47 / 161
第四章 王宮で
11.複雑な心境
しおりを挟む
その日私は一日機嫌が悪かった。
王太子の失礼極まりない態度、口調、そして妙に真剣な瞳。
私が男性慣れしていないと思って、バカにしているのかしら。
畑の案山子だの、焼き過ぎのゴーフルだの、外見を揶揄するなんて紳士じゃないわ。
そうやって貶すくせに「他の男に心を移すのは許さない」とか言って、私を自分の所有物みたいに扱って。
心を移すも何も、最初からあなたに寄せている心は無いわ!
あんな男が私の夫だなんて…
情けなくて腹立たしくて、涙が出てくるわ。
外見は壮絶に良くて、顔も神様の最高傑作みたいな感じだけど、性格が悪すぎる。
もう少ししたら「白い結婚」を理由に、教皇様に離婚を申し立ててやろうかな。
それに引き換え…
私はジェルヴェの明るく朗らかで華やかな風貌を思い出して、胸の中がじんわりと温かくなる。
ジェルヴェは、私を本当に愛しく思ってくれているのだろうか。
それとも、王太子のようにからかっているだけ?
「リンスター、大丈夫ですか?!」
部屋に慌ただしく駆け込んできたのは、たった今、心に浮かべていた人物で、私は顔が赤くなってくるのを止められない。
「リンスター…どうなさいました?」
ジェルヴェは、顔を背けてしまった私に近づき、床に膝をついて心配そうに私の顔を覗き込む。
「狩猟会が終わった後、ご婦人方やアンヌ=マリー嬢を振り切って、というか撒いて、フィリベールが消えたと大騒ぎになりました。
皆で探しているときにひょっこり現れて、城の庭で迷ったとか言って、それからは普通にパーティに参加していたのですが…
先ほど私の所へ来て、妃と二人で四阿でお茶を飲んだと」
ああん?
何故そういう理解になる?
私を馬鹿にして叔父様を噂にかこつけてディスって、自分勝手なこと言ってさっさと帰ったのよ?!
最後に「メンデエルでは、女性らしい庭というのは畑のことで、女は皆、お前みたいに案山子のようなのか」とかクソみたいな感想をほざいて。
そんなわけないでしょっ!
私は今度は怒りで顔を赤くしながら言い放つ。
「違います!
勝手に押しかけてきて、お茶は飲んだけど一方的なお話ばかりで」
私の剣幕にジェルヴェはビックリしたように綺麗な濃い藍色の瞳を見開いた。
徐々にその瞳に笑いが宿り、くくく、と可笑しそうに笑いだす。
「そうですか…
わざわざ言いに来るから、あなたと何か、そうですね、相互理解のようなものがあったのかと心配になりましたよ。
いよいよヤキモチを抑えられなくなってきたと見える」
「??」
言いながら私の隣に座るジェルヴェの言葉の意味が全然解らず、私は首を傾げてジェルヴェを見る。
ジェルヴェは切なげに瞳を揺らし、私の頬に愛しげに触れて「あなたは…フィリベールを愛しているの?」と問う。
「ええっ?」
私はのけぞり、「そんなことあるわけないでしょ」と心底驚いて言う。
むしろ嫌い、大嫌い。
「そう…?
でも初夜には、受け入れたのでしょう、彼を」
「あ、いえあれは…」
あーそうか。
対外的には初夜にちゃんと営んだことになってるんだった。
うーん。本当のことを言っていいのかどうか…
黙り込む私の頭をジェルヴェは優しく抱き寄せて「…すみません」と呟くように言う。
「王家に生まれて、意に染まない結婚を強いられるのは当然といえば当然のことですよね。
あなたはしきたりに則っただけでありフィリベールを拒むことなどできないのは当たり前のことなのに…
それが判っていてもなお、嫉妬が抑えられないのです。
年も近く可愛い甥っ子なのに、あなたをたとえ一度でも抱いたフィリベールが…妬けて仕方ない」
歯を食いしばるように言い、抱き寄せる腕に力を籠める。
私はジェルヴェの言葉を、嬉しいと感じていた。
そしてそんな自分に驚いていた。
ああでも。
流石の私でも、こんな状況で言えないわ…
初夜をすっぽかして爆睡してましたとは。
王太子の失礼極まりない態度、口調、そして妙に真剣な瞳。
私が男性慣れしていないと思って、バカにしているのかしら。
畑の案山子だの、焼き過ぎのゴーフルだの、外見を揶揄するなんて紳士じゃないわ。
そうやって貶すくせに「他の男に心を移すのは許さない」とか言って、私を自分の所有物みたいに扱って。
心を移すも何も、最初からあなたに寄せている心は無いわ!
