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第五章 宮廷
20.説得
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振り向くと、豪華な椅子に腰かけたアレク様が可笑しそうに笑いながら私を見ていて、アレク様の存在を今まで全く忘れていた私たちは、慌てて深くお辞儀する。
「クラリッサおいで」
アレク様は私を手招きして、私が近づくと腰に手を回して引き寄せる。
反対の手を伸ばして私の頬に触れた。
「まったく…
無鉄砲なところはそなたの愛すべき素質だが、今回ばかりは許すわけにはいかぬな。
エルヴィーノがこの戦の大将を買って出た。
過日の南部の小競り合いで力量を試されたのが、許せないらしい。
あとは、クラリッサの実家であり、自分の伯父伯母であるステファネッリ家の領地だからっていうのもあるだろうな」
私の不服そうな顔を見て、くすっと笑い、頬をつついた。
「そんな顔するな。
副将兼参謀兼軍医としてオズワルドも同行するから、大丈夫だよ。
オズワルドはああ見えて、めちゃくちゃ頭の切れるやつだから。
エヴァンジェリスタ公爵も負けず嫌いだからな、息子の幼馴染であるエルヴィーノの活躍が面白くなかったんだろう。
わざわざ留学先のグレート・スカイルランド国から呼び戻して、この度の戦闘に参加させると言ってきた」
「そうよクレメンティナ、あなたがこのお城を出るなんて許される筈がないわ。
あなたは、ご愛妾ではなく、大公妃になられるのですよ。
先ほど、神と教皇様の御前で誓ったじゃないの。
シエーラのことは、エルヴィーノ様や私たちにお任せなさい。
裏切者のペデルツィーニなど、蹴散らしてやるわ!」
お母様が語気荒く言い、今度は皆、呆気にとられてお母様を見る。
アレク様もびっくりしたようにお母様を眺め、やがて呵々大笑した。
「いやはや、クラリッサの気質は、母上譲りか。
南部の女性は頼もしい。
安心して任せられるな」
お母様は額まで真っ赤になって深くお辞儀した。
「…恐れ入ります、陛下。
大変光栄に存じます」
「母上も家で大人しくなさっておいていただきたいですね」
「私どもにお任せいただきたい」
レオ兄様とにぃ兄様がこもごもに言い、お母様もさっきの私のように不満そうに黙り込む。
似てるのよねえ、こういうとこ…
自嘲とも感心ともつかない、複雑な思いで私はお母様を見た。
お母様の仰ることも判らないではないけれど、お母様ご自身だってその気でいらっしゃるじゃないの。
なら、私だって。
私は頬を愛しげに撫でるアレク様の手を振り払う。
「わたくしはシエーラに帰って、お母様とお義姉様とご一緒に、家と小作人と領地を守ります!
シエーラと南部地域を、ダリスカーナ大公国の大切な土地を、蛮族になど渡してたまるものですか。
それができないのなら大公妃になどならなくて結構ですわ。
一ご愛妾として、サン=バルロッテ館にでもおいていただければ、満足でございます」
「クレメンティナ!」
鋭い声が飛んできて、私は思わず身体を竦める。
にぃ兄様が珍しく(いえ初めてかもしれない)、怒りで顔を紅潮させて私を見ている。
「…その発言は撤回して、陛下に謝罪しなさい。
今すぐに!
