BREAK THROUGHー地下大都市からの脱出ー

Dry_Socket

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第一章 地下大都市トウキョウ

11.見舞い

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 「驚いた。
 βってあんななの?」
 恭香は歩きながら口元に手を当てる。

 「俺も初めて見た。
 大変だなあ」
 遠夜も女の子の歩調に合わせてゆっくり歩きながら言った。

 「しかし、会議ぶっ壊しちゃってまずかったかな」
 ヤバかったか?
 啓司の怒声が幻聴で聞こえる。

 「あら、大丈夫よ。
 っていうか、あれ黙って見ていられないでしょ、3時間も」
 確かに。
 遠夜は肩をすくめる。

 「さて、時間余っちゃったわね。
 宜しかったらお茶でもいかが?」
 と恭香が大きな瞳で見上げながら訊いてくる。

 「ああ、カフェテリア行くか」
 遠夜は頷いて、住居地区レジデンスセクションへ恭香を促した。
 
 歩きながら、遠夜は自分で自分に驚いていた。
 俺が女の子と普通にしゃべってる!
 貴彦と啓司に見せてやりたい。ふふふ。

 そこで気が付いた。
 貴彦と啓司はどうしたかな。

 思わず、急に足を止める。
 恭香が振り向いて「どうしたの?」と驚いたように訊いた。

 「あの…友達が今朝、食堂の近くで倒れて医療施設に運ばれたん」
 「あっ!もしかして貴彦さん?」
 遠夜が言いかけると恭香は被せてきた。

 「そう、精神サイキックの貴彦。
 知ってる?」
 「この地下大都市トウキョウで彼を知らない人なんていないわよ。
 今朝倒れたって噂があって…どうしたの?」
 心配そうに訊く。
 
 遠夜は何となくモヤモヤする気持ちを押し殺す。
 「いや、俺もよく解らないんだ。
 今から医療地区メディカルセクションに行ってみる。
 良かったら一緒に行く?」
 訊くと「うん。行くわ」と即答した。

 二人で連れだって、医療地区メディカルセクションに急ぐ。
 ドアの前でセンサーライトに一瞬照らされ、中に入る。
 『B1-α489622-U085遠夜・T1-α500671-U026恭香、用件は』
 と人工音声が訊いてきた。
 
 「啓司と貴彦どうなったか見に来た」遠夜が雑に言うと、人工音声は途切れ代わって医師の声で『おう遠夜、1707だ、入れ』と聞こえてきた。
 迷路のようなエリアの中を右左に折れながら進んでいき、『1707』とプレートの掲げてある部屋のドアをノックする。

 予め設定してあったようで自動ドアは音もなく開き、遠夜と恭香は中へ入った。
 精神波を遮蔽するシールドのテントの中で、様々な電子機器のセンサーを付けられた貴彦がベッドに横たわり眠っている。
 頭に包帯が巻いてあるのを見て、恭香が息を飲んだ。

 「女の子連れとは珍しいな遠夜」
 部屋の隅でパソコンを二台並べてCT画像とSTLデータを交互に見ていた医師が、椅子をギっと回してこちらを振り向き、笑った。

 「貴彦、どうしたんだ?
 怪我したの?」
 遠夜が無視して訊くと、医師は苦笑した。
 「気を失って転倒したときにちょっとぶつけただけだ」

 「なんで気を失った?
 啓司が何か…」
 貴彦は啓司を追いかけていって、その後、悲鳴が聞こえた。

 「んー、まあ、それなんだが…」
 医師は腕を組み、上を向いて言う。
 「僕も啓司から話を聞いただけなんだが、啓司が相当動揺しててね。
 啓司も今日は入院させることにした。
 継続してきちんとした治療が必要になると思う」

 「え…」
 啓司も?
 遠夜は不安になる。

 恭香は話が判らないなりに気にかかるようで、大きな瞳を見張って医師を見ている。
 「啓司の心の問題が端緒らしい。
 貴彦は例によってとばっちりを受けただけだ。
 一緒にいたのが遠夜じゃなかったから、一瞬ビックリしたぜ。ははは」
 医師は無神経に笑う。

 「貴彦は大丈夫だよ。
 精神波を遮断してしばらく休めば気が付くだろう。
 僕としては啓司のほうが心配だな」
 と表情を曇らせた。
 
 その時、遠夜と恭香の腕に着けられたウェアラブル端末が揃ってアラームを鳴らした。
 操作すると目の前にショートメッセージの文字が浮かび上がる。

 『会議終了。
 昼食後、13時より地下大都市コウシュウの技術者テクニシャンとの面談。
 業務地区オフィスセクションD209号室』
 これは恭香のメッセージ。

 『会議終了。
 昼食後、13時半より地上都市東京食料部との会議に参加。
 業務地区オフィスセクションB117号室』
 遠夜はメッセージを見て、げえっとこぼした。
 なんだそりゃ。

 「啓司は様子を見て通常業務に戻すか判断する。
 遠夜、ひとりで頑張れるか?」
 医師が心配そうに言う。

 「子ども扱いすんなっての!
 俺は大丈夫だよ。
 啓司を早く治して。
 じゃあね」
 遠夜は恭香を促して部屋から出た。

 「医師せんせいと仲いいのね?」
 歩きながら恭香が目を丸くして訊いてきた。
 「まあ…小さいころからしょっちゅう世話になってるから」
 遠夜は目を逸らして答える。
 「とりあえず貴彦さんは大丈夫なのね。
 良かった」
 恭香は嬉しそうに笑った。
 
 うーん。
 なんだろう、このモヤモヤは。

 遠夜は黙って歩き、やがて食堂に着いた。
 「じゃあ私、友達と約束してるから。
 また今度、お茶でもしましょう」
 恭香がにこりと笑って、手を振って行こうとするのに、思わず遠夜は「あの」と声をかけた。

 「何?」
 ポニーテールを揺らして、恭香が振り返る。
 「貴彦が心配だったら…あとで連絡してあげようか?」
 俺何言ってんだ。
 遠夜は自分の言動に焦る。

 「本当?じゃあ、連絡待ってる」
 遠夜に小さく手を振って、友達と思しき女の子の集団に向かって歩いていく。
 女の子たちはこちらを向いて、恭香に何事か話しかけている。

 ぼーっと見ていると「遠夜!」後ろから声をかけられた。
 振り返ると直紀がいて、昼食の載ったプレートを抱えている。
 
 「お疲れさん。
 一緒に食おう」
 と席を指さす。
 「うん」
 頷いて、遠夜はプレートを取りに行った。

 啓司のことを心配しながらも、ともすれば考えは恭香にいってしまう。
 黒髪のポニーテールと大きな瞳。
 笑うときゅっとあがる口角。
 何だ俺…おかしい。
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