身代わり愛妾候補の逃亡顛末記

Dry_Socket

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第七章 焦土

13.レオ兄様の報告

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 アレク様は天幕の外に飛び出して行き、私たちも続く。
 高台の端まで走って行って見おろしたシエーラの大地には幾筋もの黒煙が上がり、遠くドォーンと音が聞こえ硝煙の臭いが秋の爽やかな風に乗って漂ってくる。

 「っ!くそっ!何で!」
 アレク様は焦燥を顔ににじませ、小さく毒づく。

 それから背後を振り返って「出陣する!」と短く言ってすたすたと天幕の方へ戻っていく。
 「アレクはここにいてくれ、まだ状況が把握できてない!」
 「そうです、ここはまだ私たちにお任せください!」
 エルヴィーノ様とにぃ兄様がアレク様の背中に向かって叫ぶが、アレク様は聞く耳を持たず天幕の入り口に控えていた衛兵を突き飛ばす勢いで中に入った。

 「もう、報告ばかり聞き飽きた!
 何をどう言ったってあのペデルツィーニは聞きやしないんだ。
 ペデルツィーニが望むから、俺は心臓が捩れるような思いでクレメンティナを交渉に行かせたのに。
 ここで待っている間、どんな思いでいたと思う?」
 エルヴィーノ様やにぃ兄様を睨むように見据えて、アレク様は恫喝する。
 お二方はぐっと拳を握りしめて黙ってしまう。

 「アレク様、落ち着いてくださいませ。
 エルヴィーノ様と兄にそんなことおっしゃられても、お二人ともお困りになるだけですわ。
 交渉は、わたくしが行きたいと我儘を申したのでございます。
 上手に交渉できず、こんな結果になってしまって申し訳ありません」
 私が急いで謝ると、アレク様は私を見て無言で手を伸ばし、ぎゅっと抱きしめた。

 「そなたのせいではない。
 堪忍袋の緒が切れたってやつだ。
 俺を本気で怒らせたんだよ、あのペデルツィーニは。
 このアレッサンドロを怒らせたらどうなるか、見せてやる」
 低く言って私を離し、参謀長に向かって命じる。

 「諸侯の援軍が到着し始めている。
 先ほどの会議の通り、新たに到着した者たちを入れて隊を編成しなおせ。
 すぐに出陣するぞ!」
 
 はっ!という気合に入った声を上げて、参謀長ほかの重鎮たちが外へ駆けだしていく。
 隊長クラスの兵士に招集をかける大きな声が響いてきた。

 そこへまた別の斥候が報告に来た。
 「申し上げます!
 ステファネッリ子爵様のお越しでございます!」

 「レオンツィオ兄だ。
 通してください」
 にぃ兄様が急いで言い、私はレオ兄様に会えるのだと嬉しくて、一歩、前に出る。

 「失礼いたします」
 レオ兄様の大きな声が聞こえ、アレク様が「入れ」というのと同時にばさっと天幕の入り口が開いて、レオ兄様の巨躯が入ってきた。

 レオ兄様とエセルバート様が並ぶと、天幕が急に狭くなったように感じ、私は無意識にアレク様に寄り添う。
 アレク様は私の肩を抱いて「ご苦労だった」とねぎらった。

 レオ兄様は私の方を見てほんの僅か頬を緩め、また厳しい表情になってアレク様に向かってお辞儀をした。
 「大公陛下、妃陛下におかれましてはシエーラへお越しになってくださったこと、幸甚に存じます。
 大公陛下、並びに隊長殿にご報告申し上げます」

 「許す。話せ」
 「はっ。
 今朝、停戦交渉のために一時的に攻撃が止み、私どもも領主館から少し離れて様子を伺っておりました。
 女性や子供たちが解放された様子で、私の部下が幾人か、敵に判らないように護衛していきました」

 「約束の刻限前にまた領主館やその他の敵の拠点から突然、攻撃が始まり、味方に少し損失が出た模様です。
 私どもは敵の武器を破損するべく近づきましたが…何というのか、自暴自棄と申しますか破れかぶれと言うか…
 ありったけの砲弾や火矢を使い切ってしまうのかと思われるくらいのやけっぱちともいえる攻撃でした」

 「そうか…
 まずいな、全滅するまで戦うつもりか」
 アレク様は苦い表情で呟く。
 「こちらの被害がじわじわと広がっています。
 領主館から少し離れた場所まで後退させられています」

 「判った。
 こちらも戦術を変えよう。
 エルヴィーノ、セノフォンテ、何とか領主館に近づいてペデルツィーニに投降を促そう。
 白兵戦になるだろう。
 中隊を4つ、小隊を6つ配置する。
 小隊は騎馬兵中心、中隊は弓兵と歩兵で援護する」
 「判った」
 「畏まりました」
 
 エルヴィーノ様とにぃ兄様は同時に答え、作戦の変更を伝えに出て行った。
 「ご苦労だった。
 レオンツィオ、そなたに頼みたいことがある」
 「はっ」

 アレク様は私をちらっと見て少し笑って口を開く。
 「俺はこれからエルヴィーノやセノフォンテと一緒に出陣する。
 そなたはこの…可愛い人を見張っていてくれないか。
 逃亡してしまわないように」

 「畏まりました」
 「えっ、わたくしも行きます!」
 レオ兄様と私は同時に答え、アレク様とレオ兄様は顔を見合わせて苦笑する。

 「こういう人だから。ホント目が離せないよな。
 俺が戻るまで頼むからおとなしくしていろよ。
 勝手に抜け出したりしたら、レオンツィオを罰するからな」
 うっ…
 さすがアレク様。
 私の一番弱いところを的確に衝いてくる。

 口をへの時に曲げて黙りこむ私を見て、アレク様は可笑しそうに笑って私の額に口づけた。
 「武運を祈ってて。
 すぐに戻る」
 
 
 
 
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