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第四章 謎解き
14.ご愛妾候補と南部地域のこと
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私はふと思いついた疑問を口にした。
「あの、わたくし、昨日ヴァネッサをこの邸に連れ帰りました。
ヴァネッサは身体も心も傷ついておりますので、できればこのままシエーラに連れて帰りたいのですけど…
ご愛妾候補の件はどうなるのでしょうか。
ヴァネッサが見つかったから、ヴァネッサになるのかしら、それともわたくし…?」
「父親の決めたご愛妾候補が嫌だからと、使用人と駆け落ちして山賊に襲われて娼婦に身を堕とした女を、見つかったから大公に差し出すと言うのは、さすがに無理すぎるだろ。
もちろんクレメンティナを身代わりだなんて有り得ない。
あいつがその気になっちまったらどうする」
最後の方は呟くように、エルヴィーノ様は言う。
にぃ兄様は驚いたように私たちを見た。
「ヴァネッサ嬢が見つかったのですか…
しかし、何だって?娼婦?
何故そんなことに…」
「あら…でも…」
落ち着いた声が遠慮がちに入ってくる。
私たちが、ぱっと顔を上げると、ベアトリーチェ様は少し身を引いた。
「大公陛下は連日のように宮殿や野外でパーティを催されて、ご愛妾候補のお一人お一人と面接などもなさったそうですが…
ご愛妾のどなたもお気にいらず、結局白紙に戻そうとなさっておられると」
えーっ!
と驚いたのは私だけで、にぃ兄様とエルヴィーノ様は、うーん…という感じで困ったように黙り込む。
「まあ…こうなることはある程度予想できたって言うか…
ご幼少のころからあまり素行の良くない方だと、シエーラのような田舎にまで芳しくない噂が聞こえてくるくらいだから」
にぃ兄様が言うと、エルヴィーノ様は深くうなずいた。
そのお二人の様子はとても良く似ていて、仕草も似通っていて、私は思わずくすっと笑いをこぼしてしまう。
ベアトリーチェ様も上品にベール越しの口元に手をあててふふっと笑った。
「何?」
とお二人は一緒に顔を上げ、私とベアトリーチェ様はまた笑った。
「にぃ兄様とエルヴィーノ様、動作がそっくりで、可笑しくって…」
私が言うと、お二人はまた同時に顔を見合わせた。
「…生まれた時以来、初めて会うのにそういうことがあるんだな」
「さようですね、母の胎内で一緒に育った記憶があるのでしょうか」
ははっという感じでお二人は笑う。
「失礼いたします」
そこへアドルナートが声をかけてきて、私たちの前にある、冷めきったお茶を熱々のものと手早く取り替えていく。
お菓子も焼きたてのいい匂いがする。
また運ばせたのだろうか。
「お手伝いいたします」
私とにぃ兄様が素早く立ち、アドルナートはビックリしたように腰を伸ばして私たちを眺めた。
「いえ、とんでもないことでございます。
どうぞおかけください、ステファノ坊ちゃま、クラリッサ」
その言い方は少し砕けていて、私とにぃ兄様は互いの顔を見て微笑んだ。
私たちが再び腰を下ろすと、エルヴィーノ様は沈んだ声で言った。
「まあ、いずれにせよ、大公は子供の産めない大公妃の代わりに、愛妾に自分の子供を産ませてその子を後嗣にしようと考えているのは確かだ。
本来、公式の愛妾であっても、子供を継嗣にはできないと決まっているのだが…
大公はそういう規律に縛られる人じゃない」
「しかし、決めるなら早く決めないと、また南部で不穏な動きがでるかもしれないし」
暗く呟くエルヴィーノ様の言葉に、私とにぃ兄様は「え?どういうことですか?」と身を乗り出す。
「あ?ああ…
今回、俺は南部の小競り合いを鎮圧しに行って、収めて都に帰ってきた。
だけど、どうもひっかかる。
小競り合いと言いながら、攻め方も引き方もどこか芝居がかっているというか…
双方ともにだ。
誰かが裏で糸を引いているような印象を受けた」
「武器も、見たことのないようなものがあって。
自分たちで製造したものならば、必ず大公の許可が必要なはずだ。
だけどそれだったら俺が知らないはずはない。
密造、もしくはどこかから供与されたものなのかもしれない」
「場所は、トランクウィッロ家の領地の少し南…でございますわね。
わたくしは、危ないからと父の命令で都に帰される途中で、セノフォンテ様をお助けしたのです」
ベアトリーチェ様が言い、にぃ兄様が「じゃあ、シエーラの西方か」と呟く。
私はお母様やレオ兄様のことを考え、私は居ても立っても居られないような焦燥感に駆られた。
「にぃ兄様!早くシエーラに帰りましょう。
お母様やレオ兄様が…」
「落ち着けって、クレメンティナ」
エルヴィーノ様が苦笑するように言って、私の肩を抱く。
「そんなに慌てなくて大丈夫だよ。
シエーラに累が及ぶことはないさ。
準備を整えて、ちゃんとした形で帰ろう。
な?セノフォンテ殿」
「はい、その通りです。
クレメンティナ、いましばらく待ってくれ。
必ず一緒に帰ろう」
エルヴィーノ様とにぃ兄様にこもごも言われ、私は不承不承、うなずいた。
何だろう、何でこのお二人は急に通じ合っちゃってるんだろう。
「あの、わたくし、昨日ヴァネッサをこの邸に連れ帰りました。
ヴァネッサは身体も心も傷ついておりますので、できればこのままシエーラに連れて帰りたいのですけど…
ご愛妾候補の件はどうなるのでしょうか。
ヴァネッサが見つかったから、ヴァネッサになるのかしら、それともわたくし…?」
「父親の決めたご愛妾候補が嫌だからと、使用人と駆け落ちして山賊に襲われて娼婦に身を堕とした女を、見つかったから大公に差し出すと言うのは、さすがに無理すぎるだろ。
もちろんクレメンティナを身代わりだなんて有り得ない。
あいつがその気になっちまったらどうする」
最後の方は呟くように、エルヴィーノ様は言う。
にぃ兄様は驚いたように私たちを見た。
「ヴァネッサ嬢が見つかったのですか…
しかし、何だって?娼婦?
