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第一章 地下大都市トウキョウ
8.変化の始まり
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翌朝、遠夜は約束通り啓司の怒声で起こされた。
これがこれから毎日続くのかよ…
遠夜はげんなりしながら顔を洗う。
食堂に行かないと怒られるだろうけど、昨夜大量に食わされた焼き菓子のおかげで胃がもたれている。
ああ、めんどくせえ…
遠夜はのろのろ着替えると、部屋を後にした。
掃除も断りたかったが、昨日のお菓子の余韻が残ってて、なんか気持ち悪い。
掃除は断らなければ来るから、このまま出ればいいや。
貴彦は、だらだらと食堂に姿を現した遠夜を見て、思わず笑顔になった。
「おはよう、遠夜。啓司のモーニングコールは覿面だね」
「モーニングコールとかいう洒落たモンじゃねーよ…怒鳴られるだけだぜ」
遠夜はぐったりと手近にあった椅子に座る。
「何か食べる?」
貴彦が訊いても、首を横に振る。
昨日の夜食が効いたよなあ…俺も何も食べる気がしない。
貴彦は苦笑すると、コーヒーにミルクだけ入れて薄いトーストを一切れと果物を添えて遠夜の前に置いた。
「ほら。少しでも胃に入れておいた方がいい。
俺も胃もたれしちゃって辛いんだけど食べるから」
「啓司の野郎…殺す気か…」
遠夜は息も絶え絶えに呟いた。
「これくらいで死ぬか。
せっかく起きたんだからさっさと食え。
今日のスケジュールちっと変わったぞ」
いつの間にか啓司が真後ろに来ていて、遠夜は飛び上がる。
「啓司は元気だねえ…」
感心したように貴彦が言う。
カラ元気だよ。
そう言いたいのを我慢して、啓司は遠夜の横に座った。
「スケジュール変わったって…なに」
遠夜がコーヒーを口に含んで顔をしかめながら訊く。
「死ぬほど嫌がっていたデスクワークから解放してやる。
開発中の、最新型の降雨調整装置の会議に行け」
「はあ?」
遠夜は間抜けな声を出した。
貴彦も驚いたように啓司を見つめている。
「俺が?
降雨調節装置?
何言ってんのお前、全然門外漢だぞ」
「そんなことは知っている。
ただ、そろそろお前も頭脳と技術の協働の場に顔くらい出しとけってことらしい」
啓司は手に持ったタブレット端末を見ながら言う。
「え~なんでだよ」
遠夜は不服そうにトーストをかじった。
「お前、自分がいま何歳か判ってるか?」
啓司はじっと遠夜を見つめながら言う。
「17歳だよ…あっ」
そうか。
遠夜は遅まきながら気づいてぞっとした。
「来年は成人だ。
仕事の内容が、現在のようなサポート業務から本格的なトウキョウの運営に関わることになる。
ましてやお前は幹部候補なんだから、地上都市や地球全体の趨勢も見ていかなければならない。
いつまでもあれが嫌これが嫌なんて言っていられないんだよ」
「そんなこと俺にできるか!」
かじりかけのトーストを投げ捨てて、思わず遠夜は立ち上がる。
いつもそうだ。
俺の意思を無視して皆で決めやがって、俺に押し付ける。
「遠夜」
慌てて貴彦が立ち上がり、手を伸ばして遠夜の耳のイヤーカフに触れる。
遠夜の周りで発生し、不穏に動き出そうとしていた風のような空気の流れが停まった。
遠夜の周りで食事していた人たちは不穏な空気をいち早く察知して一斉に避難していたが、ホッとしたように席に戻る。
慣れているとはいえ、遠夜の巻き起こす嵐に巻き込まれないに越したことはない。
遠夜はまたぐったりと椅子に腰かけ、テーブルに突っ伏した。
啓司はまたも自分を支配しようとするマイナスの感情に負けまいと殊更に冷酷に言う。
「お前が幹部候補なのはここに来た時から決まっていたことだ。
俺が決めたわけじゃない。
お前の能力が高いのは俺のせいじゃない!
なぜいつも俺が悪くなるんだ!」
ばん!
とテーブルを力任せに叩く。
食堂にいた人間皆が驚いて視線が集中する中、啓司は身を翻して食堂を出て行った。
「まずいな…ちょっと行ってくる」
貴彦は遠夜に言いおいて、啓司を追いかけて走って行った。
啓司が激情を露にするのを初めて目の当たりにした遠夜は、驚いて口を開けたままポカンと見送っていた。
何?どうした?
