三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第二章 賀茂祭・流鏑馬神事

10.蜂蜜と旋風

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 あたしは綺麗にお化粧してもらって、伊都子姫のお香コレクションの中から、焚いてみて気に入ったお香を袿に焚きめた。
 いい匂い。あたしはうっとりしてしまう。

 改めてお香の材料や調合したお香が入っている箱の中を見ていると、『蜜』と書いてある仕切りがあった。
 中には黒っぽくて硬い塊が入っている。

 蜜って、何の蜜だろう。
 冊子を持ってきて繰ってみると…
 はちという虫の巣から採る蜜、と書いてある。
 これ、ミツバチ?
 蜂蜜を使ってるんだ!

 今日、料理長の話では、甘味は「あまずら」という植物の茎を煮詰めたものしかないそうで、さっぱりしてるけど何となく青臭くて物足りない味。
 蜂蜜あるんだぁ…
 でも、お香を作るときのベースに使うくらいで、きっと高価なんだろうな。

 他にも何か、食べられる材料はないかな、と真剣に見ていると
 「まあ、ご熱心にご研究ですのね。
 薫物合わせが楽しみでございますね」
 衛門さんが燭台を持ってきてくれた。
 そういえば、辺りは薄暗くなってきている。
 いや…薫物ではなく、食材の研究を…とはもちろん言えず、あたしは曖昧に笑って箱を閉じようとした。

 その時、外が何だか騒がしくなって、馬のいななきや人の声が交錯した。
 え、また伊靖君??
 と思って、暗くなってきた外の方を見あげていたら、蔀戸が外してある外廊下と部屋の間の御簾を跳ね上げてつむじ風のように入ってきたのは…

 左近衛中将様!

 あたしが驚きすぎて箱の蓋を持ったまま呆然と見上げていると、左近衛中将様は「姫…」と呟き、あたしの手から優しく箱を外して、そっと壊れ物に触れるようにあたしを抱きしめた。

 あ、土の匂いがする…
 あたしはそんなことをふと思い、遅ればせながら左近衛中将様に抱きしめられているという現実を認識して、緊張で一気に身体が硬くなった。
 左近衛中将様は、はっとしたように身を離して「失礼いたしました、申し訳ありません!」と言って、入ってきた御簾の方まで下がってしまった。

 「左近衛中将様、お手とおみ足を…」
 と遠慮がちに、内侍さんが声をかける。
 水を張った盥と布を持った侍女さんに指図して、左近衛中将様の手足を拭いて綺麗にした。

 「すみません、馬場からそのまま馬で来てしまったもので…
 いつもは家で着替えてから参るのですが」
 左近衛中将様は、恥ずかしそうに言った。

 そういえば、左近衛中将様の装束がいつもと違う。
 あたしが見つめていると、はにかむように笑う。
 
 「流鏑馬の練習からそのまま馬に飛び乗って、従者ずさも置き去りに市中を駆け抜けてきました。
 狩衣かりぎぬのままですみません。
 少しでも早く、姫にお会いしたいとそればかりで…
 本当に私は無粋ぶすいですね。
 呆れられましたか」

 狩衣姿…の左近衛中将様もすごくカッコいい!
 あたしは、左近衛中将様から目を離せないまま、首を横に振った。
 左近衛中将様はほっとしたようにまた笑う。

 「左近衛中将様、姫様、お食事の支度が調いましてございます」
 式部さんが呼びに来てくれて、あたしは左近衛中将様に手を取られて御帳台に入り、向かい合って座った。

 なんかすごく…幸せ…
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