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第四章 謎解き
12.にぃ兄様の思い
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「クレメンティナ、こちらへ来い。
俺の傍から離れるな」
にぃ兄様の表情と口調から何かを察したのか、エルヴィーノ様は表情を引き締め強い口調で言う。
私は驚いてしまって身を竦めた。
「そんな口調はお止めください。
クレメンティナが怯えております、この子は乱暴な言い方には慣れていないのです。
だからこそ、ペデルツィーニに恫喝されてご愛妾候補の身代わりになってしまったんだ」
にぃ兄様が噛みつくように言い、エルヴィーノ様は「あ、…悪かった、クレメンティナ」と口調を和らげて、少し微笑みながら手招きする。
私はおずおずとエルヴィーノ様に近づく。
なんだかエルヴィーノ様の所有物のようで嫌だなあ…と内心では思いながら。
エルヴィーノ様は私のつかんで引き寄せ、私は倒れこむようにエルヴィーノ様の隣に座る。
がっちり肩を抱え込むように抱かれ、少し恐怖を覚える。
にぃ兄様はまだちょっと不満そうだったが、ため息をひとつついて話しだした。
「お手紙をいただいて、私たちのこの運命の数奇さに驚き…そして、私は寂寥感を覚えました。
クレメンティナは、エルヴィーノ様にすべてをお話しして協力を仰いだのだな、と。
それはとりもなおさず、クレメンティナがエルヴィーノ様を…」
「そうであるならば、私の感情の入る余地はない。
クレメンティナとエルヴィーノ様のお幸せを心から願います。
兄として、また弟として。
シエーラのレオンツィオ兄が首都の侯爵になることを承諾するかは、微妙なところではありますが、必要ならば援護いたします」
「…ちょっと待て、『私の感情』って…」
私の肩を抱く手の力を少し緩めて、エルヴィーノ様は訝しげに訊く。
にぃ兄様は微苦笑して、苦しそうにぎゅっと唇を引き結び、ふたたび大きくため息をついた。
「朧げな記憶を頼りに街中を歩き回り、またベアトリーチェ様の助けもお借りして年老いた乳母を探し出して自分がヴァラリオーティ侯爵家の人間だと判ったとき。
一番に思ったのは『従兄弟ならクレメンティナと一緒になれるのではないか』ということでした」
えっ?!
ビックリして、身体が硬直する。
にぃ兄様…今、なんて??
「私は…ずっと、幼いころからずっと、クレメンティナが好きだった。
十歳を超えたころ、それが恋心であることを自覚し、それ以来いつもひとり煩悶していました。
血を分けた妹を愛するなんて下等な獣のようだ、神に、それから親兄弟に対する背信行為だと。
父上はもしかして、何かをお察しだったのかもしれない。
お亡くなりになる間際に、私にクレメンティナを幸せにしてやってくれと仰ったのです」
意味が解らず余計に悩む羽目になりましたが…と暗い声で言う。
「しかし、やはり神は、私にはとことん試練をお与えになるらしい。
クレメンティナを探し出して求愛しようと考えて浮かれていた私が愚かでした。
双子の兄と愛する女性が、愛し合っているのを目のあたりにしなければならないとは…」
「いえ、それは…」
私は、思わず反論しようと口を開きかけるが、エルヴィーノ様が強く私を抱きしめて後頭部をご自分の胸に押し付け、何も言わせないようにしてしまう。
「これは俺のだ。誰にも渡さない。
どういう巡りあわせなんだまったく、父親たちと同様の道を行こうとしているのか…
父親と同じ轍を踏みたくはないが…しかし、他の何を譲っても、この人だけはクレメンティナだけは絶対に譲れない」
エルヴィーノ様は私をきつく抱きしめ、私は息苦しさに耐えかねてエルヴィーノ様の胸の中で暴れる。
「いえ、私はお二人を引き離そうなどとは考えておりません。
お手をお弛めください、クレメンティナが潰れてしまいます」
にぃ兄様は慌てたように言い、エルヴィーノ様は「あっ…すまん、つい」と私を離した。
私は咳き込み、大きく呼吸する。
エルヴィーノ様は私の背をさすってくれた。
「エルヴィーノ様からお手紙をいただいた当初、私はひどく落ち込みました。
10年以上思い続けた人が、こんなにあっさり、他の人のしかも双子の兄のものになってしまうなんて…
ふさぎこむ私を優しく慰め励ましてくださったのは、ベアトリーチェ様でした。
私を様々な場面で助けてくださって、いつも私の味方で居てくださる。
その意味に気づけないほどの、子供ではありませんでした」
そう言って、にぃ兄様はベアトリーチェ様の手を優しく撫でる。
ベアトリーチェ様はにぃ兄様の肩にそっとベール越しの頬を寄せた。
「私はベアトリーチェ様の、お気持ちを受け入れたいと思うようになりました。
今はまだ、心の傷が完全に癒えたわけではないけれど、そのうちきっと、好きになれる。
そう思わせてくださったベアトリーチェ様に感謝しています」
にぃ兄様の言葉に、エルヴィーノ様はほっと息をつき、顔を両手で覆った。
