60 / 161
第五章 サロン
12.サロンにて・Ⅱ
しおりを挟む
私はホッとしてジェルヴェからお皿を受け取る。
ジェルヴェは美味しそうな料理をてんこ盛りにしてくれて、私たちは顔を見合わせて笑いあう。
「後から聞いたのだけど司厨長もあの時、おかしいと思っていたらしいわね。
すぐに対応してくれて助かったわ。
何とかって言う…食材?を準備してあったとか…」
王妃様の言葉に、私は慌てて答える。
「さようでございます。
ハラルフードと申します食材は、宗教の教義に従って処理したものでございます。
予め輸入されたものを取り寄せておいたそうで」
私の言葉に皆が感心したようにうなずき、まだ年若い子爵(名前聞いてない)が呟いた。
「さすがに、世界の料理を知り尽くしているシェフですね…
しかしそれをご存知で、さらっとお話しなさる王太子妃殿下も素晴らしいですね」
お酒で少し顔を赤くした子爵は、じっと私を見つめて言う。
私は照れて「…いえ、とんでもないことでございますわ」と彼から視線を外した。
ジェルヴェが私と子爵の間に割り込むようにして、私の手にフォークを持たせてくれる。
「さ、リンスター、少し召し上がれ。
司厨長に言って、あなたのお好きな鹿肉のパテを作らせたのですよ」
「わ…ありがとう、ジェルヴェ」
私は喜んでパテを口に入れた。
ジェルヴェは私を見て微笑み、髪に軽くキスする。
「!」
こんな場所で何…
私は慌てて身を引き、その拍子によろけて後ろへ倒れかかる。
「危ないっ」
咄嗟に背中を支え、お皿を私の手から取ってくれた人は「大丈夫ですか、王太子妃殿下」と言って私の顔を覗き込む。
甘いマスク…というのだろうか、整ってはいるけれど王太子やジェルヴェのようなシャープな感じではなく、優しくどこか中性的な魅力のある人だった。
「あ…子爵様、ありがとうございます」
名前が判らないので、とりあえず爵位で呼びお礼を言う。
ジェルヴェがすかさず「リンスター、大丈夫?」と私の肩を抱き、「ありがとうドゥラクロワ子爵」と素っ気なく言って反対側の手をずいっと差し出す。
ドゥラクロワ子爵と呼ばれた若い男性は、苦笑しながらお皿をジェルヴェに渡した。
「初めまして、リンスター王太子妃殿下。
私はオーギュスト・ドゥ・ドゥラクロワと申します」
「あ…初めまして」
私が挨拶するのもそこそこに、ジェルヴェが肩を抱く腕に力を籠め、方向転換させてしまう。
「ちょ…ジェルヴェ!」
私はあまりに失礼なジェルヴェの態度に驚き、声を上げる。
「リンスター、あそこに居られるお方は、コルビュジェ侯爵のご令嬢ですよ。
リンスターとご年齢が近いので、お話ししやすいのでは?」
私の抗議の声をガン無視して、ジェルヴェは壁に背をくっつけるようにして一人ポツンと立っている、華奢な女性を指さす。
小柄で色白の小づくりな顔にそばかすの散った、幼い顔立ちの可愛らしい女性だ。
私はメンデエルにいたころの自分を重ねるように思い出し、何となく親近感を持った。
ジェルヴェに誘われるまま、私はその令嬢に近づく。
「こんばんは、クリスティーヌ嬢。
楽しんでおられますか?」
ジェルヴェは気さくに声をかけた。
顔を上げたクリスティーヌは、ジェルヴェの顔を見てぱっと赤くなった。
「は、はい…
ありがとうございます、ジェルヴェ殿下」
消え入りそうな声で言う。
「クリスティーヌ嬢、こちらの方はリンスター王太子妃です」
ジェルヴェに言われて初めて気づいたように私を見て、慌ててお辞儀する。
「あっ、は、初めまして!
クリスティーヌ・ドゥ・コルビュジェでございます」
「リンスター・ドゥ・ルーマデュカです。
若い方とお近づきになれて嬉しいわ」
私が言うとジェルヴェが「私だって若いですよ!」と茶々を入れる。
「え…ジェルヴェっていくつ?」
「リンスターより5つ?上かな?22歳ですよ。
フィリベールより2つ年上だから」
あ、ええ?
王太子って20歳?
で、あんなに偉そうなの??
「クリスティーヌ嬢はおいくつでしたか?
