愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

Dry_Socket

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第七章 スキャンダル

12.リンディア帝国風お茶会

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 紆余曲折の挙句、オーギュストにメッセンジャーボーイになってもらった。

 どうしてそうなったかというと、ガレアッツォ翁の研究室を出るとソロモンが「絨毯の使い心地は如何ですか?行ってチェックしてあげましょう」とか言って、何故かいそいそと部屋についてきてしまったのだ。
 そして部屋で私の帰りを待っていたジェルヴェと鉢合わせになってしまい、互いに牽制というか睨みあいのようになってしまって、何を言っても聞いてくれなかったのだ。

 「フィリベール殿下は判った、と仰っておられましたよ。
 妃から呼び出すなんて偉くなったもんだなって、それは嬉しそうに」
 オーギュストは遣いから戻って、可笑しそうに報告してくれた。

 …だからどうして、そんなに意地悪ばっかり言うのよ。
 そんなこと言うならもう、教えてあげないから。
 私はぷりぷりする。

 クリスティーヌとお茶の約束をしていたので、王太子が来るまでの時間に皆で少し話し合おうということになった。
 ソロモンが「では、私の国のお茶を紹介しましょう」と言い、使いを遣ってリンディア帝国の茶道具などを運び込む。
 カートを押して部屋の入り口で丁寧にお辞儀して入ってきたのは、絨毯を運んできたときにいた、美丈夫さんだった。

 「紹介します。
 私の部下のイドリースです。
 わが国の騎士隊長の息子で、私の幼馴染でもあります」
 ソロモンが彼を掌で指しながら紹介して、イドリースはまたお辞儀した。
 ソロモンよりクールな感じがするが、きめ細やかな浅黒い肌で彫の深い顔立ちの彼は、まるで絵の中から抜け出してきたような美青年だった。
 
 皆で暖かい絨毯の上に車座になって座り、珍しい異国のお茶の振る舞いに与った。
 二段に重なったポットで丁寧に時間をかけて抽出する、とても濃いお茶だった。
 ミルクなどは入れず、お砂糖をたくさん入れて甘くして飲むのだそうだ。

 いつもは侍女や小姓もその辺にいるのだけど、今日はさすがに国家機密に関わる内緒の話のなので人払いし、お茶を待つ間に私は簡単に今朝からの話をする。
 ソロモンは終始、隣に座った私を膝の上に抱き上げようとして逆の隣にいるジェルヴェに阻まれ、私はもう何だか話に全然集中できない。

 話を聞いたジェルヴェ、オーギュスト、クリスティーヌは目を丸くして言葉も出ないようだった。
 「ボーマルシェ夫妻は、やはり疾うに国外へ脱出していたそうです。
 オランド枢機卿は…裁判を起こすと息巻いているようですが、バルバストル公爵が激怒していて裁判所も及び腰になっているので、受理されるかどうか」
 オーギュストが腕を組んで難しい顔で言う。

 「しかし、アンヌ=マリー嬢が陛下のお見舞いに来るなんて、彼女、相当切羽詰まっているな。
 しかも限られた人にしかあげてはいけないと厳命されているお菓子まで持って…」
 呟くように言ったジェルヴェは、私やソロモンの視線に気づいて苦笑し、私の頬を撫でる。

 「アンヌ=マリー嬢は詐欺の被害者であるのに、今までの噂が噂を呼んで話が過剰に大きくなっていまして。
 昨日の今日なのに庶民にまで話が伝わり、それも話し手の感情や憶測が入って、アンヌ=マリー嬢がこの詐欺事件を企画実行したことになっています。
 犯人のボーマルシェ夫妻を国外に逃がしてやったとさえ、言われているらしい」

 えーっ!
 それは…あまりに気の毒では…

 「王室や公爵サイドは火消しに躍起になっていますが、焼け石に水と申しますか…
 口コミの伝播力とはに恐ろしい。
 いや、我々も気を付けないといけませんね。
 二コラのように、貴族が人間として認識していないような下働きの少女が、侯爵暗殺などという重大な話を聞きこんでくるのですから。
 私もここで、リンスターが使用人を大切にする姿勢を見て、考えを改めましたよ」

 私たちはお茶があまりに甘いので、バタをたっぷり塗ったバゲットをつまみながら考えに耽った。
 被害者のアンヌ=マリーの立場が悪くなってしまったなんて…
 誰が想像しただろう。
 
 王太子は、どう対処するつもりなんだろう。
 私は隙あらば身を寄せくっついてくる両隣の男ども(あら失礼、ウザすぎてつい)を肘鉄しながら考えに沈んだ。

 

 

 
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