「あなた方を、全面的に応援する。
自分のためだけでなく、ベアトリーチェ様のためにも」
俺の傍から離れるな」
にぃ兄様の表情と口調から何かを察したのか、エルヴィーノ様は表情を引き締め強い口調で言う。
私は驚いてしまって身を竦めた。
「そんな口調はお止めください。
クレメンティナが怯えております、この子は乱暴な言い方には慣れていないのです。
だからこそ、ペデルツィーニに恫喝されてご愛妾候補の身代わりになってしまったんだ」
にぃ兄様が噛みつくように言い、エルヴィーノ様は「あ、…悪かった、クレメンティナ」と口調を和らげて、少し微笑みながら手招きする。
私はおずおずとエルヴィーノ様に近づく。
なんだかエルヴィーノ様の所有物のようで嫌だなあ…と内心では思いながら。
エルヴィーノ様は私のつかんで引き寄せ、私は倒れこむようにエルヴィーノ様の隣に座る。
がっちり肩を抱え込むように抱かれ、少し恐怖を覚える。
にぃ兄様はまだちょっと不満そうだったが、ため息をひとつついて話しだした。
「お手紙をいただいて、私たちのこの運命の数奇さに驚き…そして、私は寂寥感を覚えました。
クレメンティナは、エルヴィーノ様にすべてをお話しして協力を仰いだのだな、と。
それはとりもなおさず、クレメンティナがエルヴィーノ様を…」
「そうであるならば、私の感情の入る余地はない。
クレメンティナとエルヴィーノ様のお幸せを心から願います。
兄として、また弟として。
シエーラのレオンツィオ兄が首都の侯爵になることを承諾するかは、微妙なところではありますが、必要ならば援護いたします」
「…ちょっと待て、『私の感情』って…」
私の肩を抱く手の力を少し緩めて、エルヴィーノ様は訝しげに訊く。
にぃ兄様は微苦笑して、苦しそうにぎゅっと唇を引き結び、ふたたび大きくため息をついた。
「朧げな記憶を頼りに街中を歩き回り、またベアトリーチェ様の助けもお借りして年老いた乳母を探し出して自分がヴァラリオーティ侯爵家の人間だと判ったとき。
一番に思ったのは『従兄弟ならクレメンティナと一緒になれるのではないか』ということでした」
えっ?!
ビックリして、身体が硬直する。
にぃ兄様…今、なんて??
「私は…ずっと、幼いころからずっと、クレメンティナが好きだった。
十歳を超えたころ、それが恋心であることを自覚し、それ以来いつもひとり煩悶していました。
血を分けた妹を愛するなんて下等な獣のようだ、神に、それから親兄弟に対する背信行為だと。
父上はもしかして、何かをお察しだったのかもしれない。
お亡くなりになる間際に、私にクレメンティナを幸せにしてやってくれと仰ったのです」
意味が解らず余計に悩む羽目になりましたが…と暗い声で言う。
「しかし、やはり神は、私にはとことん試練をお与えになるらしい。
クレメンティナを探し出して求愛しようと考えて浮かれていた私が愚かでした。
双子の兄と愛する女性が、愛し合っているのを目のあたりにしなければならないとは…」
「いえ、それは…」
私は、思わず反論しようと口を開きかけるが、エルヴィーノ様が強く私を抱きしめて後頭部をご自分の胸に押し付け、何も言わせないようにしてしまう。
「これは俺のだ。誰にも渡さない。
どういう巡りあわせなんだまったく、父親たちと同様の道を行こうとしているのか…
父親と同じ轍を踏みたくはないが…しかし、他の何を譲っても、この人だけはクレメンティナだけは絶対に譲れない」
エルヴィーノ様は私をきつく抱きしめ、私は息苦しさに耐えかねてエルヴィーノ様の胸の中で暴れる。
「いえ、私はお二人を引き離そうなどとは考えておりません。
お手をお弛めください、クレメンティナが潰れてしまいます」
にぃ兄様は慌てたように言い、エルヴィーノ様は「あっ…すまん、つい」と私を離した。
私は咳き込み、大きく呼吸する。
エルヴィーノ様は私の背をさすってくれた。
「エルヴィーノ様からお手紙をいただいた当初、私はひどく落ち込みました。
10年以上思い続けた人が、こんなにあっさり、他の人のしかも双子の兄のものになってしまうなんて…
ふさぎこむ私を優しく慰め励ましてくださったのは、ベアトリーチェ様でした。
私を様々な場面で助けてくださって、いつも私の味方で居てくださる。
その意味に気づけないほどの、子供ではありませんでした」
そう言って、にぃ兄様はベアトリーチェ様の手を優しく撫でる。
ベアトリーチェ様はにぃ兄様の肩にそっとベール越しの頬を寄せた。
「私はベアトリーチェ様の、お気持ちを受け入れたいと思うようになりました。
今はまだ、心の傷が完全に癒えたわけではないけれど、そのうちきっと、好きになれる。
そう思わせてくださったベアトリーチェ様に感謝しています」
にぃ兄様の言葉に、エルヴィーノ様はほっと息をつき、顔を両手で覆った。
「あなた方を、全面的に応援する。
自分のためだけでなく、ベアトリーチェ様のためにも」
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