91 / 161
第八章 崩御と弾劾
7.ソロモンのプロポーズ
しおりを挟む
王太子はぐっと唇を噛み、お医師に「後は…頼んだ」と言った。
そしてガレアッツォ翁に「話があります」と懇願するように話しかけた。
ガレアッツォ翁はいつものように穏やかに微笑み「畏まりました。後ほど、お伺いいたします」と答えた。
「ねぇ、フィリー。
陛下がお隠れになったら、あなたがすぐに即位しないとよね?
お父様と詳しくお話ししましょうよ。
即位式とかのこと」
場違いに大きな声でアンヌ=マリーが言い、皆ぎょっとしてアンヌ=マリーを見る。
「そういう話は…悪いけどここでは…しないでちょうだい」
王妃様が涙声で振り絞るように言い、私も泣きながら王妃様の肩に手を置き、心を込めて撫でた。
王太子は黙ってアンヌ=マリーの腰を抱き、陛下に向かって一礼して部屋を出て行った。
アンヌ=マリーは王太子にしなだれかかるようにしながら振り返って私を一瞥し、くすっと笑う。
王太子は私のことなど視界に入っていないような感じで、振り向きもせずに行ってしまった。
ジェルヴェが私の肩を抱き寄せる。
私はやり場のない悲しみというか、怒りをぐっと堪え「私たちも戻りましょう」と囁く。
ジェルヴェはうなずいて「義姉上…また参ります」と王妃様に言って、私たちは部屋を辞した。
部屋に戻ると、皆が立ち上がって私たちを迎えてくれた。
私とジェルヴェは交互に陛下のご様子について話し、クリスティーヌとオーギュストは涙をこぼした。
ソロモンも沈痛な面持ちで「そうですか…では、リンスターが王妃となられる日も近いのですね」と呟く。
そうだ…
私は今更ながらにそう気づかされ、青ざめる。
私は、ルーマデュカの王妃と…
なるのか???
「だけど、どうかしら。
殿下とアンヌ=マリー様とバルバストル公爵が超法規的措置に出るのではない?」
私は離婚されて、メンデエルに戻る。
さっきのアンヌ=マリーの様子を思い出したら、そんなこともあるかもしれないわよね…
ソロモンが私に近づき屈みこんで私の顔を覗き込むようにして頬を撫でる。
「それは好都合です。
私の妃になって、私の国にいらっしゃればよいのですから」
私はふっと笑ってソロモンの手をはずす。
「お妃がいったい何人いらっしゃるのかしら。
大勢の中のひとり、なんて嫌なのよ私」
そう、本当は、どんな女性だってそう思っているはず。
愛妾なんていないほうがいいに決まっている。
王太子のことなんてどうも思っていないけれど、だけどそれでも、やっぱりこうあからさまにされると悲しいし寂しい。
ソロモンはちょっと困った顔で笑った。
「そうですね…
王族が何人もの妃を持つのは、国が豊かであるということの証でもあるので…
その他、政略的な理由とか、自分ではどうにもならなかったりしますよね。
だけどまあ、もともと変わり者で有名な三男坊の私が、妃を一人しか持たなくても誰も何とも思わないでしょう」
「えっ?」
「私はあなたを本気で好きだと、さっき言いましたよ」
「ちょっと待て」
ジェルヴェがソロモンの肩を掴んだ、その時。
「申し上げます、イドリース様が、王太子妃様ならびにスレイマン殿下にご報告がありますとお越しでございます」
「!通してちょうだい」
私は急いで言ったが、ソロモンが「いえ、ちょっと打ち合わせがあるので私が出ます」と言って部屋を出て行った。
皆でなんとなく顔を見合わせ、私はそこで初めて気づいた。
「あら?ガレアッツォ翁は?」
いっしょに陛下の御前を辞したような気がしたんだけど。
「そういえば、クラウスもいませんね」
ジェルヴェも辺りを見回して言った。
結局、ソロモンとガレアッツォ翁はその夜戻ってくることはなく、クラウスもガレアッツォ翁と共にいるという連絡が来ただけで、いつ私の部屋に帰ってきたのか知らなかった。
そしてガレアッツォ翁に「話があります」と懇願するように話しかけた。
ガレアッツォ翁はいつものように穏やかに微笑み「畏まりました。後ほど、お伺いいたします」と答えた。
「ねぇ、フィリー。
陛下がお隠れになったら、あなたがすぐに即位しないとよね?
