愛されない王妃は王宮生活を謳歌する

Dry_Socket

文字の大きさ
111 / 161
第十章 戴冠式及び国葬

3.戴冠式

しおりを挟む
 私も王太子も、長いマントを侍従長から着せかけられた。
 歩きにくくて四苦八苦して並んで歩きながら、王太子は私に囁く。
 「今日はあまり余から離れるなよ」
 「何故ですか?」
 私は言葉の意味が理解できなくて訊く。
 
 何かまた問題があるのかしら、と考えて、私ははっとする。
 そうか、まだ何かあるから、王太子はわざわざ私を戴冠式や国葬まで妃として残そうとしているのか?
 すべての問題がすっきり片付いてから、お姉様を迎えようということなの?

 あーあ。
 もうなんか、徹底してるわね、私の捨て駒扱い。
 代替のきく歩兵か何かなんでしょう。

 歩兵にだって感情があり大切なものがあり、人生がある。
 強者の論理であっさり片付けるな!

 王太子は「いや…何故というか…」とかゴニョる。
 「そなたは余の妃であるから」
 「判りましたわ」
 何か言おうとする王太子の言葉を遮って私はそっけなく答えた。

 もう話しかけるなオーラを全身から発しながら進んでゆき、巨大な扉の前に立つ。
 ああ、結婚式の時には、私は一人でここの前に立った。
 虚勢を張っていたけれど、心は不安でいっぱいで逃げ出したいほど怖かった。
 
 今は…
 私は隣に立つ背の高い王太子をちらっと見上げる。
 あまり変わっていないわね。
 私は一人ぼっちのままだわ。

 「?なんだ?」
 王太子は私の視線に気づき、少し首を傾けて私を見下ろす。
 「いえ…」
 
 私はそう答えてから、ふと気づいて訊いてみる。
 「そう言えば、結婚式の時に殿下は『妃が、お前のような女だと判っていたら』と仰いましたわね。
 あれ、どういう意味だったのですか?」
 
 王太子は、ぱっと鮮やかに赤くなった。
 私がビックリして王太子を凝視すると、王太子は上を向いて「そ…れは…」と濁す。
 
 その時、高らかにラッパの音が鳴り響き、王太子は前を向いて左腕を差し出した。
 私は王太子の腕に手をかける。
 「その話は後で」
 王太子は前を向いたまま短く呟いて衛兵が扉を開けるのを待つ。

 私も前を向いた。
 たった今現在は、私は一人じゃない。
 もうすぐこの手を離さなければならないけれど。

 この国では、最初は嫌なこともたくさんあったけど、それを上回るような楽しいこと嬉しいことがたくさんあった。
 ジェルヴェを始めとして、王侯貴族やお城で働く人など様々な人たちとの交流があって、私はこの国とこの国の人々が大好きになった。

 出会いがあれば別れがある。
 それは判っているけど…
 こんな別れ方になるとはさすがに思っていなかったな。

 ルーマデュカからもらった、たくさんの楽しい思い出の恩返しだ。
 しっかり役目を果たして、この国の王妃像を、揺るがぬものにしよう。
 お姉様やメンデエルのためだけではない、私自身の矜持プライドのために。

 衛兵が両側から巨大な扉を開く。
 王太子と私は息を合わせて足を踏み出した。

 天井が高く、ホールのような大聖堂は、音が良く響くように設計されていて、少年たちの歌う讃美歌がこだまして何百何千という人の声が重なっているように聞こえる。
 天窓から明かりが差す荘厳な雰囲気の中、たくさんの蝋燭が灯された祭壇の前にいる教皇様と二人の司教様の前に到着して、私は王太子の腕から手を離し、二人とも胸の前に手を合わせて膝を折って額ずく。

 壮年の教皇様は祝詞を唱えながら、王太子と私の頭の上から聖油を振りかける。
 そして「神の御名のもとに、ここにルーマデュカの新たな王と王妃の誕生を宣言します」と高らかに言い、王太子の頭に重そうな王冠を授けた。
 それから少し小ぶりな王冠を司教様から受け取って、私の頭に載せる。

 お、もっ…
 私は口から思わず言葉が漏れそうになるのをぐっとこらえ、頭を上げた。
 王太子、ではなく王も顔を上げて、私を助けて皆の方へ身体の向きを変えた。

 「余と妃は、この時よりルーマデュカの王、王妃となる。
 神への奉仕とこの国を豊かで強大な国家にすることを誓う」
 良く響く声で王は言い、教皇様から渡された王笏を手に玉座に座った。
 私も隣の椅子に座る。

 遂に、王妃になっちゃったわ。
 3日くらいの王妃だけど。
 この後、王妃が入れ替わるの、皆知ってるのかしら?
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

【完結】これをもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...