デビューは一昨年でいらっしゃったかな?」
ジェルヴェが声をかけると、クリスティーヌはまた真っ赤になって、うなずいた。
あら…クリスティーヌってもしかして。
私は、ちょっとモヤモヤしてしまい、そんな自分に驚いた。
ジェルヴェは美味しそうな料理をてんこ盛りにしてくれて、私たちは顔を見合わせて笑いあう。
「後から聞いたのだけど司厨長もあの時、おかしいと思っていたらしいわね。
すぐに対応してくれて助かったわ。
何とかって言う…食材?を準備してあったとか…」
王妃様の言葉に、私は慌てて答える。
「さようでございます。
ハラルフードと申します食材は、宗教の教義に従って処理したものでございます。
予め輸入されたものを取り寄せておいたそうで」
私の言葉に皆が感心したようにうなずき、まだ年若い子爵(名前聞いてない)が呟いた。
「さすがに、世界の料理を知り尽くしているシェフですね…
しかしそれをご存知で、さらっとお話しなさる王太子妃殿下も素晴らしいですね」
お酒で少し顔を赤くした子爵は、じっと私を見つめて言う。
私は照れて「…いえ、とんでもないことでございますわ」と彼から視線を外した。
ジェルヴェが私と子爵の間に割り込むようにして、私の手にフォークを持たせてくれる。
「さ、リンスター、少し召し上がれ。
司厨長に言って、あなたのお好きな鹿肉のパテを作らせたのですよ」
「わ…ありがとう、ジェルヴェ」
私は喜んでパテを口に入れた。
ジェルヴェは私を見て微笑み、髪に軽くキスする。
「!」
こんな場所で何…
私は慌てて身を引き、その拍子によろけて後ろへ倒れかかる。
「危ないっ」
咄嗟に背中を支え、お皿を私の手から取ってくれた人は「大丈夫ですか、王太子妃殿下」と言って私の顔を覗き込む。
甘いマスク…というのだろうか、整ってはいるけれど王太子やジェルヴェのようなシャープな感じではなく、優しくどこか中性的な魅力のある人だった。
「あ…子爵様、ありがとうございます」
名前が判らないので、とりあえず爵位で呼びお礼を言う。
ジェルヴェがすかさず「リンスター、大丈夫?」と私の肩を抱き、「ありがとうドゥラクロワ子爵」と素っ気なく言って反対側の手をずいっと差し出す。
ドゥラクロワ子爵と呼ばれた若い男性は、苦笑しながらお皿をジェルヴェに渡した。
「初めまして、リンスター王太子妃殿下。
私はオーギュスト・ドゥ・ドゥラクロワと申します」
「あ…初めまして」
私が挨拶するのもそこそこに、ジェルヴェが肩を抱く腕に力を籠め、方向転換させてしまう。
「ちょ…ジェルヴェ!」
私はあまりに失礼なジェルヴェの態度に驚き、声を上げる。
「リンスター、あそこに居られるお方は、コルビュジェ侯爵のご令嬢ですよ。
リンスターとご年齢が近いので、お話ししやすいのでは?」
私の抗議の声をガン無視して、ジェルヴェは壁に背をくっつけるようにして一人ポツンと立っている、華奢な女性を指さす。
小柄で色白の小づくりな顔にそばかすの散った、幼い顔立ちの可愛らしい女性だ。
私はメンデエルにいたころの自分を重ねるように思い出し、何となく親近感を持った。
ジェルヴェに誘われるまま、私はその令嬢に近づく。
「こんばんは、クリスティーヌ嬢。
楽しんでおられますか?」
ジェルヴェは気さくに声をかけた。
顔を上げたクリスティーヌは、ジェルヴェの顔を見てぱっと赤くなった。
「は、はい…
ありがとうございます、ジェルヴェ殿下」
消え入りそうな声で言う。
「クリスティーヌ嬢、こちらの方はリンスター王太子妃です」
ジェルヴェに言われて初めて気づいたように私を見て、慌ててお辞儀する。
「あっ、は、初めまして!
クリスティーヌ・ドゥ・コルビュジェでございます」
「リンスター・ドゥ・ルーマデュカです。
若い方とお近づきになれて嬉しいわ」
私が言うとジェルヴェが「私だって若いですよ!」と茶々を入れる。
「え…ジェルヴェっていくつ?」
「リンスターより5つ?上かな?22歳ですよ。
フィリベールより2つ年上だから」
あ、ええ?
王太子って20歳?
で、あんなに偉そうなの??
「クリスティーヌ嬢はおいくつでしたか?
デビューは一昨年でいらっしゃったかな?」
ジェルヴェが声をかけると、クリスティーヌはまた真っ赤になって、うなずいた。
あら…クリスティーヌってもしかして。
私は、ちょっとモヤモヤしてしまい、そんな自分に驚いた。
2
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
【完結】 笑わない、かわいげがない、胸がないの『ないないない令嬢』、国外追放を言い渡される~私を追い出せば国が大変なことになりますよ?~
夏芽空
恋愛
「笑わない! かわいげがない! 胸がない! 三つのないを持つ、『ないないない令嬢』のオフェリア! 君との婚約を破棄する!」
婚約者の第一王子はオフェリアに婚約破棄を言い渡した上に、さらには国外追放するとまで言ってきた。
「私は構いませんが、この国が困ることになりますよ?」
オフェリアは国で唯一の特別な力を持っている。
傷を癒したり、作物を実らせたり、邪悪な心を持つ魔物から国を守ったりと、力には様々な種類がある。
オフェリアがいなくなれば、その力も消えてしまう。
国は困ることになるだろう。
だから親切心で言ってあげたのだが、第一王子は聞く耳を持たなかった。
警告を無視して、オフェリアを国外追放した。
国を出たオフェリアは、隣国で魔術師団の団長と出会う。
ひょんなことから彼の下で働くことになり、絆を深めていく。
一方、オフェリアを追放した国は、第一王子の愚かな選択のせいで崩壊していくのだった……。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる