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第八章 領主館
2.トーニオの話
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歩兵たちは隊列を乱さず、私たちの騎馬のスピードについてくる。
私たちはあっという間に先ほどの傷病兵たちのいる場所を越え、領主館を正面に見据える高台に着いた。
「レオンツィオ様!」
息を切らして走ってくる人がいて、レオ兄様は振り向き「トーニオ!」と大声で叫んで馬を止めた。
私たちも馬を止め、トーニオが追いついてくるのを待つ。
トーニオは足をもつれさせながら懸命に歩いて、私たちの前に頽れるように膝をついた。
「も、申し訳ありません…!」
ぜいぜいと苦しそうに呼吸する合間に、トーニオは言葉を絞り出すようにして両手を地面について頭を下げる。
「ヴァネッサ嬢ちゃんはどうした!」
レオ兄様は大きな声で問う。
トーニオは「自分の不注意でした、本当にすみません!」と歯を食いしばって泣くのを堪えているような声で言い、鎖の腕巻きを着けた手を地面に打ち付ける。
「何があった、詳しく話せ」
アレク様が冷静な、というより冷徹な声で訊いた。
「は、はいっ」
トーニオは平伏し震えながら口を開く。
「傷病兵が集められて手当てを受けていた場所で、突然敵からの爆撃を受けて、自分はヴァネッサ様をかばい事なきを得ました。
そしてその場にいらっしゃったクレメンティナ様や皆さまがお話をなさっておられる間、ほんの少し目を離した隙に、ヴァネッサ様がその場からいなくなっていることに気づき、自分は慌てて探しました」
「何故その時に誰かに声をかけなかった?」
にぃ兄様が静かな声で訊き、私もまったく同感で思わずうなずいた。
その時すぐに皆に声をかけてくれれば、皆で探せば、きっと見つかったのに。
「申し訳ありません。
自分が見ているべき人がいなくなってしまって、酷く焦ってしまって、咄嗟に走り出していました。
その時には、子供の足だしそんなに遠くには行けないだろうと高を括っていたのです。
しかし、いくら探してもいませんでした」
「とりあえず戻って報告しなければと思い、戻ろうとしたときに、ふいに思い出したのです。
ここから領主館に向かう、細い細いけもの道のような近道の存在を。
地元民でも限られたものしか知らないと思います、あの道です」
トーニオの言葉に、レオ兄様にぃ兄様、そして私も「ああ」と声を上げていた。
「ヴァネッサ様はきっとあの道を行かれたのに違いないと、自分は急いで近道に向かって走って行きました。
国軍の領主館への砲撃はすさまじく、なかなか近づけなかったのですが隙を見て裏手の方へ回り、領主館の入り口の方まで行きました。
すると、ヴァネッサ様が…隣国の兵士に捕らえられているのが見えました」
トーニオの言葉を聞いて、私の身体がふらりと揺れる。
アレク様が腕を回して私の身体を支え、トーニオに先を促した。
トーニオは額の汗を手甲を着けた腕で拭い、話を続ける。
「自分は大声で…ヴァネッサ様の名を叫びながら捕らえている兵の腕に斬りつけました。
そしたらヴァネッサ様が『来ないで!』と自分を制止して、自分に向かって大きな声で話しかけてきました。
『クレメンティナにお礼を言ってたって伝えて!
それからずっとずっとお幸せにって、私は遠くに行くけどそこから祈ってるって』
そして…隣国の兵士と中へ入って行きました」
身体中の力が抜けて、アレク様に抱きかかえられる。
『遠くに行くけど』…って、どういう意味?
ヴァネッサと一緒にシエーラに帰ることを心の支えに辛い目に遭っても耐えてきたのに。
やっとシエーラに帰れたのに。
奥方様も喜んでいらしたのに…
「とことん面倒くせえ娘だな。
俺の大事なクレメンティナを何度、心配させて泣かせたら気が済むんだ」
アレク様は呆れたように言って、私の肩を抱いたまま、皆を見回して声を張った。
「ペデルツィーニの娘は救い出す!
そしてもうこんなバカバカしい乱は今度こそ終わりにするぞ!」
皆は一斉に「おう!」と腕を突き上げた。
そして領主館の方へ向きを変え、エルヴィーノ様の号令を待つ。
その時、領主館から大きなラッパの音が聞こえてきた。
突撃ではなく、停戦の音だった。
私たちはあっという間に先ほどの傷病兵たちのいる場所を越え、領主館を正面に見据える高台に着いた。
「レオンツィオ様!」
息を切らして走ってくる人がいて、レオ兄様は振り向き「トーニオ!」と大声で叫んで馬を止めた。
私たちも馬を止め、トーニオが追いついてくるのを待つ。
トーニオは足をもつれさせながら懸命に歩いて、私たちの前に頽れるように膝をついた。
「も、申し訳ありません…!」
ぜいぜいと苦しそうに呼吸する合間に、トーニオは言葉を絞り出すようにして両手を地面について頭を下げる。
「ヴァネッサ嬢ちゃんはどうした!」
レオ兄様は大きな声で問う。
トーニオは「自分の不注意でした、本当にすみません!」と歯を食いしばって泣くのを堪えているような声で言い、鎖の腕巻きを着けた手を地面に打ち付ける。
「何があった、詳しく話せ」
アレク様が冷静な、というより冷徹な声で訊いた。
「は、はいっ」
トーニオは平伏し震えながら口を開く。
「傷病兵が集められて手当てを受けていた場所で、突然敵からの爆撃を受けて、自分はヴァネッサ様をかばい事なきを得ました。
そしてその場にいらっしゃったクレメンティナ様や皆さまがお話をなさっておられる間、ほんの少し目を離した隙に、ヴァネッサ様がその場からいなくなっていることに気づき、自分は慌てて探しました」
「何故その時に誰かに声をかけなかった?」
にぃ兄様が静かな声で訊き、私もまったく同感で思わずうなずいた。
その時すぐに皆に声をかけてくれれば、皆で探せば、きっと見つかったのに。
「申し訳ありません。
自分が見ているべき人がいなくなってしまって、酷く焦ってしまって、咄嗟に走り出していました。
その時には、子供の足だしそんなに遠くには行けないだろうと高を括っていたのです。
しかし、いくら探してもいませんでした」
「とりあえず戻って報告しなければと思い、戻ろうとしたときに、ふいに思い出したのです。
ここから領主館に向かう、細い細いけもの道のような近道の存在を。
地元民でも限られたものしか知らないと思います、あの道です」
トーニオの言葉に、レオ兄様にぃ兄様、そして私も「ああ」と声を上げていた。
「ヴァネッサ様はきっとあの道を行かれたのに違いないと、自分は急いで近道に向かって走って行きました。
国軍の領主館への砲撃はすさまじく、なかなか近づけなかったのですが隙を見て裏手の方へ回り、領主館の入り口の方まで行きました。
すると、ヴァネッサ様が…隣国の兵士に捕らえられているのが見えました」
トーニオの言葉を聞いて、私の身体がふらりと揺れる。
アレク様が腕を回して私の身体を支え、トーニオに先を促した。
トーニオは額の汗を手甲を着けた腕で拭い、話を続ける。
「自分は大声で…ヴァネッサ様の名を叫びながら捕らえている兵の腕に斬りつけました。
そしたらヴァネッサ様が『来ないで!』と自分を制止して、自分に向かって大きな声で話しかけてきました。
『クレメンティナにお礼を言ってたって伝えて!
それからずっとずっとお幸せにって、私は遠くに行くけどそこから祈ってるって』
そして…隣国の兵士と中へ入って行きました」
身体中の力が抜けて、アレク様に抱きかかえられる。
『遠くに行くけど』…って、どういう意味?
ヴァネッサと一緒にシエーラに帰ることを心の支えに辛い目に遭っても耐えてきたのに。
やっとシエーラに帰れたのに。
奥方様も喜んでいらしたのに…
「とことん面倒くせえ娘だな。
俺の大事なクレメンティナを何度、心配させて泣かせたら気が済むんだ」
アレク様は呆れたように言って、私の肩を抱いたまま、皆を見回して声を張った。
「ペデルツィーニの娘は救い出す!
そしてもうこんなバカバカしい乱は今度こそ終わりにするぞ!」
皆は一斉に「おう!」と腕を突き上げた。
そして領主館の方へ向きを変え、エルヴィーノ様の号令を待つ。
その時、領主館から大きなラッパの音が聞こえてきた。
突撃ではなく、停戦の音だった。
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