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第八章 領主館
3.ペデルツィーニの最期
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エルヴィーノ様とアレク様は訝しげに顔を見合わせる。
そこへ「アレク様!」と大きな声が聞こえ、巨体がのしのしと結構な速さで近づいてきた。
「お加減はいかがですか」
私たちの前に立ったエセルバート様は、心配そうな顔で言った。
私を見ても驚く様子はなかった。
「大丈夫だ、俺よりあなたの方が心配だが…」
私の肩を抱いたまま、アレク様はエセルバート様の巨躯を見上げて苦笑する。
エセルバート様の甲冑は、血まみれ脂まみれで、凄惨な戦場の有様をそのまま体現しているようだった。
「それより、どうしたのですか、そんなに慌てて。
領主館に何か」
エセルバート様が答えるより早く、エルヴィーノ様が皆の疑問をぶつけた。
エセルバート様は「おお、そうだ」と言ってアレク様とエルヴィーノ様に向かって話し始める。
「領主館と隣国に放ってあった斥候から相次いで報告が入りました。
隣国の国軍が、ペデルツィーニ並びに隣国の領主の討伐に乗り出したようです。
もうすぐそこにまで来ているらしい。
たった今の、停戦を呼び掛けるラッパの音は、それに関連していると思われます」
眉根を寄せ、真剣な表情で話すエセルバート様の言葉に驚いていると、領主館の方、高台下の戦場から兵士たちのどよめきが聞こえてきた。
私たちは馬に飛び乗り、砲撃の止んだ戦場に向かって一気に駆け下りていった。
両軍の大旗が下げられ、停戦状態であることを示している。
領主館正面の大きなバルコニー(今は殆ど壊されている)に、隣国の領主バルベルデがペデルツィーニの首に手を回し、引っ立てるようにして姿を現していた。
後ろにいる兵が大きな白い布を掲げている。
ペデルツィーニの顔は腫れて紫色になっていて、憤怒の表情を浮かべているが両手両足を拘束されているようで、もがきつつも身体の自由はなさそうだ。
ペデルツィーニの隣にいるのは、これも後ろ手に縛られているヴァネッサだった。
「ラ・カドリナ国国軍隊長殿!
私ことビトリア=ガンティス州の領主、バルベルデが申し上げる!
この蜂起は、ダリスカーナ大公国の侯爵ヴァラリオーティと、シエーラの領主ペデルツィーニの企んだことで、私ことバルベルデはこの二人に騙されたのに過ぎぬのであります!」
口角泡を飛ばしながら叫ぶバルベルデの顔色は真っ青で、目には狂気が宿っているようだった。
「なんだありゃあ…
どこまでも自分の保身しか考えてないなあの男は。
ラ・カドリナの国軍が来ていると知って、味方を差し出すつもりか」
バカにしたようにエルヴィーノ様が呟く。
私はヴァネッサが心配で居てもたってもいられない心持ちだった。
今すぐに駆けだしたいのだけど、アレク様が私の愛馬にぴったりと馬を寄せ、私の手綱を掴んでいて身動きが取れない。
バルベルデはそこでペデルツィーニをグイっと引き寄せ、顎の下に剣を当てた。
「ヴァラリオーティは途中で卑怯にも逃げ出してしまったので、この悪の張本人とその娘を捧げる!
このシエーラの土地も、ラ・カドリナの領地として差し上げる!」
「何をくだらない。
停戦は終わりだ、攻撃を再開するぞ。
ラ・カドリナの国軍とは話をつけなければ」
アレク様の言葉に、エルヴィーノ様がうなずいた。
「俺がいく」
「私も行きます」
にぃ兄様も言った。
「ヴァラリオーティの息子として、話をつけてきます」
その時「お父様!」というヴァネッサの声が響き渡った。
はっとしてバルコニーに目を遣ると、ペデルツィーニがどうやってかバルベルデから剣を奪い、バルベルデの喉に思い切り突き刺した。
渾身の力を込めて引き抜くと、血飛沫が喉から噴き出す。
「ふざけるな、どいつもこいつも俺をバカにしやがって!
ここは俺の領土だ!
誰が何と言おうと、シエーラは俺のものだ!
都で、このペデルツィーニが、伯爵に!叙爵される筈だったんだ!
ふざけるな!」
怒号のように叫ぶと、バルベルデの返り血をまともに浴びて真っ赤になった顔をヴァネッサの方に向けた。
「お前のせいだ!ヴァネッサ!
あんなに可愛がってやった父親である俺に背いて!
お前にまで裏切られて俺は!」
そう言ってヴァネッサに剣を向けた。
ヴァネッサは「お父様!ごめんなさい!全部私のせいです」と泣きながら言って、一歩、前に出た。
上を向いて目を閉じる。
「ヴァネッサ!」
私は声にならない悲鳴をあげ、アレク様の手から手綱を取ろうとする。
しかし、アレク様はがっちりつかんで離してくれない。
ペデルツィーニは目を閉じたヴァネッサの喉に剣を突き刺そうと腕をあげ、その腕を振り下ろそうとするが、ぶるぶる震えて手が止まった。
「ヴァネッサ…!