何で啓司があんなに怒っているんだ?
これがこれから毎日続くのかよ…
遠夜はげんなりしながら顔を洗う。
食堂に行かないと怒られるだろうけど、昨夜大量に食わされた焼き菓子のおかげで胃がもたれている。
ああ、めんどくせえ…
遠夜はのろのろ着替えると、部屋を後にした。
掃除も断りたかったが、昨日のお菓子の余韻が残ってて、なんか気持ち悪い。
掃除は断らなければ来るから、このまま出ればいいや。
貴彦は、だらだらと食堂に姿を現した遠夜を見て、思わず笑顔になった。
「おはよう、遠夜。啓司のモーニングコールは覿面だね」
「モーニングコールとかいう洒落たモンじゃねーよ…怒鳴られるだけだぜ」
遠夜はぐったりと手近にあった椅子に座る。
「何か食べる?」
貴彦が訊いても、首を横に振る。
昨日の夜食が効いたよなあ…俺も何も食べる気がしない。
貴彦は苦笑すると、コーヒーにミルクだけ入れて薄いトーストを一切れと果物を添えて遠夜の前に置いた。
「ほら。少しでも胃に入れておいた方がいい。
俺も胃もたれしちゃって辛いんだけど食べるから」
「啓司の野郎…殺す気か…」
遠夜は息も絶え絶えに呟いた。
「これくらいで死ぬか。
せっかく起きたんだからさっさと食え。
今日のスケジュールちっと変わったぞ」
いつの間にか啓司が真後ろに来ていて、遠夜は飛び上がる。
「啓司は元気だねえ…」
感心したように貴彦が言う。
カラ元気だよ。
そう言いたいのを我慢して、啓司は遠夜の横に座った。
「スケジュール変わったって…なに」
遠夜がコーヒーを口に含んで顔をしかめながら訊く。
「死ぬほど嫌がっていたデスクワークから解放してやる。
開発中の、最新型の降雨調整装置の会議に行け」
「はあ?」
遠夜は間抜けな声を出した。
貴彦も驚いたように啓司を見つめている。
「俺が?
降雨調節装置?
何言ってんのお前、全然門外漢だぞ」
「そんなことは知っている。
ただ、そろそろお前も頭脳と技術の協働の場に顔くらい出しとけってことらしい」
啓司は手に持ったタブレット端末を見ながら言う。
「え~なんでだよ」
遠夜は不服そうにトーストをかじった。
「お前、自分がいま何歳か判ってるか?」
啓司はじっと遠夜を見つめながら言う。
「17歳だよ…あっ」
そうか。
遠夜は遅まきながら気づいてぞっとした。
「来年は成人だ。
仕事の内容が、現在のようなサポート業務から本格的なトウキョウの運営に関わることになる。
ましてやお前は幹部候補なんだから、地上都市や地球全体の趨勢も見ていかなければならない。
いつまでもあれが嫌これが嫌なんて言っていられないんだよ」
「そんなこと俺にできるか!」
かじりかけのトーストを投げ捨てて、思わず遠夜は立ち上がる。
いつもそうだ。
俺の意思を無視して皆で決めやがって、俺に押し付ける。
「遠夜」
慌てて貴彦が立ち上がり、手を伸ばして遠夜の耳のイヤーカフに触れる。
遠夜の周りで発生し、不穏に動き出そうとしていた風のような空気の流れが停まった。
遠夜の周りで食事していた人たちは不穏な空気をいち早く察知して一斉に避難していたが、ホッとしたように席に戻る。
慣れているとはいえ、遠夜の巻き起こす嵐に巻き込まれないに越したことはない。
遠夜はまたぐったりと椅子に腰かけ、テーブルに突っ伏した。
啓司はまたも自分を支配しようとするマイナスの感情に負けまいと殊更に冷酷に言う。
「お前が幹部候補なのはここに来た時から決まっていたことだ。
俺が決めたわけじゃない。
お前の能力が高いのは俺のせいじゃない!
なぜいつも俺が悪くなるんだ!」
ばん!
とテーブルを力任せに叩く。
食堂にいた人間皆が驚いて視線が集中する中、啓司は身を翻して食堂を出て行った。
「まずいな…ちょっと行ってくる」
貴彦は遠夜に言いおいて、啓司を追いかけて走って行った。
啓司が激情を露にするのを初めて目の当たりにした遠夜は、驚いて口を開けたままポカンと見送っていた。
何?どうした?
何で啓司があんなに怒っているんだ?
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