愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

Dry_Socket

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第八章 崩御と弾劾

7.ソロモンのプロポーズ

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 王太子はぐっと唇を噛み、お医師に「後は…頼んだ」と言った。
 そしてガレアッツォ翁に「話があります」と懇願するように話しかけた。
 ガレアッツォ翁はいつものように穏やかに微笑み「畏まりました。後ほど、お伺いいたします」と答えた。

 「ねぇ、フィリー。
 陛下がお隠れになったら、あなたがすぐに即位しないとよね?
 お父様と詳しくお話ししましょうよ。
 即位式とかのこと」

 場違いに大きな声でアンヌ=マリーが言い、皆ぎょっとしてアンヌ=マリーを見る。
 「そういう話は…悪いけどここでは…しないでちょうだい」
 王妃様が涙声で振り絞るように言い、私も泣きながら王妃様の肩に手を置き、心を込めて撫でた。

 王太子は黙ってアンヌ=マリーの腰を抱き、陛下に向かって一礼して部屋を出て行った。
 アンヌ=マリーは王太子にしなだれかかるようにしながら振り返って私を一瞥し、くすっと笑う。
 王太子は私のことなど視界に入っていないような感じで、振り向きもせずに行ってしまった。

 ジェルヴェが私の肩を抱き寄せる。
 私はやり場のない悲しみというか、怒りをぐっと堪え「私たちも戻りましょう」と囁く。
 ジェルヴェはうなずいて「義姉上…また参ります」と王妃様に言って、私たちは部屋を辞した。

 部屋に戻ると、皆が立ち上がって私たちを迎えてくれた。
 私とジェルヴェは交互に陛下のご様子について話し、クリスティーヌとオーギュストは涙をこぼした。
 
 ソロモンも沈痛な面持ちで「そうですか…では、リンスターが王妃となられる日も近いのですね」と呟く。
 そうだ…
 私は今更ながらにそう気づかされ、青ざめる。
 私は、ルーマデュカの王妃と…
 なるのか???

 「だけど、どうかしら。
 殿下とアンヌ=マリー様とバルバストル公爵が超法規的措置に出るのではない?」
 私は離婚されて、メンデエルに戻る。
 さっきのアンヌ=マリーの様子を思い出したら、そんなこともあるかもしれないわよね…

 ソロモンが私に近づき屈みこんで私の顔を覗き込むようにして頬を撫でる。
 「それは好都合です。
 私の妃になって、私の国にいらっしゃればよいのですから」
 私はふっと笑ってソロモンの手をはずす。
 「お妃がいったい何人いらっしゃるのかしら。
 大勢の中のひとり、なんて嫌なのよ私」

 そう、本当は、どんな女性だってそう思っているはず。
 愛妾なんていないほうがいいに決まっている。
 王太子のことなんてどうも思っていないけれど、だけどそれでも、やっぱりこうあからさまにされると悲しいし寂しい。

 ソロモンはちょっと困った顔で笑った。
 「そうですね…
 王族が何人もの妃を持つのは、国が豊かであるということの証でもあるので…
 その他、政略的な理由とか、自分ではどうにもならなかったりしますよね。
 だけどまあ、もともと変わり者で有名な三男坊の私が、妃を一人しか持たなくても誰も何とも思わないでしょう」
 「えっ?」
 「私はあなたを本気で好きだと、さっき言いましたよ」

 「ちょっと待て」
 ジェルヴェがソロモンの肩を掴んだ、その時。

 「申し上げます、イドリース様が、王太子妃様ならびにスレイマン殿下にご報告がありますとお越しでございます」
 「!通してちょうだい」
 私は急いで言ったが、ソロモンが「いえ、ちょっと打ち合わせがあるので私が出ます」と言って部屋を出て行った。

 皆でなんとなく顔を見合わせ、私はそこで初めて気づいた。
 「あら?ガレアッツォ翁は?」
 いっしょに陛下の御前を辞したような気がしたんだけど。
 「そういえば、クラウスもいませんね」
 ジェルヴェも辺りを見回して言った。

 結局、ソロモンとガレアッツォ翁はその夜戻ってくることはなく、クラウスもガレアッツォ翁と共にいるという連絡が来ただけで、いつ私の部屋に帰ってきたのか知らなかった。


 
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