愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

Dry_Socket

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第八章 崩御と弾劾

12.断罪

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 王太子が合図すると、玉座の間と続きの間、そして大広間までの扉が一斉に開かれた。
 そこには陛下の崩御間近とのニュースと共に、大急ぎで集められた諸侯がずらっと顔をそろえていた。
 いつもと違う雰囲気に、何事かと興味津々の者、不安そうに隣の人と話す者、困惑を隠そうともしない者、様々な表情の人たちに、王太子は語り掛ける。

 「…先ほど、陛下が崩御なさった。
 私は、ここで陛下の後を襲い、ルーマデュカ王国の王となることを宣言する。
 ただその前に…
 皆の前で、この咎人の罪を、断ずる」

 聴衆は、複雑な表情になる。
 王の崩御を悲しむべきか、新たな王の誕生を寿ぐべきか、それとも、大公爵を咎人呼ばわりすることに対してどう反応したらよいのか…
 
 その空気を読み取ったバルバストル公爵は、怒声を上げる。
 「皆、よく聞け!
 この王太子は、気が狂っている!
 私の娘のサロンにご禁制の品を持ち込み、娘を籠絡して、悪者に仕立て上げようとしている」

 王太子はその整った相貌を歪めるようにして嗤う。
 「…さすがだな、この状況でそういう偽りを咄嗟に口にできるとは。
 今まで私の心に、一片の同情があったのだが…
 そなたがそういうつもりなら、私も容赦しない」

 王太子の声色が変り、聴衆はそこに潜む、底知れぬ憤怒のエネルギーを感じ取って固唾を飲む。
 「罪人をここへ」
 手と腰に縄を打たれ、引き出されてきたのは。
 「ヴォルテーヌ!ペルティエ!」
 バルバストル公爵が叫び、場内は騒然とする。
 
 服は汚れて額や頬には血が滲み、鬘も取れて自毛がぼさぼさに荒れた二人は項垂れて、肩を押されながら王太子の前に立つ。
 「この二人、及び二人の部下、それから協力者がすべて白状した。
 二人と関係者の邸と領地を捜索し、証拠となる文書も数多、押収した」
 王太子の言葉に壮年のヴォルテーヌ伯爵と、老年のペルティエ子爵は唇を噛みしめ涙を流す。
 宮廷の重鎮である二人の様子に、王太子の言葉が真実であると理解し、聴衆は息を呑む。

 王太子の隣には、いつの間にかエスコフィエ侯爵が立っていた。
 エスコフィエ侯爵自身が、バルバストル公爵と相反する自分の立場や考え方、そして暗殺未遂事件のことを物語る。
 聴衆は驚愕の表情を浮かべ、聞き入っていた。
 
 エスコフィエ侯爵の話をあらゆる角度から補填し補足したのは、ガレアッツォ翁だった。
 どちらの味方もしない、どの国の事情にも首を突っ込まないというのが信条であり、またそのことによって自らの身を長年守ってきた翁を、辛抱強く口説き落としたのは亡き陛下だった。

 それから、つい最近国交樹立したばかりの某国の、大使であり皇子の話(ソロモンのことね)が、文書で披露された。
 バルバストル公爵の一言一句、詳細にわたって書かれているその文書を聞いて、一番驚いているのはバルバストル公爵だった。
 そこまで記録を取られているとは思ってもいなかったらしい。
 娘アンヌ=マリーとの関係まで暴露され、アンヌ=マリーは泣き声をあげる。

 「ご禁制の品を輸出入しようとしていたのは誰なのか。
 そしてこの国や国家を裏切り、私腹を肥やし経済のみならず政治までほしいままに操ろうと企んでいたのは誰なのか」
 聴衆の中から声が上がる。
 「バルバストル公爵だ!」

 王太子はその言葉に頷き、「亡き陛下、並びに王妃陛下のお言葉を伝える」と言って手紙を広げた。
 その手紙には、今まで誰にも明かさなかった公爵のさまざまな悪事が淡々とつづられていた。
 しかし全体としては公爵を糾弾するというよりも、公爵のこれまでの働きや貢献に感謝しているものだった。

 涙をこらえて読み続ける王太子の姿、そしてその手紙の内容に、皆は涙をこぼす。
 バルバストル公爵は、聞きながらはあはあと大きく呼吸を繰り返し、蒼白になって娘に寄り掛かりながら卒倒した。
 「おとうさまぁ!」
 アンヌ=マリーの泣き叫ぶ声が響く中、弾劾は終了した。


 
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