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第六章 シエーラの戦闘
7.ダイアナ様とアレク様
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「だけど、わたくしの18歳の誕生日のパーティの席で、お父様が突然、わたくしのダリスカーナ大公国への輿入れが決まったと発表なさって…
わたくしも彼も寝耳に水だったので、とても驚いたわ。
わたくしは、輿入れの当日まで抵抗して抵抗して、一度は彼と逃げようかと相談したのだけど、厳重な見張りがついていてそれもできなくて」
悲しそうというよりは怒っているような悔しそうな表情で、ダイアナ様は焼き菓子をがりっとかじる。
わ…結構な、お転婆お嬢様なのね…
しかし、どこのお嬢様も恋をすると大胆になるものね。
私やお館様は、ヴァネッサの駆け落ちを阻止することはできなかったけれど、流石は政治家大富豪一家。
きっちり輿入れさせたんだわ。
まあ、ダイアナ様も、そこまで迷惑かけられないという責任感はあったでしょうけど。
「無理矢理ダリスカーナ大公国へ送られて、わたくしは、絶対に夫となる方には心も身体も許さないと、彼にも自分自身にも誓ったの。
病弱を装って、お世継ぎが生まれなければ、大公様に嫌われて一人静かに宮殿の片隅で暮らせると思って。
彼は優秀な役人でもあったから、外交官としてダリスカーナに赴任できるよう、申請することにしたの」
すごいなぁ…
私はお二人の想いの深さ、絆の強さに感動した。
ダイアナ様は、顔を上げて私を見つめて、ニコッと笑う。
その無邪気な可愛らしい笑顔に、年下で女性の私でもキュンとしてしまう。
「だけど、わたくしみたいな小娘のそんな稚拙な戦略は、慧眼のアレク様にあっという間に見抜かれてしまって。
アレク様はわたくしの気持ちを理解してくださって、それどころか援助を申し出てくださった。
初夜の時点で、わたくしとアレク様の間には密約が結ばれ、わたくしとアレク様は同志となった」
人払いがされていたのか、給仕をしていた執事がいつの間にかいなくなっていた。
私はお茶を淹れなおそうとアレク様の手を肩から外して立ち上がった。
ダイアナ様とアレク様の前に温め直したカップを置き、少し冷めて熱々とはいかないけれどまだ十分温かいお茶を注ぐ。
ダイアナ様はちょっと驚いたように目を瞠り、反対にアレク様は目を細めて私を眺める。
「…ありがとう。
アレク様が、クラリッサという人は、いろんな意味で底が知れないって仰っていたけれど、本当にそうね。
引き出しがたくさんありそうで、羨ましいわ」
「いえ、とんでもない。そのようなことはありませんわ。
大公国の南の果ての田舎貴族で貧乏育ちなので、アレク様やダイアナ様がご存知ない生活をしていたというだけのことで」
「我が国の南の果ての田舎貴族でも、このように教養深く品のある人材がきちんと育っているというのは、大公たる余としても、誠に心強く頼もしく思う」
急にアレク様は威厳のある態度と言葉で重々しく言う。
「さようでございます、陛下」
畏まってダイアナ様も答え、お二人は顔を見合わせてふふっと笑った。
私はなんとなく釈然としない思いで席に戻る。
「アレク様は、最初、わたくしが病弱で子供ができないから離婚するというシナリオを考えてくださった。
だけど、理由がそれだけでは国をまたいだ結婚を破棄することは難しくて。
世界中にいる親戚縁戚の中から養子を迎えて、後継者とするのは普通のことだし。
強大な大国である、ダリスカーナ大公国の後嗣なら、誰でも喜んでなるでしょう」
ダイアナ様がそう言ってお茶を口に含むと、アレク様がお菓子を手に取ってひとくち大に割り、私の口に入れながら話を引き取る。
「俺の我儘でダイアナが気に入らず、どうしても俺の血を引いた子が欲しいから公妾に後継ぎを産ませるという名目で、国内の各地から愛妾候補を募ることにした。
俺としちゃ別に後継ぎなんてどうでも良かった。
公妾を決めても、正直なところ子供を設ける気なんてなかった。
権力に取り付かれた化け物みたいな大貴族たちに、良いように扱われて傀儡にされるだけだ。
この国はもう終わってる。
俺はそう、思っていた」
寂しげな口調で話すアレク様の瞳は昏く、私は胸を衝かれた。
アレク様ご自身が、そうだったってこと…?
「宰相は幼いころから俺のじいやみたいな存在で、亡き父上とも信頼関係があった。
宰相だけは俺の味方だった。
だけどあの人、良い人過ぎるんだよなあ…政治はからきしだし。
大貴族に簡単に丸め込まれちまう。
公妾の子でも正式に嫡子になれるように、教皇にずいぶん働きかけてくれたんだが…
やっぱり教義を曲げることはおいそれとはできないって言われて」
「続々と愛妾候補が地方から集まってきて、だけどどれもイマイチで…
どうせ愛せないのだから誰でもいいと言いながら、俺もどっか期待してたんだろうな。
何もかも思い通りに行かなくて、もう全部投げ出したくなってしまって。
幼馴染で親友のエルヴィーノが苦戦している山賊討伐に気晴らしに行って、クラリッサ、お前に出会った」
ん?私?