何故そんなことに…」
「あら…でも…」
落ち着いた声が遠慮がちに入ってくる。
私たちが、ぱっと顔を上げると、ベアトリーチェ様は少し身を引いた。
「大公陛下は連日のように宮殿や野外でパーティを催されて、ご愛妾候補のお一人お一人と面接などもなさったそうですが…
ご愛妾のどなたもお気にいらず、結局白紙に戻そうとなさっておられると」
えーっ!
と驚いたのは私だけで、にぃ兄様とエルヴィーノ様は、うーん…という感じで困ったように黙り込む。
「まあ…こうなることはある程度予想できたって言うか…
ご幼少のころからあまり素行の良くない方だと、シエーラのような田舎にまで芳しくない噂が聞こえてくるくらいだから」
にぃ兄様が言うと、エルヴィーノ様は深くうなずいた。
そのお二人の様子はとても良く似ていて、仕草も似通っていて、私は思わずくすっと笑いをこぼしてしまう。
ベアトリーチェ様も上品にベール越しの口元に手をあててふふっと笑った。
「何?」
とお二人は一緒に顔を上げ、私とベアトリーチェ様はまた笑った。
「にぃ兄様とエルヴィーノ様、動作がそっくりで、可笑しくって…」
私が言うと、お二人はまた同時に顔を見合わせた。
「…生まれた時以来、初めて会うのにそういうことがあるんだな」
「さようですね、母の胎内で一緒に育った記憶があるのでしょうか」
ははっという感じでお二人は笑う。
「失礼いたします」
そこへアドルナートが声をかけてきて、私たちの前にある、冷めきったお茶を熱々のものと手早く取り替えていく。
お菓子も焼きたてのいい匂いがする。
また運ばせたのだろうか。
「お手伝いいたします」
私とにぃ兄様が素早く立ち、アドルナートはビックリしたように腰を伸ばして私たちを眺めた。
「いえ、とんでもないことでございます。
どうぞおかけください、ステファノ坊ちゃま、クラリッサ」
その言い方は少し砕けていて、私とにぃ兄様は互いの顔を見て微笑んだ。
私たちが再び腰を下ろすと、エルヴィーノ様は沈んだ声で言った。
「まあ、いずれにせよ、大公は子供の産めない大公妃の代わりに、愛妾に自分の子供を産ませてその子を後嗣にしようと考えているのは確かだ。
本来、公式の愛妾であっても、子供を継嗣にはできないと決まっているのだが…
大公はそういう規律に縛られる人じゃない」
「しかし、決めるなら早く決めないと、また南部で不穏な動きがでるかもしれないし」
暗く呟くエルヴィーノ様の言葉に、私とにぃ兄様は「え?どういうことですか?」と身を乗り出す。
「あ?ああ…
今回、俺は南部の小競り合いを鎮圧しに行って、収めて都に帰ってきた。
だけど、どうもひっかかる。
小競り合いと言いながら、攻め方も引き方もどこか芝居がかっているというか…
双方ともにだ。
誰かが裏で糸を引いているような印象を受けた」
「武器も、見たことのないようなものがあって。
自分たちで製造したものならば、必ず大公の許可が必要なはずだ。
だけどそれだったら俺が知らないはずはない。
密造、もしくはどこかから供与されたものなのかもしれない」
「場所は、トランクウィッロ家の領地の少し南…でございますわね。
わたくしは、危ないからと父の命令で都に帰される途中で、セノフォンテ様をお助けしたのです」
ベアトリーチェ様が言い、にぃ兄様が「じゃあ、シエーラの西方か」と呟く。
私はお母様やレオ兄様のことを考え、私は居ても立っても居られないような焦燥感に駆られた。
「にぃ兄様!早くシエーラに帰りましょう。
お母様やレオ兄様が…」
「落ち着けって、クレメンティナ」
エルヴィーノ様が苦笑するように言って、私の肩を抱く。
「そんなに慌てなくて大丈夫だよ。
シエーラに累が及ぶことはないさ。
準備を整えて、ちゃんとした形で帰ろう。
な?セノフォンテ殿」
「はい、その通りです。
クレメンティナ、いましばらく待ってくれ。
必ず一緒に帰ろう」
エルヴィーノ様とにぃ兄様にこもごも言われ、私は不承不承、うなずいた。
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