BREAK THROUGHー地下大都市からの脱出ー

Dry_Socket

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第一章 地下大都市トウキョウ

9.感情の爆発

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 「啓司!待って!」
 貴彦は追いかけながら悔やんでいた。

 昨夜。
 啓司には珍しい、嫉妬のような負の感情を察知してはいた。
 ただ、自分で抑えようとしているのが判ったので、あえて気づかぬふりでいた。

 こんなに早く爆発するとは思わなかった。

 「啓司!」
 やっと追いついて肩に手をかけると、予期せぬ感情の嵐が貴彦を襲った。

 ―――――ドウシテ オレハ トオヤノヨウニナレナイ
 ―――――コンナセカイ ナンテ ナクナレ
 ―――――オレハ モウ キエテシマイタイ
 
 繰り返し繰り返し渦巻いて流れ込んでくる、巨大な感情の奔流に貴彦は自分が巻き込まれていくのを感じた。
 ヤバイ…
 これは抑えられない。

 巻き込まれて貴彦まで爆発させてしまったら、ここが大変なことになる。
 ギリギリの精神状態の中、貴彦は今取り得る唯一の手段を取った。

 すなわち意識を飛ばした。
 気を失ってその場に昏倒する。

 見ていた人から大きな悲鳴が上がる。
 「貴彦!」
 驚いて我に返った啓司を始め、たまたまそこにいた人たちが駆け寄ってくる。

 「触ったらダメだ!」
 倒れた貴彦を抱き起そうとする啓司に、鋭く制して医師が医療ロボットとともに駆けつけてきた。

 「こちらで処置する。
 仕事に戻ってくれ」
 医師はロボットにてきぱきと指示を出して貴彦をストレッチャーに乗せると医療地区に運んでいった。

 啓司はその場で座り込み、拳を握って後悔のほぞを嚙んだ。
 俺は一体何をした?

 能力の高い遠夜や貴彦にみっともなく嫉妬して、本人に八つ当たりしたんだ。
 自分の存在意義を見出せないのは、自分のせいなのに。
 ぎゅっと目をつぶる。

 「…啓司」
 後ろから声をかけてきたのは、直紀という同僚だった。

 「医師せんせいが、お前も医療セクションに来いって。
 話を聞きたいらしい」
 「…判った」
 啓司は立ち上がり、ふらつく脚に苛つきながら歩きだした。

 「遠夜のマネジメントは本当に厄介だと思う。
 完璧にやるのは不可能に近いよ。
 皆が嫌がってやらないからって、全部お前に押し付けてごめんな。
 これからはもっとシェアしてやっていこうという話になってるよ」
 後ろから直紀が気遣うように声をかけてくる。

 「いや、俺はやりたくてやってるんだから良いんだ」
 啓司は暗い声で答える。
 遠夜のマネジメントまで取り上げられたら、俺は本当にここにいる意味がなくなっちまう。

 「…そう無理するな。
 啓司は本当によくやってるよ」
 直紀は啓司の背をポンと叩いて、しんみりと言う。

 「じゃあ、今日は俺と美都でお前の仕事振り分けてやっておくから」
 気を取り直すように言って、直紀は啓司に向かって手を上げ業務地区オフィスセクションに向かって歩いて行った。
 啓司は「ああ、悪いな」と手を上げて見送り、医療地区メディカルセクションの自動ドアを大股で入った。

 食堂に取り残されていた遠夜は、廊下の向こうで大きな悲鳴が上がり、貴彦が倒れたと聞いて席を立った。
 が、周りの人間に押しとどめられ(お前が行くとまた状況が混乱する!)仕方なくまた椅子に座っていると、直紀と美都が来た。

 「遠夜、今日は俺と美都で啓司の仕事も分担することになった。
 言うこと訊いてくれよ頼むから」
 直紀が懇願するように言う。

 「啓司と貴彦も?
 どうしたんだ?」
 遠夜は心配になって訊く。

 「まだ何もわからない。
 啓司も貴彦も医療施設へ行ったから、お前は心配しなくていい」
 と言ってタブレット端末を操作して、遠夜のスケジュールを呼び出して首をひねった。
 「降雨調整装置の会議?…なんだこれ」

 「ああ、今日の仕事だって。
 何時にどこに行けばいいんだ?」
 遠夜が訊くと、美都も直紀も目を丸くして遠夜を見る。

 遠夜が行く気になってる、こんな訳の判らない仕事に…
 とその目が雄弁に物語っていて、遠夜は少しむっとした。

 「直紀」
 遠夜が急かす。
 「あ、ああ…9時にオフィスC517号室」
 直紀は慌ててタブレットの画面を読んだ。

 「判った。
 その後のことはショートメッセージで連絡して」
 立ち上がりながら遠夜が言うと「OK」と合点し、直紀と美都は首を傾げながら去っていった。
 遠夜は二人の背を見送って大きくため息をつく。

 啓司の悲鳴のような声が耳から離れない。
 『お前の能力が高いのは俺のせいじゃない!
 なぜいつも俺が悪くなるんだ!』

 啓司を悪者にしたことなんかない。
 少なくとも遠夜にそのつもりはまったくない。

 親と暮らすことができない、この地下大都市で。
 俺にとっては、啓司は友達以上の兄弟というか家族みたいなものだ。

 幼いころから何故かずっと俺の面倒を見てくれた。 
 俺がいくらめちゃくちゃな行動をとっても、黙って処理してくれてた。
 いつの間にかそれが当たり前みたいになって、俺は啓司に甘えていたんだ。

 だけど…
 啓司は俺のことをどう思っていたんだろう。
 仕事だからしょうがないと、嫌いな人間の世話をしてきたんだろうか。

 友達、ではなかったのだろうか。
 遠夜は項垂うなだれて業務地区へ歩いていった。
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