身代わり愛妾候補の逃亡顛末記

Dry_Socket

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第六章 シエーラの戦闘

8.報告

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 「教皇も、俺がクラリッサを愛妾ではなく本気で結婚したいと思ってるのが判ったときから、協力者になってくれた。
 今まではただ説教臭いオヤジだと思っていたが…案外話の判るやつだったわ」
 乾燥ドライ無花果を口に入れて、アレク様は面白くもなさそうに言った。
 教皇様をオヤジ呼ばわり…私は開いた口が塞がらない。
 本当に、この国の頂点、ヒエラルキーのトップにいる方なんだわ。

 しかし、昨日のパーティで、アレク様が私にプロポーズしてくださったとき、周りの人たちがなんだか挙動不審だった理由が判った気がした。
 事前にアレク様が根回ししていて(言い方悪いけど)、ダイアナ様やエルヴィーノ様のお兄様を含めて、あのバルコニーにいた人みんながグルだったんだ…(言い方悪いけど)。

 「だ、けど…昨夜、ダイアナ様は本当に具合がお悪そうで…」
 「そうなのよ、昨日は気合入れ過ぎて、オズワルドにいっぱい血を抜いてもらっちゃったのよね。
 貧血で、本当に具合悪くなっちゃったわ」
 瀉血の跡が残る腕をさすりながら、ダイアナ様はお茶目に笑う。
 あ…なんだぁ、とても心配したのに。

 でも、ダイアナ様って本来非常に明るくて、嫋やかな外見に似ず熱い思いを胸に秘めた情熱的な方なんだわ。
 しかもすごい演技派。
 
 「あとは、ダイアナが頑張る番だな」
 笑いを含んだ口調で言い、アレク様はダイアナ様をみつめる。
 ダイアナ様も心持ち真剣な瞳で、少し背を伸ばしてうなずいた。
 「アレク様のバイタリティには適わないけれど、わたくしだってグレート・スカイルランドのダイアナ・ヘザリントンよ。
 絶対に認めさせてみせるわ」

 大きな美しい碧眼を宝石のようにきらめかせて、ダイアナ様は言い切る。
 アレク様はくっくっと笑って「楽しみにしているよ」と言った。
 「ダイアナは俺以上に突っ走るからな、正面突破だけが方法じゃないぞ」
 「判ってるわ」
 楽しそうに言いあうお二人に、私はまた何かモヤモヤした思いを抱いて、急いで打ち消す。

 「さて、ダイアナも国に帰る準備するんだろ。
 エセルバートもやっと仕事ができるなぁ。
 あの人の食費だけで国庫が空になりそうだったからな」
 アレク様は皮肉っぽく笑い、ダイアナ様もくすくす笑ってうなずいた。

 エセルバート様の仕事?
 首を傾げていると、アレク様は私を斜めに見下ろして言う。
 「昨年か?
 俺がちょっと大貴族たちとやりあってしまって宮廷内が不穏な空気になったとき、俺の身の安全を危惧したダイアナが祖国から俺の剣の師のエセルバートを呼んだんだ。
 エセルバートもちょうど手が空いてると言って来てくれて、それだけでいざこざは治まった。
 それからは俺とダイアナの計画を知って、ダイアナがグレート・スカイルランドに帰るときに護衛するって居座ってたんだ」

 言いながら窓の外を眺め「風が夕方に変わってきたな」と目を細めた。
 「そろそろ、報告も上がってくるころか…」
 アレク様は呟いて私の方を向く。
 「いっぱい食べたか?
 アフタヌーンティーとは面白いものだなぁ、これから我が国にも普及させよう」

 そう言いながら私の頬を撫でて「今日も晩餐会だよ、愛妾候補たちのフェアウェル・パーティだとさ。それから、クラリッサがヴァラリオーティの養女になったお祝い」と言って頬にキスした。
 「ひたすら面倒くさいだけだった毎晩のパーティも、クラリッサがいてくれると思えばいくらか楽しくなるな」
 私はふいうちのようなキスに慌てて顔を逸らす。
 
 「まあ、仲のお宜しいこと。
 わたくしも早く、彼に会いたいわ」
 「今夜、来るんじゃないのか?」
 アレク様が訊くと、ダイアナ様は白い頬をぽっと染めてうなずいた。
 
 あまりのキュートさに、ぼーっと眺めていると慌ただしくドアがノックされた。
 「失礼申し上げます、エセルバートでございます」
 「入れ、どうした」

 アレク様の短い言葉が終わる間もなくドアが開けられて、エセルバート様の大きな体躯が部屋に飛び込んできた。
 土埃まみれの甲冑をつけたままの兵士の腕をつかみ、引きずるようにして連れている。
 「お話中、申し訳ありません!
 アレク様に、シエーラのご報告が…」

 雷のように響く大声でそう言って私とダイアナ様をちらっと見る。
 「よし判った、移動しよう」
 「わたくしも!聞かせてください!」
 私は必死で声を上げる。

 いつも豪放で磊落なエセルバート様の様子がただ事ではない。
 嫌な感じに打つ心臓の鼓動に、私は不安を覚えながら思わず声を上げた。
 
 シエーラに何が…?


 
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