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第二章 賀茂祭・流鏑馬神事
26.帰宅
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お屋敷に帰り着くと、やはりというか、大騒ぎだった。
朝食後に屋敷内の散歩に出たまま行方不明になり、一緒にいたはずの侍女さんは「私は伊靖様のお部屋の前で待っていました、何も知りません」と言うばかりで、伊靖君付きの女房まで宿下がりしてて屋敷内にいない、という状況だから無理もないけど。
内侍さんと式部さん宛てに書いた手紙には「伊靖と一緒です、心配しないで」と書いたのだけど…
常日頃のカルイ言動であたし付きの女房さん達には悪童呼ばわりされている伊靖君だから、信用がないばかりか、積極的にあたしに何かしたのではないかと疑っていたらしい。
壺装束で左近衛中将様と馬に乗って帰ってきたあたしを見て、女房さん達は言葉を失っていた。
「あの…ごめんなさい。
詳しく話すから…」
左近衛中将様に抱き降ろしてもらって、あたしは女房さん達に頭を下げた。
「左近衛中将様、送ってくださってありがとうございました。
ご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ありませんでした」
さっきの馬上での、左近衛中将様の声や熱い唇の感触を思い出してしまって、あたしは左近衛中将様の顔を見ることができず、市女笠を被ったままお辞儀をした。
「いえ…
宮中で宴の予定がありますので、今宵はお伺いできないと思います」
左近衛中将様も顔をあたしから背けたまま、硬い声と口調で言った。
あたしが顔を上げる間もなく馬に飛び乗ると、右大臣家の厩番に轡を引かれて厩舎の方へ去っていった。
土埃だらけの身体と髪を綺麗にし、重い十二単に着替えて落ち着くと、辺りは薄暗くなっていた。
あたしは食べそこなったおやつの分まで夕食をガツガツ食べながら、女房さん達の質問に答える形で経緯をすべて話した。
女房さん達は驚き呆れながら聞いていたが、左近衛中将様の流鏑馬の様子を臨場感たっぷりに話してあげると、目を輝かせた。
「まあ…拝見してみとうございますわ…」
衛門さんがうっとりと呟く。
「姫様のように、直接観に行くなどという勇気はとても持てませんが、実際に観ると迫力があるのでしょうね」
式部さんも微笑んだ。
「姫様の行動には本当に驚かされますわ。
まさか、わたくしたちにも秘密で屋敷の外へ出ておしまいになるなんて…
寿命が縮みましたことよ」
内侍さんがため息をついて言った。
本当にごめんなさい。
あたしは何度目かの謝罪をした。
「もう、このようなことはなさらないでくださいましね。
姫様にもしものことがあったら、わたくしどもお殿様や北の方様にどう責任を取ればいいか」
女房さん達に再度怒られ、あたしは肩をすくめた。
それはどうでしょう…
また何かあれば、やっちゃうかもね♪
朝食後に屋敷内の散歩に出たまま行方不明になり、一緒にいたはずの侍女さんは「私は伊靖様のお部屋の前で待っていました、何も知りません」と言うばかりで、伊靖君付きの女房まで宿下がりしてて屋敷内にいない、という状況だから無理もないけど。
内侍さんと式部さん宛てに書いた手紙には「伊靖と一緒です、心配しないで」と書いたのだけど…
常日頃のカルイ言動であたし付きの女房さん達には悪童呼ばわりされている伊靖君だから、信用がないばかりか、積極的にあたしに何かしたのではないかと疑っていたらしい。
壺装束で左近衛中将様と馬に乗って帰ってきたあたしを見て、女房さん達は言葉を失っていた。
「あの…ごめんなさい。
詳しく話すから…」
左近衛中将様に抱き降ろしてもらって、あたしは女房さん達に頭を下げた。
「左近衛中将様、送ってくださってありがとうございました。
ご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ありませんでした」
さっきの馬上での、左近衛中将様の声や熱い唇の感触を思い出してしまって、あたしは左近衛中将様の顔を見ることができず、市女笠を被ったままお辞儀をした。
「いえ…
宮中で宴の予定がありますので、今宵はお伺いできないと思います」
左近衛中将様も顔をあたしから背けたまま、硬い声と口調で言った。
あたしが顔を上げる間もなく馬に飛び乗ると、右大臣家の厩番に轡を引かれて厩舎の方へ去っていった。
土埃だらけの身体と髪を綺麗にし、重い十二単に着替えて落ち着くと、辺りは薄暗くなっていた。
あたしは食べそこなったおやつの分まで夕食をガツガツ食べながら、女房さん達の質問に答える形で経緯をすべて話した。
女房さん達は驚き呆れながら聞いていたが、左近衛中将様の流鏑馬の様子を臨場感たっぷりに話してあげると、目を輝かせた。
「まあ…拝見してみとうございますわ…」
衛門さんがうっとりと呟く。
「姫様のように、直接観に行くなどという勇気はとても持てませんが、実際に観ると迫力があるのでしょうね」
式部さんも微笑んだ。
「姫様の行動には本当に驚かされますわ。
まさか、わたくしたちにも秘密で屋敷の外へ出ておしまいになるなんて…
寿命が縮みましたことよ」
内侍さんがため息をついて言った。
本当にごめんなさい。
あたしは何度目かの謝罪をした。
「もう、このようなことはなさらないでくださいましね。
姫様にもしものことがあったら、わたくしどもお殿様や北の方様にどう責任を取ればいいか」
女房さん達に再度怒られ、あたしは肩をすくめた。
それはどうでしょう…
また何かあれば、やっちゃうかもね♪
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