お父様と詳しくお話ししましょうよ。
即位式とかのこと」
場違いに大きな声でアンヌ=マリーが言い、皆ぎょっとしてアンヌ=マリーを見る。
「そういう話は…悪いけどここでは…しないでちょうだい」
王妃様が涙声で振り絞るように言い、私も泣きながら王妃様の肩に手を置き、心を込めて撫でた。
王太子は黙ってアンヌ=マリーの腰を抱き、陛下に向かって一礼して部屋を出て行った。
アンヌ=マリーは王太子にしなだれかかるようにしながら振り返って私を一瞥し、くすっと笑う。
王太子は私のことなど視界に入っていないような感じで、振り向きもせずに行ってしまった。
ジェルヴェが私の肩を抱き寄せる。
私はやり場のない悲しみというか、怒りをぐっと堪え「私たちも戻りましょう」と囁く。
ジェルヴェはうなずいて「義姉上…また参ります」と王妃様に言って、私たちは部屋を辞した。
部屋に戻ると、皆が立ち上がって私たちを迎えてくれた。
私とジェルヴェは交互に陛下のご様子について話し、クリスティーヌとオーギュストは涙をこぼした。
ソロモンも沈痛な面持ちで「そうですか…では、リンスターが王妃となられる日も近いのですね」と呟く。
そうだ…
私は今更ながらにそう気づかされ、青ざめる。
私は、ルーマデュカの王妃と…
なるのか???
「だけど、どうかしら。
殿下とアンヌ=マリー様とバルバストル公爵が超法規的措置に出るのではない?」
私は離婚されて、メンデエルに戻る。
さっきのアンヌ=マリーの様子を思い出したら、そんなこともあるかもしれないわよね…
ソロモンが私に近づき屈みこんで私の顔を覗き込むようにして頬を撫でる。
「それは好都合です。
私の妃になって、私の国にいらっしゃればよいのですから」
私はふっと笑ってソロモンの手をはずす。
「お妃がいったい何人いらっしゃるのかしら。
大勢の中のひとり、なんて嫌なのよ私」
そう、本当は、どんな女性だってそう思っているはず。
愛妾なんていないほうがいいに決まっている。
王太子のことなんてどうも思っていないけれど、だけどそれでも、やっぱりこうあからさまにされると悲しいし寂しい。
ソロモンはちょっと困った顔で笑った。
「そうですね…
王族が何人もの妃を持つのは、国が豊かであるということの証でもあるので…
その他、政略的な理由とか、自分ではどうにもならなかったりしますよね。
だけどまあ、もともと変わり者で有名な三男坊の私が、妃を一人しか持たなくても誰も何とも思わないでしょう」
「えっ?」
「私はあなたを本気で好きだと、さっき言いましたよ」
「ちょっと待て」
ジェルヴェがソロモンの肩を掴んだ、その時。
「申し上げます、イドリース様が、王太子妃様ならびにスレイマン殿下にご報告がありますとお越しでございます」
「!通してちょうだい」
私は急いで言ったが、ソロモンが「いえ、ちょっと打ち合わせがあるので私が出ます」と言って部屋を出て行った。
皆でなんとなく顔を見合わせ、私はそこで初めて気づいた。
「あら?ガレアッツォ翁は?」
いっしょに陛下の御前を辞したような気がしたんだけど。
「そういえば、クラウスもいませんね」
ジェルヴェも辺りを見回して言った。
結局、ソロモンとガレアッツォ翁はその夜戻ってくることはなく、クラウスもガレアッツォ翁と共にいるという連絡が来ただけで、いつ私の部屋に帰ってきたのか知らなかった。
0
あなたにおすすめの小説
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる