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第八章 領主館
15.第二の試験
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ヘイデンスタムの言葉に、私を含むダリスカーナ側がほっと胸を撫でおろしたとき、セレスティナ王女の金切り声が広間に響き渡った。
『お待ちなさい!
こんな…こんなのおかしいわ、不公平よ!
わたくしは以前にこの絵をそんなにじっくり見たことなんかない!
その女に有利なように謀ったんじゃなくて?!』
ヘイデンスタムはさも心外だというように両眉をあげ、王女の方へ向き直る。
『セレスティナ王女様のお気持ちは判りますが…
わたくしが不正を働いたかのようなそのお言葉には、大いに賛同いたしかねますね』
『じゃあ、もうひとつ何か!
王侯貴族の女性の教養はそんなことだけじゃなくてよ!』
セレスティナ王女の言葉に、レセンデス王が『可愛いセレスティナ、少し落ち着きなさい』と割って入った。
『そなたの言いたいことは判るが、今は待ってくれ。
この、我が国の国境警備に重要な城が、盗賊の巣のような物であったと判明したのじゃ。
しかも城の主は殺されてしまって居る。
すぐに会議を持って、対応策を協議しなければならぬのだよ。
ダリスカーナの方々にはしばしの間をいただき、首都から重臣を呼び寄せて…』
『そんなの嫌よ!
お父様、わたくしがこんな屈辱を受けているのに、平気でいらっしゃるの?!
こんな…卑しい女に…このわたくしが…
不名誉を雪ぐまではわたくしはここから動かないわ!』
ははあ…それが本音ね。
まあ無理もないわねえ…
私は肩を竦めたい衝動を抑えて立ち尽くす。
レセンデス王は苦り切ったように髭をひっぱり、ヘイデンスタムを見遣った。
『ヘイデンスタム殿、…可及的速やかに済ませてくれぬか』
『…承知いたしました。
大公妃様も宜しいでしょうか』
やれやれといった風情のヘイデンスタムに、私は内心の笑いをこらえながら「よろしゅうございますわ」と答えた。
ヘイデンスタムは『ふむ…どうしましょうか』としばらく思案する様子だったが、弟子のひとり(たぶんシプリアノ)に袖を引かれて、彼の方へ屈みこんだ。
しばらく無言で弟子の言葉を聞いていたが、『なるほどそうですね』と小さく呟いて顔を上げた。
『逐電した執事殿の話によると、楽器などを準備するのは難しいそうなので、演奏などはできなさそうです。
そしてダンスは…わたくしがそちらの教養には明るくないので、審議がちと難しそうです。
ですので、わたくしの得意とする詩歌の暗唱などはいかがでしょうか』
『判ったわ、早くして頂戴』
セレスティナ王女は気短に言い放ち『詩歌は何でもいいの?』とヘイデンスタムに訊く。
『宜しゅうございますよ、弟子たちもその方面には詳しいので』
ヘイデンスタムはにこりと笑ってうなずく。
セレスティナ王女は一歩、前に出ると『ではわたくしからね』と私をその大きな瞳で牽制し『我がラ・カドリナ国の誇る詩人ナバルレテの詩【兵に告ぐ】を暗唱するわ』と言って豊かな胸の前で腕を組んだ。
私も本で読んだことのある、兵士を鼓舞する硬質な感じの難しい詩を、一言一句違えずに可愛らしい声で暗唱していく。
声の愛らしさと厳つい詩の内容に、面白いギャップを感じながら、私は聞き入っていた。
ヘイデンスタムや皆も、感心したようにセレスティナ王女の姿に見惚れている。
結構長い詩をすべて暗唱し終えて、王女は美しい所作でお辞儀した。
ばら色に上気した頬に瞳を輝かせた王女は愛くるしく微笑み、私たちは全員惜しみない拍手を送った。
『いや、とても素晴らしかった。
皆聞きほれてしまいましたよ。
そして内容も完璧です、さすがは王女様であらせられますね』
ヘイデンスタムが絶賛すると、王女は得意げに笑みを浮かべた。
『さて、それでは…』
言いかけた時、不愛想な声が『もういいでしょう』と割り込んできた。
『今の勝負はセレスティナの勝ちですよ。
田舎のお嬢さんに、これ以上のものを披露できるとは思えないじゃないですか。
武士の情けってやつですよ。
それに、この城の新たな城主を決めて、ダリスカーナ国と領土の分配を協議しなくては』
「何を勝手なことを」
アレク様の怒りのこもった声が響く。
大きな声は出していないのに、皆が思わず身を竦めるような怒気を含んだ声でアレク様は言う。
「元はと言えば、そちらが変なことを言い出したからだろう。
俺はクレメンティナ以外の女と一緒になる気は金輪際ないと、あれほど言っているのに」
『まあまあまあ。
大公妃様、ご披露ください。
わたくしは、物事は公平に進めたいのですよ』
アレク様のあのおっかない雰囲気をものともせず、ヘイデンスタムがとりなすように言って私の方を向いた。
私はうなずいて一歩前に出る。
『わたくしは、ヘイデンスタム様の【麗しのライデンジーナ】を暗唱いたしますわ』
にこっと笑って見せると、ヘイデンスタムはハシバミ色の瞳をぱちぱちっと瞬き、面白そうに微笑んだ。
『楽しみです』
『お待ちなさい!
