46 / 307
第二章 賀茂祭・流鏑馬神事
19.内緒の話
しおりを挟む
それから流鏑馬神事までの数日は、とても忙しなかった。
なにしろ、秘密裡である。
あたしの立場で、女房さん達に内緒で何かをするというのは、想像以上に大変だった。
24時間体制で見張られているようなものだからなぁ。
密約の翌日、伊靖君付きの女房さんが、あたしの部屋へ訪ねてきた。
少輔さんという、漆黒の髪と瞳を持つ頭の良さそうな美人だ。
伊靖君からのお手紙を携えていて、ひととおり挨拶を交わすと「申し訳ありませんがお人払いを」と目配せした。
「ごめんなさいね、席を外してくれる?」
と式部さん・内侍さんに言うと、二人は手をついてお辞儀をしてから、御帳台を出て行った。
少輔さんは驚いたようにあたしを見て「伊靖様から伺ってはおりましたが…失礼ながら、伊都子姫様、本当にお変わりあそばしたのですねえ…」と呟く。
それから表情をきりっと引き締めると「伊靖様からのお文でございます。まずご覧くださいませ」と手紙を両手であたしの目の前に捧げた。
あたしは受け取って開く。
あまり綺麗な手蹟じゃないなぁ…もっと練習しろ。
だから義光君にラブレター勝負で負けちゃうんだよ…
『少輔は信頼できる、私の腹心の女房です。
何でもお話しくださって差し支えありません。
私からの話はすべて少輔に指示してありますので、ご安心なさってください』
優しいじゃないの、伊靖君…
あたしはちょっとほろりとした。
少輔さんは声を潜めて話し始める。
「お時間がありませんので、早速本題に入らせていただきますね。
左近衛中将様の出走時刻は、大幅な遅れなどがなければ未四刻(午後1時)ごろの予定でございます。
ここから競技の行われます糺の森までは、姫様を同乗しての伊靖様の乗馬の腕を勘案いたしましても、二刻(1時間)はかからないでしょうから、午二刻(午前11時半)ごろに出られれば宜しいかと存じます」
「当日、わたくしは家族の急病のため宿下がりで実家に戻ることになっており、姫様におかれましてはわたくしの侍女というお役回りにて、お屋敷を徒歩《かち》で出て頂き、すぐに伊靖様の御馬にお乗り頂きます。
壺装束にお召し換えの為、御朝食後にすぐに伊靖様のお部屋にいらしていただきたいのですが…
それは可能でしょうか」
あたしはすぐに頷いた。
「朝食後は大体、屋敷内を散歩してるから。
大丈夫だと思うわ」
「そういえば、わたくしの朋輩がお廊下で姫様とすれ違ったことがございまして、大変な驚きようでございましたわ。
そこが一番の心配な点でございましたから、安堵いたしました」
微笑んであたしを見る。
理知的な顔が、笑うと途端に愛らしくなった。
わお、可愛い…
細かく打合せをすると、少輔さんはまた優雅に挨拶をして戻っていった。
あたし付きの女房さん達が興味津々なのが判る。
うーん、なんて説明しようかなあ…
なにしろ、秘密裡である。
あたしの立場で、女房さん達に内緒で何かをするというのは、想像以上に大変だった。
24時間体制で見張られているようなものだからなぁ。
密約の翌日、伊靖君付きの女房さんが、あたしの部屋へ訪ねてきた。
少輔さんという、漆黒の髪と瞳を持つ頭の良さそうな美人だ。
伊靖君からのお手紙を携えていて、ひととおり挨拶を交わすと「申し訳ありませんがお人払いを」と目配せした。
「ごめんなさいね、席を外してくれる?」
と式部さん・内侍さんに言うと、二人は手をついてお辞儀をしてから、御帳台を出て行った。
少輔さんは驚いたようにあたしを見て「伊靖様から伺ってはおりましたが…失礼ながら、伊都子姫様、本当にお変わりあそばしたのですねえ…」と呟く。
それから表情をきりっと引き締めると「伊靖様からのお文でございます。まずご覧くださいませ」と手紙を両手であたしの目の前に捧げた。
あたしは受け取って開く。
あまり綺麗な手蹟じゃないなぁ…もっと練習しろ。
だから義光君にラブレター勝負で負けちゃうんだよ…
『少輔は信頼できる、私の腹心の女房です。
何でもお話しくださって差し支えありません。
私からの話はすべて少輔に指示してありますので、ご安心なさってください』
優しいじゃないの、伊靖君…
あたしはちょっとほろりとした。
少輔さんは声を潜めて話し始める。
「お時間がありませんので、早速本題に入らせていただきますね。
左近衛中将様の出走時刻は、大幅な遅れなどがなければ未四刻(午後1時)ごろの予定でございます。
ここから競技の行われます糺の森までは、姫様を同乗しての伊靖様の乗馬の腕を勘案いたしましても、二刻(1時間)はかからないでしょうから、午二刻(午前11時半)ごろに出られれば宜しいかと存じます」
「当日、わたくしは家族の急病のため宿下がりで実家に戻ることになっており、姫様におかれましてはわたくしの侍女というお役回りにて、お屋敷を徒歩《かち》で出て頂き、すぐに伊靖様の御馬にお乗り頂きます。
壺装束にお召し換えの為、御朝食後にすぐに伊靖様のお部屋にいらしていただきたいのですが…
それは可能でしょうか」
あたしはすぐに頷いた。
「朝食後は大体、屋敷内を散歩してるから。
大丈夫だと思うわ」
「そういえば、わたくしの朋輩がお廊下で姫様とすれ違ったことがございまして、大変な驚きようでございましたわ。
そこが一番の心配な点でございましたから、安堵いたしました」
微笑んであたしを見る。
理知的な顔が、笑うと途端に愛らしくなった。
わお、可愛い…
細かく打合せをすると、少輔さんはまた優雅に挨拶をして戻っていった。
あたし付きの女房さん達が興味津々なのが判る。
うーん、なんて説明しようかなあ…
2
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる