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第一章 地下大都市トウキョウ
12.啓司との関係
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貴彦は案外早く住居地区に戻ってきた。
遠夜が午後も退屈な会議にふたつも出て、それぞれ悪気なく意見して会議をクラッシュさせてしまい、大人たちの嫉妬と羨望と蔑視を浴びながら這う這うの体で退散して、やっと夕食にありついたとき食堂がざわめいた。
振り返ると、貴彦が頭に包帯を巻いたままの姿で、皆から声をかけられるのににこやかに応えながらこちらへ近づいてくるのが見えた。
「遠夜!今日は大丈夫だった?」
遠夜の目の前まで来ると、真っ先に質問が飛んでくる。
「あいよーヴ」
遠夜は肉にかじりついたまま返事をする。
貴彦はホッとしたように椅子に腰かけた。
「貴彦こそどうなんだよ。
大丈夫だったの?」
遠夜は技術の恭香って知ってるか、と訊きたいのを堪えて訊く。
「ああ、俺は啓司の思念に巻き込まれそうになっただけだから。
爆発しないように意識を飛ばした」
啓司にあんなに強大な思念が渦巻いているとは思いも寄らなかったけど。
今まで啓司から感じたことがなかった。
貴彦は秘かにため息をつく。
「へえそうだったんだ。
…啓司は今日入院だって。どうしたのかな」
フォークを芋に刺して遠夜は呟く。
「昼前に貴彦と啓司の様子見に行ったんだ。
でもオーカミ医師あまり詳しく話してくれなかった」
「遠夜、女の子連れてきたんだって?
医師があの娘、遠夜の何だろうって、めっちゃ気にしてたよ」
貴彦がにこやかに言う。
遠夜は芋を丸ごと飲み込みそうになって噎せる。
あんの出歯亀医師!
「あ、ああ…技術の恭香っていう娘。
貴彦のこと凄い心配してたから連れて行った。
今日の午前中の会議で初めて会ったんだ」
知ってるの?と訊きたい。
でも訊けない。
何でだろう。
「技術テクニックの恭香?
ああ、未成年でトップの娘だね。
会ったことはあるけど…、俺を心配してた?」
不思議そうに貴彦は言う。
「うん。
貴彦はすぐに治るって聞いて、すごく嬉しそうだった」
遠夜は何気なさを装って言う。
「ふーん。よく判らないな。
まあ、遠夜がその娘と仲良くなりたいならご自由に?」
パチンとウィンクして微笑む。
「べ、つに俺は…」
耳まで赤くなるのを自覚して余計に動揺する。
どうした、俺!
貴彦はそんな遠夜を意外そうに、でも面白そうに眺めていたが
「さて、俺も何か食べよう。
朝食も昼食も摂れなかったし」
と立ち上がって食事を取りに行った。
恭香に連絡してあげたいけど、なんて書いたらいいか判らない。
うーむ。どうしよう。
「遠夜、どうした?」
考え込んでいると、貴彦が戻ってきて言う。
「…啓司、なにがあったの?
俺のせい、なの?」
恭香にメッセージを、とは言えないので、朝から気になっていたことを訊く。
不意を突かれて貴彦は一瞬、真剣な表情になったが、すぐに和らげていつもの微笑みを浮かべた。
「いや、遠夜のせいじゃない。
それは啓司だって判っているさ。
今までの君のワガママに対する鬱憤が爆発しちゃったんだな」
「う…」
素直に頷くことができずに遠夜の動きが停まる。
フォークを置き、俯いて呟く。
「俺のこと嫌いだからとか、仕事だから仕方ないとか…
そういうことなの?」
「まさか!そんなことあるわけないだろう」
貴彦は驚いて否定する。
なんでそういう方向へ行ったかな?