あんな男が私の夫だなんて…
情けなくて腹立たしくて、涙が出てくるわ。
外見は壮絶に良くて、顔も神様の最高傑作みたいな感じだけど、性格が悪すぎる。
もう少ししたら「白い結婚」を理由に、教皇様に離婚を申し立ててやろうかな。
それに引き換え…
私はジェルヴェの明るく朗らかで華やかな風貌を思い出して、胸の中がじんわりと温かくなる。
ジェルヴェは、私を本当に愛しく思ってくれているのだろうか。
それとも、王太子のようにからかっているだけ?
「リンスター、大丈夫ですか?!」
部屋に慌ただしく駆け込んできたのは、たった今、心に浮かべていた人物で、私は顔が赤くなってくるのを止められない。
「リンスター…どうなさいました?」
ジェルヴェは、顔を背けてしまった私に近づき、床に膝をついて心配そうに私の顔を覗き込む。
「狩猟会が終わった後、ご婦人方やアンヌ=マリー嬢を振り切って、というか撒いて、フィリベールが消えたと大騒ぎになりました。
皆で探しているときにひょっこり現れて、城の庭で迷ったとか言って、それからは普通にパーティに参加していたのですが…
先ほど私の所へ来て、妃と二人で四阿でお茶を飲んだと」
ああん?
何故そういう理解になる?
私を馬鹿にして叔父様を噂にかこつけてディスって、自分勝手なこと言ってさっさと帰ったのよ?!
最後に「メンデエルでは、女性らしい庭というのは畑のことで、女は皆、お前みたいに案山子のようなのか」とかクソみたいな感想をほざいて。
そんなわけないでしょっ!
私は今度は怒りで顔を赤くしながら言い放つ。
「違います!
勝手に押しかけてきて、お茶は飲んだけど一方的なお話ばかりで」
私の剣幕にジェルヴェはビックリしたように綺麗な濃い藍色の瞳を見開いた。
徐々にその瞳に笑いが宿り、くくく、と可笑しそうに笑いだす。
「そうですか…
わざわざ言いに来るから、あなたと何か、そうですね、相互理解のようなものがあったのかと心配になりましたよ。
いよいよヤキモチを抑えられなくなってきたと見える」
「??」
言いながら私の隣に座るジェルヴェの言葉の意味が全然解らず、私は首を傾げてジェルヴェを見る。
ジェルヴェは切なげに瞳を揺らし、私の頬に愛しげに触れて「あなたは…フィリベールを愛しているの?」と問う。
「ええっ?」
私はのけぞり、「そんなことあるわけないでしょ」と心底驚いて言う。
むしろ嫌い、大嫌い。
「そう…?
でも初夜には、受け入れたのでしょう、彼を」
「あ、いえあれは…」
あーそうか。
対外的には初夜にちゃんと営んだことになってるんだった。
うーん。本当のことを言っていいのかどうか…
黙り込む私の頭をジェルヴェは優しく抱き寄せて「…すみません」と呟くように言う。
「王家に生まれて、意に染まない結婚を強いられるのは当然といえば当然のことですよね。
あなたはしきたりに則っただけでありフィリベールを拒むことなどできないのは当たり前のことなのに…
それが判っていてもなお、嫉妬が抑えられないのです。
年も近く可愛い甥っ子なのに、あなたをたとえ一度でも抱いたフィリベールが…妬けて仕方ない」
歯を食いしばるように言い、抱き寄せる腕に力を籠める。
私はジェルヴェの言葉を、嬉しいと感じていた。
そしてそんな自分に驚いていた。
ああでも。
流石の私でも、こんな状況で言えないわ…
初夜をすっぽかして爆睡してましたとは。
3
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる