妾候補に期待していたお父様の気持ちとかも、全然判っていなかった」
「セノフォンテは見つかったの?
この…お貴族様とクレメンティナが従兄弟っていうのは、本当なの?」
ヴァネッサの質問に、私は返事に困ってエルヴィーノ様を振り仰ぐ。
エルヴィーノ様は濃いブラウンの瞳を優しく瞬かせて私の頬を撫でる。
「これからクレメンティナを俺の私邸に連れて行く。
明日、セノフォンテ殿が来てくれる手はずになっているが…何故か、トランクウィッロの令嬢も一緒だそうだ。
セノフォンテ殿からも何か重大な話があると」
明日!
にぃ兄様といよいよ会える!
私は両手を胸の前で組み合わせ、神にお礼の祈りを捧げる。
「私とエルヴィーノ様が従兄弟だっていうのは…私も今さっき初めて聞いたの。
私のお父様が、首都の貴族出身だってことしか知らなかったから…
お父様は何処の場でもステファネッリ子爵を名乗っていらっしゃったし、お父様の方のご親戚にお会いしたこともないし」
苗字も先ほど漸く思い出したところだし。
「俺の親父が、ステファネッリ家の人々に連絡などできるものか。
ご自分では創世記のヤコブを気取っているが…
研究に没頭していた長子の兄から、騙し討ちのような形で家督と婚約者を奪ったんだ。
クレメンティナの父上が大人しい性格で、黙って南部くんだりまで行ってくださったから、ヴァラリオーティ侯爵家の体面は保たれただけだ。
兄は父に洗脳されているからそれを是としているが、俺は許せない」
暗い声でそう言い、エルヴィーノ様は私を引き寄せた。
「だけど、クレメンティナとセノフォンテ殿が首都へきて、偶然だが俺がそれに関わった。
そして俺は…従妹と知らずに、クレメンティナを愛した。
何か大いなるものの力が働いているのだと思う。
クレメンティナのお父上がそうせよと仰っておられるのかもしれない」
「そう…とは?」
私はまた頬にキスしようとするエルヴィーノ様の腕から逃げ出そうとしながら訊いた。
腫れた目を丸くしてこちらを見ているヴァネッサがどう思っているのか気になる。
私たちは恋人同士というわけではないし、もし恋人であっても、人前でこんな行為は…
「正統な相続人に戻すということだ」
「えっ…」
「クレメンティナの長兄殿に、ヴァラリオーティをお返しすると」
ヴァネッサと私は同時に息を呑む。
「で、も…レオンツィオ兄はステファネッリを…」
「ステファネッリはセノフォンテ殿か、それか俺が継いでも良い、クレメンティナと一緒にシエーラで暮らす」
ちょ、ちょっと待って??
私は頭が混乱して、エルヴィーノ様の胸に手をあてて渾身の力を込めて押し離した。
「何をおっしゃっているのか判りません。
そんなことが、可能だとお思いですか?」
「アレクの力を借りる。
あいつに借りを作るのは死ぬほど嫌だが、クレメンティナを手に入れるためならなんでもする」
力強く言い切ったエルヴィーノ様は、しかし…と呟いた。
「俺は、ステファネッリの従兄弟は男女二人だと聞いていたんだ。
次兄がいるってクレメンティナから聞いてすごく驚いた。
どういうことだ」
その時、馬車は大きく旋回して馬寄せに停まった。
御者が来る前に、執事のような人が馬車に近づいてきて流れるような動作で優雅に扉を開けた。
「お帰りなさいませ、エルヴィーノ様、クレメンティナ様」
「あの…クレメンティナは、何故、都へ来ているの?
お父様とお母様は元気?」
おずおずと切り出したヴァネッサの細い声に、私は顔を上げる。
「それについては、ちょっと話が長くなるのよ…
かいつまんで言うと、私は駆け落ちしてしまったあなたの代わりにお館様にご愛妾候補として首都ピストリアに行くように言われて、その途中で山賊に襲われてこのエルヴィーノ様に助けられたの。
私を助けに来てくれたにぃ兄様も行方不明になっていて…この首都にいるらしいの」
私がなるべく淡々と聞こえるように話すと、ヴァネッサは表情を曇らせ、青ざめて呟くように言った。
「そうだったの…ごめんなさい。
あたし、ダニエーレに恋してて、周りが何も見えていなかった。
クレメンティナをあたしの身代わりにするなんて…
そこまでしてご愛妾候補に期待していたお父様の気持ちとかも、全然判っていなかった」
「セノフォンテは見つかったの?
この…お貴族様とクレメンティナが従兄弟っていうのは、本当なの?」
ヴァネッサの質問に、私は返事に困ってエルヴィーノ様を振り仰ぐ。
エルヴィーノ様は濃いブラウンの瞳を優しく瞬かせて私の頬を撫でる。
「これからクレメンティナを俺の私邸に連れて行く。
明日、セノフォンテ殿が来てくれる手はずになっているが…何故か、トランクウィッロの令嬢も一緒だそうだ。
セノフォンテ殿からも何か重大な話があると」
明日!
にぃ兄様といよいよ会える!
私は両手を胸の前で組み合わせ、神にお礼の祈りを捧げる。
「私とエルヴィーノ様が従兄弟だっていうのは…私も今さっき初めて聞いたの。
私のお父様が、首都の貴族出身だってことしか知らなかったから…
お父様は何処の場でもステファネッリ子爵を名乗っていらっしゃったし、お父様の方のご親戚にお会いしたこともないし」
苗字も先ほど漸く思い出したところだし。
「俺の親父が、ステファネッリ家の人々に連絡などできるものか。
ご自分では創世記のヤコブを気取っているが…
研究に没頭していた長子の兄から、騙し討ちのような形で家督と婚約者を奪ったんだ。
クレメンティナの父上が大人しい性格で、黙って南部くんだりまで行ってくださったから、ヴァラリオーティ侯爵家の体面は保たれただけだ。
兄は父に洗脳されているからそれを是としているが、俺は許せない」
暗い声でそう言い、エルヴィーノ様は私を引き寄せた。
「だけど、クレメンティナとセノフォンテ殿が首都へきて、偶然だが俺がそれに関わった。
そして俺は…従妹と知らずに、クレメンティナを愛した。
何か大いなるものの力が働いているのだと思う。
クレメンティナのお父上がそうせよと仰っておられるのかもしれない」
「そう…とは?」
私はまた頬にキスしようとするエルヴィーノ様の腕から逃げ出そうとしながら訊いた。
腫れた目を丸くしてこちらを見ているヴァネッサがどう思っているのか気になる。
私たちは恋人同士というわけではないし、もし恋人であっても、人前でこんな行為は…
「正統な相続人に戻すということだ」
「えっ…」
「クレメンティナの長兄殿に、ヴァラリオーティをお返しすると」
ヴァネッサと私は同時に息を呑む。
「で、も…レオンツィオ兄はステファネッリを…」
「ステファネッリはセノフォンテ殿か、それか俺が継いでも良い、クレメンティナと一緒にシエーラで暮らす」
ちょ、ちょっと待って??
私は頭が混乱して、エルヴィーノ様の胸に手をあてて渾身の力を込めて押し離した。
「何をおっしゃっているのか判りません。
そんなことが、可能だとお思いですか?」
「アレクの力を借りる。
あいつに借りを作るのは死ぬほど嫌だが、クレメンティナを手に入れるためならなんでもする」
力強く言い切ったエルヴィーノ様は、しかし…と呟いた。
「俺は、ステファネッリの従兄弟は男女二人だと聞いていたんだ。
次兄がいるってクレメンティナから聞いてすごく驚いた。
どういうことだ」
その時、馬車は大きく旋回して馬寄せに停まった。
御者が来る前に、執事のような人が馬車に近づいてきて流れるような動作で優雅に扉を開けた。
「お帰りなさいませ、エルヴィーノ様、クレメンティナ様」
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