三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第一章 何処へ?

27.三日夜の餅とは。。。

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 そこで左近衛中将様は、浅黒いお顔を赤く染めてゴホンと咳払いした。
 「で、その…『三日夜の餅』についてですが…」
 
 その言葉を聞いて、式部さんを含む皆は御帳台を出て行ってしまった。
 お膳を挟んで向かい合い、しんとなる。
 左近衛中将様は扇で口元を覆った。

 「男性が女性の許に通って三日目に、二人で餅を食べる風習があるのですよ。
 その風習を『三日夜の餅』と称します。
 それで二人の婚姻が成立し、晴れて世間へのお披露目(露顕ところあらわしといいます)をするのです」

 ああ…へえ。そうなんだ。
 あたしは何だか拍子抜けした。
 もっと大層な事かと思った。
 皆、なんでそんなに言い淀むの?

 「え?でも…左近衛中将様はもう三日以上、わたくしのところへいらっしゃってますよね?
 なんで義光君は『三日夜の餅をなさってない』って言ったのかしら…」
 ごほっと左近衛中将様はせる。
 うーん…そこが判って居られないんだな…と呟く。

 「それは…男女の関係になってから三日目ということです。
 私と姫は、その、まだ…」

 あーっ!そ、そういうことか!
 
 あたしは扇子を持つことも忘れ、手で口を覆った。
 ああ、なるほどね…
 それでかぁ…皆のあの反応は…

 あたしが頬を両手で抑えて俯いていると「姫。こちらを向いて」と言われ、あたしは声の方へ振り向いた。
 顔が触れそうなほどすぐ傍に左近衛中将様がいて、あたしは驚いて後ずさろうとした。
 胸がバクバクと音を立てて打っている。
 ち、近いよ…

 左近衛中将様はあたしの手をぱっとつかみ、手の甲に唇をあてた。
 「姫…私は、少しは期待して宜しいのでしょうか。
 姫がお心を解いてくださるまで、いつまでもお待ちする気でおりましたが」

 「昨日今日の、姫の私への優しいお振る舞いに、私はどうしても期待してしまうのです。
 もしかしたら、私にほんの少しでもお気持ちを寄せてくださるのではないかと…」

 あたし、どうしたらいいんだろう。
 伊都子姫は主上が好きだったんだよ。
 でもあたしは…
 あたしは混乱して、思わず手を振りほどいた。

 左近衛中将様は傷ついたように、切なく微笑む。
 「そうですよね…私の願いは都合が良過ぎますよね…
 あの日、伊都子姫に入内が無くなったことをお報せに、主上の御使いで参上したとき、私の胸で身も世もないほどに号泣なさった姫が愛おしくて…」

 「大臣おとどや北の方様、私の父母にも反対されて、主上からも諭されて。
 だけど私は姫をどうしても妻にしたいと思いました。
 私の手で、姫を幸せにしたいと」

 手を伸ばし、あたしの髪を優しく撫でる。
 「姫。三日夜の餅などという贅沢は申しません。
 また、明日も来て宜しいですか?」

 あたしは何も言えず、ただ頷いた。
 明日も来て。
 明後日も。その先もずっと。
 そう言いたかった。

 でもそれを、伊都子姫の口から言ってはいけないような気がした。
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