106 / 172
第六章 シエーラの戦闘
6.ダイアナ様
しおりを挟む
晩夏の風が吹き抜ける窓辺に立っていたダイアナ様は、透き通るように白いお肌と、緩やかに風に舞う薄い生地のドレス、それに華奢で捉えどころのない雰囲気を醸し出していて、まるでこの世の者ならざる者のようだった。
ダイアナ様は「あら、陛下も…?」と驚いたように呟いて、慌ててお辞儀する。
エセルバート様がわははと空気を震わせて笑い「先程、使いの者がそう申しておりましたよ」と言った。
「まあ、そうだったかしら」
ダイアナ様は可愛らしく首を傾げる。
そして私の方へ近づいてきて、「今朝はごめんなさい。大事な時間をお邪魔してしまって」と申し訳なさそうに微笑んだ。
私は「とんでもないことでございます。わたくしのほうこそ、大変失礼を申し上げました」とお辞儀した。
「そんなに畏まらないでちょうだい。
わたくしは、あなたとお友達になりたいと思っているのだから」
ね?アレク様、とダイアナ様はアレク様を見上げてニコッと微笑む。
アレク様もダイアナ様を見下ろし、苦笑してうなずいた。
「意外と似ているみたいだから、仲良くなれるんじゃないか?」
ええ~?
私はお二人の会話の意味がまったく理解できず、困惑して立ち尽くす。
ダイアナ様と私が、お友達…??
昨夜、あんな風に国民の面前で婚姻の破棄を宣言されて、気を失いそうになっていたのに…
その後すぐに、私がお妃として、教皇様に祝福をいただいた。
そんな二人が、お友達になんて、なれるのかしら?
私がどうこうではなく、ダイアナ様の心情として。
「ほら、クラリッサが訳わかんないという顔してるぞ。
可哀想だから説明してやれよ」
くっくっと笑ってアレク様は私の肩を抱く。
ダイアナ様もくすくすと笑って、私の両手を取り、お茶と軽い食事の支度のしてあるテーブルへといざなった。
「一緒にいただこうと思って、里で流行っているというアフタヌーン・ティーを用意してみたの。
クラリッサのお菓子もあるのよ」
「里」って、グレート・スカイルランド国か…
あそこは、このダリスカーナ大公国に比肩する、現代文化の発祥の地よね。
王家ではなく、富豪で政治家の一家にお生まれだと、さっきアレク様から聞いた。
だからかな、名前だけ貴族の、思い切り庶民の私と肌感覚が合いそう。
「…と、あ、そうだわ。
その前にお礼を言わなくちゃね」
突然足を止めてダイアナ様はくるりと振り返り、美しいお辞儀を披露する。
「アレク様、この度は、離縁してくださってありがとうございました。
まさか本当に、こんなにうまくいくとは思っていなかったので、嬉しくて。
それから、クラリッサ。
アレク様のプロポーズに応えてくださってありがとう。
アレク様がお幸せになることがわたくしの願いだったから、あなたがアレク様を好きになってくださって安堵しましたわ」
…まったく、なにを、仰っているのか判らない。
どういう話なんだろうこれは。
ぼんやりと佇む私に、アレク様は爆笑する。
「ほら、クラリッサ。
とりあえず座ろう。
まったく、ダイアナの話術には毎回笑わされるなあ…
宮廷の重鎮たちの前でもこんなかんじだから、俺はいつも笑いをこらえるのが大変なんだよ」
椅子に腰かけて、ダイアナ様付きの執事が、手早く熱々のお茶を注いでくれる。
ダイアナ様はお茶を口に含んで、私の方を見てにこっと微笑む。
「最初から話すわね。
わたくしは、グレート・スカイルランド国、ヘザリントン家の出身です」
ヘザリントン家…
私は内心、息を呑む。
グレート・スカイルランド国のみならず、世界中を股にかけて商売する一族。
過去には何度か教皇様も出した、世界一の名門一族のお嬢様なんだ…
言うまでもなく、途方もないお金持ちで、世界中に領地があり、国のようになっているところもある。
「一応、本家の娘なのだけれど…
本当は長姉が、このダリスカーナ大公国へ嫁いでくるはずだったの。
だけど、長女、次女、三女のお姉様方は、その時々の国政や諸外国との関係によって、コロコロ嫁入り先を変えられて、それぞれ別の国や、国内の主だった貴族に嫁がされてしまって、四女のわたくしにお鉢が回ってきた」
ん~ああ~…
そういうこともあるだろうなあ、ここまでの重鎮であり富裕層だと…
ご当主も当然、国の中枢を担う政治家でいらっしゃるだろうし。
ダイアナ様はそこで小さくため息をつき、薄く切ったパーネで具材を挟んだ、不思議な食べ物を口に運んだ。
私の隣に陣取ったアレク様も同じものをパクパク食べて、思い出したように私の口にも入れる。
わあなんだろこれ…美味しい。
パーネがしっとりして、挟んである野菜やハムとすごく合う。
「わたくしは、幼いころからすごく好きな方がいて…
4~5歳のころに、お父様に命がけでお願いして、婚約者にしていただいたの」
命がけ?