陛下が、今日までどのような思いでここまでお見事に物事を運んでいらっしゃったか。
慎重かつ大胆に、誰も傷つけないように本当に細かいところまで心配りなさって…
それもこれも、全部クレメンティナのためだったん」
「よいよい、セノフォンテ。
そなたの気持ちも、余はよく理解しておるよ。
今回はさまざまな事情が複雑に絡み合っていて…余も慎重にならざるを得なかった。
それで、今日までまったくクラリッサには何も知らせずに来てしまったのだから、余にも非はある」
アレク様は優しく諭すように言うと、私を再び抱き寄せる。
「クラリッサの気持ちも少しは斟酌しないとなぁ。
あの場で急に妃になれと言われて、よくうなずいてくれた。
妃になったのだから実家に帰るなと言われても納得できないのは判るよ」
そう言って私の背を引き寄せて屈ませ、頬に口づけた。
「しかし、余のただ一人の女性になってくれないのは、余が困る。
他の女性を容認するような発言は、聴く俺が辛いからやめてくれ。
…エセルバートに相談してみよう」
最後は呟くように言って、立ち上がった。
「明日は、できるだけ見送りにでられるようにしよう。
今日はもう遅いから、皆休むがよい」
「クラリッサおいで」
アレク様は私を手招きして、私が近づくと腰に手を回して引き寄せる。
反対の手を伸ばして私の頬に触れた。
「まったく…
無鉄砲なところはそなたの愛すべき素質だが、今回ばかりは許すわけにはいかぬな。
エルヴィーノがこの戦の大将を買って出た。
過日の南部の小競り合いで力量を試されたのが、許せないらしい。
あとは、クラリッサの実家であり、自分の伯父伯母であるステファネッリ家の領地だからっていうのもあるだろうな」
私の不服そうな顔を見て、くすっと笑い、頬をつついた。
「そんな顔するな。
副将兼参謀兼軍医としてオズワルドも同行するから、大丈夫だよ。
オズワルドはああ見えて、めちゃくちゃ頭の切れるやつだから。
エヴァンジェリスタ公爵も負けず嫌いだからな、息子の幼馴染であるエルヴィーノの活躍が面白くなかったんだろう。
わざわざ留学先のグレート・スカイルランド国から呼び戻して、この度の戦闘に参加させると言ってきた」
「そうよクレメンティナ、あなたがこのお城を出るなんて許される筈がないわ。
あなたは、ご愛妾ではなく、大公妃になられるのですよ。
先ほど、神と教皇様の御前で誓ったじゃないの。
シエーラのことは、エルヴィーノ様や私たちにお任せなさい。
裏切者のペデルツィーニなど、蹴散らしてやるわ!」
お母様が語気荒く言い、今度は皆、呆気にとられてお母様を見る。
アレク様もびっくりしたようにお母様を眺め、やがて呵々大笑した。
「いやはや、クラリッサの気質は、母上譲りか。
南部の女性は頼もしい。
安心して任せられるな」
お母様は額まで真っ赤になって深くお辞儀した。
「…恐れ入ります、陛下。
大変光栄に存じます」
「母上も家で大人しくなさっておいていただきたいですね」
「私どもにお任せいただきたい」
レオ兄様とにぃ兄様がこもごもに言い、お母様もさっきの私のように不満そうに黙り込む。
似てるのよねえ、こういうとこ…
自嘲とも感心ともつかない、複雑な思いで私はお母様を見た。
お母様の仰ることも判らないではないけれど、お母様ご自身だってその気でいらっしゃるじゃないの。
なら、私だって。
私は頬を愛しげに撫でるアレク様の手を振り払う。
「わたくしはシエーラに帰って、お母様とお義姉様とご一緒に、家と小作人と領地を守ります!
シエーラと南部地域を、ダリスカーナ大公国の大切な土地を、蛮族になど渡してたまるものですか。
それができないのなら大公妃になどならなくて結構ですわ。
一ご愛妾として、サン=バルロッテ館にでもおいていただければ、満足でございます」
「クレメンティナ!」
鋭い声が飛んできて、私は思わず身体を竦める。
にぃ兄様が珍しく(いえ初めてかもしれない)、怒りで顔を紅潮させて私を見ている。
「…その発言は撤回して、陛下に謝罪しなさい。
今すぐに!
陛下が、今日までどのような思いでここまでお見事に物事を運んでいらっしゃったか。
慎重かつ大胆に、誰も傷つけないように本当に細かいところまで心配りなさって…
それもこれも、全部クレメンティナのためだったん」
「よいよい、セノフォンテ。
そなたの気持ちも、余はよく理解しておるよ。
今回はさまざまな事情が複雑に絡み合っていて…余も慎重にならざるを得なかった。
それで、今日までまったくクラリッサには何も知らせずに来てしまったのだから、余にも非はある」
アレク様は優しく諭すように言うと、私を再び抱き寄せる。
「クラリッサの気持ちも少しは斟酌しないとなぁ。
あの場で急に妃になれと言われて、よくうなずいてくれた。
妃になったのだから実家に帰るなと言われても納得できないのは判るよ」
そう言って私の背を引き寄せて屈ませ、頬に口づけた。
「しかし、余のただ一人の女性になってくれないのは、余が困る。
他の女性を容認するような発言は、聴く俺が辛いからやめてくれ。
…エセルバートに相談してみよう」
最後は呟くように言って、立ち上がった。
「明日は、できるだけ見送りにでられるようにしよう。
今日はもう遅いから、皆休むがよい」
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