「あのね、遠夜。
啓司は君のことすごく大切な友人だと思っているよ。
あいつは口が裂けてもそんなこと言わないだろうから、僕が代わりに言っちゃうけどね」
貴彦は両手の指を突き合わせて遠夜を見た。
「幼いころから何でだろうね、常に意識が君の方を向いてる。
本人も気づいてない感じはあるけど…
遠夜があまりに危なっかしすぎて放っとけないんだろうな」
くすっと笑う。
「自分から志願して、君のマネジメント買って出てるんだよ。
他の人はあまりやりたがらない仕事だし」
「たまには放っといて欲しい…」
遠夜が思わず呟くと貴彦は苦笑する。
「まあ、啓司は完璧主義者だからね。
遠夜に対しては強気に出た方がコントロールしやすいってのも、小さいころからの経験で解ってるし」
そこで言葉を切り、貴彦は真顔になって続けた。
「だからね、遠夜。
啓司が戻ってきたら、今まで通り接して欲しい。
君が構えちゃうと啓司は再起不能になるかも。
いや、冗談じゃなく」
遠夜が驚いて口を開こうとするのを制して、貴彦は強引に続ける。
「啓司という大切な友人を失いたくないなら。
判ったね、遠夜」
「…判った」
何だか全然判らなかったけど、貴彦の真剣な雰囲気に気押されて遠夜はとりあえず頷いた。
遠夜が午後も退屈な会議にふたつも出て、それぞれ悪気なく意見して会議をクラッシュさせてしまい、大人たちの嫉妬と羨望と蔑視を浴びながら這う這うの体で退散して、やっと夕食にありついたとき食堂がざわめいた。
振り返ると、貴彦が頭に包帯を巻いたままの姿で、皆から声をかけられるのににこやかに応えながらこちらへ近づいてくるのが見えた。
「遠夜!今日は大丈夫だった?」
遠夜の目の前まで来ると、真っ先に質問が飛んでくる。
「あいよーヴ」
遠夜は肉にかじりついたまま返事をする。
貴彦はホッとしたように椅子に腰かけた。
「貴彦こそどうなんだよ。
大丈夫だったの?」
遠夜は技術の恭香って知ってるか、と訊きたいのを堪えて訊く。
「ああ、俺は啓司の思念に巻き込まれそうになっただけだから。
爆発しないように意識を飛ばした」
啓司にあんなに強大な思念が渦巻いているとは思いも寄らなかったけど。
今まで啓司から感じたことがなかった。
貴彦は秘かにため息をつく。
「へえそうだったんだ。
…啓司は今日入院だって。どうしたのかな」
フォークを芋に刺して遠夜は呟く。
「昼前に貴彦と啓司の様子見に行ったんだ。
でもオーカミ医師あまり詳しく話してくれなかった」
「遠夜、女の子連れてきたんだって?
医師があの娘、遠夜の何だろうって、めっちゃ気にしてたよ」
貴彦がにこやかに言う。
遠夜は芋を丸ごと飲み込みそうになって噎せる。
あんの出歯亀医師!
「あ、ああ…技術の恭香っていう娘。
貴彦のこと凄い心配してたから連れて行った。
今日の午前中の会議で初めて会ったんだ」
知ってるの?と訊きたい。
でも訊けない。
何でだろう。
「技術テクニックの恭香?
ああ、未成年でトップの娘だね。
会ったことはあるけど…、俺を心配してた?」
不思議そうに貴彦は言う。
「うん。
貴彦はすぐに治るって聞いて、すごく嬉しそうだった」
遠夜は何気なさを装って言う。
「ふーん。よく判らないな。
まあ、遠夜がその娘と仲良くなりたいならご自由に?」
パチンとウィンクして微笑む。
「べ、つに俺は…」
耳まで赤くなるのを自覚して余計に動揺する。
どうした、俺!
貴彦はそんな遠夜を意外そうに、でも面白そうに眺めていたが
「さて、俺も何か食べよう。
朝食も昼食も摂れなかったし」
と立ち上がって食事を取りに行った。
恭香に連絡してあげたいけど、なんて書いたらいいか判らない。
うーむ。どうしよう。
「遠夜、どうした?」
考え込んでいると、貴彦が戻ってきて言う。
「…啓司、なにがあったの?
俺のせい、なの?」
恭香にメッセージを、とは言えないので、朝から気になっていたことを訊く。
不意を突かれて貴彦は一瞬、真剣な表情になったが、すぐに和らげていつもの微笑みを浮かべた。
「いや、遠夜のせいじゃない。
それは啓司だって判っているさ。
今までの君のワガママに対する鬱憤が爆発しちゃったんだな」
「う…」
素直に頷くことができずに遠夜の動きが停まる。
フォークを置き、俯いて呟く。
「俺のこと嫌いだからとか、仕事だから仕方ないとか…
そういうことなの?」
「まさか!そんなことあるわけないだろう」
貴彦は驚いて否定する。
なんでそういう方向へ行ったかな?
「あのね、遠夜。
啓司は君のことすごく大切な友人だと思っているよ。
あいつは口が裂けてもそんなこと言わないだろうから、僕が代わりに言っちゃうけどね」
貴彦は両手の指を突き合わせて遠夜を見た。
「幼いころから何でだろうね、常に意識が君の方を向いてる。
本人も気づいてない感じはあるけど…
遠夜があまりに危なっかしすぎて放っとけないんだろうな」
くすっと笑う。
「自分から志願して、君のマネジメント買って出てるんだよ。
他の人はあまりやりたがらない仕事だし」
「たまには放っといて欲しい…」
遠夜が思わず呟くと貴彦は苦笑する。
「まあ、啓司は完璧主義者だからね。
遠夜に対しては強気に出た方がコントロールしやすいってのも、小さいころからの経験で解ってるし」
そこで言葉を切り、貴彦は真顔になって続けた。
「だからね、遠夜。
啓司が戻ってきたら、今まで通り接して欲しい。
君が構えちゃうと啓司は再起不能になるかも。
いや、冗談じゃなく」
遠夜が驚いて口を開こうとするのを制して、貴彦は強引に続ける。
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判ったね、遠夜」
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