首を傾げる私に、アレク様が苦笑いして言う。
「ハンストして、挙句に窓から飛び降りようとしたそうだ。
我が強いにもほどがあるよなあ、たった4~5歳で。
しかも理由が、好きな男と結婚したいって」
うわあ…
私はパーネを飲み込むことも忘れて、ダイアナ様をみつめた。
この嫋やかで華奢で美しいお嬢様に、そんな熱いお気持ちが秘められているなんて…
「クラリッサ、茶を飲め」
アレク様が甲斐甲斐しく、私の手元にカップを持ってくる。
そんなアレク様と私を見て、ダイアナ様はコロコロと笑った。
「まあ…アレク様がそんなふうに誰かの世話をお焼きになっていらっしゃるお姿、初めて拝見しましたわ。
本当にお好きでいらっしゃるのねえ」
感じ入ったような声に、私は赤くなってお茶を飲んだ。
もう…アレク様といい、エルヴィーノ様といい、何故私の世話を焼きたがるのか…
そんなに頼りないかなあ、私。
「彼は、わたくしの幼馴染のお兄様で、貴族でもあり都の中心にいる政治家のご子息なの。
わたくしの気持ちを、最初は疎ましく思っていらっしゃったのだけど、何年か経つうちに、次第に打ち解けてついには恋人になったの」
ダイアナ様の話は続く。
ダイアナ様は「あら、陛下も…?」と驚いたように呟いて、慌ててお辞儀する。
エセルバート様がわははと空気を震わせて笑い「先程、使いの者がそう申しておりましたよ」と言った。
「まあ、そうだったかしら」
ダイアナ様は可愛らしく首を傾げる。
そして私の方へ近づいてきて、「今朝はごめんなさい。大事な時間をお邪魔してしまって」と申し訳なさそうに微笑んだ。
私は「とんでもないことでございます。わたくしのほうこそ、大変失礼を申し上げました」とお辞儀した。
「そんなに畏まらないでちょうだい。
わたくしは、あなたとお友達になりたいと思っているのだから」
ね?アレク様、とダイアナ様はアレク様を見上げてニコッと微笑む。
アレク様もダイアナ様を見下ろし、苦笑してうなずいた。
「意外と似ているみたいだから、仲良くなれるんじゃないか?」
ええ~?
私はお二人の会話の意味がまったく理解できず、困惑して立ち尽くす。
ダイアナ様と私が、お友達…??
昨夜、あんな風に国民の面前で婚姻の破棄を宣言されて、気を失いそうになっていたのに…
その後すぐに、私がお妃として、教皇様に祝福をいただいた。
そんな二人が、お友達になんて、なれるのかしら?
私がどうこうではなく、ダイアナ様の心情として。
「ほら、クラリッサが訳わかんないという顔してるぞ。
可哀想だから説明してやれよ」
くっくっと笑ってアレク様は私の肩を抱く。
ダイアナ様もくすくすと笑って、私の両手を取り、お茶と軽い食事の支度のしてあるテーブルへといざなった。
「一緒にいただこうと思って、里で流行っているというアフタヌーン・ティーを用意してみたの。
クラリッサのお菓子もあるのよ」
「里」って、グレート・スカイルランド国か…
あそこは、このダリスカーナ大公国に比肩する、現代文化の発祥の地よね。
王家ではなく、富豪で政治家の一家にお生まれだと、さっきアレク様から聞いた。
だからかな、名前だけ貴族の、思い切り庶民の私と肌感覚が合いそう。
「…と、あ、そうだわ。
その前にお礼を言わなくちゃね」
突然足を止めてダイアナ様はくるりと振り返り、美しいお辞儀を披露する。
「アレク様、この度は、離縁してくださってありがとうございました。
まさか本当に、こんなにうまくいくとは思っていなかったので、嬉しくて。
それから、クラリッサ。
アレク様のプロポーズに応えてくださってありがとう。
アレク様がお幸せになることがわたくしの願いだったから、あなたがアレク様を好きになってくださって安堵しましたわ」
…まったく、なにを、仰っているのか判らない。
どういう話なんだろうこれは。
ぼんやりと佇む私に、アレク様は爆笑する。
「ほら、クラリッサ。
とりあえず座ろう。
まったく、ダイアナの話術には毎回笑わされるなあ…
宮廷の重鎮たちの前でもこんなかんじだから、俺はいつも笑いをこらえるのが大変なんだよ」
椅子に腰かけて、ダイアナ様付きの執事が、手早く熱々のお茶を注いでくれる。
ダイアナ様はお茶を口に含んで、私の方を見てにこっと微笑む。
「最初から話すわね。
わたくしは、グレート・スカイルランド国、ヘザリントン家の出身です」
ヘザリントン家…
私は内心、息を呑む。
グレート・スカイルランド国のみならず、世界中を股にかけて商売する一族。
