三日夜の餅はハイティーと共に

Dry_Socket

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第二章 賀茂祭・流鏑馬神事

24.流鏑馬神事・4

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 豆粒の人は、馬に乗ったようだ。
 ああ、オペラグラスか双眼鏡がほしいっ
 目を凝らしていると、大きな旗が振り下ろされて馬が走り出した。
 観客からわあっと歓声が上がる。

 何か、大きな声で言いながら、疾走する馬上で弓を大きく引き絞り、的を射抜く。
 的はパアンっという音を立てて二つに割れた。
 おおーっというどよめきが起こる。

 漆黒の馬はすごい速さで走る。
 あっという間に二枚目の的へ近づき、左近衛中将様はまた弓を引き「イン・ヨー!」と力強く声を発しながら矢を放った。
 
 パンっと小気味よい音を立て、的は真っ二つになる。
 観客からは大きな歓声が上がった。
 あたしも思わず「きゃあっ」と声を上げる。
 
 すごいっ頑張って!
 あとひとつ!

 黒い弾丸のように近づく馬の背にまたがる、左近衛中将様がはっきりと見えるようになってきた。
 紺色の狩衣に白い射籠手いごて、茶色の水干すいかんが凛々しい。
 素敵っ!
 
 左近衛中将様は素早くえびらから矢を引き抜き、大きく弓を引いて構え、声を張って的を射た。
 パアンと大きな音を立て、的は弾けるように割れた。

 どよもすような歓声の中、左近衛中将様はゴールした。
 周りの人たちが大歓声を上げ、拍手を響かせる中、あたしも邪魔な市女笠を取っちゃって、大興奮だった。
 
 「あ、姉上、あねうえっっ!」
 慌てたような伊靖君の声が耳元で囁くが、きこえなーい!ふりっ。

 左近衛中将様は手綱を引いてスピードを落とし、だく足でこちらの方へ来て、近づいてきた従者の人に何事か指示している。
 あたしは「左近衛中将様ーっ」と思わず声を上げ、市女笠を振り回す。

 聞こえるはずのない距離、周りの歓声の中、左近衛中将様ははっとしたように振り向いた。

 たくさんの民衆の中にあたしの姿を認めると、左近衛中将様のお口が、かくんっという感じで開き、大きな目をさらに大きく見張って、飛び出しそうになった。

 「バカ!姉上!気がつかれたじゃないかっ!」
 焦った伊靖君に罵倒される。

 だって、聞こえるなんて思わなかったんだもん!
 あたしも慌てて市女笠で顔を隠す。
 
 左近衛中将様は馬に乗ったまま、あたしの方へ近づいてくる。
 「行直ゆきなお!」
 と先ほど指示を与えていた従者を呼び、馬上からあたしに手を差し伸べる。

 「お屋敷に帰りましょう、姫。
 お送りします」
 
 いつの間にか背後に来た行直さんがさっきの斉矩さんのように、あたしをぐっと持ち上げる。
 伊靖君よりもずっと優しく、左近衛中将様はあたしを抱きとって馬に乗せてくれた。

 「治部太輔殿、姫はお預かりします。
 お屋敷まで必ず無事にお届けしますから」
 馬上から伊靖君に声をかけた。
 
 伊靖君はほっとしたように「宜しくお願い申し上げます」と頭を下げた。
 左近衛中将様は「ハイッ」と馬に声をかけ、馬の脇腹を軽く蹴る。
 衆人環視の中、黒い馬に乗った左近衛中将様とあたしは、会場を後にした。
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