三日夜の餅はハイティーと共に

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第二章 賀茂祭・流鏑馬神事

19.内緒の話

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 それから流鏑馬神事までの数日は、とてもせわしなかった。
 なにしろ、秘密裡である。
 あたしの立場で、女房さん達に内緒で何かをするというのは、想像以上に大変だった。
 24時間体制で見張られているようなものだからなぁ。

 密約の翌日、伊靖君付きの女房さんが、あたしの部屋へ訪ねてきた。
 少輔しょうゆうさんという、漆黒の髪と瞳を持つ頭の良さそうな美人だ。
 伊靖君からのお手紙を携えていて、ひととおり挨拶を交わすと「申し訳ありませんがお人払いを」と目配せした。

 「ごめんなさいね、席を外してくれる?」
 と式部さん・内侍さんに言うと、二人は手をついてお辞儀をしてから、御帳台を出て行った。
 少輔さんは驚いたようにあたしを見て「伊靖様から伺ってはおりましたが…失礼ながら、伊都子姫様、本当にお変わりあそばしたのですねえ…」と呟く。

 それから表情をきりっと引き締めると「伊靖様からのお文でございます。まずご覧くださいませ」と手紙を両手であたしの目の前に捧げた。
 
 あたしは受け取って開く。
 あまり綺麗な手蹟じゃないなぁ…もっと練習しろ。
 だから義光君にラブレター勝負で負けちゃうんだよ…

 『少輔は信頼できる、私の腹心の女房です。
 何でもお話しくださって差し支えありません。
 私からの話はすべて少輔に指示してありますので、ご安心なさってください』

 優しいじゃないの、伊靖君…
 あたしはちょっとほろりとした。

 少輔さんは声を潜めて話し始める。
 「お時間がありませんので、早速本題に入らせていただきますね。
 左近衛中将様の出走時刻は、大幅な遅れなどがなければ未四刻(午後1時)ごろの予定でございます。
 ここから競技の行われますただすの森までは、姫様を同乗しての伊靖様の乗馬の腕を勘案いたしましても、二刻(1時間)はかからないでしょうから、午二刻(午前11時半)ごろに出られれば宜しいかと存じます」

 「当日、わたくしは家族の急病のため宿下がりで実家に戻ることになっており、姫様におかれましてはわたくしの侍女というお役回りにて、お屋敷を徒歩《かち》で出て頂き、すぐに伊靖様の御馬にお乗り頂きます。
 壺装束にお召し換えの為、御朝食後にすぐに伊靖様のお部屋にいらしていただきたいのですが…
 それは可能でしょうか」

 あたしはすぐに頷いた。
 「朝食後は大体、屋敷内を散歩してるから。
 大丈夫だと思うわ」
 「そういえば、わたくしの朋輩がお廊下で姫様とすれ違ったことがございまして、大変な驚きようでございましたわ。
 そこが一番の心配な点でございましたから、安堵いたしました」
 微笑んであたしを見る。

 理知的な顔が、笑うと途端に愛らしくなった。
 わお、可愛い…

 細かく打合せをすると、少輔さんはまた優雅に挨拶をして戻っていった。
 あたし付きの女房さん達が興味津々なのが判る。

 うーん、なんて説明しようかなあ…

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