アレク様が次々に口に入れるお菓子をなんとか飲み下そうとしていた私は、アレク様の顔を見る。
アレク様はくすっと笑って手を伸ばし、私の膨らんでいる頬をちょんとつつく。
「お前のお陰で、俺とダイアナは今、ここでこうして笑っていられるんだよ」
わたくしも彼も寝耳に水だったので、とても驚いたわ。
わたくしは、輿入れの当日まで抵抗して抵抗して、一度は彼と逃げようかと相談したのだけど、厳重な見張りがついていてそれもできなくて」
悲しそうというよりは怒っているような悔しそうな表情で、ダイアナ様は焼き菓子をがりっとかじる。
わ…結構な、お転婆お嬢様なのね…
しかし、どこのお嬢様も恋をすると大胆になるものね。
私やお館様は、ヴァネッサの駆け落ちを阻止することはできなかったけれど、流石は政治家大富豪一家。
きっちり輿入れさせたんだわ。
まあ、ダイアナ様も、そこまで迷惑かけられないという責任感はあったでしょうけど。
「無理矢理ダリスカーナ大公国へ送られて、わたくしは、絶対に夫となる方には心も身体も許さないと、彼にも自分自身にも誓ったの。
病弱を装って、お世継ぎが生まれなければ、大公様に嫌われて一人静かに宮殿の片隅で暮らせると思って。
彼は優秀な役人でもあったから、外交官としてダリスカーナに赴任できるよう、申請することにしたの」
すごいなぁ…
私はお二人の想いの深さ、絆の強さに感動した。
ダイアナ様は、顔を上げて私を見つめて、ニコッと笑う。
その無邪気な可愛らしい笑顔に、年下で女性の私でもキュンとしてしまう。
「だけど、わたくしみたいな小娘のそんな稚拙な戦略は、慧眼のアレク様にあっという間に見抜かれてしまって。
アレク様はわたくしの気持ちを理解してくださって、それどころか援助を申し出てくださった。
初夜の時点で、わたくしとアレク様の間には密約が結ばれ、わたくしとアレク様は同志となった」
人払いがされていたのか、給仕をしていた執事がいつの間にかいなくなっていた。
私はお茶を淹れなおそうとアレク様の手を肩から外して立ち上がった。
ダイアナ様とアレク様の前に温め直したカップを置き、少し冷めて熱々とはいかないけれどまだ十分温かいお茶を注ぐ。
ダイアナ様はちょっと驚いたように目を瞠り、反対にアレク様は目を細めて私を眺める。
「…ありがとう。
アレク様が、クラリッサという人は、いろんな意味で底が知れないって仰っていたけれど、本当にそうね。
引き出しがたくさんありそうで、羨ましいわ」
「いえ、とんでもない。そのようなことはありませんわ。
大公国の南の果ての田舎貴族で貧乏育ちなので、アレク様やダイアナ様がご存知ない生活をしていたというだけのことで」
「我が国の南の果ての田舎貴族でも、このように教養深く品のある人材がきちんと育っているというのは、大公たる余としても、誠に心強く頼もしく思う」
急にアレク様は威厳のある態度と言葉で重々しく言う。
「さようでございます、陛下」
畏まってダイアナ様も答え、お二人は顔を見合わせてふふっと笑った。
私はなんとなく釈然としない思いで席に戻る。
「アレク様は、最初、わたくしが病弱で子供ができないから離婚するというシナリオを考えてくださった。
だけど、理由がそれだけでは国をまたいだ結婚を破棄することは難しくて。
世界中にいる親戚縁戚の中から養子を迎えて、後継者とするのは普通のことだし。
強大な大国である、ダリスカーナ大公国の後嗣なら、誰でも喜んでなるでしょう」
ダイアナ様がそう言ってお茶を口に含むと、アレク様がお菓子を手に取ってひとくち大に割り、私の口に入れながら話を引き取る。
「俺の我儘でダイアナが気に入らず、どうしても俺の血を引いた子が欲しいから公妾に後継ぎを産ませるという名目で、国内の各地から愛妾候補を募ることにした。
俺としちゃ別に後継ぎなんてどうでも良かった。
公妾を決めても、正直なところ子供を設ける気なんてなかった。
権力に取り付かれた化け物みたいな大貴族たちに、良いように扱われて傀儡にされるだけだ。
この国はもう終わってる。
俺はそう、思っていた」
寂しげな口調で話すアレク様の瞳は昏く、私は胸を衝かれた。
アレク様ご自身が、そうだったってこと…?
「宰相は幼いころから俺のじいやみたいな存在で、亡き父上とも信頼関係があった。
宰相だけは俺の味方だった。
だけどあの人、良い人過ぎるんだよなあ…政治はからきしだし。
大貴族に簡単に丸め込まれちまう。
公妾の子でも正式に嫡子になれるように、教皇にずいぶん働きかけてくれたんだが…
やっぱり教義を曲げることはおいそれとはできないって言われて」
「続々と愛妾候補が地方から集まってきて、だけどどれもイマイチで…
どうせ愛せないのだから誰でもいいと言いながら、俺もどっか期待してたんだろうな。
何もかも思い通りに行かなくて、もう全部投げ出したくなってしまって。
幼馴染で親友のエルヴィーノが苦戦している山賊討伐に気晴らしに行って、クラリッサ、お前に出会った」
ん?私?
アレク様が次々に口に入れるお菓子をなんとか飲み下そうとしていた私は、アレク様の顔を見る。
アレク様はくすっと笑って手を伸ばし、私の膨らんでいる頬をちょんとつつく。
「お前のお陰で、俺とダイアナは今、ここでこうして笑っていられるんだよ」
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