俺の、可愛いヴァネッサ」
そう絞り出すように叫ぶと、剣の向きを変えて自らの胸に突き立てた。
「クレメンティナ!見るな!」
馬から飛び降りたアレク様が私を引きずるように馬から降ろして抱きしめた。
馬が驚いたようにいななく。
「領主館にいる者、皆、投降しろ!」
大声で言いながらエルヴィーノ様が領主館に向かって馬を走らせていく。
周りの皆も、エルヴィーノ様に続いて行ったようだ。
私は今見た景色のあまりの衝撃に、何も考えることができず体も動かなくなって、神経が焼き切れてしまったように意識を失った。
そこへ「アレク様!」と大きな声が聞こえ、巨体がのしのしと結構な速さで近づいてきた。
「お加減はいかがですか」
私たちの前に立ったエセルバート様は、心配そうな顔で言った。
私を見ても驚く様子はなかった。
「大丈夫だ、俺よりあなたの方が心配だが…」
私の肩を抱いたまま、アレク様はエセルバート様の巨躯を見上げて苦笑する。
エセルバート様の甲冑は、血まみれ脂まみれで、凄惨な戦場の有様をそのまま体現しているようだった。
「それより、どうしたのですか、そんなに慌てて。
領主館に何か」
エセルバート様が答えるより早く、エルヴィーノ様が皆の疑問をぶつけた。
エセルバート様は「おお、そうだ」と言ってアレク様とエルヴィーノ様に向かって話し始める。
「領主館と隣国に放ってあった斥候から相次いで報告が入りました。
隣国の国軍が、ペデルツィーニ並びに隣国の領主の討伐に乗り出したようです。
もうすぐそこにまで来ているらしい。
たった今の、停戦を呼び掛けるラッパの音は、それに関連していると思われます」
眉根を寄せ、真剣な表情で話すエセルバート様の言葉に驚いていると、領主館の方、高台下の戦場から兵士たちのどよめきが聞こえてきた。
私たちは馬に飛び乗り、砲撃の止んだ戦場に向かって一気に駆け下りていった。
両軍の大旗が下げられ、停戦状態であることを示している。
領主館正面の大きなバルコニー(今は殆ど壊されている)に、隣国の領主バルベルデがペデルツィーニの首に手を回し、引っ立てるようにして姿を現していた。
後ろにいる兵が大きな白い布を掲げている。
ペデルツィーニの顔は腫れて紫色になっていて、憤怒の表情を浮かべているが両手両足を拘束されているようで、もがきつつも身体の自由はなさそうだ。
ペデルツィーニの隣にいるのは、これも後ろ手に縛られているヴァネッサだった。
「ラ・カドリナ国国軍隊長殿!
私ことビトリア=ガンティス州の領主、バルベルデが申し上げる!
この蜂起は、ダリスカーナ大公国の侯爵ヴァラリオーティと、シエーラの領主ペデルツィーニの企んだことで、私ことバルベルデはこの二人に騙されたのに過ぎぬのであります!」
口角泡を飛ばしながら叫ぶバルベルデの顔色は真っ青で、目には狂気が宿っているようだった。
「なんだありゃあ…
どこまでも自分の保身しか考えてないなあの男は。
ラ・カドリナの国軍が来ていると知って、味方を差し出すつもりか」
バカにしたようにエルヴィーノ様が呟く。
私はヴァネッサが心配で居てもたってもいられない心持ちだった。
今すぐに駆けだしたいのだけど、アレク様が私の愛馬にぴったりと馬を寄せ、私の手綱を掴んでいて身動きが取れない。
バルベルデはそこでペデルツィーニをグイっと引き寄せ、顎の下に剣を当てた。
「ヴァラリオーティは途中で卑怯にも逃げ出してしまったので、この悪の張本人とその娘を捧げる!
このシエーラの土地も、ラ・カドリナの領地として差し上げる!」
「何をくだらない。
停戦は終わりだ、攻撃を再開するぞ。
ラ・カドリナの国軍とは話をつけなければ」
アレク様の言葉に、エルヴィーノ様がうなずいた。
「俺がいく」
「私も行きます」
にぃ兄様も言った。
「ヴァラリオーティの息子として、話をつけてきます」
その時「お父様!」というヴァネッサの声が響き渡った。
はっとしてバルコニーに目を遣ると、ペデルツィーニがどうやってかバルベルデから剣を奪い、バルベルデの喉に思い切り突き刺した。
渾身の力を込めて引き抜くと、血飛沫が喉から噴き出す。
「ふざけるな、どいつもこいつも俺をバカにしやがって!
ここは俺の領土だ!
誰が何と言おうと、シエーラは俺のものだ!
都で、このペデルツィーニが、伯爵に!叙爵される筈だったんだ!
ふざけるな!」
怒号のように叫ぶと、バルベルデの返り血をまともに浴びて真っ赤になった顔をヴァネッサの方に向けた。
「お前のせいだ!ヴァネッサ!
あんなに可愛がってやった父親である俺に背いて!
お前にまで裏切られて俺は!」
そう言ってヴァネッサに剣を向けた。
ヴァネッサは「お父様!ごめんなさい!全部私のせいです」と泣きながら言って、一歩、前に出た。
上を向いて目を閉じる。
「ヴァネッサ!」
私は声にならない悲鳴をあげ、アレク様の手から手綱を取ろうとする。
しかし、アレク様はがっちりつかんで離してくれない。
ペデルツィーニは目を閉じたヴァネッサの喉に剣を突き刺そうと腕をあげ、その腕を振り下ろそうとするが、ぶるぶる震えて手が止まった。
「ヴァネッサ…!
俺の、可愛いヴァネッサ」
そう絞り出すように叫ぶと、剣の向きを変えて自らの胸に突き立てた。
「クレメンティナ!見るな!」
馬から飛び降りたアレク様が私を引きずるように馬から降ろして抱きしめた。
馬が驚いたようにいななく。
「領主館にいる者、皆、投降しろ!」
大声で言いながらエルヴィーノ様が領主館に向かって馬を走らせていく。
周りの皆も、エルヴィーノ様に続いて行ったようだ。
私は今見た景色のあまりの衝撃に、何も考えることができず体も動かなくなって、神経が焼き切れてしまったように意識を失った。
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