過去には何度か教皇様も出した、世界一の名門一族のお嬢様なんだ…
言うまでもなく、途方もないお金持ちで、世界中に領地があり、国のようになっているところもある。
「一応、本家の娘なのだけれど…
本当は長姉が、このダリスカーナ大公国へ嫁いでくるはずだったの。
だけど、長女、次女、三女のお姉様方は、その時々の国政や諸外国との関係によって、コロコロ嫁入り先を変えられて、それぞれ別の国や、国内の主だった貴族に嫁がされてしまって、四女のわたくしにお鉢が回ってきた」
ん~ああ~…
そういうこともあるだろうなあ、ここまでの重鎮であり富裕層だと…
ご当主も当然、国の中枢を担う政治家でいらっしゃるだろうし。
ダイアナ様はそこで小さくため息をつき、薄く切ったパーネで具材を挟んだ、不思議な食べ物を口に運んだ。
私の隣に陣取ったアレク様も同じものをパクパク食べて、思い出したように私の口にも入れる。
わあなんだろこれ…美味しい。
パーネがしっとりして、挟んである野菜やハムとすごく合う。
「わたくしは、幼いころからすごく好きな方がいて…
4~5歳のころに、お父様に命がけでお願いして、婚約者にしていただいたの」
命がけ?
首を傾げる私に、アレク様が苦笑いして言う。
「ハンストして、挙句に窓から飛び降りようとしたそうだ。
我が強いにもほどがあるよなあ、たった4~5歳で。
しかも理由が、好きな男と結婚したいって」
うわあ…
私はパーネを飲み込むことも忘れて、ダイアナ様をみつめた。
この嫋やかで華奢で美しいお嬢様に、そんな熱いお気持ちが秘められているなんて…
「クラリッサ、茶を飲め」
アレク様が甲斐甲斐しく、私の手元にカップを持ってくる。
そんなアレク様と私を見て、ダイアナ様はコロコロと笑った。
「まあ…アレク様がそんなふうに誰かの世話をお焼きになっていらっしゃるお姿、初めて拝見しましたわ。
本当にお好きでいらっしゃるのねえ」
感じ入ったような声に、私は赤くなってお茶を飲んだ。
もう…アレク様といい、エルヴィーノ様といい、何故私の世話を焼きたがるのか…
そんなに頼りないかなあ、私。
「彼は、わたくしの幼馴染のお兄様で、貴族でもあり都の中心にいる政治家のご子息なの。
わたくしの気持ちを、最初は疎ましく思っていらっしゃったのだけど、何年か経つうちに、次第に打ち解けてついには恋人になったの」
ダイアナ様の話は続く。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ
Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。
理由は決まって『従妹ライラ様との用事』
誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。
「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」
二人の想いは、重なり合えるのだろうか ……
※他のサイトにも公開しています。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
昭和生まれお局様は、異世界転生いたしましたとさ
蒼あかり
ファンタジー
局田舞子(つぼたまいこ)43歳、独身。
とある事故をきっかけに、彼女は異世界へと転生することになった。
どうしてこんなことになったのか、訳もわからぬままに彼女は異世界に一人放り込まれ、辛い日々を過ごしながら苦悩する毎日......。
など送ることもなく、なんとなく順応しながら、それなりの日々を送って行くのでありました。
そんな彼女の異世界生活と、ほんの少しのラブロマンスっぽい何かを織り交ぜながらすすむ、そんな彼女の生活を覗いてみませんか?
毎日投稿はできないと思います。気長に更新をお待ちください。
私は私で幸せになりますので
あんど もあ
ファンタジー
子爵家令嬢オーレリーの両親は、六歳年下の可憐で病弱なクラリスにかかりっきりだった。
ある日、クラリスが「オーレリーが池に落ちる夢を見た」と予言をした。
それから三年。今日オーレリーは、クラリスの予言に従い、北の果ての領地に住む伯爵令息と結婚する。
最後にオーレリーが皆に告げた真実とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる