身代わり愛妾候補の逃亡顛末記

Dry_Socket

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第七章 焦土

14.出陣

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 エルヴィーノ様とにぃ兄様が戻ってくるとすぐにアレク様も甲冑を着こむ。
 バシネット越しの鋭い双眸は宙を睨み据え、天幕も丘も畑も越えて領主館にいるペデルツィーニを見ているようだ。
 甲冑を身にまとって更に大きくなったエセルバート様と並ぶと、アレク様の細い身体はエセルバート様の横幅の半分くらいしかない。
 
 エルヴィーノ様とオズヴァルド様も甲冑に身を包み、天幕の外へ集合した。
 「え、にぃ兄様も…?」
 私は、真新しくピカピカの甲冑を着たにぃ兄様を見て驚愕する。
 
 「私も首都ピストリアで兵士の訓練を、少しだけど受けたんだ。
 クレメンティナほど本格的ではないけれど、兄上よりはマシだと思う。
 それにシエーラの正当な領主である兄上をお援けするのが、次男たる私の役目だから」
 にぃ兄様は真摯な表情と口調で言い、レオ兄様と私はうなずいた。

 私たちは、それぞれの立場は変わっても、ここシエーラのステファネッリ子爵家の子供たちだ。
 いつまでも、それは変わらない。
 お父様とお母様の子供であることに誇りをもって生きて行かなければ。

 「そんなに心配しなくても大丈夫さ。
 セノフォンテには、オレと一緒に後方支援に回ってもらう。
 どうせアレクとエルヴィーノは最前線に飛び出して行っちまうんだ。
 刻々と変わる状況の分析と作戦の変更には、セノフォンテが不可欠だ」
 オズヴァルド様が苦笑とも嘆息ともつかない口調で言う。

 「準備が整いました。
 陛下、号令をお願い申し上げます」
 陸軍の大将が畏まってアレク様に奏上する。

 アレク様はうなずき、その場にいた皆は一斉に軍馬に飛び乗る。
 「じゃあ、行ってくる。
 絶対にここを動くなよ。
 レオンツィオ、頼んだぞ」
 
 アレク様はどこか不安そうにレオ兄様に言い、レオ兄様は「畏まりました、お任せください」と膝を折る。
 私はアレク様を見上げ、両手を胸の前で握りしめて「…ご武運を」と言葉を絞り出した。

 アレク様は降ろしたバシネットの奥で目を笑わせ、軽くうなずくと手綱を操って先頭に立って馬を歩ませる。
 エルヴィーノ様、エセルバート様、そしてオズヴァルド様とにぃ兄様が続いた。

 私は馬の後ろについて走り出す。
 慌てたようにレオ兄様がついてきた。

 高台の縁まで来ると、アレク様は眼下の大地に集結した兵たちに向かって大きな声を上げる。
 「皆!機は熟した!
 一気に叩き潰すぞ!」
 
 おーっ!と兵士たちは鬨の声を上げ、喇叭ラッパの音と共に行軍が始まった。
 歩兵の先遣部隊が、大型の兵器を移動して設置し始めているという。

 「クレメンティナ、天幕へ戻れ!」
 最後に大きな声で言うと、アレク様は跑足だくあしで走り出し、皆はあっという間にそこから去って行った。

 「…さ、行こう。
 あまり陛下にご心配かけてはいけないよ」
 そこからなかなか動こうとしない私を見かねて、レオ兄様は叱咤するように促す。
 私はしぶしぶ、後ろ髪引かれる思いでその場を後にした。

 アレク様、エルヴィーノ様、にぃ兄様…
 どうかご無事で!
 
 
 
 
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