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第一章 地下大都市トウキョウ
6.啓司の話
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課せられたノルマがやっと終わってクラウドに送信したとき、部屋のインタフォンが鳴った。
「遠夜!開けてくれ」
啓司が叫んでいる。
「…なんだよ~」
自分の仕事が終わるのを見計らっていたかのようなタイミングに恐れを抱きながらドアを開けると、両手に何やら箱を持った啓司と両手に袋をぶら下げている貴彦がいた。
「…何、何なのいったい」
思わず避けながら遠夜が呟くと「入るぞ~」と啓司がどかどか入ってくる。
「お邪魔さん」
貴彦がニッコリ笑って入ってきた。
「汚い部屋だな。
毎日掃除入ってんだろう?」
ゴミだらけのテーブルをざっと片付けて箱を置きながら啓司がブツブツ言う。
「寝てたいからあんまり掃除はしてもらってない」
遠夜が何気なく答える。
「なんっだそれ!」
と激怒して指を遠夜に突き付けた。
「判った。
明日から俺が起こす」
「え~~~嫌だ!」
安眠まで妨害する気か!
「ヤダじゃないっ!
俺の方こそ何が悲しくて野郎にモーニングコールしなきゃならんのだ!」
「遠夜、朝食に来ないことも多いよね」
貴彦が心配そうに言う。
「この莫迦!
朝食を食わないとお前の場合、作業効率が6.7%も落ちるって何度も言ってるだろう」
「寝ないともっと落ちるんだよ~~」
遠夜は情けない声を出す。
「それはただの怠慢だ!
お前のバイオリズムではそんなに寝なくて大丈夫だ」
啓司は決めつけ、大きくため息をついた。
「お前の作業プログラムが変わるかもしれない。
本当に朝寝坊なんかしてる場合じゃなくなるかもしれないぞ」
「…え?」
今なんて言った?
「まあまあ。
遠夜、今度こそ仕事終わったんだろ?
お菓子とか飲み物持ってきたから。
皆で食べようよ」
取りなすように貴彦が言って、啓司の持ってきた菓子の箱を開ける。
色とりどりのプティフールに上生菓子。
クラッシュゼリーをあしらった小さなパフェもあればミニホールのショートケーキもある。
「何だこれ…」
女子会かよ。遠夜は度肝を抜かれて呟く。
「今日、国際経済学会でな。
トウキョウが開催地だったんで、手伝いに駆り出された。
で、悠真教授への差し入れが全部こっちへ回された」
「女子棟にあげれば良かっただろ?!」
見れば見るほど甘そうなお菓子の数々に、遠夜は早くも胸焼けしそうになる。
「女子には、仁志先生へのすごい量の貢物が回されたんだ。
仕方ないだろう」
「仁志先生、グローバルに人気あるもんね」
貴彦が苦笑して言う。
「遠夜は何を飲む?」
グラスを取って、貴彦が袋の中身を見ながら訊いた。
「何があるの?」
「んー、コーラとオレンジとミルクティ」
「甘いよ!
このお菓子食べながらそれ飲めないよ!」
遠夜が悲鳴のように言うと、貴彦と啓司は「確かに…」と笑った。
「じゃあ、ご自慢のコーヒーをふるまってくれ。
ジュースは俺がなんとかする」
啓司は言って、袋の口を閉じた。
遠夜がコーヒーを淹れて出すと、それぞれ思い思いにお菓子を取ってつまむ。
しばらくして、啓司が口を開いた。
「遠夜、さっき食堂で貴彦に話していた件だけど」
「うん…」
何だろう。
食堂がざわついていたのと関係あるんだろうか。
「地上都市東京から、新しく頭脳ブレインが来ることになった」
「ふうん…別に珍しいことでもないだろ」
そんなことか。
じゃあ、あの食堂でのざわめきは、なんだったんだ?
「赤ん坊や幼児ならな。
それが俺たちと同じ17歳なんだ」
菓子を口に入れているはずなのに、苦いものでも食べているかのような顔で啓司は話す。
「えっ…!」
遠夜は口に運ぼうとしていた菓子を取り落としそうになった。
「そんなことあるの?」
「前例はない。
でも実際に起こったことだ」
啓司はマグカップを持って、コーヒーを口に含む。
「さっき検査結果を見せてもらったんだ。
非常に稀有なケースだ。
今まで見落とされていたんだな」
貴彦が沈んだ声で言った。
「だったら今更、トウキョウに来なくても…」
17歳でいきなりここに来てこの監獄のような生活に耐えられるのか?
「そういう意見も多かったんだけどな」
啓司もため息をつく。
「見過ごすには能力が高すぎる。
加えて精神の数値も高いから、ちゃんとコントロールできるように訓練しないと」
「遠夜みたいにポルターガイストの嵐が毎日巻き起こることになる」
貴彦は当時を思い出したように片手で目を覆った。
遠夜はタルトを噛みながら「なるほどね」と呟いた。
俺みたいなのが来るのか。そりゃ大変だ。
「遠夜!開けてくれ」
啓司が叫んでいる。
「…なんだよ~」
自分の仕事が終わるのを見計らっていたかのようなタイミングに恐れを抱きながらドアを開けると、両手に何やら箱を持った啓司と両手に袋をぶら下げている貴彦がいた。
「…何、何なのいったい」
思わず避けながら遠夜が呟くと「入るぞ~」と啓司がどかどか入ってくる。
「お邪魔さん」
貴彦がニッコリ笑って入ってきた。
「汚い部屋だな。
毎日掃除入ってんだろう?」
ゴミだらけのテーブルをざっと片付けて箱を置きながら啓司がブツブツ言う。
「寝てたいからあんまり掃除はしてもらってない」
遠夜が何気なく答える。
「なんっだそれ!」
と激怒して指を遠夜に突き付けた。
「判った。
明日から俺が起こす」
「え~~~嫌だ!」
安眠まで妨害する気か!
「ヤダじゃないっ!
俺の方こそ何が悲しくて野郎にモーニングコールしなきゃならんのだ!」
「遠夜、朝食に来ないことも多いよね」
貴彦が心配そうに言う。
「この莫迦!
朝食を食わないとお前の場合、作業効率が6.7%も落ちるって何度も言ってるだろう」
「寝ないともっと落ちるんだよ~~」
遠夜は情けない声を出す。
「それはただの怠慢だ!
お前のバイオリズムではそんなに寝なくて大丈夫だ」
啓司は決めつけ、大きくため息をついた。
「お前の作業プログラムが変わるかもしれない。
本当に朝寝坊なんかしてる場合じゃなくなるかもしれないぞ」
「…え?」
今なんて言った?
「まあまあ。
遠夜、今度こそ仕事終わったんだろ?
お菓子とか飲み物持ってきたから。
皆で食べようよ」
取りなすように貴彦が言って、啓司の持ってきた菓子の箱を開ける。
色とりどりのプティフールに上生菓子。
クラッシュゼリーをあしらった小さなパフェもあればミニホールのショートケーキもある。
「何だこれ…」
女子会かよ。遠夜は度肝を抜かれて呟く。
「今日、国際経済学会でな。
トウキョウが開催地だったんで、手伝いに駆り出された。
で、悠真教授への差し入れが全部こっちへ回された」
「女子棟にあげれば良かっただろ?!」
見れば見るほど甘そうなお菓子の数々に、遠夜は早くも胸焼けしそうになる。
「女子には、仁志先生へのすごい量の貢物が回されたんだ。
仕方ないだろう」
「仁志先生、グローバルに人気あるもんね」
貴彦が苦笑して言う。
「遠夜は何を飲む?」
グラスを取って、貴彦が袋の中身を見ながら訊いた。
「何があるの?」
「んー、コーラとオレンジとミルクティ」
「甘いよ!
このお菓子食べながらそれ飲めないよ!」
遠夜が悲鳴のように言うと、貴彦と啓司は「確かに…」と笑った。
「じゃあ、ご自慢のコーヒーをふるまってくれ。
ジュースは俺がなんとかする」
啓司は言って、袋の口を閉じた。
遠夜がコーヒーを淹れて出すと、それぞれ思い思いにお菓子を取ってつまむ。
しばらくして、啓司が口を開いた。
「遠夜、さっき食堂で貴彦に話していた件だけど」
「うん…」
何だろう。
食堂がざわついていたのと関係あるんだろうか。
「地上都市東京から、新しく頭脳ブレインが来ることになった」
「ふうん…別に珍しいことでもないだろ」
そんなことか。
じゃあ、あの食堂でのざわめきは、なんだったんだ?
「赤ん坊や幼児ならな。
それが俺たちと同じ17歳なんだ」
菓子を口に入れているはずなのに、苦いものでも食べているかのような顔で啓司は話す。
「えっ…!」
遠夜は口に運ぼうとしていた菓子を取り落としそうになった。
「そんなことあるの?」
「前例はない。
でも実際に起こったことだ」
啓司はマグカップを持って、コーヒーを口に含む。
「さっき検査結果を見せてもらったんだ。
非常に稀有なケースだ。
今まで見落とされていたんだな」
貴彦が沈んだ声で言った。
「だったら今更、トウキョウに来なくても…」
17歳でいきなりここに来てこの監獄のような生活に耐えられるのか?
「そういう意見も多かったんだけどな」
啓司もため息をつく。
「見過ごすには能力が高すぎる。
加えて精神の数値も高いから、ちゃんとコントロールできるように訓練しないと」
「遠夜みたいにポルターガイストの嵐が毎日巻き起こることになる」
貴彦は当時を思い出したように片手で目を覆った。
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