愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

Dry_Socket

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第七章 スキャンダル

2.誰にも内緒の話

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 その後、ジェルヴェの呼んだ宮廷のヴァイオリニストにくっついてくる感じでデュモルチエ男爵夫妻が現れ、カンタール伯爵も奥方を連れて部屋を訪れて、ダンスパーティが始まってしまい、皆が引き上げて行ったのは深更になってからだった。

 年始の集まりまでは皆、宮殿に来ることもないそうで、私は静かな年の瀬を迎えられそうだと一人考えてほくそ笑んだ。

 メンデエルでは女性は縫物や刺繍をしながら、寒くて長い冬を過ごした。
 ここには裁縫の上手なソレンヌがいるし、グレーテルは歌が得意なので皆が針を動かしている間、綺麗な声でメンデエルの歌や最近覚えたルーマデュカの歌を歌ってくれるだろう。

 そんなことを考えながら応接間から居室へ入る。
 「やっと来たか」
 と不機嫌な声が聞こえ、私は驚いて立ちすくむ。

 王太子がソファに座って腕を組み、私を睨んでいる。
 「昨夜は早々に寝てしまってミサにも来なかったのに、今日はずいぶん遅くまで遊んでいるじゃないか。
 宮廷の重鎮やヴァイオリニストまで引き込んで」

 「…!」
 私はあまりの言われように怒りで言葉が出ず、その場でドレスのスカートを握りしめる。
 私が誘ったのはジェルヴェだけだし、その他はついてきちゃっただけだしヴァイオリニストは私が呼んだんじゃない。
 しかも、私はちゃんと王太子にも声かけたのに!
 シカトしたのはあなたでしょう?!

 「昨日は、申し訳ありませんでした!
 ソロモ…スレイマン皇子様とお話ししなければならないことがありましたので!
 その後、疲れてしまって」
 「何故、皇子殿下をお前の部屋に呼ぶ必要があった?
 話なんて外で、立ってでもできるだろう。
 何か下心があったと思われても仕方ないな」

 また「お前」って言った!
 私は失礼で無作法な言い方に、怒りが頂点に達して、王太子の前を素通りして寝室へ向かう。
 「おいちょっと待てよ!」
 乱暴な言葉で言いながら、王太子は私の後について寝室へ入ってくる。

 「何ですの?
 いくら何でも、ここまで入ってこられるのは失礼でございましょう。
 文句は承りました。申し訳ありません!
 お引き取りくださいませ。
 アンヌ=マリー様に怒られましてよ」
 向き直って大きな声で言うと、王太子はたじろいだように一歩、後ずさる。

 顔を背けて呟くように言う。
 「…お前は私の妃だ。
 あまりにもそれを軽視しているのはそなただろう。
 叔父上にオーギュスト、異国の皇子を名前で親し気に呼んで…呼ばれていて。
 昨夜、手首にキスマークを見つけた時には叫びだしそうになった。
 そなたのその明るく奔放な気質は、私の心を苛むのだ。
 母上やカンタール伯爵、デュモルチエ男爵、ガレアッツオがそなたを口を極めて褒めそやすのを聞いているだけの、私の気持ちなど判らぬだろう」

 苦悩が滲むように歪む白皙の頬を見て、私は言葉を失う。
 どういう…意味なんだろう。

 そこで王太子はぐっと唇を噛むと「…今日は誰にも内緒の話をしに来た。本当は昨夜、話そうと思っていたのだけど」と言って、私をまっすぐに見た。

 美しく整った端正な顔を苦しそうに歪めて、王太子は口を開く。
 「…父上の容体が、日増しに悪くなっている。
 もう、あまり長くないと、医者に宣告された。
 年明けからの行事には、私が王の代理ですべて執行することになる。
 そなたにも、手伝いを頼むことがあると思う」

 「父王がご存命のうちに何とか、決着をつけたいとは思っているのだが…
 すべてが終わるまでは王の崩御を隠してでも、即位はこの国を変えてからしたい」
 「何の…決着ですか」
 私は衝撃の内容に何とも言いようがなくて、とりあえず一番の疑問を口にする。

 「それは、まだ言えない。どこに目や耳が隠れているか判らない。
 しかし、必ずそなたを今のような日陰の存在のままにはしないから。
 私を信じてくれるか」
 怖いほどに真剣な王太子の碧い瞳の力に気圧されるように、私はドレスをつまんで深くお辞儀をした。

 王太子の全身から放たれていた緊張感がふっと緩み、私が顔を上げると、王太子は切なく微笑んで近づいた。
 何事かと硬直する私の額に、王太子の唇がそっと触れた。
 
 
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