こんな…こんなのおかしいわ、不公平よ!
わたくしは以前にこの絵をそんなにじっくり見たことなんかない!
その女に有利なように謀ったんじゃなくて?!』
ヘイデンスタムはさも心外だというように両眉をあげ、王女の方へ向き直る。
『セレスティナ王女様のお気持ちは判りますが…
わたくしが不正を働いたかのようなそのお言葉には、大いに賛同いたしかねますね』
『じゃあ、もうひとつ何か!
王侯貴族の女性の教養はそんなことだけじゃなくてよ!』
セレスティナ王女の言葉に、レセンデス王が『可愛いセレスティナ、少し落ち着きなさい』と割って入った。
『そなたの言いたいことは判るが、今は待ってくれ。
この、我が国の国境警備に重要な城が、盗賊の巣のような物であったと判明したのじゃ。
しかも城の主は殺されてしまって居る。
すぐに会議を持って、対応策を協議しなければならぬのだよ。
ダリスカーナの方々にはしばしの間をいただき、首都から重臣を呼び寄せて…』
『そんなの嫌よ!
お父様、わたくしがこんな屈辱を受けているのに、平気でいらっしゃるの?!
こんな…卑しい女に…このわたくしが…
不名誉を雪ぐまではわたくしはここから動かないわ!』
ははあ…それが本音ね。
まあ無理もないわねえ…
私は肩を竦めたい衝動を抑えて立ち尽くす。
レセンデス王は苦り切ったように髭をひっぱり、ヘイデンスタムを見遣った。
『ヘイデンスタム殿、…可及的速やかに済ませてくれぬか』
『…承知いたしました。
大公妃様も宜しいでしょうか』
やれやれといった風情のヘイデンスタムに、私は内心の笑いをこらえながら「よろしゅうございますわ」と答えた。
ヘイデンスタムは『ふむ…どうしましょうか』としばらく思案する様子だったが、弟子のひとり(たぶんシプリアノ)に袖を引かれて、彼の方へ屈みこんだ。
しばらく無言で弟子の言葉を聞いていたが、『なるほどそうですね』と小さく呟いて顔を上げた。
『逐電した執事殿の話によると、楽器などを準備するのは難しいそうなので、演奏などはできなさそうです。
そしてダンスは…わたくしがそちらの教養には明るくないので、審議がちと難しそうです。
ですので、わたくしの得意とする詩歌の暗唱などはいかがでしょうか』
『判ったわ、早くして頂戴』
セレスティナ王女は気短に言い放ち『詩歌は何でもいいの?』とヘイデンスタムに訊く。
『宜しゅうございますよ、弟子たちもその方面には詳しいので』
ヘイデンスタムはにこりと笑ってうなずく。
セレスティナ王女は一歩、前に出ると『ではわたくしからね』と私をその大きな瞳で牽制し『我がラ・カドリナ国の誇る詩人ナバルレテの詩【兵に告ぐ】を暗唱するわ』と言って豊かな胸の前で腕を組んだ。
私も本で読んだことのある、兵士を鼓舞する硬質な感じの難しい詩を、一言一句違えずに可愛らしい声で暗唱していく。
声の愛らしさと厳つい詩の内容に、面白いギャップを感じながら、私は聞き入っていた。
ヘイデンスタムや皆も、感心したようにセレスティナ王女の姿に見惚れている。
結構長い詩をすべて暗唱し終えて、王女は美しい所作でお辞儀した。
ばら色に上気した頬に瞳を輝かせた王女は愛くるしく微笑み、私たちは全員惜しみない拍手を送った。
『いや、とても素晴らしかった。
皆聞きほれてしまいましたよ。
そして内容も完璧です、さすがは王女様であらせられますね』
ヘイデンスタムが絶賛すると、王女は得意げに笑みを浮かべた。
『さて、それでは…』
言いかけた時、不愛想な声が『もういいでしょう』と割り込んできた。
『今の勝負はセレスティナの勝ちですよ。
田舎のお嬢さんに、これ以上のものを披露できるとは思えないじゃないですか。
武士の情けってやつですよ。
それに、この城の新たな城主を決めて、ダリスカーナ国と領土の分配を協議しなくては』
「何を勝手なことを」
アレク様の怒りのこもった声が響く。
大きな声は出していないのに、皆が思わず身を竦めるような怒気を含んだ声でアレク様は言う。
「元はと言えば、そちらが変なことを言い出したからだろう。
俺はクレメンティナ以外の女と一緒になる気は金輪際ないと、あれほど言っているのに」
『まあまあまあ。
大公妃様、ご披露ください。
わたくしは、物事は公平に進めたいのですよ』
アレク様のあのおっかない雰囲気をものともせず、ヘイデンスタムがとりなすように言って私の方を向いた。
私はうなずいて一歩前に出る。
『わたくしは、ヘイデンスタム様の【麗しのライデンジーナ】を暗唱いたしますわ』
にこっと笑って見せると、ヘイデンスタムはハシバミ色の瞳をぱちぱちっと瞬き、面白そうに微笑んだ。
『楽しみです』
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