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第十二章 求婚
7.弟妹達
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私はなんだか疲れ果てて、部屋に戻るとソファに崩れこんでしまった。
お姉様の勝ち誇ったような美しい笑顔を思い出すたび、悲しく腹立たしいような気になる。
強者はいつだって弱者の心情には無頓着だ。
それは仕方がない、だって世の中は元来不公平にできている。
お姉様だって、ご自分が病弱なために(他の理由もあるけれど)ルーマデュカへの輿入れを妹姫に譲らなければならなかったときは、世の不公平を恨んだかもしれない。
だからこそ、身体を鍛えたり、お父様に頼み込んであんな無茶な王妃交代をお願いしたのだろう。
実際、お姉様のご体調は良いみたいで、肌の白さはそのままに頬は血色がよくなっていた。
考え込む私にフリーダが声をかけてくる。
「ご夕食のご用意ができました、王女様。
ルートヴィヒ様とマルグレート様がお越しになられる予定でございます。
ぜひご一緒にお食事をなさりたいと」
「あら、そうなの…
ありがとうフリーダ」
私が言ったとき「お姉様!」と明るい声が聞こえて、妹姫のマルグリートが駆け込んできた。
「マルグリート、久しぶり」
私は愛らしい妹と軽くハグする。
「お姉様、お帰りなさいませ」
扉が開いて入ってきたのは弟王子のルートヴィヒだった。
「ただいま、ルートヴィヒ。元気そうね」
私は夕食の支度が調った食卓に弟妹を連れて座る。
「お姉様とまたこうやってお食事できるなんて夢みたいだわ」
マルグリートはそう言って、ぱくぱくと相変わらずの健啖ぶりで食事をする。
「ルーマデュカは、この半年の間に大公爵の失脚や先王陛下の崩御など、大きな政変があって大変でしたね。
詳しいお話など聞かせていただけたらと思って、楽しみにしてまいりました」
ルートヴィヒはこの半年間で少し大人びたような言い回しをするようになった。
「ねえ、お姉様。
陛下って本当に巷間の噂のように女好きでいらしたの?
ご愛妾を追放なさったのは、飽きたからだって噂があるけど、本当なの?」
「さあ…わたくしも、そこらへんは判然としないのよ」
私は、昨日はあまり食べられなかった故郷の懐かしい料理を堪能しながら首を傾げる。
弾劾の時、大公爵の方から娘を近づけてきて、あわよくば王妃にそしてゆくゆくは国母に、と目論んでいたということを言っていた。
公妾の子供は、宗教上、継嗣にはなれないからバルバストル公爵はどうしてもアンヌ=マリーを王妃にさせたかったのだ。
それを見透かして、わざと女好きの王太子を装っていた、というような話だった。
すべては先王と新王の策略だった。
ルーマデュカを完全で強力な中央集権国家にするための。
私はルーマデュカでさまざま見知ったことを、弟妹に聞かせた。
エリーザベトお姉様には聞かせなかった、王とのいろんなエピソードも、同腹のきょうだいの気安さから話して聞かせた。
二人とも目を丸くして聞いていたが、話し終わるとマルグリートがぽつりと言った。
「ねえそれ…陛下は、リンスターお姉様のこと、お好きよね?」
「ああ、私もそう思う。
女好きとは到底思えない、非常に回りくどくて判りづらい愛情表現だけど…」
「ええ?そお?
どこらへんが?」
私が驚いて訊き返したとき、ドアが慌ただしくノックされて、答える暇もないうちに開いた。
「リンスター王女殿下!
陛下がお呼びでございます。
急ぎお越しを賜りたく存じます!」
「えっ、何?」
はあはあと息が上がっている執事を見て、私はびっくりして固まる。
執事はつかつかと歩いてきて、私の腕をつかんだ。
「緊急事態でございます!
お急ぎを!」
「ちょっと、おいギーツェン!
姉上に無礼なことするな、痛がっておられるだろ!」
ルートヴィヒが怒って執事の腕を払う。
「は、申し訳ございません!
しかし、陛下も宰相殿もお早くお連れ申し上げろと大騒ぎでございまして…」
「リンスター様!
陛下がお急ぎくださいと…」
とまたドアが開いて、お父様の侍従が飛び込んでくる。
もうどうなってるの、何なのよ…
クラウスがいない今、私には情報源がない。
しぶしぶ立ち上がって、急かされるままに部屋を出た。
弟妹達も面白がってついてくる。
「何があったの?」
「それが…よく判らないのですが…
リンスター様に求婚される異国の皇子様が、いらっしゃるとか。
お使者を立てて正式に申し込んできたそうです」
「えっ?!」
私は思わず立ち止まる。
異国の皇子?
ってまさか…
お姉様の勝ち誇ったような美しい笑顔を思い出すたび、悲しく腹立たしいような気になる。
強者はいつだって弱者の心情には無頓着だ。
それは仕方がない、だって世の中は元来不公平にできている。
お姉様だって、ご自分が病弱なために(他の理由もあるけれど)ルーマデュカへの輿入れを妹姫に譲らなければならなかったときは、世の不公平を恨んだかもしれない。
だからこそ、身体を鍛えたり、お父様に頼み込んであんな無茶な王妃交代をお願いしたのだろう。
実際、お姉様のご体調は良いみたいで、肌の白さはそのままに頬は血色がよくなっていた。
考え込む私にフリーダが声をかけてくる。
「ご夕食のご用意ができました、王女様。
ルートヴィヒ様とマルグレート様がお越しになられる予定でございます。
ぜひご一緒にお食事をなさりたいと」
「あら、そうなの…
ありがとうフリーダ」
私が言ったとき「お姉様!」と明るい声が聞こえて、妹姫のマルグリートが駆け込んできた。
「マルグリート、久しぶり」
私は愛らしい妹と軽くハグする。
「お姉様、お帰りなさいませ」
扉が開いて入ってきたのは弟王子のルートヴィヒだった。
「ただいま、ルートヴィヒ。元気そうね」
私は夕食の支度が調った食卓に弟妹を連れて座る。
「お姉様とまたこうやってお食事できるなんて夢みたいだわ」
マルグリートはそう言って、ぱくぱくと相変わらずの健啖ぶりで食事をする。
「ルーマデュカは、この半年の間に大公爵の失脚や先王陛下の崩御など、大きな政変があって大変でしたね。
詳しいお話など聞かせていただけたらと思って、楽しみにしてまいりました」
ルートヴィヒはこの半年間で少し大人びたような言い回しをするようになった。
「ねえ、お姉様。
陛下って本当に巷間の噂のように女好きでいらしたの?
ご愛妾を追放なさったのは、飽きたからだって噂があるけど、本当なの?」
「さあ…わたくしも、そこらへんは判然としないのよ」
私は、昨日はあまり食べられなかった故郷の懐かしい料理を堪能しながら首を傾げる。
弾劾の時、大公爵の方から娘を近づけてきて、あわよくば王妃にそしてゆくゆくは国母に、と目論んでいたということを言っていた。
公妾の子供は、宗教上、継嗣にはなれないからバルバストル公爵はどうしてもアンヌ=マリーを王妃にさせたかったのだ。
それを見透かして、わざと女好きの王太子を装っていた、というような話だった。
すべては先王と新王の策略だった。
ルーマデュカを完全で強力な中央集権国家にするための。
私はルーマデュカでさまざま見知ったことを、弟妹に聞かせた。
エリーザベトお姉様には聞かせなかった、王とのいろんなエピソードも、同腹のきょうだいの気安さから話して聞かせた。
二人とも目を丸くして聞いていたが、話し終わるとマルグリートがぽつりと言った。
「ねえそれ…陛下は、リンスターお姉様のこと、お好きよね?」
「ああ、私もそう思う。
女好きとは到底思えない、非常に回りくどくて判りづらい愛情表現だけど…」
「ええ?そお?
どこらへんが?」
私が驚いて訊き返したとき、ドアが慌ただしくノックされて、答える暇もないうちに開いた。
「リンスター王女殿下!
陛下がお呼びでございます。
急ぎお越しを賜りたく存じます!」
「えっ、何?」
はあはあと息が上がっている執事を見て、私はびっくりして固まる。
執事はつかつかと歩いてきて、私の腕をつかんだ。
「緊急事態でございます!
お急ぎを!」
「ちょっと、おいギーツェン!
姉上に無礼なことするな、痛がっておられるだろ!」
ルートヴィヒが怒って執事の腕を払う。
「は、申し訳ございません!
しかし、陛下も宰相殿もお早くお連れ申し上げろと大騒ぎでございまして…」
「リンスター様!
陛下がお急ぎくださいと…」
とまたドアが開いて、お父様の侍従が飛び込んでくる。
もうどうなってるの、何なのよ…
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しぶしぶ立ち上がって、急かされるままに部屋を出た。
弟妹達も面白がってついてくる。
「何があったの?」
「それが…よく判らないのですが…
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「えっ?!」
私は思わず立ち止まる。
異国の皇子?
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