身代わり愛妾候補の逃亡顛末記

Dry_Socket

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第九章 逃亡の終着点

10.協議

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 シプリアノが今回の南部地方の蜂起の全容と結末、それに伴う隣国との協議に至るまでを、声を枯らしながら説明した。
 続いて副将軍が国軍の再編成の必要性を説き、今回の戦闘での傭兵や現地の農民の戦闘力を評価し(レオ兄様たちのことね…)、彼らも非正規雇用の戦闘員として活用したいと話した。

 そしてアレク様が自ら、新たに獲得した領土の分配や戦功のあった貴族たちの名前を上げて(レオ兄様のように来てない人も多かったけど)、各々の叙爵の詔勅を発した。

 それから場所を移して、軽く食事を摂りながら重臣たちや主だった貴族たちと南部の復興の計画について協議した。
 最初はアレク様の顔色を窺っているようだった人々は、アレク様が何度も各々の意見を聞きたいと促し、また質問を繰り返すことによって徐々に活発に意見を出すようになってきて、会議は良い意味で白熱したものになった。
 
 私が驚いたことには、エヴァンジェリスタ公爵は仏頂面を崩さなかったものの、アレク様の思いに寄り添い、発言の内容は国家の利益を考えてのもので、また国民に無理を強いるものでは決してなかったことだった。
 宰相は、以前にアレク様が言っていたように、割と日和見な意見が多く、人の良さは感じるけど建設的とは言い難かった。

 アレク様はどの意見にも真剣に耳を傾け、発言者からの更なる考えを引き出し、判りやすく総括して皆と共有していく。
 尊大な素振りなどは一切見せず、笑顔も交えながら話しやすい雰囲気をつくることに腐心しているように見えた。
 私はそんなアレク様の姿に改めて尊敬の念を深くし、改めてこの大国家を治めていく君主の器を感じた。

 その話の中で、オズヴァルド様がにぃ兄様及びトランクウィッロ伯爵家(ベアトリーチェ様のご実家)からの、南部復興への多額の支援を発表した。
 にぃ兄様とベアトリーチェ様は、シエーラのゴタゴタが落ち着き次第正式にご結婚なさるそうで、しばらくはシエーラに近いトランクウィッロ家の領地で暮らすそうだ。

 私はその話を聞いてとても嬉しかった。
 にぃ兄様が近くにいてくれれば、レオ兄様もステファネッリ家と南部の復興や新たな領地についての助けを得ることができて心強いことだろう。
 だけど…にぃ兄様だけでも首都にいてくださったらなあ…という思いを拭いきれなかった。
 仕方ないことだけど。
 私も何かと心細いよ、お兄様方、お母様。

 協議は深更にまで及び、様々な課題についての各人たちへの理解と協力を得ることができた。
 この蜂起が起きる前まで、宮殿で夜な夜な行われていたパーティとはまったく趣の異なる集まりではあったけれど、つどった人々は一様に満足げで、またアレク様の変わりように驚いていた。

 アレク様って本当にすごい方だ。
 私は貴族たちの心のこもった挨拶を受けながら思った。
 私はこの方の隣にいつまでも侍ることができるよう、精進していかなくては。

 その後、私は疲れ切って部屋に戻り、リラックスできる服に着替えて髪も解いて梳き流した。
 お茶でも飲んで、シエーラの家族に手紙を書こう…
 ヴァネッサのことが気がかりだった。
 領主館から救い出されたのち奥方様と一緒にいるとのことで、それは安心だけど。
 どうしているだろう。

 部屋の扉がノックされ、侍女がわずかにドアを開けて誰何すると、入ってきたのはフランシスカだった。
 「夜分遅くに申し訳ございません、クレメンティナ様。
 アレク様がどうしてもいらっしゃっていただいてお話なさりたい…と」

 えー…もう疲れたわ…
 私の表情を見て、フランシスカは申し訳なさそうに頭を下げる。
 「明日になさったら…と申し上げたのですが…
 エルヴィーノ様からのお手紙のことで、オズヴァルド様や弟(シプリアノ)、エセルバート様もお揃いになっていらっしゃいまして、アレク様がクレメンティナ様にもお聞きいただきたいと仰って」

 「えっ!
 …そういうことなら、伺うわ」
 私は急いで立ち上がり、デメトリアが大慌てで揃えてくれたドレスに着替えて、髪も整える。

 「ああ、悪いな、寛いでいたところ。
 今日は疲れたろう、漸く城に着いたばかりで一日会議で」
 アレク様の部屋に入って行くと、アレク様は立ち上がって私を労ってくれた。
 私はアレク様のラフな格好も素敵だな…と思いながら勧められるままにアレク様の隣に座る。
 
 アレク様の居室にはフランシスカの言っていた通りの人々、そして何故かヘイデンスタムがちゃっかり椅子に座ってにこにこしていた。
 本当に神出鬼没だわこの人…

 「皆も強行軍で疲れているところ呼び出してすまない。
 エルヴィーノからの手紙を今朝、受け取っていたのだが読んでいる暇がなくて、城に着いてから開封したらラ・カドリナ国の驚くべき政変と、エルヴィーノの身に起こったことが書いてあった」
 「政変については、先ほどラ・カドリナ国の使者が国王の親書を携えてきたので、すぐに世界中に告示されるでしょう。
 あちこちに放ってあるスパイからも同じ報告が入ってますしね」
 シプリアノが言って、アレク様もうなずいて同意した。

 エルヴィーノ様の身に起こったことって…何?!
 私の心臓は嫌な感じに騒ぎ始める。
 
 
 
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