三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第一章 何処へ?

23.左近衛中将様からの文

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 おやつを食べてから、式部さんがさっき持ってきてくれた綺麗な漆塗りの箱を開けてみた。
 ふわっと、さまざまな香りがたちのぼる。

 小さく仕切られたスペースのひとつひとつに、麻のような布で作られた袋が収めてある。
 一つ取り上げると、箱の底に「白檀」と書いてあり、袋の中を見ると木の破片のようなものが入っている。
 あ、これ白檀の香りだ。
 お母さんの扇子の軸の部分が白檀でできていて、夏になるとこの香りを嗅いでいた。
 
 この箱は、伊都子姫がお香の調合をするときに使っている材料を収めたものなんだ。
 へえ…結構ガチでやってたんだなあ…
 
 これと冊子を勉強すれば、あたしにもできるようになるかなぁ。
 不安だけど、やるしかない。
 アロマとか結構好きだったし。頑張ろう。

 その時「失礼いたします。姫様、左近衛中将様よりお文が届きましてございます。ご覧あそばしますか?」と衛門さんが声をかけてきた。

 左近衛中将様と聞いて、あたしの心臓がぴょんと跳ね上がる。
 「あ、はい。見るわ」
 うきうきする気持ちを気取られないように、なるべくゆっくり受け取る。

 甘い香りのする薄い紙に、可愛らしい小花のついた茎が結びつけてある。
 開くと硬質な筆致の文字が現れた。

 『その後お加減はいかがですか。
 主上から、伊都子姫の嬉しい知らせを聞きました。
 私の方もご報告したいことがあるのですよ。
 今日もご機嫌伺いに参上いたします』

 というようなことが書いてあった。
 お歌は…よく判らん。ごめん。

 主上とずいぶん仲いいみたいだなぁ。
 さっき、お使者が持って帰った手紙の内容を、もう知ってるってことだもんね。

 っと。
 これ、お返事を書いた方が良いのかな?
 和歌は無理。
 悪いけど。

 燭台の油を足しに来てくれた内侍さんに声をかける。
 「左近衛中将様にお返事を…」
 と言いかけると、内侍さんは驚いてのけぞり、油をこぼしそうになった。
 「お返事?!でございますかっ?!姫様が?!」

 「いやあの…書かなくて良ければ別に…」
 あまりの驚きように、あたしも泡食ってしまい、しどろもどろに答える。

 「いえ…いえいえ、お喜びあそばすと存じますわ!もう、そりゃもう。
 姫様ご自身でお書きあそばしますか?」
 興奮冷めやらぬ様子で内侍さんが言う。
 あたしは「あ、できれば内侍さんに…」と言ってしまい「さん、は不要でございます。では、わたくしが代筆申し上げますわね」とにっこり笑われてしまった。

 内侍さんは文机に向かうと丁寧に墨をすり、模様の入った紙(薄様うすようというらしい)に、あたしの話した言葉を美しく装飾して書いてくれた。
 
 「お手紙ありがとうございます。
 今日、待ってます。
 お話を楽しみにしています」

 というだけの返事だけど、喜んでくれるかなあ。
 内侍さんは紙の墨を乾かしてくるくるっと巻くと、侍女さんに庭から摘んでこさせた蔓で結んだ。
 若い笹の枝を刺して飾る。

 ほお~…
 あたしは感心した。

 この時代のお手紙というのは、とてもメッセージ性が高くて、センスを問われるものだったんだな。
 内侍さんは美しい手蹟だし、センスもとても良い(と思う)。
 女房さんの役目もいろいろなんだ。

 従者の人が走って届けにいってくれるらしい。
 あたしは、なんだかそわそわして落ち着かなかった。

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